○平井(太)
政府委員 ただいま議題となりました
日本電信電話公社法案の
提案理由を説明申し上げます。
わが国の
電信電話事業は、創業以来
公共事業として終始一貫国営により経営されて参つたのでありますが、昭和九年
特別会計制度を採用いたしました後も、事業の国営に伴う諸制約に縛られ、設備の
拡張資金につきましても、その時々の
国家財政のわくに左右されて、十分かつ安定した資金を得られず、さらに
企業経営の基本であります財務、会計、
人事管理についても、
一般行政官庁と同一の規律を受けているため、活発な
企業活動を阻害されて来た点が少くなく、ために戰争によつて極度に荒廃した
電信電話の復興は、戰後の産業、経済、
文化等国民活動の進展に伴うことができないで、遺憾ながら国民の要望に十分こたえることができなかつたのであります。
このため昭和二十四年七月に内閣に設けられました
電信電話復興審議会は、昭和二十五年三月三十一日に、
電信電話事業を民営の長所を最大限に取入れた
公共企業体に運営せしめることの
必要性を政府に答申いたしたのでありますが、同年四月二十六日衆議院も
公共企業体移行促進の決議をされ、
公共企業化の機運は熟して来たのであります。しかるにその後幾ばくもなく、
朝鮮動乱の勃発に伴い、
関係筋の意向もありましてひとまず見送りとなつていたのでありますが、昭和二十六年八月
政令改正諮問委員会は、
行政機構改革の一環として
電信電話事業を
公共企業体化することを政府に答申し、政府においては
愼重審議の結果、今回
電気通信省を廃止し
電信電話事業は
日本電信電話公社に経営させることに定め、ここに
日本電信電話公社法案を国会に提出して御審議をお願いする運びと相なつた次第であります。
先にも申し上げましたように、財務、会計、
人事管理等の面での
国営形態の欠陷を除去して、企業的、
能率的経営をなし得るためには、純然たる
民営形態も考えられるわけでありますが、
電信電話事業は、全国にわたる厖大な組織及び設備を有し、巨額の資産を擁する
公共事業でありますから、これを民間に拂い下げて
株式会社組織に切りかえることは、再評価、株式の引受け、その他に多くの困難が予想されること、強度の
公益性、
技術的統一性及び
自然的独占性を有する本事業については、純
民間企業としての長所を十分に期待できないこと、また公租、公課の賦課が加わるため、経営の
合理化が促進されてもなおかつ相当の
料金値上げを招来すること、年々巨額の
拡張資金を
民間資本にのみ求めることは、現在の
わが国の
資本蓄積状況からみてほとんど望み得ないこと等の理由から、
民営形態は適当でないと思われるのであります。
政府は
公衆電気通信事業の合理的かつ能率的な経営の体制を確立し、
公衆電気通信設備の整備及び拡充を促進し、並びに
電気通信による国民の利便を確保することによつて、公共の福祉を増進するためには、国会及び政府から必要な監督を受けることによ
つて公共性を確保しますとともに、一方
事業経営上財務、会計、
人事管理等の面における
一般行政官庁の制約を脱し、民営の
能率的経営技術を取入れた自主的な
企業活動を行い得る
企業体としての
公社形態に、当事業の経営を行わしめることが最も適当であると考えまして、ここに
日本電信電話公社を設立することといたした次第であります。ただ
国際電気通信関係のみは、
国際通信における他国との
競争関係等より、一層徹底した
企業活動の自由と
機動性とを確保するため民営とすることとし、別に
国際電信電話株式会社法案を上提いたすことといたしたのであります。
次に
公社法案の内容についておもなる点を説明申し上げます。法案は第一章乃至第七章にわかれておりまして、第一章は総則として公社の目的、
法人格、
業務内容、
資本金、名称の
使用制限等を規定いたしております。このうち公社の
資本金は、この
法律施行の際における
電気通信事業特別会計の資産の価額から負債の金額を控除した残額に相当する額とし、いわゆる
狭義資本説によることとし、政府が全額を出資いたします。
第二章は、
経営委員会に関する規定でありまして、公社の業務の運営に関する
重要事項を決定する機関として
民間会社の
