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1952-05-07 第13回国会 衆議院 通商産業委員会公聴会 第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十七年五月七日(水曜日)     午前十時三十一分開議  出席委員    委員長 中村 純一君    理事 高木吉之助君 理事 多武良哲三君    理事 中村 幸八君 理事 山手 滿男君    理事 今澄  勇君       江田斗米吉君    小川 平二君       神田  博君    小金 義照君       淵上房太郎君    高橋清治郎君       加藤 鐐造君    田代 文久君       青野 武一君  出席公述人         日本石炭協会会         長       福永 年久君         日本石炭鉱業連         合会常任理事  國崎 眞推君         福岡県知事   杉本 勝次君         直 方 市 長 行實重十郎君         小野田市長   姫井 伊介君         山口鉱害対策         組合連合会書記         長       和田 滿恵君         福岡鉱害対策         組合連合会副会         長       栗田 數雄君         東京大学法学部         教授      田中 二郎君         東京大学工学部         教授      青山秀三郎君         岐阜県御嵩町長 野呂  靜君         長崎県鉱害対策         協議会常任幹事 山口 正之君  委員外出席者         専  門  員 谷崎  明君         専  門  員 越田 清七君     ————————————— 本日の公聴会意見を聞いた事件  臨時石炭鉱害復旧法案について     —————————————
  2. 中村純一

    中村委員長 これより臨時石炭鉱害復旧法案について公聴会を開会いたします。開会にあたりまして本日御出席公述人各位に一言ごあいさつを申し上げます。本日は御多用中にもかかわらず、当委員会公聴会公述人として御出席くださいましたことに対し、委員一同を代表いたしまして厚く御礼申し上げます。  本案は鉱害復旧事業団の設立並びに復旧工事施工及び裁定を行い、石炭鉱業による鉱害を計画的かつすみやかに復旧せんとするものでありますが、本委員会といたしましては、広く各層の学識経験者及び利害関係者の御意見を拝聴し、もつて委員会の今後の審査に多大の参考たらしめようとするものであります。  公述人各位におかれましては、おのおののお立場より、十分忌憚なき御意見を御披瀝くださるようお願いいたします。ただ時間の都合上公述の時間は大体一人十五分程度といたしたいと存じます。  なお念のためつけ加えて申し上げますが、衆議院規則の定めるところにより、公述人発言をしようとするときは、委員長の許可を得なければなりません。またその発言につきましては、意見をお尋ねする問題の範囲を越えてはなりません。また委員より公述人質疑はできますが、公述人委員質疑ができませんから、さよう御了承願います。  それではこれより公述人各位の御意見の御開陳を願うことにいたしますが、発言の劈頭には職業、御氏名を御紹介願います。それでは福永年久君。
  3. 福永年久

    福永公述人 私は日本石炭協会会長福年久であります。  政府においてはこのたび臨時石炭鉱害復旧法案国会に提出されましたが、鉱害問題の解決は、国土有効利用及び保全並びに石炭鉱業の健全なる経営上の見地よりいたしまして、きわめて緊要なことでありまするが、政府がこの数年の間引続いて鉱害対策に積極的に努力を傾けられておられるのに対して、深甚なる謝意を表するものであります。  石炭採掘に伴う鉱害問題を解決する方策としては、被害地原状復旧を行うことが最も望ましいことはあらためて申し上げるまでもありません。従つて石炭鉱害復旧制度の樹立はまことに時宜に適したものと申すべく、私ども石炭生産業者といたしましては、この法案趣旨賛意を表するものであります。  一昨年五月には特別鉱害復旧臨時措置法制定されましたが、今回の法案は、いわゆる一般鉱害地復旧目的とせられたもので、この法案の生れるに至つた経緯は、次に申し述べるごとくであると了解いたしております。  すなわち特別鉱害復旧臨時措置法並びに新鉱業法制定にあたりまして、国会会においてなされました鉱害に関する決議に基いて、石炭鉱害地復旧対策審議会が、去る一月二十七日政府に対して示した石炭鉱害復旧対策に関すす勧告を骨子として成案化されたものが、本法案と承つておりますが、鉱害に伴う深刻な社会問題の解決石炭鉱業の健全な発展とを目的とされたものでありまして、鉱害対策に関する画期的措置と考えております。しかしながら私ども石炭生産業者といたしましては、右に申し述べました国会決議内容でありますところの、国庫負担において鉱害地原状回復を行うために、国会がすみやかに具体策を樹立せられるよう政府に要請されましたことは、鉱業法金銭賠償主義原則を改める御趣旨のものではなくて、あくまで国家の独自の立場責任により原状復旧を行う必要性を認められ、国の積極的介入によつてこれを実施せんとするものであると思料いたします。従いまして、国庫負担による原状復旧という御趣旨決議は、きわめて当を得たものと考えるのであります。しかるにこの法案は上述の御趣旨通り完全に規定したものとは了解しがたい面も見受けられますので、私ども業者といたしましては、本法案のすみやかなる成立を希望いたしながらも、内容的にはぜひ御修正を願いたい規定も若干ございますので、これらの点につきまして以下数項目にわたつて意見を申し述べさせていただきたいと存じます。  第一の点は法案第二十三條の評議員会権限に関する規定であります。この規定によりますと、鉱害復旧事業団主要業務は、評議員会議決を経なければならないことになつておりますが、この法案の体系から見まするならば、本規定事業団運営を困難にするものではないかと思われます。何となれば、事業団主要業務はおおむね主務大臣認可を必要とする事項であり、かつ嚴重なる監督を受ける建前となつておりますから、これらの事項理事者のつかさどるところにゆだねて十分であり、従つて評議員会はこれを諮問機関とすることが、事業団運営を円滑ならしめるゆえんであると考えられるからであります。  第二の点は、評議員会議決方法に関する法案第二十四條の規定であります。同條第二項の議事採決方法は、出席評議員過半数なつていますが、この規定出席した評議員の三分の二以上の同意を得ることに修正すべきであると考えるのでございます。その理由は、許議員会が取上げる事項は定款の変更業務方法の決定及び変更収支予算及び決算並びに復旧基本計画の作成及び変更等でありまして、これらの事項は、商法の特別決議事項に匹敵するものと称しても過言でないと思われる重要事項でありますから、採決はこれに準じまして、当然出席評議員の三分の二以上の同意を必要とすることにいたしたいわけであります。  第三の点は、鉱害復旧事業団経費鉱業権者及び地方公共団体に賦課徴収することを規定した法案第二十八條及び第九十四條に関してでありますが、本規定は、法案一條目的から見ましても、全額国庫負担に改めらるべきもの考えます。そもそもこの事業団は、政府鉱害地復旧施策として設立するものであるのみならず、関係鉱業権者事業団に対し、納付金として鉱害賠償限度を納付するわけでありまするから、その上事業団経費までもこれを負担する理由はないと思料いたします。また地方公共団体負担せしめることも前述の理由によつて妥当ではないと考えるのであります。  第四の点は、農地復旧に対する納付金基準に関する法案第五十一條規定であります。もとより農地に対する納付金基準は、賠償限度である土地対価に基礎を置くべきものでありまして、従来の公共事業のためのつぶし地炭住敷地買収実例、その他農地売買一般取引例等により定められるべきものでありまするから、賃貸価格の三千倍程度を最高とすべきが妥当であろうと考えます。従いまして本規定第一項第一号の「二千を下らず五千を越えない範囲」とあるところは「二千を下らず三千を越えない範囲」と修正せらるべきであると思料せられるのであります。なおこの場合、土地所有権の移転は行われずに対価が支払われ、かつ復旧されて耕作が続けられるということも、この基準を決定する重要な要素であることを強調いたしたいと思うのであります。  第五の点は、農地及び農業施設復旧効用回復不十分なものに対しては、一定期間事業団補償、することになつておるのにかかわりませず、法案第七十六條第一項但書以下数項にわたりまして、右の補償金事業団が支払わない場合には、鉱業権者支払い請求を受けることとなつておりまするが、鉱業権者義務は、法案第七十五條消滅しているのでありまするから、この規定は当然削除すべきであると考えます。かつ事業団支払い能力を欠くとは考えられませんから、蛇足な規定ではないかと思われます。  第六の点は、法案第七十七條規定する灌漑排水施設引渡しに関する問題であります。この規定によりますれば、結果的には関係鉱業権者が強制的に施設引渡しを受け、その維持管理に当ることとなつておりまするが、鉱業権者は新たに設けられる灌漑排水施設については、法案の五十一條規定により納付金を納付し、七十三條及び七十五條規定により、工事完了に伴い鉱害消滅によつて賠償責任消滅するものであるにもかかわりませず、さらに施設引渡しを強制せられる理由はありませず、すでに消滅している賠償責任維持管理の実際問題を通じて事実上継続されていることとなるわけでありまするから、理論的にも妥当を欠くのみならず、本法案の意図するところの鉱害問題の解決ゆえんでもないと思料いたします。従いまして施設引渡し引受人同意を得ることを條件とし、同意を得ることができない場合には、この法律施行期間中は、事業団みずからがこれを管理するよう規定すべきであると考えるのであります。もつとも法律施行期間後については、この法律の失効の際におきまして、その経過措置を考究すれば足りるのではないかと考えるのであります。  第七の点は、復旧費に対する国庫補助の問題であります。法案第九十一條規定によりますれば、国庫補助は、工事施工者に対し復旧費についてのみ交付されることになつておりますが、復旧に関しては、さきに第五及び第六で申し述べました補償金維持管理費などが必然的に随伴するのでございます。従いまして国庫補助対象は、直接の復旧工事費のみならず、効用回復不十分な土地農地等に対する補償及び灌漑排水施設維持管理費などを含む費用、すなわち法案第四十八條規定による復旧費などを対象とする必要があると考えるのであります。  次に第八の点は、法案第九十二條の国庫補助償還規定についてであります。この規定によりますれば、公共施設復旧に関して支出される国庫補助は、工事施工鉱業権者より償還せしむることができるとされております。しかしながら公共施設復旧は、効用回復以上に必然的に価値の増大を伴うのみならず、農地等復旧と関連し、国土計画一環として総合的に復旧されるものでありますから、復旧工事費の一部は国も当然負担してしかるべきでありますし、少くとも一般公共施設災害復旧に準ずる国庫補助が行われてさしつかえないものではないかと考えます。  最後に、法案第三十七條規定による事業団関係業者に対する各種資料提出要求について、特に罰則規定があることは非民主的であり、時代錯誤と思われますから、当然削除せらるべき規定と思料いたします。  以上所見を申し述べましたが、なお関係業者といたしましては、特に冒頭に一言申し上げました鉱業法金銭賠償原則を越えて原状復旧が行われるという点に、深い関心を寄せざるを得ないのでありまして、法案の御審議については、さき国会決議がこの法律に具体化するよう重ねて希望を申し上げまして、私の公述を終りたいと存じます。御清聽を感謝いたします。
  4. 中村純一

