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1952-06-17 第13回国会 衆議院 文部委員会 第35号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十七年六月十七日(火曜日)     午前十一時十七分開議  出席委員    委員長 竹尾  弌君    理事 岡延右エ門君 理事 甲木  保君    理事 若林 義孝君 理事 小林 信一君    理事 松本 七郎君       柏原 義則君    坂田 道太君       圓谷 光衞君    長野 長廣君       水谷  昇君    渡部 義通君       坂本 泰良君    浦口 鉄男君  出席政府委員         文部事務官         (管理局長)  近藤 直人君  委員外出席者         参  考  人         (著作権協議会         法制專門委員) 高野 雄一君         参  考  人         (弁護士)   勝本 正晃君         参  考  人         (著作権協議会         出版部常任委         員)     布川角左衛門君         参  考  人         (著作権協議会         法制專門委員会         委員長)    東  季彦君         専  門  員 石井  勗君        専  門  員 横田重左衞門君     ————————————— 六月十七日  委員田渕光一君、玉置信一君、原田雪松君及び  根本龍太郎君辞任につき、その補欠として柏原  義則君、鹿野彦吉君小西英雄君及び首藤新八  君が議長の指名委員に選任された。     ————————————— 本日の会議に付した事件  連合国及び連合国民著作権特例に関する法  律案内閣提出第一四五号)(参議院送付)     —————————————
  2. 竹尾弌

    竹尾委員長 これより会議を開きます。  まず参考人指名を行いたいと存じます。日本大学法学部長文学部長法学博士著作権協議会法制專門委員会委員長東季彦君東京大学助教授著作権協議会法制專門委員高野雄一君、岩波書店第一編集部長著作権協議会出版部会常任委員布川角左衛門君、弁護士勝本正晃君の四名を、まず連合国及び連合国民著作権特例に関する法律案について御意見を承るため、参考人指名するに御異議ございませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 竹尾弌

    竹尾委員長 御異議なしと認め、参考人指名するに決しました。  これより連合国及び連合国民著作権特例に関する法律案を議題といたします。  ちよつと速記を中止してください。     〔速記中止
  4. 竹尾弌

    竹尾委員長 それでは速記を始めてださい。  本法律案につきまして、参考人の方から御意見を承りたいと存じます。参考人の方の御発言の時間は、各人約十五分内外にお願い申し上げます。それは参考人高野雄一君。
  5. 高野雄一

    高野参考人 それでは、最初に私からこの法案に対する若干の意見を申し述べさせていただきます。  実は、私は東京大学におきまして、国際法をやつておりますので、主として、その見地から申し述べたいと思いますが、著作権法專門にやつておるわけではありません。また国際法におきましても、国際法の中で特に著作権関係に力を入れているというわけでもありません。ただ、私がここにまかり出ましたのは、占領中、著作権問題がいろいろ生じておりまして、その際私か関係しておりました外務省あるいは文部省、それから私がいろいろ連絡のありました日本出版協会、そういう方面から意見を聞かれたりしたことがありまして、それに関係しまして、私の立場からある程度意見を申し上げたことがあるわけです。それで、それ以後のことを、私はあまり研究しておりません。それから、著作権專門委員の方に関係しておりますが、著作権專門にやつているわけでもありませんで、その方も名前ばかりで、仕事はやつておりません。従つて、その当時のことを基礎——この法案もごく最近拝見したのですけれども、この法案との関係を、気づいたところをちよつと申し上げてみたいと思います。  それは、この法案は、もちろん今度の平和條約に基くものであるわけです。そうして平和條約は、国際法として、旧憲法下におきましても、これは学説上争いがありまして、正式に結ばれた條約は、国内的にただちに効力を有する、あるいは国内立法化する必要がある、学説はそうわかれておりましたが、実際には、国内的に効力を認められるという建前のもとに、しかしながら、それをはつきりさせるという意味で、あらかじめ法令を準備するということが行われて来たと、大体認めてよろしい。今度の憲法のもとにおいては、前の憲法以上に、正式に結ばれた條約はただちに国内的にも効力を有する。但し、やはり條約を国内に施行するためには、その効力の点で、必ずしも必要ではないが、国内法建前から、従来とかわらずやはり国内法令を設けるというのが、一般の従来の慣行に従う意味かと思います。  それから内容的な点に関しまして、著作権專門立場から、こまかい点もあるかと思いますが、私がこの法案をお送りいただいてちよつと見ましたところでは、こういうことは日本ばかりではなく、戰争のあとで平和條約が結ばれるときに、いろいろ規定され、日本との平和條約でも、それが十五條の(C)項でございますか、それに規定されたわけであります。そうして著作権特有の問題が、戰争後処理としてあるわけであります。それがこの形になつて現われたものと思います。そして平和條約の規定する限りにおいては、それはこまかい点では差があるようにも思いますが、大体において普通の著作権に関する講和処理と大差はないものと思います。そうしてこの法令は、それを国民一般に知らせるというような形で法令化したものと思います。そして大体その法令解釈に従つたものと思うわけであります。  私がただ一つだけ申し上げておきたいのは、占領著作権行政というものか、総司令部との関係で、日本法令との関係においては、相当無理というか、混乱が生じたということは、事実なんでありまして、それと関連して、この著作権法において、たとえば「連合国」あるいは「連合国民」という言葉が、しばしば出て来ます。その意味で、占領中、つまり連合国民著作権——これは占領中、連合国民のみならず、一般外国人著作権について、総司令部行政として行われたわけでありますが、それはつまり一つ国際法見地から問題となりますのは、著作権というのは、これは日本著作権法二十八條にもありますが、一般に條約関係が認められる限度において外国著作権を認める。もちろん外国人著作物日本において著作された場合は別ですが、そうでない場合は、外国著作権というものは、條約がある限りにおいて、日本ではその国内保護される。これはベルヌ條約などもその建前であります。著作権の性質上、一般にそうである。そうしますと、條約の関係がないものについても、その保護が必要とせられるということが、総司令部行政を通じて行われて来た。  それからもう一つの点は、かりに條約関係があつて、それが保護されるという場合にも、その国の国内法令に従うということは、ベルヌ條約の立場でもありますので、——日本の場合においては、それを三十年保護するというのがそれでありますが、この点に関して條約関係のあるなしにかかわらず、連合国人を含むすべての外国人著作権日本保護する必要がある。それからさらに、その保護の態様として五十年間保護する必要がある、そういう建前のもとに、占領下著作権行政というものが行われて来た。  この関係におきましては、普通には著作権占領行政というものは、原則的には日本政府を通じて行う、日本政府立法措置あるいは行政措置を通じて行うわけでありますが、場合によつて連合国が直接それを執行するという建前は、降伏文書あるいは一般命令等の中にもうかがわれるわけでありまして、従つて、そういうことはできるのであります。著作権に関してそういうことをする必要があるかどうかということは、私ども日本側立場から、いろいろと疑問とされましたが、とにかくそういつた立場において、連合国司令部は、大体においてそれを直接日本出版協会その他を通じてやつて来たわけであります。それに関して、ほかの場合と違つて政府にこういう立法を要求するというような形は、向う内部理由もありますが、はつきりとした形では出て来ておらない。その関係は、今度平和條約ができて、平時関係になれば、特別のことがない限りは、いわゆる平時関係に復する、つまり平時関係に復するということは、著作権については、條約関係がある国に関する限り、日本法のもとにおいて著作権保護が問題となるのであり、それは日本の法のもとにおいて、今までの場合と違つて三十年間保護するのである、翻訳権については十年間であるということは、これは条約上並びに日本国内法を含めて、国際法上もそういう根拠があるわけであります。  それですから、たとえばこの法案で、連合国連合国民というふうに出て参ります場合には、この條約を見ましても、たとえば條約文にもありますように、一九四一年十二月六日に日本に存在した連合国及び連合国民著作権というのは——そういう言葉は、占領中、著作権に関してでありましようが、在日財産保護、この中には、著作権も含まれるわけでありまして、それに関する指令にも、そういう言葉があります。  言葉解釈としては、著作権に関する限り、今私が申し上げたように解するのが国際法上、條約上正しいのでありますが、これは占領行政の必要に基くのでありましよう。そう解されないで、今私が言いますような関係において、司令部の直接行政著作権に関しては行われて来たという事実がある。しかしながら平和條約ができました今日においては、特別そういうことが命令されない限り、これは不平等関係になりますが、十五條の執行、従つてまたこの法案連合国あるいは連合国民というのも、著作権條関係というものを前提として考えられるわけであります。それに従つて、またその保護ということも、当然その條約関係前提としても、日本では著作権一般については三十年、特に翻訳権については十年間ということは、国際的に認められておりますから、そういう前提のもとに、たとえば「連合国及び連合国民」というふうに出て参りますが、当然解されるそういう解釈立場従つておられるだろうということは、これはりくつとしては当然でありますが、そういう前提がある。條約にも一九四一年十二月六日に日本国に存在した連合国及び連合国民著作権、あるいはそういつた條約や何かが、戰争中日本によつて廃棄されたか停止されたかを問わず、とにかくそういう條約があつたということを前提として考えられる著作権前提として生ずるはずであつた著作権というようなことを言つておりますことからも明らかであります。その関係前提されるものと思います。従つて、りくつの上から、当然とは思いますが——この法案を考えられるこまかい点は、ほかにもあるかと思いますが、その点は私として占領行政が行われた際に、それが占領行政としては、降伏文書その他に基く向うの権力というものには、一つ基礎が認められていたわけでありますが、著作権に関する法制一般国際法を含み日本の国法を含んで、一般立場から今私が申し上げたようなことが言われるのであります。それが戰後平和條約によつてそういう形にまた復帰するわけでありますから、その特例を認められる法律においても、特別のことがない限りは、今申しました当然の法理に従うわけであります。ですから、そういう二とを前提として当然返されるわけでありますが、そのことを私としては特に戰時中のことと考え合せまして、念のために申し上げておきたい。  その他におきましては、大体條約にきめられたことを——問題はあるかと思いますが、大体それを実施するという形においてこれを立法化されたものと、この法案を読んで推察した次第でございます。  私としては、それだけのことをとりあえず申し上げて、一応終りたいと思います。
  6. 竹尾弌