取締役会に準ずる
経営委員会を設置いたすこととしております。この
経営委員会は、両議院の同意を得て内閣が任命する
非常勤の委員三人と、職務上当然就任する常勤の
特別委員である総裁、副総裁二人の合計五人をもつて構成され、
委員長は委員の互選により選任することとなつております。
この
経営委員会は公社の
経営管理の
基本政策を決定いたす機関であります
ので、公社の
業務執行の
責任者たる総裁及び副総裁のほかに、大企業の経営
についての深い経験と広い
社会的視野を持つ
非常勤の委員をもつて構成し、その多数決によ
つて議事を決定することが公社の経営を能率的ならしめるとともに、
公共性を確保するゆえんであると考える次第であります。なお委員の任期は四年で、報酬は受けません。
第三章は公社の役員及び職員についての規定でありまして公社に役員として総裁、副総裁各一人及び理事五人以上を置くこととなつております。総裁及び副総裁は内閣が任命し、理事は総裁が任命いたします。総裁、副総裁の任期は四年、理事の任期は二年で、いずれも再任されることができます。
職員については、その地位、資格並びに任用の基準について規定するほか、降職及び免職、休職並びに懲戒につき
身分保障の見地から一定の基準を設け、一方
職務遂行に専念する義務を課しておるのであります。またその
労働関係については、
公共企業体労働関係法の適用を受けることにいたしております。
第四章は、財務及び会計についての規定であります。会社の財務及び会計に関しては、財産の増減及び異動を、その発生の事実に基いて経理するいわゆる
発生主義会計原則によることを明らかにし、予算においても
現金収支のみでなく、非
現金収支を含むものであることを明らかにしております。また公社の予算は、
一般行政官庁の消費を目的とする予算と異なり、通信の需要に即応して最低の経費で最良の
サービスを提供することを目的とするいわゆる
事業予算の性格を持つものであります。この目的に応ずるため、
経済事情の変動並びに
緊急偶発の事態に応じ得る
弾力性を有するものであるという本質を明文化してあります。予算は
予算総則、收入
支出予算、継続費及び
債務負担行為よりなつており、これに
当該事業年度の
事業計画、
資金計画その他参考となる事項に関する書類を添え、国会に提出してその議決を経るものといたしております。
暫定予算、
追加予算、
修正予算についても本予算に準じます。予算の流用及び繰越しについては、原則として自由とし、ただ総則に定める経費の金額については、
郵政大臣の承認を経なければ流用もしくは繰越しができないこととしております。
資金につきましては、
予算総則に定める
限度額の範囲内において、政府及び民間に対し
電信電話債券を発行し、また借入金をなすことができることとしております。公社の業務にかかる現金は原則として国庫に預託するのでありますが、業務上必要がある場合には、政令の定めるところにより、郵便局または
大蔵大臣の指定した
金融機関を利用することができることとなつております。また外債につきましては、
財団抵当のごとき制度をとらず、元本の償還及び利子の支払いについて政府の保証を受けることができることにいたしました。
次に利益及び欠損の処理としましては、
独立採算制を確立いたしますため、毎
事業年度経営上利益を生じたときはまず
繰越欠損の補填に充て、なお残余があるときは、予算に定めるところによ
つて国庫に納付する場合を除くほか、これを
積立金に組入れることとし、経営上欠損を生じたときは、
積立金を減額して整理し、
積立金の額を超過するときは、欠損の繰越しとして整理するものとしております。
以上のように、
利益金は原則として
積立金に組み入れますので、欠損を生じた場合にも、
一般会計から
交付金を仰ぐということはしないことになつております。
財産処分につきましては、
電気通信幹線路その他これに準ずる重要な
電気通信設備を譲渡し、または交換するには、国会の議決を要することといたしました。
次に公社は、その役員及び職員に支給する給與について
能率給を加味した独自の
給與準則を定め得ることになつておりますが、この
給與準則は無制限に定め得るものでなく、一