  5. 青山秀三郎

    青山公述人 私はただいま東京大学工学部長をいたしております青山秀三郎であります。私の専門といたしますところが鉱山関係のものでありますので、申し上げますことも多少鉱山立場を考えておるということになろうかとも思いますが、できるだけ中立的立場において私の所見を申し上げたいのであります。  今まで国会におかれまして、いろいろ鉱業関係法案を御審議に相なりました。その機会に私も公述人として意見を申し上げたのでありますが、それらの法律が公布されました後に拝見いたしますと、私どもの申し上げましたことをよく取上げて御審議いただいておると考えるのでありまして、私は非常に感謝申し上、げておるのであります。  本日問題になつておりますこの臨時石炭鉱害復旧法案につきましては、石炭鉱害地復旧対策審議会におきまして、私も委員として席を連ねまして、しばしば意見を申し述べて参つたのであります。その第五次案までに政府当局の御苦心の跡はよく承知いたしておるのであります。それらを考えまして、私はただいまの法案につきましても、趣旨としては賛意を表するにやぶさかでないのであります。ただその内容におきまして、なお二、三この機会に私の希望的な意見を申し添えたいと考えるのであります。ことに本年一月二十四日の同審議会におきまして、その要綱が決定されたのでありますが、それと本日の法案と比較いたしまして、今申し上げましたような二、三の私の希望的な意見を申し上げたいと望むのであります。  まず第一に、鉱害復旧事業団の組織あるいは運営に関する問題であります。ただいまも福永会長から御意見が出たようでありますが、この事業団評議員会が設置されております。この権限に関することなのであります。事業団性格から見まして、評議員会というものの運営に対して相当重く考えるということは当然の措置であろうかと考えるのでありますが、その主要なる業務ほとんど全般にわたりましてこれを議決するという性格は、少し強過ぎるのではないかと思われるのであります。その議決過半数制をとつておるのでありますが、この種事業団業務主務大臣認可ということもうたわれておるのでありまして、理事者に相当な幅の権限を持たせた方が、むしろこの運営の両面から見まして妥当ではないかと思われるのであります。ごとに理事者その他の選任にあたりましては、評議員が関與しておるのでありますから、運営そのものについてはただいま申し上げましたような評議員会としての権限をいま少しく縮小しておく方が妥当でないかと思われるのであります。第二の事業団経費の問題であります。これもただいまお話を伺つたことでありますが、当初年度においては石炭トン当り五円以内とか、あるいは次年度以降においては鉱業権者復旧費の七%以内というようなことがうたわれておるのでありますが、これら事業団事務経費はできるだけ所要な問題を限定いたしまして、事業経費そのもの膨脹に対しても避けたいところであります。これもさしあたり九州と宇部の各一箇所に置くということになつておるのでありますが、これらの場所の制限もさることながら、それらの所要経費につきましては、できるだけ制限といつては言い過ぎかと思うのでありますが、膨脹を避けてほしいと希望されるのであります。さていよいよ必要な事務経費につきましては、その負担の公正を期していただきたいと思うのであります。その相当なパーセンテージが、鉱業権者負担なつておると思うのでありますが、これはかえつて弊害を伴うのではないかという憂いを持つのであります。  第二の問題は、鉱業権者または租鉱権者賠償責任でありますが、これは根本的な思想といたしましてはこれが過大に失しないように考慮しておくべきであろうかと思うのであります。そもそも石炭鉱業わが国産業界に占めます地位にかんがみまして、その経営の能不能ということの他に及ぼす影響は、まことに至大なるものがあると思うのであります。この観点から、われわれは石炭鉱業を特にこの立場から見る必要がある。これは常々私が申しておるところであります。もつとも国として石炭鉱業のみに重点を置き、特に恩恵を與えるということは、他産業への影響も考えまして、軽々にしかあるべきものとも思わないのであります。ただいまの法案を考えましても、この鉱害を起したものは石炭鉱業関係者でありますが、そのために鉱業権者または租鉱権者の受ける賠償的な義務が過大に失することは、必ずしも合理的なものではないと思われます。その負担能力の限界を越えるということは、石炭鉱業そのもの発展を思いますときに、いかなる点からもわれわれは望ましくないと思うのであります。この見解からいたしまして、いろいろ具体的には問題がそこにあるだろうと思いますが、たとえば農地に対しまする納付金といたしまして、土地基準賃貸価格のある倍数を定めるというその倍数の考え方、あるいは灌漑用排水施設——ポンプでありますが、その完了後その維持管理賠償義務者に強制するその影響、これらも重要な今後の問題であろうと私も連想されるのであります。また鉱業権者賠償責任消滅の時期をいつにとるかということでありますが、これも鉱業権者事業団に対して納付金を完納したそのあとさらに工事完了するまでその賠償義務を続けなければならないということは、いかにしても鉱業権者に対する負担が重過ぎはしないかと私は思うのであります。これらも今いつと限定することについてはいろいろ議論のあることでありますが、冒頭に申しました石炭鉱業発達国家産業としての石炭鉱業地位を考えますならば、十分御詮議を仰ぎたいと思うのであります。これは鉱業法制定の際に、私もこの法案審議にあたりましてやはり公述人として参りまして申し上げたことなのでありますが、その賠償根本観念といたしまして、金銭賠償主義とつたのであります。それが今回の法案において、問題の観点には多少の相違があるといたしましても、やはり鉱業法趣旨とするところは、ここにも一貫しておくべきではなかろうかと思うのであります。農地及び農業用施設におきましては、その間にいろいろ複雑かつ深刻な問題のあろうことは私も想像しておるところでありますが、納付金を納めましても、なお相当期間効用回復が十分認められるというところまでにはそこに時期があるのであります。その間において鉱業権者に対する責任の一部を解除するというような措置が当然考えられなければならないのではないかと思うのであります。その他家屋及び墓地の復旧におきましても、裁定制度が取上げられておるのであります。鉱業法においても土地調整委員会がただいま設けられまして、いろいろな問題について調整をいたされておるのでありますが、この種の運営日本ではあまり例の少いことであつて、また始まりましてから経験の浅いことでありますので、この運営そのものについては私も多少批判的にこれを見ておるのでありますが、こういう制度をここに設けるという場合にあたりましても、アメリカ等におきましてはこういうことが割合になめらかに運行しておる例も聞くのでありますが、わが国においてはかえつてこれが紛糾を長引かせるおそれもあります。こういう問題につきましては、何か根本的な対策を講じておいて、法的にこれをある程度まで処置し得るというようなことを将来に期待したいのであります。元来石炭鉱害問題の根本的な対策は、これらの法律に期待するところもむろん大きいのでありますが、われわれ技術者といたしましては、坑内採炭において、その技術そのものの改善をはかりまして、あるいは坑内採炭法充填法等技術者が今後十分に努力を積まなければならぬのであります。近年ますますその結果は見るべきものがあつて、改善されて来たとは申しましても、あるいは昔の感じはもうない、非常に作業は機械化され合理化されたとは申しておるのでありますが、将来に対しては私はただいまほど深い憂いを持たないのでありますが、なおこれらの点に対しては技術的に十分の努力をいたしまして、地表に対する影響をできるだけ少くしたいということをこの際希望するのであります。  また地表におきましても、それらの土地の陥落に対するいろいろな測量その他がまだ十分行われておらないうらみがあるのであります。これらも事技術に関することでありますが、炭鉱の実際の仕事を預かるものとしての責任は軽くないと思うのであります。この意味におきまして、将来できるだけこの種の損害を軽微なるらしめるように考えなければならないのでありますが、法案趣旨としては、私が今申しましたようなことをおくみとりいただきまして、十分御審議の上できるだけすみやかにこれが実際の復旧作業の上に効果あるように御配慮を仰ぎたいと希望するのであります。  大分時間を経過いたしたことと思いますが、ただ一般的に私の感じましたことを申し上げ、希望的の意見を申し添えて御参考に供する次第であります。
  6. 中村純一