    竹尾委員長 次は勝本参考人にお願いいたします。申し握れましたが、勝本参考人は、元の東北帝国大学教授でございまして、現在東北大学の名誉教授法学博士の方であります。次に、参考人勝本正晃君。
  7. 勝本正晃

    勝本参考人 私は一介の弁護士であります。この弁護士をここで参考人としてお呼びになつた趣旨は、国民権利保護立場から、この法律がどういう意義を持つておるかということを、特に問題にされたからだろうと思うのであります。  私は、この法案は、三つの点において、日本に絶対に必要であり、かつそれが三つの点において、日本に非常に有利に展開しておるということをここで申し上げたいと思うのであります。  第一は、條約によりますと、戰争が始まつてから講和條約の調印までの期間を、すべての著作権について延ばすという書き方があります。しかし、この法案によりますと、戰争が始まつてから以後に発生した著作権については、戰争開始の時からその著作権発生までの間は保護しない、その著作権発生してから講和條約までの期間をつけ加えるのだというので、これは非常に有利であります。私がGHQに、ほかの問題で行つておりましたときに、文部当局の諸君が来られまして、その点について折衝しておられるのを見まして、実に涙を流したのであります。私も大いにそういうふうにこれを解決するようにしてもらいたいと言つても、なかなか向うは聞かない。とにかくその点を、解釈の点で文部当局に発しておつたと私は考えます。これは條約の文面から見ると、ちよつと條約に合わないかもしれません。しかしながら、そういうふうに解釈するということは、GHQの専権でありますから、そういうふうに解釈することは、日本に非常に有利であります。  それから第二は、こういう問題であります。條約によりますと、講和條約が効果の発生しているときに、連合国民にあつた権利をすべて保護する、こういう條約であります。そうしますると、今度の法律では、米国著作権戰争中スイスに移転されたという場合、スイス人連合国人ではありませんから、この條約では保護されない。日本の法規によつては、保護されないわけであります。ところが、條約によつては、すべて條約の効力発生したときに米国民にある、あるいは連合国人にある著作権保護する、こう書いてありますから、米国人戰争中スイスの国に著作権を譲渡したという場合にも、その著作権保護されなければならぬことになるのでありますが、日本の今度の特例法だと、それはその連合国人が條約の効力発生のときに持つていなければならぬということが書いてありますから、そういうものは保護しないのであります。  第三には、登録の問題であります。條約によりますと、登録税なんかは徴収しないで、この期間の延長については、一切いろいろな條件にかけないで保護するという立場であります。これは、日本法律から見ますれば、大体そういうことになるので——特に相続、それから譲渡なんかは、登録税を課するという規定があります。それは当然そうなるのでありますが、特にこの法律で、相続とか讓渡については登録税を課するということをうたつてあるのは、これはその点に関する疑問を一掃しておることになつて、われわれ実際法律を運用する者の立場から、非常に安心している。そうでなければ、日本では相続なんかに関する登録税をとられるのではないか、とらなくてもいいじやないか、とる必要がないのじやないかというような考えになりますけれども、向うはやはり登録税をとられる。これはやはり日本の権威が十分保護されているということを認めた特例法であります。  ことに、先ほど申した第一、第二の点、これはこの特例法がなければどうなる。條約通りやりますれば、その点は当然戰争勃発から講和條効力発生までの期間を、すべて追加しなければならぬということになつて、はなはだ不合理であります。なぜこういうものを追加しなければならぬかということは、これは講和條約に規定があるのです。それを批判することはできません。いまさら批判しても何にもならない。しかし、法理論としますと、戰争期間を延長するというのは、合理的であります。なぜならば、戰争の間は著作権を使用することができなかつたのだから、その使用する期間を延長してやるということは、法理的にも考えられることであります。しかし、戰争後占領期間内に著作権が五十年に延長されたかというふうに解釈される向きもあり得るのでありますが、それは文部次官の訓令で、一応五十年というものはGHQの許可を受ける必要があると言われただけであります。別に法律上どうなつておるものでもなく、向うの言明によりましても、日本著作権保護期間を延長した覚えはないと向う言つておるのでありますから、そういう点は、ここで問題としなくてもよいと思います。とにかく私は戰後講和條約までの期間を延長したということは、これは日本にとつて不利益でありますけれども、條約の文面上しかたがない、こう考えるわけであります。  全体として、この法案を読みまして、ちよつとむずかしいということは、参議院でも、これは議員ではありませんけれども、参考人の側から出たのであります。しかしながら、国会議員方々にとつては、こういうことの理解は何でもないことである。かつ内容が正しいかどうかということが一番問題で、表現方法は、わかりやすく書けば、それに越したことはありませんけれども、この法案を見ますと、條約の文字を忠実にそのまま表現しようと努力されておるのでありまして、こういう書き方をするのも、これは私はやむを得ないと考えます。條約と対照してごらんになると、ただ急所々々だけが押えてあるということになるのでありますから、この点は、その表現方法等について、そういういきさつがあるということを御了承になられるように希望いたします。  私は政府委員でもなんでもないので、こういう法案ちようちんを持つ必要はないのでありますが、日本国民の利益であるということを痛切に私は感じるのであります。場合によつては、このまま早く通過してしまう方がいい。あまりこれを問題にしますと、條約の解釈としてやはり問題が起る余地があるのではないか。私はせつかく向うがこういう法案を出すことに反対しないようなことになつておりますから、私としては、ある方がよい。実際私たち戰争中関係がごつちやごつちやして、どうなつておるかほんとうにわからない。こういうものが出ますれば、一種の清涼剤で、はつきり国民権益保護のために、一段と戰後行政意義を有することになると思うのであります。
  8. 竹尾弌