事業年度の支出が国会の議決を経た
給與総額の範囲内でなければならぬことを明らかにしている次第でございます。
第五章は、公社の監督に関する規定でありまして、公社の監督は
郵政大臣が行うこととし、公共の
福祉増進等のため必要があると認めるときは、監督上必要な命令を発することができることとしてあります。
第六章は、罰則でありまして役員が
違反行為をした場合の罰則及び公社以外のものが
日本電信電話公社という文字を使用した場合の罰則を規定してあります。
第七章は雑則でありまして、この
法律施行の際現に
恩給法の適用を受けている
公務員が引続き公社の役員または職員となつた場合には、当分の
間恩給法を適用すること、公社の役員及び職員に
国家公務員共済組合法の規定を準用すること、
不動産登記法、
土地収用法について公社を国の機関とみなしてこれらの法令を準用することなどを規定いたしております。
次に
日本電信電話公社の設立に必要な
日本電信電話公社法施行法案の
提案理由を説明申し上げます。
日本電信電話社の設立に関しましては、その手続及び
経過措置を定めるとともに他の法令を整理する必要があるのでありますが、條文が相当の数に上るため、これをさきに提出いたしました
公社法の附則とすることなく、単独の法律として提出するのが適当と考えられますので、ここに本法案を提案することといたした次第であります。
本法案のおもな内容を申し上げますと、まず同公社の最初の
経営委員会委員の指名は、これを公社の設立前に行い得ることを定めております。またその任期につきましても、一斉に改選になることのなきよう、二年、三年及び四年といたしております。
次に現在の
電気通信省の職員は、
監督官庁等に移る者等を除き、すべてこれを公社に引継ぐこととし、これらには
退職金は支給しないことになつております。
次に
公社設立後の
過渡的措置といたしまして、公社が行うことになる業務に関する
権利義務及び係属中の訴訟は、国鉄、専売の例にならい、公社が引継ぐことといたしております。
また公社の
財産関係につきましては、
一般会計からの繰入金中、
外国為替特別会計からの未受領の分と、
警察専用電話料金の
未収金に相当する約四億円を差引いて公社の債務としたほかは、国鉄、専売の例にならつております。
公社の昭和二十七年度の予算につきましては、国の予算としてすでに成立している関係上、公社が一応これを踏襲することといたしております。
次は、
公社設立に伴う他の法令の整理であります。従来、
国営事業として国に適用のあつた
電信法、
電信線電話線建設條例等の
電気通信関係の法律につきましては、別途その全面的な
改正法案を準備中でありますが、間に合わないことをおそれまして、とりあえずこの法案において、これらに
必要最小限度の改正を加えることといたしております。
また他の法律で、国に対し特例または除外例を設けていた
登録税法、
印紙税法、
所得税法、
地方税法等につきましては、国鉄、専売と同様本公社にも特例を設け、または除外するようにいたしております。
その他、他の法律で
電気通信省とあつた條文のうち、
性質上国のみに適用すべきものにつきましてはこれを削除し、また公社に適用する必要のあるものにつきましては、これを公社と読みかえるよう、それぞれ改正を加えておる次第でございます。
次に
国際電信電話株式会社法案の
提案理由を御説明申し上げます。
わが国の
国際電信電話事業は、その運用については
国内電信電話事業と一体となつて国営により経営されて来たのでありますが、その設備の
建設保守については、電信については大正十四年
日本無線電信株式会社が、電話については昭和七年
国際電話株式会社がそれぞれ設立され、政府の監督と保護のもとにその任務を遂行して来たのであります。その後昭和十三年両会社が合併され
国際電気通信株式会社が設立され、両会社の業務を引継ぐとともに、伸張する
国際電信電話事業設備の
拡張保守に鋭意専心して来たのでありますが、終戦後昭和二十二年
連合軍総司令部からの覚書により、同会社の解散が決定され、爾後
国際電気通信設備の
建設保守もまた政府の事業として引継がれ今日に
至つたのであります。