  7. 國崎眞推

    國崎公述人 ただいま御紹介いただきました日本石炭鉱業連合会常任理事國崎眞推であります。私は鉱業権者立場から主として中小炭鉱立場より本法案につきまして意見を申し上げたいと思います。  鉱害の発生は、石炭採掘に必然的に随伴する問題とは申しながらよつて来たる影響はきわめて甚大でありまして、鉱害地現状は一日も放置することは許されませず、その関係当事者の一方でありまする被害者各位に対しましては心からなる御同情をいたしますとともに、被害地復旧の一日もすみやかならんことをひたすら念願するものであります。今回臨時石炭鉱害復旧法案国土有効利用並びに保全と、石炭鉱業の健全な発達に資するために、鉱害を計画的に復旧する目的のもとに国会に上程をみましたことは、さき制定されました特別鉱害復旧臨時措置法、さらには昭和二十五年五月の衆議院本会議における鉱害に関する決議、また同年十二月の本委員会における鉱害賠償に関する決議等をも合せまして立法府たる国会並びに政府の御熱意と御努力とに深甚なる謝意を表する次、第であります。しかるに国会における右両決議趣旨は、総合的国土計画一環として抜本的措置を講ずるため政府国庫負担において鉱害地原状回復を行うということになつておりますが、しかるにかかわらず今回の法案におきましては、その国庫負担の精神がいささか稀薄となり、本法案規定のいかんによりましては、鉱業権者に過重な負担を課する結果となることがはなはだ懸念されるのであります。  申すまでもなくわが国経済現状と将来を思いますとき、経済自立の確立が最も急務であり、そのためには各産業の母体である石炭の豊富低廉なる供給が必要でありまして、ここに石炭鉱業健全化が強く要請される次第であります。現在鉱業権者鉱業法に基き年々、相当の鉱害賠償を行つておりまするが、このときにおいて現行以上の負担を増大されることは、炭鉱経営上きわめて困難であり、石炭鉱業健全化に逆行するものと申さなければなりません。以下法案に対し納付金等を中心といたしまして法案の順序に従い意見を申し述べます。  その第一点は、復旧事業団経費全額国庫負担とされたいことであります。法案第二十八條に、事業団の諸経費に充てるため鉱業権者に対し初年度において出炭トン当り五円以内、次年度以降は前年度において施工した復旧工事のうち当該鉱業権者にかかる復旧費の七外以内の金額を賦課することになつておりますが、鉱業権者事業団に対し賠償限度納付金として納付するものでありまするから、これにさらに加えて事業団の諸経費鉱業権者負担せしめることは妥当ではなく、かつまた事業団は国策上の施策実施機関として設立される公的性格を有する法人でありまするがゆえに、その性格にかんがみましても、事業団経費は当然国庫において全額負担すべきものと思います。  第二に納付金の額は、現在鉱業法に基き賠償を実施しておる限度を越えないようにされたいことであります。法案第五十一條には鉱業権者の納付すべき納付金の額として、不毛田については、基準賃貸価格に、「二千を下らず五千をこえない範囲内において、都道府県別に政令で定める倍数を乘じて得た金額」と規定されておりますが、納付金鉱業法原則に基き賠償を実施しておる限度、すなわち土地の価格を中心に勘考すべきであつて、その対価についてもいたずらに理論に拘泥することなく、実施に鉱業法に基き現在行つている賠償額等を基準として倍数を定めるべきであると思います。  昭和二十五、六年において打切り補償あるいは鉱害農地の買収で実際に支払つた金額ま反当り九州においておおむね三万円ないし五万円、山口においておおむね二万円ないし三万円となつております。理論的な対価の額もこれを上まわることは、妥当ではなく、従つて納付金も右金額の限度において定むべきであると思います。しかるに本法案による倍数二千ないし五千で納付金を概算いたしますると、右の実際に支払つた額の約二倍余にも相当し、かつあまりにもその幅が広過ぎ、これをこのまま政令のゆだねることは鉱業権者に対し現在に倍加する負担を課する結果を招来せしめる点において、きわめて不安を有するものであり、かつまた鉱業法鉱害賠償原則を越えて、鉱業権者に過大な犠牲をしいることとなるおそれがあります。かくては一般鉱害に関する本院の決議並びに本法案目的にうたわれている石炭鉱業の健全なる発達に相反し、国の基礎産業たる石炭鉱業特に中小炭鉱経営を破綻に導くものであります。従つて納付金については、現在鉱業法に基き行われている現実の賠償限度を越えない範囲において倍数を定めますために、その最高限度を三千を越えない範囲と定められることが最も適当と思料いたします。  第三は、鉱業法上の賠償責任は、鉱業権者事業団納付金を納付したときに免除されたいことであります。本法案よれば、鉱害賠償責任消滅は、第七十五條において工事完了し、検査の結果により三年を経過し、その間効用回復不十分による補償等が事業団から支払われて、初めて消滅することになつておりまするが、政府施策として事業団が設立されたものであり、これがため事業団は特殊な機能法人とされております点に照しましても、鉱業権者としては、賠償にかえて納付金事業団に納付したとき賠償責任は完全に免除され、その後は機能法人たる事業団鉱業権者にかわつて賠償の責に任ずべきが当然であると思料いたします。現在においては打切り補償、あるいは鉱害農地の買収において、現実に金を払つたときに鉱業法上の賠償責任は免除されておるのでありますから、本法案においても、賠償限度額たる納付金事業団に納付したときにおいて鉱業権者賠償責任は免除されることが理論的にも妥当であると考えます。  なおこれに関連いたしまして、農地復旧にかえてポンプ等の施設を新設した場合においても、鉱業権者にこの維持管理を強制することは、前に述べました理由により妥当ではなく、これは機能法人たる事業団が当然維持管理を行うべきであると思います。  第四は、公共施設復旧に対しましては、一般災害並の国庫補助金を交付して、これを償還せしめないことにされたいことであります。一般鉱害国家的な見地から復旧せんとする本法案趣旨にのつとりまして、公共施設復旧については、少くとも一般災害並の国庫補助を行い、これを償還させないことが適当と考えます。  以上おもな点を申し述べましたが、どうかこの趣旨をおくみとりの上、国会の御審議にあたり原案の修正を希望する次第であります。  以上をもつて終ります。
  8. 中村純一

    中村委員長 次は杉本勝次君。
  9. 杉本勝次

    ○杉本公述人 私は、福岡県知事杉本であります。福岡県内には三百四十余の炭鉱があり、年間の出炭量は、戦時中二千四、五百万トンでありましたのが、現在では約千六、七百万トンに低下しておりますが、それでもなおわが国出炭量の約四〇%を占めております。この石炭採掘によつて国家国民の受ける利益の大きいのに対比して、炭鉱地区住民のこうむるところの惨害はまことに甚大なるものがあります。この鉱害が民主の安定を脅かし、公共の福祉を阻害し、深刻な社会問題となつておりますことは各位すでに御承知の通りでありまして、福岡県といたしましては、大正八年以来今日まで実に三十有余年の間これが救済対策について官民一体となつ努力いたしておりますが、この長年の要望がようやく実を結び、さきに戦時中の現行採炭による特別鉱害に対しましては、特別鉱害復旧臨時措置法制定せられまして、目下着々と復旧工事が進捗いたしております。今回一般鉱害復旧を目途として臨時石炭鉱害復旧法案が今国会に提案されましたことは、まずもつて深くお礼を申し上げたいと存ずるところであります。  この法案国会に提案される運びとなりましたことについては、私は次のように承知いたしております。すなわち昭和二十五年第七国会において特別鉱害復旧臨時措置法案を審議決定される際の附帶決議として、一般鉱害復旧についても特別鉱害と一体不可分の関係があるものとして特別の関心を有するとともに、鉱害対策は総合的な国土計画一環たる性質を有するものと認めるをもつて政府はすみやかにこれが対策を樹立せられたき旨の決議がなされており、さらにまた昭和二十五年十二月第九臨時国会におきまして、新しい鉱業法案の審議にあたり、この法案鉱害賠償は原案の通り金銭賠償制度を認めるが、鉱害地原状回復に対する被害者の熱望にこたえるとともに、食糧その他重要物資の生産を確保するためにも、原形を回復するか、少くともその効用回復せしむることが必要であり、この費用を鉱業権者負担せしむることは鉱業を壊滅に導くこととなり、またこの種経費を多少なりとも被害者に課することは、適正賠償観点からも断じて許されないところである。結局国庫負担において遂行するほかないので、政府はすみやかにこれを実現するために適当な法律を立案すべきであるという趣旨決議がなされております。本年三月までに政府においてはこの復旧対策要綱に基くところの周到なる検討が続けられまして、案を改めること実に六回と聞き及んでおります。去る三月二十八日の閣議におきましてこの法案を決定せられ、本国会に提案されたのでありますが、その間私ども国会において決議せられた趣旨にかんがみ面して、常に政府と折衝を続けて参りまましが、われわれのこの切実な要望の一部がこの法案にはなおいれられていないということをまことに遺憾に存ずるのであります。鉱害がいかに深刻であり、また悲惨なものであるか、しかも広範囲にわたつてつて、これが復旧は焦眉の急であるということは、具体的なことにわたつてはここでは申し上げませんが、委員各位におかれましては、これまで現地御視察をいただいたこともありますので、十分御認識を持つておいでのことと存じております。従つてこの法案は、本国会においてぜひとも審議御決定をしていただくことを念願しておりますが、この法案が原案のまま国会を通過成立したならば、かねて各位が国会決議せられた事項に欠けるところがあり、われわれといたしましてはこの法律の実施にあたつて非常なる困難が伴うのではないかということを憂慮する点がありますので、本法案審議を担当せられます各位におかれましては、以下私が申し上げる修正希望の点について十分御検討くださるようにお願いする次第であります。  その第一は、法案第九十一條に関するものであります。これは農地並びに農業用施設復旧費の一部を都道府県に負担せしむるの規定であります。そもそも鉱業権の設定また施業案の認可、許可等一切の監督権は国にあつて、都道府県には何らの権限もありません。農地鉱害による米麦の減収は、福岡県だけでも年間実に四億四、五千万円に達しておりまして、県としてはむしろ被害者の立場にあります。また財政的に見ても、現在本県が負担しておる鉱害対策のため支出いたしております経費は、年間四千九百八十余万円であるにもかかわらず、これら鉱業による鉱区税の收入はわずかに年間二千二百九十余万円にすぎないのであります。従来農地及び農業用施設災害復旧費に対しましては、都道府県はその復旧費の一割を負担するとなつておりましたのが、地方公共団体の財政事情にかんがみ、昭和二十六年度からはこれに関する法律はすでに廃止せられておる等の事例もありまして、現下の県の財政としてはとうていこれを負担する余力はないのであります。ことにこの法案では農地復旧は、原状回復ではなくして効用回復という最低限の線でありまして、復旧の結果は必ずしも被害前の生産量に復帰するものとは考えられないのであります。鉱業権者負担した復旧費をもつてなおかつ不足する分については、これは国が負担すべきであり、都道府県にその一一部を負担せしむるがごときは何らの根拠もなく、また負担する財源もないのであります。この点は地方財政委員会においても、今私の述ぶるところとまつたく同一意見であります。  第二は、九十二條の規定に関するものであります。道路、河川その他の公共施設復旧につきましては、一応国庫補助金は交付するが、その交付した補助金は工事完了後に当該鉱業権者から償還させる仕組みになつております。すなわち鉱業権者全額負担において原状回復をやれということであります。従来鉱害による公共施設復旧費に対しましては、現在実施されておる特別鉱害にいたしましても、その前のプール資金制度のときの復旧のやり方におきましても、相当高率の国庫補助金を出しておつた事例があります。にもかかわらず、この一般鉱害復旧に限つて国庫補助金をまつたく出さないということは、かつて国会における附帯決議を無視した立法であり、鉱業権者の過重の負担なつて、せつかく法律はできても復旧工事の実施が不可能となるのではないかと思つておりますので、この種公共施設復旧に対しましては、国が相当額の補助金を交付して復旧を促進するように修正願いたいのであります。これは先ほど鉱業権者からの公述と同一意見であります。  第三は、六十六條に関するものであります。鉱業権者が不明、または賠償義務者負担金を納付することが困難である場合の農地及び農業用施設並びに公共施設復旧費は、国と地方公共団体とが負担して復旧することとなつておりますが、農業用施設並びに公共施設は、その管理区分によつてそれぞれ地方公共団体維持管理をいたしております。その維持管理者たる地方公共団体は、これはまつたく被害者であります。被害者が復旧費の多少なりとも負担をするということは、理論的にも成り立たないし、また現下の地方公共団体の財政事情から見ましても、その負担は不可能であると思うのであります。石炭鉱業国家性から見ても、このような特殊な鉱害はもちろん全額国庫負担において復旧すべきものであると確信するのであります。  第四番目は七十九條八十條に関するものであります。家屋等のいわゆる非公共事業復旧工事に関しましては、定められた條件に該当するものに限りその物件を復旧することについて通商産業局長の許可を受けて、加害者と被害者が協定して復旧するということが原則なつておりまして、もし両者の協議がまとまらなかつたときは、通商産業局長の裁定によつて鉱業権者負担において復旧することとなつておるのであります。家屋等の復旧は現行の特別鉱害復旧臨時措置法によつて見ましても、復旧費の一部を受益者負担として、被害者から徴収されつつある事例もあるのではありますけれども、被害者は自己の家屋が鉱害のために戸障子のあけせきがはなはだしく困難となり、あるいは雨漏りがするとか、あるいは宅地が陷落しておるために、雨の降るときにはただちに床上まで浸水するなど、長い間有形無形の損失、迷惑をいたしておりますが、これらの点については何らの賠償を受けることもなく、ただ黙々として復旧の実現を念願しております。それであるのに復旧費の一部を単に耐用年数の更新といつたような理由によつて、被害者から受益者負担金を徴収するがごときは了解に苦しむところで、このことが今日の法案においても規定されておることはまことに遺憾に存じます。この事実を十分御察知願い致して御修正を願いたいのであります。これら家屋等の復旧については、いま少しく強力な措置規定するようにお願いいたしたいのであります。  第五に、これは九十四條でありますが、復旧事業団事務経費の一部を地方公共団体及び復旧工事施工者に負担せしめる規定がありますが、この復旧事業団の設置につきましては、私どもは相当異論があつたのでありますが、その都度政府は、この経費は絶対に地方公共団体などには負担せしめないと主張せられるとともに、復旧事業団は通商産業大臣が厳正に監督するといつておられたのにもかかわらず、国会へ提案されたこの法案によると、事務経費の一部を地方公共団体負担せしめることとなつております。このようなことになるのであれば、私どもはむしろこれまで折衝しておりましたように、特別鉱害復旧にならつて政府の特別会計扱いとしていただきたいのであります。  第六に、これは第二條に帰りますが、この法案による復旧対象となる「公共施設」の定義におきまして、「学校」というのがありますが、これを「学校及びその他の公共建物」ということに御修正を願いたいのであります。通常公共建物として取扱われておるものには、学校のほかに市町村役場、公会堂、警察署等公衆と密接な関係がある、いわゆる公共建物が実在いたしておりまして、しかも現にこれらが鉱害を受けておるのであります。  以上が本法案に対しまして修正方を要望する主要な点でありますが、さらに附則によりますと、この法律は、昭和二十七年七月一日より施行するということになつておるにもかかわらず、今年度の国の予算を見ると、これに伴う何らの予算措置か講ぜられていないように思うのであります。この法律制定に必要な予算は、これまでのような一般公共事業費の予算中に包含せしめることなく、別個に区分した予算としてすみやかに計上せられるように政府に御要求願いたいのであります。  最後に私はこの点につきまして、強く主張するものでありますが、この法案対象なつておる鉱害だけでも、現存するものは、福岡県だけで大体二百一億、総体において二百五十億程度に達するものと私ども思うのであります。被害者はまことに困つておるのであります。ことにその最大の被害者は農民であります。国の現状といたしましても、国内の石炭は今後ますます増産の必要に迫られておりますので、今後における鉱害は累増こそすれ、減少するものとは考えられません。従つて現存の鉱害の処理にのみ目を奪われて、不断に進行して行く鉱害の発生を忘却してはならないと思うのであります。すなわち石炭採掘鉱害の防止とを合理的に解決しなければならぬと思うのであります。この問題についてはもつぱら石炭鉱業の施業を監督する主務省はもちろん、他の関係機関と密接な連絡のもとに、明確な措置を講ずる必要があることを私は確信しておるものであります。  以上をもちまして私の公述を終りますが、実在するこの悲惨なる鉱害を十分御認識いただきまして、社会問題化しておる現地の不安の除去のため、また新しい公共福祉のため、また国民経済復興の名において一般鉱害の早急な解決のために、きわめて重要なるこの法案に対し、以上私の申し述べました修正意見を十分御検討願いまして、本法律案のすみやかなる成立を福岡県被害民百三十万の熱望をもつて私は強く要望いたす次第であります。
  10. 中村純一