  9. 布川角左衛門

    布川参考人 私は出版に携わつている者でございまして、法律の方の專門なことは、あまり存じておりません。しかし、実際の著作権あるいは翻訳権を、われわれがいかに処理するかというようなことは、ほかの法律家よりも、一審直接的でありまして、従つて外国著作権に関する法律、それは平和條約にいたしましても、今回の法案にいたしましても、われわれにとつては、直接的な問題でございますので、これについては深い関心を持つているわけでございます。本日参考人としてお呼び出しをいただきましたことは、そういう実際面において、どういうふうな問題があるかということをお尋ねのことと存じますので、法律論の問題は別にいたしまして、これはその他の参考人方々專門方々もおられまするので、その点は私はあまり問題にせずに、実際においてどうかという点を申し上げたいと存じます。  平和條約が発効いたしまするにつきまして、外国人著作権、特にわれわれとして直接的なものは翻訳権でございまして、翻訳権がどういうような取扱いになるかということは、ずいぶんわれわれとして苦労いたしました。出版業者としてそれがどういうふうになるのかということは、これは日々処理をいたしております業務一つでございまするので、業者同士一緒に集まりまして検討をし、またたとえばその方の人々文部省人々にも聞いたりいたしまして、どういうことであるかということを検討いたしました。そのとき、少くとも私の考えましたことは、平和條約を、われわれの業者のために有利に解釈しようという気持ではなくて、平和條約がどういうことを正しく述べているかということに、私は少くとも中心を置いて検討いたしたのであります。われわれにとつてこれは有利であるかないかということは、正当に解釈した後に来る問題でありまして、平和條約を有利に解釈しようということは、私は避けべきであるというのが、私のその当時の見解でございまして、正当に正しく解釈したならばどういう結果になるかということを、具体的に検討いたしたのでございます。それで、その結果といたしましては、大体今度の法案に盛り込まれている程度が、やはりその結果でございまして、今日においては私たち業者といたしましては、この法案に盛られていることについて、特に平和條約を検討いたした場合に、この法案と別の結果が出ているということはございません。  先ほど勝本先生お話になりました戰時中発生いたしたところの著作権保護期間の問題がございまして、これはこの法案の最も大きな有利な点であるというお話がございましたが、私たち業者といたしまして検討いたしたのは、そういう法理論は別といたしまして、戰時中発生をいたした、たとえば戰争が始まつてから三年後に発生いたしたといたしますと、その三年間に対してまで遡及するということは、権利のない者に対して保護を與えるものであるという見解のもとに、これは当然その三年を削除すべきであるというのがわれわれの見解でございます。従つて今回の法律が出なくても、平和條約を解釈すればそういうような解釈でいいのではないかというのが、われわれの見解でございます。  ところでこの法案につきましては、平和條約の不明確な点を、できるだけ明確にしたというのが提案の理由のようでございますが、私たちといたしまして、なおこの平和條約について、またこの法案について不明確の点のあることをこの際に申し上げたいと存じます。それはどういう点かと申しますと、われわれが実際に業務処理して行く場合に一番困つている問題であります。その点を私は特に皆さんに御説明をいたしたいと思うのであります。  その一番大きな問題は、第四條でございまして、第四條に——この法案のプリントによりますと四ページの二行目に「連合国民がその著作権を取得した日から」ということが書いてございます。これは平和條約にも示されているところでございますが、われわれ業者といたしましては、この点に非常に困る問題があるのであります。一体この著作権を取得した日とは何ぞやという問題であります。御承知のように、外国出版物をごらんになりましても、「著作権を取得した日」ということを書いてあるものは、まず見当らないだろうと思います。とびらの裏を見ますと「コピーライト一九四〇年」とか四五年とか書いてあるのが多く見受けられるところでありますが、これは年でございまして、せいぜいありましても月であります。従つて著作権を取得した日から」ということで、「日」と書いてありますところに、われわれ業者といたしましては、非常に判定に苦しむ点がございます。それは、私たちは、ものを処理するのに、非常に簡単に処理しようとする。くどい処理の仕方は、われわれ業者としてはあまり感心いたしたことでございませんので、非常に簡単に処理することを心がけております。それはどういう方法かと申しますと、コピーライトが一九四五年と書いてございますれば、その翌年から考えまして十年間は国内法第七條によつて保護されるわけでございますので、十年間を加え、そしてさらに戰時加算期間というものを加えるわけであります。ところが、戰時加算期間というものは、実はわれわれには最初に相当問題でございました。御承知のように、十年の戰時加算期間ということだけを引抜いてみますと、十年四箇月五十二日になるわけでございますが、一体この十年四箇月五十二日とは何日間になるのか。日で計算するのか、どういう処理になるであろうかということを考えたのであります。これについては、実際問題といたしましては日が二、三日違うが、それはあまり実際的には影響がございません。五十二日であるか、あるいは五十三日であるか、五十四日であるかということは、特に実際問題としての影響は少いのでありますが、ただここで困りますのは、日本著作権法というものは、翌年から起算をいたしておることであります。翌年から起算をして十年という起算の仕方をいたしておりますところへ、平和條約のこの戰時加算期間というのは、月と日できめている点であります。これはわれわれ業者といたしまして、処理するには、非常にやつかいなことであることを申し上げたいわけであります。  先ほど私が申し上げました「著作権を取得した日から」という問題につきましては、今日においても、われわれはどういうふうにこれを判定するかに苦労をいたしておりまして、そういう点になりますれば「コピーライト」ということが書いてございますれば、その年によつて判定をするというよりほかに、方法がないのじやないか。かりに保護期間が切れているというものに対しまして、これはいつ著作権発生したのかということを問い合せたといたしますと、向うではもう二年くらい前に著作権発生しているというような答えをもらいますと、かえつてやぶへびになるおそれがあることになりますので、著作権発生の目というものを、一体どういうようにわれわれが処理したらいいかということは、今日においても問題でございます。  ところで、占領中の著作権について、特にわれわれとして直接的問題は翻訳権の問題であります。この取扱いにつきましては、先ほど高野さんからもお話がございましたように、その著作者の死後五十年、アメリカにつきましては初版が出ましてから五十六年というものを、強制的に保護期間としてわれわれに手続を要請されるわけであります。平和條約が発効いたしました後、その変化はわれわれ業者にとつては非常に問題でございます。この変化に対してどう処理するかということは、今日においても問題でございます。それで国際的に信用を失墜させたくないということは、もとよりわれわれの心がけているところでございますが、日本著作権の扱いについては、従来非常に外国の信用がないといつていいだろうと思います。一つ例をここで申し上げますと、イギリスの出版協会の代表者で、アンウインという会社の社長でもありますスタンレー・アンウイン——この人はサーをもらつておりますので、サー・スタンレー・アンウインとも言つておりますが、「ザ・トウルース・アバウト・パブリッシング」という本があります。初版は一九二六年であります。第五版は一九四七年に出ております。それから第六版が一九五〇年に出ております。その中の一節に、日本翻訳権についての記事が各国に並べてずつと書いてございますが、日本翻訳権の條項につきましては、不幸にも日本においては著作権侵害版が絶えず出版されている、そして翻訳権の使用に対する支拂いは十ポンドか十五ポンドをとるのがせいぜいである、ということを書いてございます。しかし、それは一九四七年の五版までには、そういうふうに書いてございますが、一九五〇年の第六版には、そこが訂正してございます。どういうふうに訂正してあるかというと、幸いにも今日においてはそういうことがなくなつた、ということが書いてあります。そして著作権侵害版、いわゆる海賊版でございますが、著作権を侵害した版は絶えず出たというのが過去になつております。すなわち一九四七年版は現在でございますが、それは過去においては出た、しかし幸いにも今日においてはそういうことがない、ところがその支拂いが円に基いてやられておるので非常に困るということを、ちようど三行ばかりを象嵌して訂正をいたしております。そこで著作権について占領政策中にとられたものは、われわれ業者にとつては非常に不幸な、また困つたことでありましたけれども、外国著作権侵害についてのケースをほとんどなくしたという点があると思います。そこで今後われわれが翻訳権を取扱う場合に、また昔のようなことになつてはたいへんであるというのが、われわれ業者の相戒めているところでございまして、平和條約発効後も、著作権翻訳権については、まだ幾つも問題を持つておりますけれども、特にそういう点では注意をしなければならぬというのが、われわれの志しているところでございます。  そこで私が、もう一つこの法案についてつけ加えて申し上げた点は、アメリカの問題でございます。われわれとしましては、イギリス、フランスのものはどうするか、アメリカのものはどうするかというのが、具体的な問題であります。アメリカのものにつきましては、御承知のように、四月二十一日に、従来ございました日米の著作権の條約は、廃棄の通告を受けておりまして、おそらく三箇月ぐらい後には、協定ができるだろうというような予想をわれわれは持つておるのであります。それがどういうふうになるのであろうかということにつきまして、われわれは非常な関心を深めておりますけれども、アメリカは、今のこの法案関係においてどうなるのであるかということを、われわれは特に心配をしているわけであります。それで、勝本先生は、これはぜひ今日やらなければならないというふうにお話になりました。それは、法的に申しますれば、おそらくそうだろうと存じますが、われわれ業者といたしましては、アメリカとのはつきりした著作権に対する協定ができた上において、そういうものをもひつくるめた法律をつくつた方が、むしろ適当ではないかというふうに、私は考えておるわけであります。いろいろごたごたいたしましたが、一応申し上げました。
  10. 竹尾弌

