○大橋
国務大臣 松本委員にお答えを申し上げます。御質問の第一点は、
警察予備隊の精神
訓練については、従来必ずしも十分であ
つたとは言えないのではないか。従
つて独立な契機として、これについては特に力を入れる必要があるが、それについていかなる点を主眼として今後の精神
訓練に留意するつもりであるか、かような御質問の御趣意と承
つた次第であります。すべて
機関を運営いたしまする場合におきまして、機構がいかにできておるかどうか、またその裝備がどうな
つておるかということは、もとより大切なことでございまするが、しかしながら特にこれに従事いたしまする
職員の精神的な心構えというものが非常に大切であるという御意見につきましては、ま
つたく同感に存ずるところでございます。ことに
警察予備隊あるいは
保安隊、
警備隊のごときは、その
任務の性質といたしまして、特別の必要のあ
つた場合に
出動すべきものである、従
つて平素は
職務の
執行というよりはむしろいつあるか知れないところのできごとに備えまして、不断に
訓練を続けて行くということでございます。このことは、平生いつあるか知れない仕事について、長期にわた
つて不断の
訓練を続けるということでございまするから、非常に困難なことであり、その基礎にはどうしてもしつかりした精神的な基盤がなければできないということは申すまでもないところでございまして、
警察予備隊創設以来今日まで、この点につきましては、当局といたしましても、いろいろ苦心をいたして参
つたのでございます。特にこれらの
部隊において注意しなければならぬ点は、必要のある場合において
行動する責任があるのでありますが、その場合の
行動というものは至
つて危険の程度の高いものであるということでございます。従
つてこの自己の一身に降りかか
つて来るところの危険を冒してその職責を実行いたすということにつきましては、よほどのしつかりした心構えを養成しなければならない、こういうことはもとより申すまでもないところなのでございます。これらの点につきまして、精神的な
訓練を重視しろという御意見は、これはまことにごもつともな点でございまして、今後
保安庁設立後におきましても、
訓練において最も重点を置くべきところであると存ずるのでございますが、かような精神的な心構えの基本といたしまして、いかなる点に留意をすることが適当であるかということにつきましては、今日まで私
どもの研究といたしまして、おのずから二つの点を眼目にいたして行くことがよかろうという考えに到達いたしております。その一つは、この国家の
治安を
維持するということは、ひつきよう憲法の精神とな
つておりまする民主主義また法治主義というものを、あくまでもこれらの
機関が実力をも
つて維持することによ
つて憲法を守り続けるということなのでございまするから、憲法擁護という強い精神がその基礎になるべきであり、特に
わが国の実情から申しますると、民主主義を守
つて行くということが、この精神的な
訓練の眼目となるべきものであろうと存ずるのであります。次に危険を冒して自己の職責を遂行してもらわなければならぬという点から考えますると、愛国的な熱情というものを強く持
つて行かなければ、かような困難なる仕事はなかなか完全に遂行することができないのではないか、こう考えまして、現在まで
警察予備隊の精神的な
訓練の目標といたしましては、民主主義をどこまでも守
つて行く同時に祖国及び民族を愛し、そのためにはいかなる危険を冒しても犠牲的に奉仕して行くという愛国的な情操を養
つて行く、この二点を眼目として
訓練をいたして参
つたのであります。このことは今後においても必要があることであろう、こういうふうに考えておる次第でございます。
第二の点は、
保安庁に
入国管理庁を統合することが、
治安機構の全体の構想からい
つて適切ではなかろうかという御意向でございます。
保安庁の一部をなしまする
海上公安局は、
海上におきまする法令違反の取締り、特に入国に関する法規の違反の事案についても取締りをいたして参るのでございまするからして、入国管理の
事務にはきわめて密接な職責を持つものであることは申すまでもございません。しかしながらこの入国の管理という仕事は、よく考えてみまするというと、不法に入国いたしまする者を実力をも
つて予防するということも一つの仕事であり、またこれに違反したる者を検挙するということも一つの仕事でありまするが、同時に入国した者が国内において
わが国の
治安あるいは内政の面において好ましくないという人物でありまする場合においては、これを調査いたし、これに対して退去
命令を発するということもあるわけであり、また不法入国者を逮捕いたしましたる場合におきましても、その実情に応じましてこれを強制退去せしめるということがあるわけでありまして、これらの行政処分は單に実力をも
つて行動をするという面だけではなくして、その
関係者のありました場合にこれを逮捕いたしますると同時に、諸般の事情を詳細に取調べまして、そして退去
命令を発するのでありまして、当然退去