    中村委員長 次は行實重十郎君。
  11. 行實重十郎

    行實公述人 私は福岡鉱業関係市町村連盟を世話しております直方市長の行實でございます。臨時石炭鉱害復旧法案審議にあたりまして、私ども被害市町村民の意見を聞いていただくことは私の最も光栄と存ずるところでありまして、通産委員先生方に対し心から敬意を表するものであります。  本法案提出に至りますまでには、諸先生方の御理解により特別鉱害復旧法案第七回国会の附帶條件として、石炭採掘による鉱害のため美田は変じて泥海と化し、住宅は日夜倒壊の危険に脅かされ、交通通信は杜絶、祖先の墳墓は水底に没するこの惨状は、路傍の人もなお正視するに忍びないものがあると、あの同情ある御要請となり、特別鉱害と不可分の関係にある一般鉱害につき、政府はその重大性と今日の事態を招来した原因に深くかんがみ、既存の鉱害復旧を促進するために抜本塞源的の処置につき、万遺憾なきを期すべしとの決議がなされたのであります。この決議に対しまして政府におきましても同感の旨を政府委員であられました宮幡次官は言明をされておるのであります。さらにまた第九国会における新鉱業法通過の際にも、政府に対し要望されましたが、その趣旨は、鉱業法審議にあたり鉱害賠償金銭賠償原則とする政府案をそのまま承認したが、しかしながら被害者の原状回復を主張する熱意にこたえるとともに、食糧その他の重要物資の生産確保のために、原状に、少くともその効用回復せしめなければならない。よつて政府国庫負担において鉱害地原状回復を断行すべく、すみやかに必要なる法律を立案すべきであるとの強い意見の結果、政府におかれましても石炭鉱害地復旧対策審議会の発足となり、今日の提案となつたものと信じますが、本法案につきつぶさに検討させていただきますれば、前述の、衆議院において決議されました諸先生方の同情ある御趣旨が受入れられておるのであろうかと疑わざるを得ないものがあります。私は鉱業法審議の場合もあくまで原状回復を主張し続けたのであります。と申しますのは、憲法にも、さらにまた民法にも個人の権利は保障されております。従つて不法行為に対する自己の権利を主張することは当然と思うからであります。しかるに鉱業法では私どもの権利は限定されて、当然主張せらるべき原状回復もきわめて消極的に金銭賠償にゆがめられておるのであります。  元来石炭採掘の結果は、絶対に地上物件に陥落を来し、被害を及ぼすものであります。そのように被害を受けるにもかかわらず、自己においてこれを制止することもできなければ、監督することもできず、採掘することも、監督することも一に政府の命ずるままであります。その半面被害におきましては国は傍観主義で、加害者、被害者双方にまかしておる結果は、今日のごとく数百億の被害の累積となり、また社会問題化したゆえんであると思うのであります。  以上の事実により国会としての要望となり、決議なつたものでありますので、鉱業法の不備を補足するのがこの法案の使命でなければならぬと思うのであります。しかるにこの法案は、十年間に二百三十億余の累積した鉱害を一掃する目的であるにもかかわらず、農地及び公共事業のみは計画的に復旧せらるるに反し、鉱害の重要なる比率を占める墓地、家屋の復旧に至りましては放任内であつて、はたして十年間に鉱害復旧する目的と合致するのでありましようか。たとえて申し上げますれば、農地復旧と墓地、家屋の復旧は車の両輪のようなものでありますのに、片一方の農地だけは計画的に復旧して、墓地、家屋は放任せられるに至りましては、片一方の車で物を運ぶにひとしいのであります。農耕地の復旧はやや計画的になつておりますが、工事終了後の打切り制度は、原状回復でなく効用回復である以上、賠償責任消滅すべきものでないと考えます。  さらに本法案にて最も遺憾にたえないのは、非公共すなわち墓地、家屋の復旧方法であります。わずかに協議及び裁定というきわめて消極的な申訳の條項を並べたにすぎないのでありますが、農地復旧はもとより大切なことで、ぜひ促進していただかねばなりませんが、実際今日社会問題化しているのは、むしろ農地とともに衣食住のうちで最も必要なる住宅被害の問題であります。本法案で墓地、家屋に対する処置としては、農地及び公共の計画的復旧に伴い必要の場合と、いま一つは家屋の効用が著しく阻害された場合に限り協議及び裁定の申請ができることになつておりますが、この二つの條件を具備しない中間的存在の墓地、家屋には、何らの要請の道がないのであります。よつてこの法案は墓地、家屋の場合においてはむしろ退歩しておるのであります。退歩をしておると申すことは、鉱業は一種の営利的な事業でありますので、なるべく鉱業の責任を免れることに口実を求めているので、言いかえれは一部の業者のごときは、利益を打算しての被害復旧であります。前述の二つの條件以外の過程にある被害家屋に対しては、必ずや口実を設けて回避することは、過去の事実を顧みまして大よそ察せられるのであります。いよいよ崩壊に瀕し、効用を阻害するまでは、いかなる理由によるも申請ができないということはあまりにも片手落ちではありますまいか。何のために私たちは、軒は傾き、すき間漏る夜風にさらされ、井戸の水は枯渇して、子供を背負うてもらい水までして、長きは数十年、短かきも教年間日日の生活苦に耐えかね、不便を忍び、不安に迫られて過さねばならぬのでありましようか。石炭採掘は基本産業であるといいながら、個人の権利を無視し、一部の国民を犠牲にして助長せらるることが何としても納得できかねるのであります。石炭は国の所有であるといわれて政府において採掘を許可、奨励し、そのために生ずる被害に対しては国は拱手傍観的であつて鉱業関係地のわれわれだけが泣くに泣かれないでその日その日を過しておりますが、かように許可や奨励をしておる国には責任はないものでございましようか。いな、断然国において責任を負うてもらわねばならぬと思うのであります。  さらにまた不可能なことは、前述のように何十年も柱は傾き、壁ははげ、忍苦に耐えているその間、何らの損害賠償を受くることもなく今日に及んでおる反面に、家屋復旧の場合には、鉱業法にもこの法案にも、しんしやくして被害者より復旧費の一部を耐用年数等を勘案して受益者負担として支出せしめる規則がありますが、数十年間他人の物件に損傷を與えながら、復旧に際しては受益程度により一部負担を徴収せられることはとうてい応ぜられないことであります。  また第三章その他において、地方公共団体に一部負担を負わされておりますが、地方公共団材は被害者の一人でありまして、加害者である鉱業家には物心両面において援助なされておるにもかかわらず、被害者の一人である地方公共団体負担せしめることは不合理にもまたはなはだしいのであります。ともあれ今日の地方公共団体には経済的にも負担の能力がありません。  要するにこの法案は、第一、被害者の国民平等の権利を無視し、一方的にわれわれに犠牲を強要せれらていること。第二に、国会の要望に反し、国庫負担による復旧を回避し、事業団体に責任を移し、その結果は被害者に負担せしめんとしていること。第三は、本法案目的は十年間に累積した鉱害を一掃するものであるが、農地及び公共事業のみ計画復旧をなし、全鉱害の半分を背負うておる墓地、家屋に対しては何ら積極性に乏しく、農地同様の計画性がないこと。第四は、本法案には重要な経費に対し政令または省令に讓られておることというようなことが主眼となつております。もとより私どもはこの法案により宿命的の問題を除去していだたき、喜んで鉱業発展に協力したい意味において、ぜひとも法案の通過成立を念願しておりますが、さりとて以上のように、失礼ながら本法案においては私どもとしては了承できがたい点が多分にありますので、墓地、家屋その他の諸点につき、以下申し述べます通り修正を強くお願いいたします。  一、墓地、家屋に対しては公共事業同様基本計画による事業団責任をもつて復旧をせられたい。  一、協議裁定の場合に限定せず、特別鉱害同様に取扱われたし。  一、墓地、家屋復旧は少くとも一施業案ごとに復旧工事施工せられたし。  一、家屋被害に対しては復旧に至るまでの被害年数に応じ、田面同様に賠償の支払いをせられたし。  一、地方公共団体負担は免除せられたし。  一、農地復旧工事完了して成功認定があつたときは、鉱業法第百九條の規定による鉱業権者責任消滅規定は削除せられたし。  終りに臨みまして一言申し述べさせていただきますが、この法案にいかに被害者一同が関心を持つて見守つているかという一事であります。本日現に福岡県においては、県知事を初め県会議員、市町村長、市町村会議員、被害者組合の諸君はすでに五、六十名の者が本法案の成行きを心配して参つておりますが、さらに追い追い数百名の者が上京して参ることが予想いたされます。これは関係百三十万の被害者が、ひとしくこの法案の成行きについて、自分たちが救われることと信じているので非常に期待を持つておりますために、この住民の気持を見て座視するに忍びず、はせ参じているのであります。もつていかに社会問題化しているかはお察しが願えると思うのでありますが、法案の唯一の目的である民心の安定の上からしても、ぜひ先生方の正しい御判断によりまして、一日も早く法案の成立をお願いいたす次第であります。以上をもちまして公述を終ります。
  12. 中村純一