  11. 東季彦

    ○東参考人 私は著作権協議会法制專門委員長をいたしておるのでありますが、その立場から私が参考人として呼ばれたのか、あるいは私は長年著作権法を研究いたして、ただいまは大学教授弁護士をやつておりますが、そういう立場からお呼びになつたのか、その点の御趣旨はわかりませんが、私は今日は著作権協議会を代表するというよりも、私が一法律学徒であるという立場から、ここにこの法律案に対しまして意見を申し述べたいと思うのであります。  結論を申しますれば、私はこの法律案は成立させたくないのであります。それはどういう点から申すかといいますと、これは非常に中途半端な法律案であります。先ほど文部大臣の提案理由の説明書をちようだいしまして、読んでみましたところが、この提案趣旨からいいますと、この條約を国内に実施するために特に設けた法律であるか、あるいは條約の文言について理解が不十分であるような点もあるから、この解釈上の疑義を一掃するために立案したのであるか、両方のようでありますが、この條約が国内法としてただちに効力を生ずるかどうかということについては、先ほど国際法学者のお説もありましたのですが、しかし私は日本憲法の上から申しますと、ちよつと疑問があるような気がするのであります。憲法の第九十八條に「この憲法は、国の最高法規であつて、その條規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。」これは第一項でありますが、第二項に「日本国が締結した條約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。」と、こういうふうに規定してあります。この憲法のできるときに、実は案といたしましては「この憲法及び條約は」と、こういうふうになつてつたのでありますが、その「條約」という文字が衆議院でもつて創られたのであります。そのために、ここに第二項の規定が生れたのであります。そういう点から申しますと、なぜ削つたか。條約だけではありませんで、憲法及びそれに基く法律及び條約はとあつたのでありますが、その二つのものを削つたのでありますが、この條約が削られたということは、非常に疑問を残したように思う。当然のことであるから削つたのであるか、あるいはそうでなく、條約は当然に法律にならないものである、国内法にはならないのだ。国内法にするためには、特に立法して国民に公布しなければならぬというのか、ちよつとそこに疑いを存する余地がまだあると思うのであります。そういう意味においてこの点をこの法律案はつきりとしておるかといいますと、つまり條約は当然国内法としての効力がある、国民に対しては、特に国内法を制定公布しなくとも、條約そのものが、ただちに国民を拘束するという当然の立場に立ちながら、しかもなおここにその点を念のために立案したというのであるならば、もう少し丁寧にその点を規定して、そうしてなおいろいろと疑義の点もある、実施上不都合の点もあるということで、もう少し詳しい、しかも疑問を一掃するような法律にして出すべきものであつたというふうに、私は考えるのであります。そういうような意味において、先ほども勝本先生からもお話がありましたけれども、日本に特に有利な解釈をまずもつてこの法律によつて得ようというので、ただ條約の解釈をそのままにしておいたのでは、不利なことになるおそれもあるから、今のうちに早く法律をつくつて日本に有利にして行こうというように、ちよつととれるきらいがあるのであります。  條約の解釈ということは、一国がかつて——ことに日本は、この條約においてはむしろ、義務国であります。義務国であり、義務を履行しなければならない立場にあるところの日本国が、その條約を一方的に解釈するということは、一体どういうことであるか。もつとも、先ほど勝本先生の御説明で、私は初めて、なるほどそうかということを知つた次第であります。これはGHQの了解を得ておる、こういうことを聞いたのでありますけれども、しかし、そのGHQの了解が、この條約が今後條約国間において効力を生じたときに、はたしてその解釈通りに一体行くものかどうか、そういう点について、私は今非常に不安を持つておるのであります。  一体條約の解釈あるいは契約の解釈というものは、これはその解釈が両当事者が一致しなければ、ほんとうの解釈というわけには行かない。契約の場合でもそうであります。この條約の解釈について、ただ一国が——ことにアメリカということになると、著作権法のことにつきましては、そういう利害関係については、フランスその他の国に比べると、大分違つた立場にあると思うのでありますから、そういうアメリカが主力であるところのGHQで、こういう解釈がいいと言つたからといつて、それがはたして妥当な解釈であるかどうかということは、言えないのじやないか。そういう意味において解釈がいろいろあり得ることあるならば、これをもう少し後日に延ばして、この法律をつくつて——先ほど布川さんからも言われたけれども、著作権に関しては非常にいろいろな問題があつて、非常に業者としても困つておるという際でありますから、もう少し後日において、連合国とも十分に折衝して、こういう解釈をするのが妥当だというところにまで来たところで、それをここに国内法として公布しても、必ずしもおそくはないのじやないか。これをただ日本の国の利益のために、義務者として義務を履行しなければならない立場にあるものが、自分の義務履行上の利益になるような解釈をしていいというものではない。そういうようなことをすれば、私は先ほど読みました憲法の第九十八條の第二項において「日本国が締結した條約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。」こういう憲法の條文が、日本憲法以外にどこの憲法にあるか、私は寡聞にして存じませんが、條約を守るということは、国として当然の義務であります。しかるに、憲法にこれを規定してあるということは、一体何事かといいますれば、日本が従来、あるいは不戰條約であれ、あるいは九箇国條約であれ、その他国際連盟を脱退するとか、かつてなことをするというようなことがあつたから、こういうように、條約を守るべきであるということを憲法に入れられたのではないかというふうに、私は何だか考える次第であります。そういう点から言いましても、日本が一方的に——あるいは多少当事国の理解があつたかもしれませんけれども、自分の国になるべく有利にしようというような、そういう條約の解釈をしようということでは、それまた日本が国際信義に反しようとしておる、かつてなことをしようとしておるということで、いわゆる国際信義を失うようなことになるのじやないか。国際信義を失墜しはしないかというような心配のあるような法案を、それほど急いで出さなくてもいいのじやないか。もう少しこれは考え直して出した方がいいのじやないかというふうに考える次第であります。  ことに、解釈の上において、国民に理解をさせる、こういうことを言いましても、これは私法律学者でありますけれども、読んでみて、非常にわかりにくいのであります。いわんや著作権者であるとか、出版業者がこの法律を読んでわかるかどうかということになると、私はなはだ疑いを持つものであります。一條は別段問題はありませんけれども、二條からずつと七條までの間に、各條ごとに私は疑問があると思います。あるいはまた間違つたような書き方もあると思う。たとえば第二條において「この法律において「連合国民」とは、左の各号に掲げるものをいう。」といつて「もの」と書いておりますが、二号には「連合国法令に基いて設立された法人及びこれに準ずる者」とありますが、この「者」は人間をさすのです。団体をさすものならば「もの」とかなで書かなければならない。この「準ずる者」というのは何だろう、法人に準ずる人間とは何だろうというような疑いを、あるいはしろうとは起すかもしれない。しろうとじやない、私としては、こういうふうな書き方は、はなはだずさんなものだということを、失礼ながら申し上げるわけであります。三号の前号に掲げるものを除く外、営利を目的とする法人その他の団体で、前二号又は本号に掲げるものが一ということになつて来ると、「本号に掲げるものが」ということは一体何を言うのかというと、これは私たちが読むと、「営利を目的とする法人その他の団体」をさす、こういうふうにちよつととれますけれども、しろうとが読むと何だかわからない。第四号がまた同じようなことを言つておる。こういうふうなことであります。  なおこれをいろいろと法律的に言うならば、大体ここにいろいろなものを「連合国民」としてあげておるが、たとえば会社法の第四百八十二條では、日本に本店を設け、または日本において営業をなすをもつて主たる目的とする会社は、外国において設立したものも、これを日本の会社として取扱うということを規定してありますが、一体そういうふうな会社は、ここにいう「連合国民」になるのかどうかということも疑われる。もつとも、これは会社法上では日本会社であるけれども、この著作権のことに関する特例法では、それは連合国民だというふうなことになるのかもわかりませんが、そういうような点についても疑わしいのであります。  それから第二條の三項の「この法律において著作権」とは、著作権法に基く権利(同法第二十八條の三に規定する出版権を除く。)の全部または一部をいう。これもまた私にはちよつとわからないのであります。ここの二十八條の三を除くということが、一体どういうことでありますか。二十八條の三というものでなくて、これはむしろ出版権というものを除くという意味であるのではないかと思うのでありますが、二十八條の三を読んでみても、どうも三を除く理由がわからないのであります。それから「著作権法に基く権利の全部又は一部をいう。」ということでありますが、これなども、実は権利の全部または一部の譲渡ということが、著作権法に書いてはありますが、この「著作権」というものが、著作権法に基く権利の全部または一部を著作権と見るのだということは、わかりにくい。むしろこれは著作権そのもので、内容の非常に包括的な著作権の場合と、そうでなく、著作権の一部として何か映画化をするところの許可権であるとか、そういうものをいうのだろうと思うのであります。それならばそれで、もう少しこれを具体的に書いた方が、はつきりするのではないかというように考えるのであります。  それから第三條におきましても、第四條等におきましても、いろいろと、先ほども布川さんも言われたいわゆる「取得」ということでありますが、條約の方では取得ということは言つてないのであります。これは「生ずる」ということを言つておる。生ずると言うことと取得するということは、違うのであります。取得するということは、生じて当然取得する場合もありますし、そうでなく、すでに生じておるものを受継いで取得する場合もあるのでありますから、なぜ生ずると條約に書いてあるのを、取得するというようなことにしたのか、そういう点も私にはよくわからない。それから特に先ほども布川さんの言われたように、取得する日とかなんとかいつても、実際問題としては、非常に困難な問題を生ずるというおそれもあるわけであります。  それから、なお第六條の初めのところに、「連合国及び連合国民以外の者の著作権」と書いてありますが、第六條の内容はそうじやない、連合国及び連合国民に関することを書いてある。だから、むしろこれは、この條文の立て方からいえば、ちよつとこの見出しと合わないことを書いてあるというふうにもとれる。  それから第七條の登録税の問題であります。先ほど勝本先生が、登録税のことはこれは必要なことだというふうに言われたのでありますが、この点は、一体條約では、そういう負担をかけないということが、はつきりと書いてあるわけであります。それを、一体どういうふうに解釈したのか。もつともこの條約、すなわち平和條約第十五條の(C)項の二というのにおいて「権利者による申請を必要とすることなく、且つ、いかなる手数料の支拂又は他のいかなる手続もすることなく」と言つておる。これはただ期間の延長が当然に行われるという意味で、別に手数料なんかを拂わないでいいというように書いてあるようにとれるけれども、あるいはまた解釈上によつては、ただ期間だけが延びたからといつて、第三者に対抗する要件が備わらなければ何にもならないので、第三者に対抗する要件を備えるために登録をするのであり、登録税をとるのだから、さしつかえないという御見解のようにとれたのでありますが、この点はあるいは第十五條の(C)項の二の違反になるのじやないかという心配もあるわけであります。そういうふうないろいろな点で、私といたしましても、これは実は前に占領中に起つたことでありますけれども、例の著作権の存続期間の五十年というようなことを文部省の次官通達をもつて出しております。むしろそういうふうなことが非常に重大なことであつて、一応これは法律でもつくるべきものである。今度の場合も、単なる解釈だというのならば、これは一応文部省の次官通達ぐらいにしておいてよろしいのではないか。法律として、著作権に関するいろいろな煩わしい問題を解決するのであるというならば、根本的には著作権法そのものを改正しなければならないのでありますけれども、それは相当日時を要するのでありますから、さしあたりにおいて、もし法律をつくるというのであるならば、またいろいろと連合国民ばかりでなく、なお外国人に関する——ドイツ人の著作権に関することもいろいろありましよう。そういうことからして、もう少し徹底した法律をつくられた方がいいのではないか。先ほど布川さんも言われたけれども、実際的の立場に立つても、こういう法律案を通さなくてもいいということを言つておられるくらいで、私は一学徒として、この法律案はまだどうも不完全なものであつて、もう少し練り直して出すならば別として、このままで通過させるということには、私として賛成いたしかねる次第でございます。
  12. 竹尾弌