しかしながら今日の
国際情勢にかんがみますると、対外的には列国間の
通信電波の獲得及び
通信網の拡張の熾烈な競争に伍して、
自由潤達なる活動を通じて
わが国の
対外通信の地位を大いに向上せしめねばならないことと、対内的には
講和成立後の
わが国自立経済確立のためには貿易並びに
対外報道事業に対しまして、諸外国に劣らない
通信サービスを提供する必要切なるものがあるのであります。これらの要請を満たすためには国際間の情勢に鋭敏に反応し、
経済事情の変動に強く反映される
通信需要に即応し得る
企業活動の自由なる
機動性が強く要請されるのみならず、
国際通信分野における
競争相手の諸外国における
通信担当者の多くが
民営形態である事情にもかんがみまして、
国際電信電話事業の運営を
民営形態に移すとともに、その
公益的特性を確保するに必要なる国の監督及び保護を與えるために、これを
特殊会社とし、ここに
国際電信電話株式会社法案を作成して国会の御審議をお願いすることにいたした次第であります。
以下その内容の大略を申し上げます。
本会社の株式については、その会社の性格からして
記名式株式とし、これを所有し得るものとしては、政府、
地方公共団体、
日本国民または
日本国法人とし、
日本国法人であつてもその社員、株主もしくは業務を執行する役員の半数以上、資本もしくは出資の半額以上、もしくは
議決権の過半数が
外国人もしくは
外国法人に属する法人は所有することができないものとしたのであります。現在
国際電信電話事業の用に供せられている設備は、これを
日本電信電話公社から本会社に
現物出資することに本法案で規定してありますが、公社が会社の株式の大部分を保有することによ
つて会社を支配することは、
会社設立の趣旨に沿わないものと考えれますので、公社は、その割当てられた株式はこれを政府に譲渡し、政府においてそれを処分して行くことといたしたのであります。
本会社の社債の発行については、今後会社において
相当設備の拡張をはかる必要が考えられますので、商法の規定による
社債発行限度の制限に
特例規定を置き、資本及び
準備金の総額または最終の
貸借対照表により会社に現存する純
財産額のいずれか
少い額の三倍の額まで
社債発行ができることとしたのであります。なお
資金調達を確実ならしめるため、
社債権者の
会社財産に対する
担保権を認めるとともに、会社の
外貨債務について政府の支拂い保証を受けることができる旨を規定しております。
本会社は商法上の
商事会社でありますが、その行う事業は
国民一般の利害に密接に関係いたしますので、社債の募集、
長期借入金の借入れ、取締役及び監査役の選任及び解任、定款の変更、
利益金の処分、合併並びに解散の決議及び毎
営業年度の
事業計画並びに
重要電気通信設備の譲渡並びに
担保提供のごとき
事業活動上の
重要事項については、
主務大臣たる
郵政大臣の認可を要件とし、また監督上必要がある場合において
郵政大臣は会社に対し命令を発しまたは
業務報告を徴し得ることとしたのであります。
以上の認可及び命令についての違反の行為については、
罰則規定を設定しております。
以上のほか附則をもつて、
会社設立の際の手続並びに
経過措置について規定を設けておるのでありまして、会社の設立のためには
郵政大臣が
設立委員を任命してその事務を行わしめることとし、また
会社財産の大部分については
日本電信電話公社が
現物出資または譲渡するものとし、この出資または譲渡の財産の範囲については、公社と
設立委員との協議により定め、協議が整わないときは、
郵政大臣の決するところによるものとしたのであります。なお出資または譲渡の財産の価格につきましては、郵政省に設置せられます
電気通信設備評価審議会の決定によることとし、
審議会の評価にあたつては、財産の時価を基準とし、
国際通信事業の収益率を参酌して決定するものとしたのであります。なお法律の
施行期日は政令で定めることといたしております。
以上まことに簡単でありますが、本法案の
提案理由及びその内容の要点を御説明申し上げた次第でありますが、何とぞ十分御審議の上すみやかに可決せられますようお願いいたします。