    中村委員長 ただいままでに公述されました公述人に対し質疑の通告がありますので、この際これを許します。淵上房太郎君。
  13. 淵上房太郎

    ○淵上委員 いろいろ御覧を拝聴いたしまして、まことにありがたく存じました。この際簡潔に一、二お伺いしたいと思います。  日本石炭協会の福永会長に一点お伺いしたいのであります。賠償義務者より徴収する納付金の算定基準になる賃貸価格倍数——五十一條の問題でありますが、本法案におきましては二千ないし五千になつておりますが、これに対して三千以下にしてくれという御意見の御開陳があつたのであります。その御意見の根拠、言葉をかえて申しますならば、石炭協会におかれましては賃貸価格基準を大体どれくらいに見ておられるかという点を、この機会にさらに御説明願いたいと思います。
  14. 福永年久

    福永公述人 根拠は、かねて炭住の問題で、炭住敷地についてこれまでに行われました事例を根拠といたしております。  それからただいまお話の賃貸価格と言われます点は、大体二十円見当をいたしている次第であります。
  15. 淵上房太郎

    ○淵上委員 日本石炭連合会の國崎常任理事に一点お伺いいたしたいと思います。ただいまの五十一條賃貸価格倍数の問題についてでありますが、國崎常任理事におかれましては、先ほど九州におきましては大体三万ないし五万円というような例をあげておられるのでありますが、賃貸価格を大体どれくらいにごらんになつておりますか、御説明願います。
  16. 國崎眞推

    國崎公述人 賃貸価格は大体二十円と考えております。三万ないし五万、宇部では二万なして三万と申し上げましたのは、これは今鉱業権者が打切り補償なりを行つている実際の概算額でありまして、それを例として申し上げたわけでございます。
  17. 淵上房太郎

    ○淵上委員 青山工学部長に一点お伺いたしたいのおりますが……。
  18. 中村純一

    中村委員長 青山公述人はお帰りになりました。
  19. 淵上房太郎

    ○淵上委員 それでは福岡県知事に一点お伺いしたいのです。先ほど御公述の中で、福岡県においては四億四、五千万円の減収であるという実例を御紹介になりましたが、その減収の内容をお示し願いたい。並びに先ほどちよつと私、聞き漏らしたのでありますが、県の歳出が四千九百八十万円であり、鉱区税等の歳入が二千二百九十余万円という御発言があつたようですが、この点をもう一ぺんはつきりと御説明を願いたいと思います。
  20. 杉本勝次

    ○杉本公述人 福岡県においての農地の被害面積は大体一万二、三千町歩であります。そのうちいわゆる不毛田、収穫皆無のもの、すなわち一〇〇%あるいは十割の、全然できないもの、あるいは八割程度できないもの、あるいは七割とか六割とか、中にはごくわずかな被害の分もありますけれども、そういうものをすべて総括して、減収になつている分を貨幣に換算して四億何千万円という額に上つております。これは年々鉱害地に対する減収補償として、石炭鉱業権者から農民に対して支払われている額であります。それから鉱区税が二千同百万円、これは御承知のごとくに鉱業に関しては事業税というものがありませんので、県として鉱業権者から収入するものは鉱区税だけであります。もつとも鉱産税として、関係市町村が受取る税は相当額に上つております。おそらく三百億程度にはなつておるかと思いますけれども、これは福岡県の財政には何ら收入されるものではありません。他方四千何百万円というものは、二十六年度の県の予算において、鉱害関係のために県が支出する額であります。
  21. 中村純一

  22. 今澄勇

    今澄委員 私は今の公述で確かに今日の疲弊せる地方公共団体に年々これらの鉱害復旧負担をかけるということは、現実の問題として、その復旧を不可能ならしめるおそれが多分にあると思います。そこで福岡県知事公述に私は非常に賛意を表するものであるが、この法案がこのまま通つたとするならば、大体一箇年間に福岡県並びに市町村の負担する額は、概略の見積りでよろしゆうございますが、どの程度のものになるか、もし資料があれば説明を聞かせていただければ仕合せであります。
  23. 杉本勝次

    ○杉本公述人 福岡県においての一般鉱害に属するものが大体二百一億とわれわれは計算いたしておりますけれども政府において復旧可能として見られておるものはその半分、大体百億程度のように伺います。これをかりに十年間で復旧するとして年々十億、その十億のうち地方公共団体負担すべきもの、これは明確ではありませんけれども、この法案が通り、この法案のよつてその後、政令あるいは省令ができ出た場合に、この一部の負担というものがどの程度かによるわけでありますけども、県の負担は大体二億程度ではないかというふうにわれわれは一応考えております。その二億の負担は、とうてい県として不可能であるという見解であります。
  24. 今澄勇

    今澄委員 それから行賞直方市長のるると説明されたことに対しても、私はまことにお説ごもつともであると思う。そこでこの法案の最も大きな欠点は、墓地、家屋に関する救済について、御指摘のように、具体的な案を伴つておらぬということが根本的な欠陷であると思うが、あなたの方で、墓地、家屋についてはかくのごとき方策によつてやられるならば、一応満足ができるという最低の案でももしあるならば、ここであわせて御説明を願えれば、非常に仕合せだと思います。
  25. 行實重十郎

    行實公述人 今澄先生からの御質問、まことにありがたく思うものであります。大体私どもの考えは、根本的にこの鉱害というものは国が責任を負うものである、かように考えているのであります。従つてこの墓地、家屋にいたしましても、田面同様に、一応国家責任においてやつてもらうことを念願いたしておりますが、事業団ができまして、そうして今の計画では、ただいま申し上げましたように、両者の間で話し合えというようなきわめて消極的なものでありますので、国家責任を持つてもらうというその肩がわりを、事業団責任を持つてもらいまして、そうして国でできるだけは負担してもらいましようし、また事業家に出費していただくものは出費していただく。とにかく私ども事業団に要請をいたしました場合は、十分に事業団でこれを検討して、適当であるものとなつたならば、事業団復旧してもろうて、その金を加害者並びに国家負担していただく、こういうふうにお願いできることを希望いたしております。
  26. 田代文久

    ○田代委員 青山さんは帰られたのですか。
  27. 中村純一

    中村委員長 帰られました。
  28. 田代文久

    ○田代委員 これは委員長にお伺いしたいのですが、青山さんは科学者でありまして、科学者の立場から——われわれが考えましても、この前通過いたしました特別鉱害復旧臨時措置法にしましても、鉱業法にしましても、また今度出ましたこの法律にしましても、これでは何ら復旧に対する根本的な対策なつておらない。私は当面の財政的措置あるいはその他から、可能いかんはともかくといたしまして、科学者の立場から、この石炭鉱業が続く限り、必然的に起るところのこういう問題に対しまして、大体どういう対策を講じ、措置を講ずれば解決するかという御意見を伺いたいと切に思つておつたのですが、少くとも公述人として出て参られた以上は、われわれの一応の質問に答えて帰つていただきたい。どういう考えでお帰りになつたか、また委員長はこれをお許しになつたか、まず委員長のお考えを聞かせていただきたいし、従つて午後におきましても、私はやはり一応われわれから意見を聞いた上でしていただきたいと思います。
  29. 中村純一

    中村委員長 委員長から申し上げます。青山さんはよんどころない所用のためにお帰りになつたのでありますが、ただいま御発言の御趣旨は、委員長から青山さんに連絡いたしまして、適当なる方法でまた御意見を承ることにいたしたいと思います。
  30. 田代文久

    ○田代委員 やむを得ませんから、青山さんは避けまして、福永さんにたつた一つだけお伺いします。これは杉本福岡県知事からも、行実直方市長からも、切実な御意見が出まして、はつきりしておりますし、またわれわれもすでにそれは痛切に感じておるのでありますが、鉱業権者としましては、石炭産業発展という立場から、当然この問題を処理し、また考慮されておるはずと思うのであります。従つてたとえば、地元の住民の方々の協力なくしては、とても石炭産業発展ということは考えられない。そのときにおきまする一番大事な問題は、農地の問題、あるいは公共建物の問題もそうでありますけれども、直接的には先ほど行実市長の申されたように、家屋の問題や墓地の問題、あるいは井戸水、こういう問題が、住民としましては身に追つた問題として感ぜられるのであります。従つて石炭の坑口を開く、あるいは石炭を目標通りに出炭するというような場合に、地元の方々の協力がなくしては、とても十分やれないと思います。従つてそういうことになりますと、石炭産業発展させるために、石炭を掘るにつきましては、地元住民の方々に家屋、墓地あるいは井戸水に対して迷惑をかけるというような場合には、十分私たち責任を持つてやりますという申入れなり、あるいは協力方を願うなり、また実質的な問題として、それに対して責任を持つということがなければ、石炭産業発展という面から申しましても、この問題は片づかないと思う。ところが、この法案におきましては、その問題が非常に軽視されておる。また福永さん、國崎さんなども、この問題については、あまり触れようとしておられないようでありますけれども、実際問題として、こういう問題を解決しなければ、ほんとうの石炭産業発展というものは考えられないということをお考えになつておるかどうか。また今後これに対してどういう考慮を払わんとしておられるか。この法案に対して、行實市長が申されたような形で十分取上げてもらいたいというような御希望があるかどうかという点をお聞かせ願いたいと思います。
  31. 福永年久