    竹尾委員長 次に参考人に対する質疑を許します。浦口鉄男君。
  13. 浦口鉄男

    ○浦口委員 実はこの法律案は、一般国民には直接関係がないような感じがいたすのであります。そうして一部の出版業者だけの問題のように一応感じられますが、よく考えますと、日本外国文化の非常な輸入国であるという面から考えまして、一般の読者にも直接大きな利害が伴つて来ることであります。しかも、日本が、講和條約発効後まだ二箇月にならない現在において、平和條約の一つの條項を解釈する国際的な影響というものも、非常にわれわれは重大に考えなければならぬと思うのであります。それでこの法律案の内容の具体的な面につきましては、われわれ不幸にしてしろうとでありますので、必ずしもわれわれの意見が正しいとは考えておりません。文部省の柴田著作権課長は、著作権について十数年研究をされて、苦労されておるということも聞いておりますので、そういう技術的な面については、われわれは必ずしもわれわれの意見だけが在しい、こういうふうには考えておりません。そこで、先ほど布川参考人の御意見にもありましたように、われわれは現在の日本が置かれた立場と、それから、それによつて来る対外的な影響を考えまして、まずこれを考えます前提は、平和條約十五條(C)の二項、これをわれわれはどう適切な解釈をするかということが非常に問題だと思うのであります。いわゆる正しくこれを解釈しまして、東参考人お話にもありましたように、憲法九十八條に基いて、日本といたしましては、誠実にこの條約の内容を遵守することを必要とする、ここにわれわれは立脚して考えなければならぬと思うのであります。と申しましても、一面また外国人著作権並びに翻訳権を、国際信義上できるだけ保護しなければならぬという面と、それによつて来る日本国民の利益も、極度にこれは保護しなければならぬ。こういう二つの相反する條件を、どこで一致させるかということが、非常に私は問題だと思うのであります。  そこで私は、まず第一にお聞きいたしたいことは、この法律案は、文部省の意向によりますれば、講和條約発効の日までに成立させるべく努力をされた、こういうことでございます。それによつて、当時まだ平和條約が効力発生しておりません過程において、平和條約の実際効力を、何とか国内法によつて有利に導くために早く立法をしたかつた、こういう意見だと私は思うのであります。ところが、これは御承知のように、参議院で通過をいたしましたが、衆議院におきましては、われわれはこれは非常にむずかしい法律でありますので、大いに検討の必要を感じ、今日に至つたわけであります。その間、他にいろいろ重要法案もありまして、遅れた理由もあるわけでありますが、ただ私一言お断り申し上げておかなければなりませんことは、この法律案は、ともすれば、他の法律案について考えられるような、野党とか與党とか、あるいはその議員の所属している職能関係とか、そうしたいわゆる利害とか、党利党略というようなものには、全然関係のない法律案であるということにおいて、われわれはこれをあくまで国内の、いわゆる外国文化の読者の権益を極度に守りつつ、対外的にはわれわれの誠実な業務を果して行きたい。こういう考えで検討しておりますので、その点一応前提として御了承願いたいと思うのであります。  そこで、まずお尋ねいたしたいことは、市川参考人でございますが、ただいま申し上げましたようないきさつで、衆議院はまだ通過しておりませんので、当然この法律はまだ公布されておりません。効力発生しておりませんが、その結果において、実際直接利害関係をお持ちになつておられる出版業者立場で、現段階において、すなわちこの法律案が通過しないことによつて起きている現実的な混乱と申しますか、不便と申しますか、そうしたものがありますならば、それをまずお聞かせ願いたい。
  14. 布川角左衛門

