○岡崎国務大臣 全般的に言いましてただいまの国際慣習といいますか、最近におきましては国の防衛につきましても、経済の発展につきましても、多数の国家が集ま
つてお互いに助け合わなければできないという観念にかわ
つて来ましたので、どこの国も自分の国の主権を一歩も譲らないんだとがんば
つている状態からかわ
つて来まして、お互いに主権を譲り合
つて、これによ
つて防衛も経済も発展させて行こう、こういう傾向にな
つております。北大西洋条約などはそのいい例でありますが、アメリカといえ
ども自分の主権を一部放棄し、イギリスも放棄しておる。こういうことでお互いに信頼し合い、かつ友好的にその間の問題を処理して行くという
考えに来ております。そこで今回の
安全保障条約に基くアメリカ軍の駐留にしましても、ま
つたくこの
考えで来ておりますから、大体において外国の軍隊がある一国に駐屯するということは、何も日本が初めてでなく、昔からもありますし、現在も方方で行われておりますから、その間に国際法的の
規定及び国際慣習に基く約束等が自然にできております。これを大別しますと二つにわかれます。
一つは、フイリピンに行われているような
やり方でありまして、国内においてかなり広汎な地域を軍事基地としてアメリカの軍隊に提供する、その場合にこの基地内においてはアメリカ軍に属する者はもちろん、あるいは第三国人でもフイリピン人でも、あらゆる国の人間がこの基地内においてはアメリカの
裁判管轄権に服する、そのかわり基地外ではアメリカの軍人でもその他の国民でもすべてフイリピンの
裁判管轄権に服する、こういう
一つの
考え方があります。もう
一つの
考え方は、こういう
一定の区域内においてもアメリカの軍人、軍属、家族等はアメリカの
裁判管轄権に服するがその他の国の人間、ことにたとえば日本なら日本人等は当該国つまり日本なら日本の裁判権に服する、そのかわり基地外においてもアメリカの軍に所属する者はアメリカの裁判権に服するし、そうでない者は日本の裁判権に服する。片方は、基地内は全部アメリカの裁判権、基地外はフイリピンの裁判権、もう
一つは、区域内では人によ
つてどちらの裁判権が適用されるかがきまる。区域外でも同じようなことがきまる。これはどちらでもある程度の理論があ
つて一貫しておると思うのでありますが、フイリピンのような形で協定が結ばれることについては、最近の方々の国の学者等の意見では、非常に治外法権的な観念が入
つておるということで、なるべくそういう方式をとらないで行きたいというのが多くの人の
考えのようであります。そこで今度の
行政協定におきましても、第一にはアメリカの軍人及び軍に属する他の者たちも日本の
法律を尊重する、日本の
法律に違反した者は処罰される、こういう大きな網が
一つかか
つておりまして、それは基地内といえ
ども、基地外といえ
ども同じであります。ただその
法律に違反した場合に、だれが裁判するか、こういう問題になると、今申したように、基地内は絶対にこつちだとか、基地外は向うだとかいうのと、基地内外を問わず、国籍によ
つて一定の裁判権をアメリカが持つとか日本が持つとか、こういう
やり方と両方あるわけであります。進歩的といいますか、最近では人によ
つてかわるということが最も適当であるということにな
つておりますので、今度の話合いもそういうふうな傾向に向うのは自然であります。またその方がいいと思いますが、ただそれについてはまだこまかい
規定が多少あります。今おつしや
つたように、たとえば日本の
法律に違反したアメリカ人が基地外でや
つた場合でも、アメリカの裁判権に服する、これはそうしても、いかなる処罰をしたか、どういう
措置をと
つたかということについて、日本側にどういうふうに通知するか、あるいは場合によ
つたら重要なる——これは北大西洋条約の案文にもあるのですが、重要なる国内的の犯罪をアメリカ人が犯した場合には、アメリカ側が裁判するべきものであるけれ
ども、裁判権を放棄して日本に渡すかどうか、そういう問題がありますので、いろいろ今話中であります。その話の
内容は、まだ発表する
段階に至
つておりませんが、大筋はそういうふうに行
つております。なお一番いいと思われるのは、北大西洋条約の多くの国々がお互いに話合いまして、北大西洋条約に基く
行政協定をつく
つておるのであります。これが一番理想的なものであるとされておるのでありますが、それがまだ
効力を発生しておりません。それでわれわれとしては、今は話合いに基く——いつきまるかわかりませんが、きまりましたら
行政協定でこのまま進んで行く。そして北大西洋条約の
行政協定が
効力を発生したならば、日本としては現行というか、今つくりつつあるものによるか、それとも北大西洋条約の当該
規定をも
つて来て、今の
規定にかえるか、その選択権を日本で持つようにしたい、こう
考えて話合いをしている最中であります。