    福永公述人 ただいまの御質問にお答えいたします。お説の通り、石炭鉱業は、ただ単に石炭鉱業発展にのみ盡す——もちろん石炭鉱業はそれぞれの私でども企業家の発展を期すべき仕事ございますけれども、私ども石炭鉱業が単に鉱業家自身のためのみということではなくて、石炭日本産業のかてであるという建前のもとに、国のためにならないような仕事はしないつもりでございます。同時にまた、石炭鉱業そのものが健全な発展をいたす、つまり健全な経営でなかつたならば、国の産業のかてを得ることが非常歯難になるということを痛切に感じております。同時にただいまのお説のように、地元の皆様方がその地方における石炭鉱業に御協力をいただかなければ、真の発展、真の健全な企業ができかねるということも考えております。従来も、この点につきましては、特に今御指摘のありました田地、公共物件以外のものにつきましても、私どもといたしましては、その観点から十分地元の方々と協議をして、法規に定められておりますところの限度においては、賠償と申しますか、やつて来ておるのでございまして、あるいは御指摘のように中には手違いと申しますか、何かで落ちておることがあるかも存じませんけれども、私ども全般的に申しまするならば、さような態度をもつて臨んでおる次第でございます。決して御協力なくて石炭鉱業がやれるものというふうには考えておりませんことを申し上げて、お答えをいたしたいと思います。
  32. 今澄勇

    今澄委員 今の田代委員の質問に関連してでありますが、私は先般の特別鉱害復旧法案審議のときの経過から見て、この炭鉱鉱害の問題は、これはやはり今の公述人の皆さんの意見を聞いてみると、なかなか所論もつて重大であると私は思います。  そこで日本石炭協会長にちよつとお伺いしておきたいのは、ともかくも国がこれらの鉱害賠償の責に任ずるということはもとより当然で、私ども国家賠償の方向に大きくこの法案をぜひ直したいものである、かように考えておるけれども、遺憾ながら今日の日本の所得分野において最も大きな所得を持つておるものは炭鉱業者である。私はこの片方には、所得の分野においてその最も大きな所得を誇る炭鉱業者と、この片方には、墓地、建物等に見るがごとく、非常に困難な現状のもとにあえいでおる国民大衆の姿を考えてみるときに、私は確かに配炭公団あるいは国家的な石炭の売上げ高に対する賦課というような、一つの大きな石炭統制の公共事業的な面を、石炭の上にある程度現わした行政の上に国家補償するという形態ならば一番文句はないけれども、配炭公団を廃止して今日のように自由になつたこの石炭事業界の中においては、もとより国家の重要産業であるけれども、その売上げの所得は、これは石炭業者に帰属しておるというこの現実を見るときは、私は石炭鉱業としても一応これらの現況から考えてみるときに、この鉱害に対しては、みずから期すべき何ものかがなけらばならぬと思うが、この際二言参考までに協会長の、これらの問題に関して自分たちはこのようにしてこれだけはひとつ協力ができるのだという最低線でも御発表できれば、ぜひ発表しておいていただきたいと思います。
  33. 福永年久

    福永参考人 今の御質問にちようどマツチしたお答えになるかどうかわかりませんが、今の御質問のお言葉の中に石炭鉱業がたいへんなもうけをしておるように受取れたのであります。もつとも最近の事情におきましては、なるほど新聞等に発表されておりますように、石炭鉱業は非常に利潤を持つておるのではないかというふうに一般に見られておると思います。戦後と申しますか、戦前から通じて初めてのいわゆる石炭ブームと申しますか、そういう好況期にぶつかつております。しかしながら石炭鉱業そのものを根本的に掘り下げて考えてみますときに、長い間の一つの企業体を考えますと、決して今日のような、あるいは今日もうすでに低調に向つておりますけれども、先ごろまでのような石炭鉱業の好況が続くものとは考えておりません。従来の経過から見ましても、低い線しかたどつていないような次第でありまして、他産業の好況にマツチして行きます上において、いつも遅れて浮び上り、早く沈むというような石炭鉱業の特殊的な事態でございます。他の産業に見ますような弾力性と申しますか、そうしたことのできない鉱業であります。たとえば他の産業の機械業であるとか紡績業であるとかあるいはその他の電気工業であるとかいつたようなものならば、ある投資をいたしますればその投資が生かされて、たとえばスイツチを入れればとまつておつたモーターが動き出すとか、またスイツチを切れば動いておつたモーターがとまるとか、一つの弾力ができる。しかもそのスイツチをはずしてとまつた一つのモーターは、そのまま置いておいても腐るものではなくて、次の時代にスイツチを入れればまた動き出して活動ができるものでありますが、石炭鉱業に同じような資金を投入してもなかなかそれが活動するまでには相当の日にちがいります。ようやくその投資が活動し始めましても、何かそこに事がありまして、これをとめようとしましてもなかなかとまりかねるのであります。一旦そのスイツチを切つてとめましたときには、その次にまたスイツチを入れて再活動をしようとしても、またまた大きな再投資というものがそこになければ石炭鉱業は操業のできかねるものでございます。その間に非常なマイナスを起すものであります。この弾力性に乏しいところの石炭鉱業であるという点が、またこの企業の大きな特殊性でもございます。他産業に比べてそういう不利なと申しますか、不幸な操業をしております。しかも一旦投資したものをやめますと、今言つたような不利を生じますし、何か活動しなければならないというのでスイツチを入れなければならないときには大きな投資が必要であるといつたようなことで、なかなかお説のようにはそういう大きな利潤を石炭のみが上げておるとは言えない面がございます。しかも御承知のように今日の状態に立ち至りますまでに、戦時中からまた戦後にかけまして大きな統制ということがございました。低物価政策の国家的犠牲と申しますか、非常に大きく炭価を押えられまして、常に大きな赤字を出し、大きな借金を背負い、そうしてようやく今日まであえいで来ているような次第でございます。目先の小さい今の炭層だけをとつてみますと、おつしやいましたような状況になつておりますけれども、今後数年の間あるいは十数年石炭鉱業は続くでありましようが、その続きます間には、これには及びますまいけれども、かりにこういう部分が出るとしましても、常にこういう状態が続くとは考えられません。非常な高低があるのでございます。一般世間と申しますか、世の中では最近の事情においてのみ石炭鉱業に対する利潤というものをお考えになつておられる向きがあるようにも察せられますけれども、さようなことはひとつ十分御認識をいただきたいと存じます。
  34. 青野武一

    ○青野委員 鉱害対策組合連合会公述がございませんから、できれば晝からと思つておりましたが、いろいろ炭鉱経営者側の石炭協会の会長及び常任理事の方の御意見を聞きまして、一点だけお尋ねしておきたいと思います。私の郷里は福岡でありますが、大体炭鉱に非常に密接な関係を持つておりますので、どちらかと申しますと、炭鉱のことはしろうとよりも詳しい。今知事さんからいろいろ御要求になりましたが、これは直方市長並びに福岡県知事公述は、私は全面的に賛成であり、非常に感激を覚えて聞いたのであります。先ほど今澄君が質問をいたしましたが、今炭鉱が非常に景気がいい、利潤が非常に莫大に上つているということでなしに、日本石炭産業が始まつて御承知のように各所にピラミツド型のボタ山がありますが、あのボ夕山には尊い労働者の災害というか、不幸にして落盤に当つて死んだ人もあります。そういう歴史を振り返つて見ると、今まで大体日本炭鉱業者というものは、農村や、一般の諸君に家屋の倒壊、道路の決壊、あるいは川でありますならば堤防を非常に痛め、そのために遠賀川あたりは大水が出たときには切れなくてもよいところが切れておる。とにかく損害を與えたものは、いかなる場合においても、立法の精神から言つてみても、それだけに相当する賠償をするのが当然である。何も「もく星号」の惨事例をとる必要はありませんが、相当もうけておるし、また相当国家の恩恵を受けておる炭鉱産業というものは——新入炭鉱の付近に行きましても、何千町歩といつたものが三日も雨が降ると水びたしになる。年に一ぺんのお盆に墓参りに行つても、臨時に橋をかけて、橋の上から墓を拝まなければならぬというような惨状は、すでにこの前視察に行つた諸君は知つております。それが常に何らかの権力を背景にして、十分の補償が今日までなされておらない。われわれが若いときにそうう問題をひつさげて行くと、こん棒でおつかけまわされて、寄りつけない。そういう危険がいまだに残つておる。今度の法案を見ましても、大体炭鉱業者に最も有利にできておる。そうして被害者に迷惑をかげながら、県費その他の形によつて、被害者も税金の形でこれを負担して行かなければならぬ、そんなべらぼうな話はありません。そういうことを業者としては得たりかしこし、自分たちに有利であるからこれは持つてこいだというような考え方を持たれては、私どもは被害者に対して非常に気の毒だと思う。御承知のように福岡県は、この法律案によりますと、ほとんど九割、いや八割六分程度というふうに関係の深いところであつて、これがこのまま通りますと、福岡県知事が言うように、一年間に二億くらい県費でまかなわなければならぬ、負担しなければならぬ。そういうことは永続性がございません。とにかく石炭産業によつて農村が田地、田畑あるいは灌漑用水、排水の便が悪くなる、家がこわれたり、あるいは貯水池に亀裂を生じて、役に立たなかつたといつたようなときには、いかなる場合でもそれを弁償して行く。そうしてどうしてもやれないときには、その一部分を重要産業としての石炭産業発展のために、ある程度国家補償しなければならぬ場合も出て来るでしよう。けれども平時においては、もうけるところは幾らでももうける。そうしてできるだけ政府から補助をもらう。そういう行き方が日本石炭産業の今までのあり方です。私どもは築豊炭田全体に非常に密接な関係を持つておりますから、どんな言い訳をせられても、事実が証明しておる。その点について、今度のこの法律案の中を流れております大体一貫した精神は、金銭賠償をもつて貫いて、原状回復はどうでもよいというような行き方である。これは経営者に最も有利にできております。そんなことでは被害者は納得が行きません。復旧不適地のような問題でもだれがきめるのか。それをきめてしまえば、結局そのまま権利が消滅してしまうというようなこと、そういう場合は、あくまでも被害者と話をして、納得の上で適地なら適地をきめて行くという一つの機関が必要である。私が午前中に国崎さんと福永さんのお二人に一点だけお尋ねしておきたいことは、原則論になるかもわかりませんが、被害を受けた人に対しては、できるだけ実額の賠償を独力でして行くという考えを持つておられるかどうか。その考え方のあるかないかで、私どもはこの法律案に対して多少意見を持つている。直方市長、福岡県知事公述を聞いて、ぜひこの点だけは明らかにしておいてもらいたいと思いますので、この一点だけ午前中に承つておきたい。
  35. 福永年久