    布川参考人 ただいまの御質問について、御答えを申し上げたいと思いますが、私たちは、先ほども申し上げましたように、平和條約を正しく解釈して、これにのつとつて外国著作権ないし翻訳権をやつて行けばよろしいという見解を持つておりますので、この法律が出るくても、われわれには別段どうということはないだろうという見解でございます。別段不便というか、問題の起るようなことはないだろうという見解を持つております。
  15. 浦口鉄男

    ○浦口委員 現実にそうした不便なり、不利益は起つてはいない、こういうふうに解釈してよろしゆうございますか。
  16. 布川角左衛門

    布川参考人 ただいまのところは、まだ平和條約が発効いたしまして一箇月半しか経つておりませんので、こういうケースは、今のところ起つておりません。それよりも、戰時中に契約いたしましたものの処理や何かに非常に苦労しておるというのが、現状でございます。
  17. 浦口鉄男

    ○浦口委員 現在は、そういう不便なり不利益は起つていない、それはまだ講和條約発効後一箇月半であるからというお答えでございますが、かりにこの法律が今後半年、一年できなかつた場合を予想いたしますと、そのときに起り得る心配があるとすれば、どういう心配であるか。またそれは、この法律がなかつたと仮定いたしますと、どういう方法によつてこれを解決されて行くか、その点をお尋ねいたします。
  18. 布川角左衛門

    布川参考人 この法律というものは、先ほどから東さんがお話になりましたように、平和條約とほとんど意味を同じうするようなことになつておりますので、この法律がなくてもさしつかえがないというふうに、まず考えておりますので、これから半年、一年の間に特別に問題が起るだろうというふうには、考えていないわけであります。
  19. 浦口鉄男

    ○浦口委員 この法律案立法にあたつては、文部省は、占領下において立法をしたものでありますから、GHQの了解を得てやつたことである、こういうことを言われておる。参考人勝本さんも、先ほど当時の事情をお話がございまして、日本人にいかに有利に義務づけるかということに御努力をされたことは、私はそのまま率直に認めていいと思うのであります。ところで、お伺いいたしたいことは、そうした占領下におけるGHQの了解によつてできた法律案というものが——当時の情勢においては、われわれはそうした事態を率直に認めざるを得ないのでありますが、その了解によつてできた法律案というものが、講和発効後の現在において、一体どういう効果なり、実際の意義を持つているか。この点について、高野さんの御意見を伺いたい。
  20. 高野雄一

    高野参考人 ただいまの御質問については、取上げられた問題が、法案でありますと、ちよつと事態が違います。もしこれがそういう関係のもとに占領中にできた法律でありますならば、それならば、講和発効後は、今度は全然日本の側において、それを存続させるなり改正させるなり、廃止するなり、これは自由ということになります。法案の段階でございますと、もしこつちがそういうのをやりたいからサンクシヨンをしてくれ、よしサンクシヨンしよう。もしくは向うが自主的にそういう法案を出せ、それではこういう法案を出そう。いずれの了解であるかにかかわらず、戰後であれば、これは講和條約で特別のことがない限り、日本は主権を回復いたしますから、そういつた了解があつた法案を出す出さないということは、これは自由であります。つまり、出す義務はないし、また出してはならないものでもない。法案に関する限りのいろいろな了解というものは、講和條約発効後は、そう考えてさしつかえないのだと思います。
  21. 浦口鉄男

    ○浦口委員 法的に申しまして、占領下GHQの了解を得て立案したものであるからということにおいて、われわれは、何もこれに格別の拘束をされることはない、こういうふうに解釈していいと思うのであります。しかも、この著作権の問題については、日本とアメリカの間には、格別立法を必要とするという原因は、私はないと思うのです。先ほどどなたか参考人の御意見にもあつたようですが、そうしたアメリカの了解のもとにつくられた法律案というものに、われわれは法的にいつても、また現実的にいつても、これは縛られる必要はない、こういうふうに考えていいと思うのであります。ところで、非常に問題になつております四條の二項でございますが、これは文部省見解によりますれば、平和條約第十五條(C)の二項の中には、具体的にこの内容は盛られていないが、その意味を拡大解釈といいますか、解釈すれば、こういうふうな意見があるように私は考えております。これは明確に申しますれば、十五條の(C)項の中には、私はこういう具体的な事実はない、こういうふうに考えるわけでありますが、これはこの前提に申し上げましたように、国際間の條約の解釈については、各国とも自分の国に有利に解釈したい、しかも相手を傷つけない、こういうことが国際慣例と聞いております。ただ、その線が一体どこに引かれるかということは、非常に微妙な問題であるというように、われわれは解釈しておりますので、文部省解釈も、私は一つ解釈であろうとは存じますが、われわれは現在の講和発行期間もない日本立場、とりわけ国際信義を守らなければならない現在の立場において、こういう拡大解釈外国に與える影響は、一体どうであろうか。その点について、高野さんの御意見を承りたい。
  22. 高野雄一

    高野参考人 その点につきましては、條約の解釈は、條約の成立した際のいろいろな事情も参考になりますが、成立した條約については、結局その国の責任において解釈することが原則なのであります。ただ、その解釈が誤つて、相手側がそうじやないということになれば、そこで国際的な問題も生じますが、條約が成立して、それをどう解釈するかということは、その後においては、当事国の責任においてやる。先ほど拡大解釈というふうに申されましたか、この四條の二項あるいはその前の戰時中発生した著作権については、戰争期間であつて、その発生前の期間はこれを除く、そういう点は日本に有利な拡大解釈とも申せますが、大体この平和條約十五條解釈としては、客観的に大体そういうことに、りくつとしてはなるだろうと思います。非常にそれを拡大解釈したとかなんとかいうことには、ならないのじやないか。その平和條約十五條(C)項が持つ客観的な意味のうちにおいて、こういうふうに解釈表現されるものと、私はそう考えられます。従いまして、こういうふうに解釈してこういう法案一般に出すということが、條約のままに置いておくよりも、国民に、特に関係者などに、より問題がわかりやすくなる。従つて、そのことによつて、條約が実施されて、もしそれに関する違反とか紛議が起れば、これは日本の條約違反の問題が生じ得る可能性が出て参ります。そういうことが幾らかでも減るのではないか。大体こういう解釈、これが十五條規定意味の範囲内だと思いますけれども、そういう解釈として法案を出すということの意味が、その限度においてはある、そういうふうに考えております。
  23. 浦口鉄男

    ○浦口委員 なぜそういうことを申し上げるかといいますと、これは平和條約を国内立法化したものでありますが、要は連合国並びに連合国人の有する権利を、日本解釈した法律案でありまして、相手のある、しかも国際間の問題でありますので、国内立法とはおのずからその性質を異にいたしまして、相手が日本解釈を認めて、初めてそこに効力発生すると思うのであります。もちろん、條約違反とかその他の疑義があれば、国際裁判に訴えてやればいいじやないか、こういうことを、文部省も四條二項についてよく言われるのでありますが、それは私は最後の問題だと思うのでありまして、実際問題といたしましては、国際裁判所に持ち出すまでに、相当の費用がいる、期間がいるということになりますと、少くとも立法建前から申しまして、そうした紛争を予期して立法をするということは、私は立法府の責任においてこれは相当厳重に考えなければならぬ、こう思うのであります。そこで、外務省あたりの意見を聞きましても、結論はこういうことになつていると私は考えております。岡崎外務大臣が、参議院においてこの著作権の問題について答弁をいたしておりますのを見ましても、最初は、外務省といたしましては、いらないと思つていたということを述べておられる。しかし、その解釈はつきりするという意味で必要かということになつて、それじやまあ立法してもいいか、こういうふうな結論に到達をしておるのであります。そこで、外務省といたしましては、私の聞く範囲では、先ほど申し上げたような相手のある法律案でありますので、日本でこういう法律をつくつた、さあすぐこれによつて相手が法律従つて実行してくれるかどうか、守つてくれるかどうかということは、これは非常に問題があるので、外交上のセンスからいえば、もう少し外交的な折衝を重ねて、ある程度お互いに了解ができ、歩み寄りができ、見通しがついた上で国内立法をすることが、外交上の慣例としては好ましい。しかもその間において、この法律が一日でもなければ、日本国民あるいは出版業者その他が、非常な不利益をこうむるというふうな現実があるならば別だが、わが国がそうした差迫つた現実もなければ、あえてそうした国際信義上の疑惑を押してまで今この時期において強行すべきかどうかということについて疑問があるというふうに申しておられるのであります。その点について、国際法高野さんは、どういうふうなお考えをお持ちになつていらつしやるか、いま一応承つておきたい。
  24. 高野雄一