命令を受けました者が退去ということを強制されることによりまして、日本国内における居住権を制限せられる、あるいは
財産権その他についても重大なる影響をもたらすことに相なるわけでございまして、自然人権の侵害という結果をまぬがれない事柄なのでございます。従いましてかように人権に対して重大な影響のある事柄につきましては、実力行使の
機関が直接にその
権限を行うというよりは、別に調査
機関を設けて、別にその調査に基く判断の
機関を設けまして、あらゆる角度から慎重に審議、調査、決定いたしまして、いやしくもみだりに人権の不当な制限を招くようなことのないようにいたさなければならぬ、こういうふうにも考えられるわけなのであります。今回の行政機構の
改正にあたりましては、政府といたしましては特にただいま私の申し上げました第二段の点を重視いたしまして、民権の
保護を使命といたしておりまするところの法務府において、これらの行政
事務を所掌いたしますることが、現在の段階としては適当ではなかろうか、こう考えまして、一応
入国管理庁はこれを法務府の所轄にいたします。そして
保安庁におきまする出入国の取締りに当りまする
機関でありまするところの、
海上公安局並びにこれと
協力いたしまする
警備隊というものは、この法務府所掌の
入国管理庁と十分なる連絡をとりまして、仕事を推進いたしまする上に支障なからしめるようにいたしたい、かような構想で一応考えたわけでございます。もとより行政のことはその当時の実情に応じてそれにふさわしい機構を考えるということが、しかるべきことと存じまするので、私
どもといたしましては現在の段階においてはまず
保安庁でなく、一応法務府に
入国管理庁を置くことが適当であろう、かような見解のもとにこの案を考えたわけでございます。なお当局といたしましては、非常に錯綜いたしましたる行政機構でございますから、今後とも十分双方連絡をと
つてこの
目的を達するように努力はいたすつもりでございまするが、同時にはたしてかような機構が運用の実際に当
つて所期の効果を上げ得るかどうかということについても十分に観察をいたします。将来において必要があるならば重ねて十分に研究を続けて参りたい、かように考えておる次第でございます。
それから第三の御質問は、
第三国人、ことに
朝鮮人と
保安庁の
関係はどうであろうという点でございまするが、朝鮮から
相当な密入国があるということは、従来の検挙の実績から申しましても肯定できるところでございまして、
わが国における密入国の実情は、朝鮮からいたしまするところの者が最も多いように今日までの結果では現われておるわけでございます。従いまして
海上公安局並びに
警備隊において、これらの密入国の取締りをいたすことが職責と相な
つておりまする
関係上、この
朝鮮人の国内に不法に入国して来るという問題につきましては、
保安庁としても多大の関心を持
つておるわけでございます。ただ上陸いたしました後における取締りというものは、今日一応警察が第一次にその職責を持つという建前にな
つておるのでございまするので、今後も
海上におきまする
保安庁の
機関は、警察あるいは
入国管理庁と十分な連絡をとりまして、この問題を取扱
つて参るはもちろん、また今日国内
治安の面におきましても、また将来予想されまするところの国外からの不法な破壞的な活動という面から申しましても、
朝鮮人の動向というものについては十分に注意をする必要があると存じておるのでございます。しかしながら、このことは
朝鮮人の一部に危険分子が
相当あるということを意味するのみでありまして、今日国内にあるところの大部分の
朝鮮人諸君は、すでに終戰後朝鮮に帰ることを認められました際において、みずから朝鮮に帰るよりも日本国にとどまりまして、日本国とともに自己の運命を開き、日本国とともに繁栄したいという念願を持
つてとどま
つておられる方が大部分でございますから、これらの大部分の方々は、
治安の面についても十分今後とも
協力を願い得ると確信をいたしておるのでございます。ただしかし不幸にして一部破壞的な分子がありまするから、これについては
相当注意を続けなければならぬ、こういうふうに考えておるのでございます。
最後に、
警備、
救難事務の積極化が必要であるという御意見でございます。今日
海上保安庁の持
つておりまする
施設も決して十分でございません。このたび
海上警備隊が新しくできまして、ここに米国より貸與を受けましたる
船舶を
相当数持ち、そしてこれが
警備、
救難の
事務についても、必要な場合には応援をするという態勢を整えて参
つたわけでございます。しかしなお日本の近海は、国際的な
関係から、また地理的な
関係から、海難とかあるいは
海上の不法
行為というものが
相当に多いところの海面である、こういうことが考えられまするので、今後とも御説の通り
警備、
救難の
事務は、
保安庁といたしましても、決してこれは
外局で片手間にや
つておる仕事であるというふうな考えでなく、他の仕事と同様に重要な仕事であるという考えのもとに、研究を進め、
施設の拡充に努力をするという心構えで進むべきものである、かように考える次第であります。