    福永公述人 ただいまの御質問にお答えいたします。業者としましては、被害をこうむられた方に対してできるだけその被害を少くするということの精神は、一つも持ち合せないことはございません。十分持ち分せております。そこで法の定むるところの限度におきましては十分被害者の方々と話合いの上でやつておるつもりでございます。これ以上もうお答えすることはないと思いますが、いかがでございましようか
  36. 青野武一

    ○青野委員 先ほどからいろいろお話がありましたが、昭和二十五年の五月に、御承知のように特別鉱害臨時措置法で、東條軍閥の当時権力による強制採炭が行われまして、その跡始末が十分にできていないのは、私ども個人の推定ですが、当時五箇年計画で五十億、北海道は一トンについて十円、九州は一トンについて二十円の業者負担、あとは国家が出す、そういうことで決定いたしましたが、これも厳密に検討いたしますると、相当産業の有力者が言つていることを参考にいたしましても、当時の石炭業者は、この金額の中の国民一般の鉱害賠償しなければならぬものに多少私は便乘したように思う。その点については私も各所をまわつてみましたが、そういう点から考えまして、国家が中心になつて、戦争による強行採炭による被害の賠償はその当時の特別鉱害臨時措置法で一応目鼻がつきました。そのときにここに来ておりました通産委員の小金義照氏が、一般鉱害も車の両輪のごとくやはり立法化をしなければ役に立たないのだ、十町の田でも、五町は国家負担によつて特別鉱害で一応片づいても、あとをやりつぱなしでは何にもならないのだということの決議をやりましたときに、先ほどから質問しておりまする田代君と私が野党代表で賛成演説をやつたと記憶しております。それが今日まで延び延びになつたことはわれわれにもやはり責任はある。こういつたような、業者に利益するような、被害者に非常に不利で、そうしてまごまごすると県は一年間に二億円からの負担をする。それだけの負担をするから平衡交付金を増額せよといつても、なかなか今の政府はそれをおいそれとは聞きません。そうすると、炭鉱業者が当然被害を與えてそれを補償もなければならぬものが、あつちこつちに飛び火して、かえつてそういうような負担が地方の方にまわつて行くということが、この法案によつて相当出て来るのではないかと、いろいろ研究しておるのです。こういう点についてこれは希望になりますが、やはり業者も業者という立場を離れて、人に迷惑をかけた場合には、民法の精神からいつても、迷惑をかけただけのものは補償すべきではないか。もうけるだけもうけて、問題が起ると国家が全部補償してくれというような、負えば抱かれる主義では、日本石炭産業の独立性というものは将来ありません。この点を特に私は希望しておきまして、残つておられる各公述人の方が公述されましたあとで、まだ四、五点質問の用意をしておりますので、その節お尋ねしたいと思います。
  37. 中村純一

    中村委員長 他に御質疑がなければ、午前中の会議はこの程度にいたし、午後一時半より再開いたします。  暫時休憩いたします。     午後零時三十一分休憩      ————◇—————     午後一時五十一分開議
  38. 多武良哲三

    ○多武良委員長代理 休憩前に引続き会議を開きます。  委員長が所用のため理事の私が委員長の職務を行います。次に田中一郎君より御意見の御開陳を願います。
  39. 田中二郎

    ○田中公述人 数年前に九州の鉱害地帯の観察に参りまして、その鉱害の予想外に大きいのに驚いたのであります。そこで何とか国家的な見地から対策を考えなければならないということを痛感いたしまして、その際私の感じ見ましたところを基礎にして、しろうとながら私の意見を立てまして、昨年の二月の石炭評論という雑誌に鉱害賠償制度に関する一考察という拙文を公にいたしました。その趣旨鉱害賠償の問題を鉱業権者と被害者との個人的な関係として解決するのでは、絶対に根本的な解決は期し得られない。この国家的な重要産業としての石炭鉱業発達を考慮しながら、他面においてその鉱害を根本的に解決して行くためには、国なり公共団体なりすべての関係者がこれに協力して、その被害を根本的に除去する対策を考えて行かなければならないのではないか。鉱害を少くして行くという点については、なお根本的に科学的な研究をしなければなりませんし、また一旦生じた鉱害対策としても、国家的な高い見地からその解決方法を考えて行くべきだということを説くことが主眼であつたのであります。その趣旨は、この前に特別鉱害臨時措置法がこの席で論議されます際にも、公述人といたしまして、その趣旨をさらに一般鉱害に及ぼして制度化すべきだということを強調いたしましたが、今回臨時石炭鉱害復旧法という形で鉱害問題解決の一般的な法的根拠が整えられることになりましたことは、その根本の趣旨において私の賛成したいと思うところであります。ただしかし、そこで私の考えておりました線と、実際に出て参りました案との間には、若干の食い違いがあることを申し上げなければならないのであります。  私の考えましたところでは、鉱業権者立場からいたしましても、現在の鉱害賠償問題のようにいつまでもずるずるに未解決のままに延ばされているという状態においては、企業の飛躍的な発展を期待する上に非常に障害になる。その問題を鉱業者の立場からしても解決しなければならない。また被害者の立場から見ましても、長年の美田が現在陷没して湖沼になつてしまつている、あるいは家屋は倒壊に瀕し、墓地が水中に没しておるという状態は、おそらく見るに忍びないことだろうと思うのであります。しかしその問題を鉱業権者と被害者との間の個々的な解決にゆだねるということでは、問題はとうてい解決することにならない。それには何としても国が農地の造成あるいは公共施設復旧という大目的を考え、また一方石炭鉱業発展というものも注意して、この事業に積極的に乘り出すことが必要なのではないか、こう考えたわけであります。そこで鉱業権者としても負担し得べき最大限を出す、おそらくその点については鉱業者の側においても異存のないところであろうと思います。また農業者の側においても、あるいは被害者全般の立場においても、自分の農地復旧という点に、むしろ労力の提供という面において積極的に協力する、その他あらゆる面において、ただ拱手してその損害の賠償を求めたり、あるいは被害地復旧を求めたりする態度に出ない、積極的にその復旧に盡力をする、そういう面を期待しなければならないわけでありますが、政府の側におきましても、農林省が農地の造成についていろいろの方策を考えられている、また建設省が公共事業の面でいろいろとその維持管理に当つておられる。そういう面をこの鉱業地については一本に統合し、大蔵省なら大蔵省でこの面において事業の重要性を認めて、大幅にその助成を考えて行くという立場で、一本化された形でその復旧に臨まれることによつて、初めて鉱害地をして元の美田たらしめ、あるいは元のりつぱな宅地、墓地たらしめることができる、こう考えるのであります。そういう意味からいたしますと、今度の法案に現われましたところは、趣旨としてはそういう方向に向いながら、まだ決して十分でないものがあるのではないか、こう考えるのであります。  まず第一に、大蔵省の方で考えられる線に関連して参りますが補助金を出すことができるということになつておりますが、予算の範囲内でということで、どれだけの程度のものが出るかということの予定が立たない場合においては、結局年間の事業計画をはつきりと立てて、その計画に基いて推進して行くことが事実不可能になるのではないか、あるいは事業が長引いて、結局においてその復旧費のみかさむということになるおそれがあるのではないか。従つて現在農地の改革、土地改良の事業あるいは公共事業というものに、一定の割合をもつて国が負担をする建前をとつておりますその線に沿つて、この鉱害地復旧の問題につきましても、あるいは農地の改革についてはその経費の五割を負担する、あるいは公共施設復旧についてはその経費の七割を負担するというように、一定の割合を法律上に明記して、それを政府負担するという行き方をするのでなければ、せつかく投ぜられた補助金なりあるいは業者から出した納付金も、いたずらに復旧事業団の経常費に使われてしまつて、その事業の本来の目的を達成することができない危險性をはらんでいるのではないかと感じます。また先ほど来伺つておりますと、地方公共団体の側の負担が非常に大きくなるということを申されております。確かにこの法案が通過いたしますときは、県としてもまた市町村としても、現在よりも大きな負担をされなければならないことにはなるだろうと思います。しかし福岡県という立場に立つて見、また鉱害地の市町村の立場に立つてみますと、現在の鉱害をそのままに放置するということはとうてい忍びない。その県としてあるいは市町村として、最も関心を持つてしかるべき施策ではないか。そのために大きな財政の中で二億円の負担がかかるとしても、それはむしろ県民全体が甘んじて受ける負担ではないか。また市町村の立場といたしましても、いろいろ多難なときではありましようが、この目的のためにできるだけの出費を惜しまれない。そしてこの事業の完成に向つて、国も市町村も府県も、すべてが一体になつて協力をするという態勢を整えることが適当なのではないかと考えます。鉱業権者としては、現在出しておりますいろいろの鉱害賠償負担として非常に多額に上つているではありましようが、これももしこの納付金その他を出すことによつて一応問題から解放されるということになりますならば、その事業全体の計画の上において、その占める負担の割合からいつて、とうてい耐えられない負担とは言えないのではないか。先ほど来申します農地の場合に五割、あるいは公共事業の場合に七割というものを国が負担し、そのあとは鉱業権者なり地方公共団体負担によつてその事業が遂行できるということになりますならば、鉱害地復旧の問題も将来に明るい見通しをつけることができるのではないか。ただ双方対立して相争うところに無用の経費を積み重ね、鉱害地復旧ではなくして、結局無用の経費を多額に使うという結果になることを考えますと、すべてのものがこの事業の遂行に一致協力されるということになることが、問題解決の基礎的な前提條件ではないかと考えるのであります。それに関連いたしまして、鉱業権者の中にも御承知の通り大手筋と中小鉱業権者とありまして、鉱害地復旧の問題あるいは鉱害賠償の問題で一番問題を残しておりますのは中小鉱業権者で、この中小鉱業から生ずる鉱害についての補償が十分に行われていないというところが、大鉱業者の負担により多くを転嫁せしめなければならない結果になつております。しかし鉱業権の監督の立場からいたしますと、この鉱害賠償さえ応分の負担ができないものについては、最終の手段として、鉱業権の取消しの措置を講じてでもそれを合理的に運営できるように考慮しなければならないのではないか。こういう点については直接この法案自体の問題ではありませんが、これとの関連において、鉱業法立場から、監督官庁としての通産省に十分にお考えをいただきたいと思うのであります。  もう一つこれに関連いたしまして、今度鉱害復旧事業団ができまして、そこで復旧事業をやることになりますが、私はその将来の運営に必ずしも楽観を許さないものがあると思うのであります。その一つの面は、今申しました政府が補助金を予算の範囲内において出すということでありますが、その額が一定しないというところから事業の計画が十分に立てられない、あるいは一応立てても予算の面の制約を受けて、十分に計画通りに遂行できないことになるおそれが多分にあるのではないか。そして事業が繰延ベ延べになります間、その復旧事業団の日常の経費に非常にたくさんとられて、本来復旧そのもののためにあるべきものが、事業団のために使い去られてしまうことになるおそれがあるのではないか。その運営の上においては、予算面に制約がありますだけに非常にむずかしい問題をはらんでいると思います。もしそういうようにこの復旧事業団経費が非常にかさむということになりますと、鉱業権者立場からいたしますれば、みずからの手によつて復旧事業をやる方がより有利であるという考え方になるおそれもあります。そういうふうになりました際は、この石炭鉱害復旧法の考えている線がくずれて参りまして、その目的を遂行することが非常に困難になるのではないかと考えます。この復旧事業団というものができました場合に、その日常の経費をできるだけ節約して、そして最も能率的に、また計画的にその事業の遂行ができるように予算面における措置、その運営面における考慮、人的な組織の面における配慮、これらが総合してうまく運用されるようにならない限りは、この法案の将来は必ずしも楽観を許さないものがあるのではないかと考えるのであります。  非常に差迫りましてお呼び出しを受けました関係から、まだ法案の個々の條文につきまして十分検討し、それに対する批判を申し上げる準備をいたしておりませんので、はなはだ恐縮ではありますが、ごく一般的の問題について、私の考えるところだけを申し上げた次第であります。
  40. 多武良哲三