    高野参考人 ただいまの点につきまして、一つ法的な問題と国際慣行といいますか、国際信義的な問題と両方あると思いますが、まず最初に法的に申しますれば、條約が結ばれて、それは両国間のある問題についての法律関係をどうしようかということで、條約折衝の際に両国代表でいろいろ練られるわけでございますが、その結果できましたものについては、今度は、それを実施に当るのは、各国政府であります。この各国政府の責任においてやるのでありまして、それについて、これを実施するにあたつては、どういうふうに解釈してやられますかということは、もちろん相談する必要は法的にはないと考えるのが当然であります。それについて相談するのが必要だと考えられるのは、これは政策的な判断というものの立場であります。  それから、非常に問題になる点があれば、それは国際信義ということにも触れるかと思いますが、第一に、そういう立法について相談しなければならないということが、これは占領下においてまさにそうであつたのであります。その点は、占領がやまつた今日においては、今私が申しました通りの原則に立ち返つてしかるべきものと考えます。この点について、それではまあ私が一応これを見ましたところでは、さつきもちよつと申しましたが、十五條意味の大体客観的な範囲内のことを明らかにしたと、私には思われます。ということは、その意味においては、相手国も、大体この線においては納得するであろう、そこで説得力があるであろうと察せられるというふうに解したわけです。そうして、その上においては、つまりこの法案を従来いろいろな條約について、あるいは今度の場合におきましても、平和條約、安全保障條約、行政協定その他などに関連して、国内立法を多数いたしますが、そういう立法をしますことが、平和條約、安保條約、行政協定をそのままほつておくよりも、国民によりよく徹底し、あるいはまたそれに基く日本政府としてなすべきことについて遺憾なからしめる上に、実際上の効果があると考えられれば、こういつた法案を出すことの意味というものは、従来の場合とかわらない、その範囲においては、効果があるのではなかろうか、そういうふうに私は考えておるわけであります。
  25. 浦口鉄男

    ○浦口委員 次に東参考人にお尋ねいたしたいのでありますが、日本は、従来はいわゆるベルヌ條約のローヌ規定等を遵守していたと思うのであります。ところが、御承知のように一九四八年七月十六日、ブラツセル規定によつて、いわゆる死後五十年ということが出て来たわけであります。もちろん日本は、講和発効後は、再びベルヌ條約に復帰をいたしまして、行く行くはブラッセル規定を遵守すべき立場に立ち至るとわれわれは想像いたしております。その時期がいつになるかということは、これはいろいろ日本出版業者、翻訳者その他の御意見にもよるでありましようし、今後の通商條約あるいは外交交渉によると思いますが、いずれにしろ、私はこのブラッセル規定日本が参加しなければならぬことは、必然的な事実であろうと思うのであります。そうなりました場合に、自然と五十年という規定に縛られるということになりますと、今この法律案に、一九四一年十二月七日以後講和発効までの十年四箇月五十二日と除算して計算する期間をこの法律規定いたしましても、当然これは近く五十年の中に含まれてなくなつてしまう。そういうことも考えられるのでありますが、今これを全体的に見て、この法律は急ぐ必要がないように考えられます。そういう具体的法律案をつくつてみても、近くすぐいらなくなるというように考えられるのでありますが、その点どういうふうにお考えになりますか。
  26. 東季彦

    ○東参考人 ただいま御質問のことでありますが、実際は今のこの條約によつて期間が非常に延長されることであつて、ほんとうにいろいろな問題が起るのは、実際大分先になつて起る問題のように思われるので、さしあたり期間が問題になるということは、割合に少いじやないか。延長された期間の問題、すなわち著作権があるかないかといつて起る問題は、大分先に行つて起るように思われるわけで、そういう点について、ことにブラッセル條約にもいずれ入ると思うのでありますが、そうなると、非常に遠いところに多くの問題を残すのを、今ここでいろいろともう少しよく審議しておく必要があるべきであつて、今早急にこういうことを法律にしておく必要があるかどう一か。むしろそれよりも、法律をつくるならば、もう少し大きなところから、もつと根本的に著作権の法そのものについての改正をするということが必要があるのであつて、この條約の解釈そのものを、そうあわててやる必要はないというふうに私は考える。ことに、この解釈については、先ほど別段條約国のひとりだけでそれを解釈しても、一向さしつかえないという御議論もむろんありますから——しかし、とにもかくにも国際関係というものは信義を第一にするものでありますから、ことに先ほども憲法規定より申しましたことく、日本という国は、大体條約違反というようなことを責められている国である。そういう国柄があわててこの解釈法をつくつたというようなことによつて、非難をあとに残すようなことになつてはいかぬじやないか。こういうような法律をつくつておかなくても、今後において国際折衝でもつて、およそ具体的の問題で十分日本に、そう不利にならぬような了解も得られるじやないかというようにも考えられる。そういう意味において、なお急に解釈法をつくる、しかもそれが非常に安全な疑いのない解釈とも思われないところに、ことに先ほどの御質問があつた第四條の二項は、これは條約十五條の(C)のどこに当るかということについて疑いを持たれるような規定でもあるので、そういうような意味におきましても、別段先に起る問題を、ことに非常な複雑な問題があるにかかわらず、非常に急速に、十分な各方面の意見をも徴することなしにかりにやつたならば、非常なこれは後日に悔いを残すのじやないかというように考える次第であります。
  27. 浦口鉄男

    ○浦口委員 高野さんにもう一つお尋ねいたしておきますが、業界でいわれております五十年フィクシヨンの問題であります。これは占領下司令部の直接行政によつて、三十年が五十年に引延ばされたという事実は、御承知と思うのです。ただ直接行政を援護すると申しますか、強化すると申しますか、そのために、文部省で次官通牒並びに局長通達によつて、これを出版業者その他に、より明確に義務づけたということが、問題になつているわけであります。もちろん文部省は、当時日本出版業者、翻訳者等においてのいろいろな違反事件を、司令部から追究をされた。しかし、それについては、あくまで日本ベルヌ條約によつて義務づけられている以外に制約がないのだということを、再三強調をしたが、やはり最後には、司令部の強い意向によつて、そういう著作権に対しての違法行為をやつている業者に対して、通達と申しますか、司令部の意向をより徹底させてくれということで、司令部は直接行政によつて五十年ということを主張しているのだから、違反しないようにという意味を通達したのであつて、決してそれ以上のものでないということを言つているわけであります。なお、私の質問に対しまして、当時は著作権政策というものは、極東委員会で決定していなかつた占領期間中における外国著作権の範囲、それから保護の内容というものは、極東委員会が政策決定をしておらなかつたために、メモランダムとか、デイレクテイヴというものが出せなかつた。すなわちスキャツピンが出せなかつたから、暫定的に司令部一つの機関として民間情報教育局が直接行政措置でやつた、こういうことを文部省の説明員が私に答弁をしているのであります。われわれの解釈では、これは当然国民権利義務に大きな影響を及ぼすことでありますので、申すまでもなく、ポ政令あるいは著作権に対する特例法のような立法によつて国民に義務づけるべきであるというふうに考えているわけでありますが、こうしたことが占領下においてなされたことが、国際法上どういうふうに解釈されるべきものか、一応御意見を承りたいと思います。
  28. 高野雄一

    高野参考人 ただいまの点につきましては、私が実際に著作権問題に関して意見を求められましたのは、ちようどお話のあつたような点でありますが、あの際法律的な見方からすると、相当混乱があつたのが実情であつたと思います。そうしまして、著作権を含めて、連合国の財産について日本は管理しなければならないということは、終戰直後の指令で根拠があるわけでありますけれども、著作権に関してどうということは特にはつきりされなかつた。今の五十年というお話も、結局ほかの場合と違つて明確な形では日本に来なかつた。その背景は、今言われましたように、ほかの特許権などの場合とは違つて、極東委員会でも政策決定が積極的に行われなかつた。一九四六年末の対日理事会の議題としては出ましたけれども、それがまとまるに至らなかつた。また連合国司令部の内部においても、ほかの場合にもあることかと思いますけれども、著作権の扱い方については、大分いろいろ内部においても食い違いがあつたことは、私もその当時ある程度実験いたしました。従いまして、その五十年ということはどういうことかというと、一九四六年に、総司令部のその方面の係官が、こういうふうにして扱うということを、談話の形で一月に二度ほど発表しました。それで総司令部は、民間業者、直接には日本出版協会等の人と連絡をしまして、そういう扱い方を指示しておるわけです。その扱い方は、向うはそれをはつきりさせることを拒む。つまりメモランダムは、もちろんそういう背景があるためか、日本政府には出しません。私もそういうところに参加しまして、そういうことをやるためには、原則に従つて日本にメモランダムを出すべきだ、どうしてもそのことが占領政策上必要なことだからやる、従つて日本政府もそれをやるという形でなければできないから、メモランダムを出すべきだということを言いましたが、結果として、総司令部はそれを好まない。メモランダムを出すということは、いかにも司令部として、それを強制したようになる。しかも占領が終つてから、すぐくつがえされるという危険がかえつて感ぜられる。本国でも、一般権利者はそういうことを考える。そこで、なるべくそういうことをしないで、日本が自発的にやるという形でやつてもらいたいということが、大体その当時の私の知りました総司令部の係官の意見であります。そこで結局、総司令部は民間団体に出す。民間団体に出すにも、書面は出さないで、日本出版協会などに談話の要旨を伝える。明文にしてはおりますけれども、そういう書いたものを係官が出版協会に渡したわけでもないようであります。そういう線を通じて、五十年ということが一九四六年の初めごろからだんだん始まりまして、それが初め、アメリカだけか、それとも連合国全部か、外国全部かということがはつきりしませんでしたが、一九四六年を通じ、四七年になるに従つて、その点は向う行政としてはますます強行されて来た。そして総司令部は、直接民間側にそういう形で接触を持つて行きまして、今のようなことを実施して参つたわけであります。私が承知します範囲では、そういうことを民間にやらせまして、それがどうもうまく行かない事実があるということを、ときどき日本政府、具体的には文部省本線内務省ではなくて文部省だと思いますが、それに対する注意が喚起されたというメモランダムは一、二あつたように思います。  それから、私は、次官通牒とかなんとかは、よく見ておりませんが、民間業者との関係でこういうことをやつているんだという趣旨のことは——こういう場合に日本は翻訳ができるとか、著作権を利用し得るとかいうことの内容の文部省の指令は、大分あとになりますが、あつたように思います。それに対して、私ども考えますならば、その指令をぜひ日本の法制化せよという向う意見が出れば、これはどうしてもそうしなければなりませんし、それがまたそうはつきり出ない場合には、日本側としては、それを認めるとか、法制化するとか、妥当かどうかという見地が可能だ。つまりそれを法律にするとか、ポ勅にすることができないということは申せません、命令があれば、しなければなりませんが、それをすることが得かどうかという点においては、そういう総司令部のやり方というものは、法律との関係、さらに條約との関係というものを勘案しまして、先ほど最初に私が申しましたように、法的な問題としては軌道をはずれている。もつばら占領下の直接行政で、向うがそういう必要があるという形で持つて来ている。従つて、次官通牒については、内容をよく知りませんが、占領中の日本政府のやり方というものは、向うはこうやつているから、それを念のために日本関係者はみな注意しているようにという態度で、大体一貫したのではないかと思います。従つてそれを日本国内法——それが法律であれ、ポ勅であれ、とにかくそういうもので一応向う法律的な主張を認めるという形は、ある意味で積極的に拒んで来たということが、その問題に関する占領下を通じての実情であつたように私は考えております。
  29. 浦口鉄男

    ○浦口委員 たいへん時間もおそくなりまして、参考人にも御迷惑でありますので、もう一点だけお尋ねしてやめておきます。  著作権に対する占領行政は、司令部当局の意見が非常にまちまちであつた。時に非常に変動があつた。しかもそれを直接行政でやつたということは、われわれとしては納得の行かないものがあるわけです。ほんとうに正当のものであるならば、たとい反対があつても、ポ政令なり特例なり、正式のもので出すべきだ。たとい占領下でメモランダムが出ても、国情にふさわしいものではないとすれば、国会において論議されて、訂正されないまでも、やはり正しいか正しくないかということは、天下に声明ができた。そういうことなしに、何か非常に姑息な手段でやられたことは、われわれとしては納得が行かない、それについては、私は文部省の苦労は察しますが、当時の文部省のやり方に対しては、やはり文部省は責任を持つべきでないか、こういう意見を私は文部省に開陳するわけであります。  ところで、立法措置によつたか、あるいはそうした間接の直接行政によつたかは別といたしまして、それによつで生じたいわゆる私契約というものは現在も残つておる。そしてまだそれに対して相当の負債を背負つておるという出版業者も聞いております。これは法制局の意見を聞きましても、その私契約そのものは、原因のいかんにかかわらず現在も効力があるということは当然であるという解釈でありますが、先ほど申し上げましたように、これは国民権利義務、あるいは財産に非常に大きな影響のあることでありますので、そうした直接行政によつて生じ、現在もなお続いている私契約による損害が憲法違反にならないかということが一つと、いま一つは、文部省見解といたしましては、占領下においてポ政令あるいは特例法にやつておくならば、講和後も強制力を持つているので、そうした形によらないで通達ということでやつたことは、講和発効後は、それによつて生じた私契約も、文部省がバツクアップをして、極力その不当なものは解消させて行くように、出版業者を擁護するのにポ政令でやつておかなかつたことは非常に有利だ、こういうふうに解釈されておりますが、それに対しての高野さんの御意見をお聞きしておきたいと思います。
  30. 高野雄一

    高野参考人 ただいまの点は、私としても全然考えなかつたわけではありませんが、まだ十分お答えするだけ勉強ができていないので、自信のない点なのでありまして、戰時中の、直接にせよ間接にせよ向うの行いました行政の結果の効力は、戰時中に関する限り、争い得ないということは、一般にも、また今度の平和條約を通じてもはつきりいたしております。しかしながら、それが戰後においては、平和條約上特別の根拠がない限り、日本が存続せしめるなり、改正するなり廃するなり、これは自由であります。ただ、その当時そういう占領行政に基いて生じた私契約、たとえば五十年というものが、戰後になれば、そういう契約が成立せしめられる基礎になる法律は違うわけでありますが、そういうものが戰後にどうされるか、当事者の間としては一応残るであろう。たとえば、義務を負うている方であつて、一旦結んだ義務は、日本としては果さなければならないというような特異な考え方の人もあるでありましよう。そういう人にとつては、それはりつぱな契約履行ということになりますが、しかし、客観的に見ますと、それはきわめて不公平な事態を生ずることも事実であります。ただ、そういう問題が裁判所なんかに出た場合に、日本法が認める限度以上にわたる契約が起されるのかどうか。この点私として、遺憾ながらちよつとまだ十分自信を持つてお答えできませんので、それだけを申し上げさせていただくにとどめたいと思います。
  31. 竹尾弌

    竹尾委員長 他に御質問はありませんか。  それではこの際参考人の皆様に御礼かたがた一言ごあいさつを申し上げます。  本日は御多忙中にもかかわりませず、当委員会の法案審議のために、参考人として御出席をくださいまして、委員長より厚く御礼を申し上げます。今後の法案審議にあたりまして、御高見を拝聴いたしましたことは、まことに有意義であつたと存じます。今後ともよろしく御協力を賜わりまするよう御依頼申し上げて、御礼のごあいさつといたします。  本日はこれにて散会いたします。     午後一時七分散会