    ○多武良委員長代理 ただいま公述されました田中一郎君は、所用のため退席されますので、この際もし御質疑があればこれを許します。
  41. 田代文久

    ○田代委員 昔の学友の田中君に質問してはなはだ恐縮ですが、別に攻撃する意味でありませんから御了承願いたい。ただいまの田中教授公述で、先ほどの青山教授の話より非常に話が進歩的で進んでいる点につきましては、はなはだ満足を感じた次第でありますが、なおわれわれ政治家としては、また科学者としての田中教授としましては、大体こういう鉱業被害に対する解決策として、今まで政府がとつて来た鉱業法にしましてもその他一連の法律でははなはだ不十分で非常に欠陥が多いので、これではほんとうの解決にならないという点は衆目の一致するところでありますが、科学者としてこういう問題で多数の被害者に迷惑をかけているという問題に対する解決策、これが鉱業権者と被害者という個々人の立場からの解決ではこれは解決ができないという公述をされましたことは非常に進歩的だと思いますけれども、なおやはり科学者的な観点からの根本的な解決策といいますか、あるいは恒久策と申しますか、そういう点から申しますると、なおはなはだ不満でございますけれども、とにかく予算とか何とかいう面を離れて、とにかくこの問題を国家的な立場から根本的に解決するためにはどういうふうな方策を持つべきである、また政治家としてはそういう方向へ法律をつくるように努力すべきであるというような御見解をまずお伺いしたいと思います。
  42. 田中二郎

    ○田中公述人 お答えいたします。実は私この方面の専門でもありませんし、実情の調査も二十四年の暮れに一度新人炭鉱その他あの近辺の炭鉱鉱害を見まして、その当時ここにお見えになつております栗田さん、その他関係者の方々ともいろいろ話合う機会がありまして、私自身のその当時考えておりましたことを申し上げ、またその後にそれについての結論を公にしたわけであります。この鉱害地を見まして非常に感じましたことは、鉱業権者立場と被害者の立場とがまつたく対立して、鉱業権者の側では大きな会社はまず相当の負担をされている、しかし小さなところでは負担をする力もないし、また負担をしようとする心構えもないのではないか。あとはなるようになるというような行き方をされているのではないかというふうに見受けました。それに対して被害者の立場としては、その元の田畑を持つているということ、そのことによつて年々賠償を受けて、その賠償によつて生活をされる、あるいは拝見しておりますと、拱手傍観されているという感じも受けないではなかつたのであります。そしてまた鉱業者の側に立つ官庁——そう言つては語弊があるかもしれませんが、また被害者側に立つ官庁が相互にそれぞれの立場によつて意見を出して、これを全国家的な立場から根本的に解決しようとする努力に欠ける点があるのではないか、こういう感じを持ちました。そうして結論としてこういう問題を解決して行くについては、通産省、農林省、建設省、大蔵省、中央官庁のすべてがこの問題の重要性を考え、また被害者の救済という立場を十分に考慮して、国家的な見地から対策を立てなくてはいけないのではないか、しかしそれだけでなしに、その問題については地方公共団体としても地方における重要な問題の一つでもあり、十分に積極的に協力をする。国が負担をすればいい、地方団体は負担を免れたいという態度では、この問題は解決しない。農業者も農業者で、私の考えましたところでは、復旧事業団体というようなものをつくつて、そして団体がその農業者の労力を利用して復旧事業をやるというようなことを考えていたわけですが、その意味で、できるだけ安い労力を提供して、自分たちの土地回復するという積極的な熱意を持つた努力をして行くのでなくては、とうてい営利的な事業としてこれが成り立つわけのものではない。そういう一致協力した態勢をとることによつて問題解決の曙光を見出し得るのではないか、ところが、現在の法案において現われましたところは、またここで公聴会その他で聞かれますこれに対する意見は、政府でもできるだけこの負担を免れたい、農林省は農林省の立場からの仕事には協力する。この仕事は通産省の関係でやればいい、あるいは建設省は公共事業費の面では今までもやつていたものをこの中には一緒にしたくない。別に公共事業としてやろう。通産省だけがこういう線で出して行くといつたようなことでは、国のこの面に対する協力というものが非常に弱力にならざるを得ないのではないか。自治体はできるだけこれの負担は避ける。これは国の立場でやつてほしい、また農業者はこれに何ら積極的に協力するという態勢はとられないで、ただできるだけ賠償を多くしろ、あるいは原状回復主義を貫いて行こうという考え方を披瀝し、鉱業権者もできるだけその負担を軽くしようという態度で、相互に対立した形でこの法案ができましても、ほんとうにうまく運営されて、本来の理想に近い結果をあげることができるかという点については、非常に悲観的な観測をせざるを得ない、こう感ずるわけであります。問題の解決の第一歩は、結局この法案ができるのを機会に、すべてのものがいかにして合理的にこの問題の解決をはかつて行こうかという積極的な意欲、協力態勢をつくり上げるということにあるのではないか。そういうことによつて初めてほんとうの意味でのこの問題の解決ができ、またそういうバツクによつて復旧事業団運営も合理的にまた能率的であることが期待できるのではないか、そういう感じを持つております。非常に精神的な善い方のようでありますが、結局現在のところではまだ中央における各省相互の間にも意見の統一を見ていないし、それが実際上には予算の面に現われて大きな制約になり、また農林省、建設省、それぞれが別の角度からの考え方をとるというようなことになつて、この問題がはたして円滑に進められるであろうかということを非常に危惧する次第であります。お答えになるかどうかわかりませんが、以上申し上げます。
  43. 田代文久

    ○田代委員 私としましては、大体今教授がお話になりましたように、非常にこの法案自体も矛盾を持つておりまして、同じ鉱業権者でも大手筋と中小業者の間には負担金の問題にしても、あるいは資力の問題にしましても、いろいろ問題がありますし、それから鉱業権者と被害者、あるいは国家という面でいろいろそこに矛盾があつて、少しも解決しない。結局とばつちりというものは被害者にかかつて来るというのが現在の実情でありまして、結局石炭産業というような地下資源は、当然これは日本国土の中に祖先代々あつた資源でありますし、しかも産業の面から申しましても基幹の重要産業である。こういう産業自体というものを、私は国営という立場でこれを運営する、経営するということにいたしますと、結局国家が国営でやつて、そこから来る被害というものは当然国家が全部背負うということになりますと、鉱業権者と被害者の関係、中小業者と大手筋との関係が全部なくなりますし、大体その線がはつきり出ますならば、合理的に被害問題も解決するのではないかというふうに考えますが、学者という立場から私のこういうふうな根本対策というものに対する御意見はいかがでございますか。
  44. 田中二郎

    ○田中公述人 石炭鉱業の国営という問題につきましては、私個人の意見としては賛成いたしません。むしろ国営というものが全般的に能率が上らない。現在国営であるものについても民営に移すべきだという考え方に私自身としては進んで行きたいと思つております。石炭鉱業につきましても、その点については大体現在の民営を国営に直すことについては賛成をいたしません。その点は意見が違うわけでございます。
  45. 田代文久

    ○田代委員 この問題で議論をしても始まりませんし、議論はいたしませんが、私はこの問題の解決は、その線ができなければ、ほんとうのすつきりした解決にならないというふうに確信いたしております。  次にこれは公述人の方々の御意見でも、また私たちの感ずることでも、法案自体がそうなのですが、先ほどの家屋、墓地あるいは井戸水、こういう問題に対する救済策が非常に弱い。この法案が通りましても、そういう方面をどうして解決するか。つまり被害者としまして、家が傾き、先ほどのようにすき間風が漏れて、冬は寒くてしようがない。これをいくら炭鉱に訴えても。なかなか炭鉱はやつてくれない。そういう場合には、大体被害者は泣き寝入りになつておるのが実情であります。炭鉱政府にお百度を踏む迷惑だけでもたいへんです。そういう点で、これをどういうふうに救済するか、学者的な立場から、どうしたらいい線が出るかという点について御見解を承つておきたいと思います。
  46. 田中二郎

    ○田中公述人 私実際に見ましたのは、非常に狭い範囲で、鉱害地の全部を見たわけではありませんが、私の見ました範囲、特に大手筋の関係では、被害家屋の復旧とか、被害墓地の復旧などについては、相当積極的に力を注ぎ、その復旧が、あるいは賠償の形で、あるいは原状回復の形で進められておる点を現に見て参りました。問題の非常に多いのは、先ほど申し上げました中小炭鉱の場合ではないかと思うのであります。そういう点については、私は従来資源庁あたりの監督の面の不十分から、そういう問題ができなかつたのであつて、今後は、こういう復旧事業団のようなものができまして、公の形でその復旧事業をするということになりました場合には、それに対する納付金の納付もできないような、賠償義務者としての負担が負えないようなものについては、徹底して鉱業権の取消しの措置までとるということによつて、その点の負担の面をはつきりさせて行き、この賠償問題についても、合理的な措置ができるように、そして復旧事業団そのものとしても合理的な運営ができるようにして行くべきではないか、そういうふうに考えております。またそうしさえすれば、これまでの問題は、ある程度には解決できるのではないか、根本的には、なお問題があるかもしれませんが、相当の程度には解決できるのではないか、こう考えております。
  47. 田代文久

    ○田代委員 家屋の復旧の実情は、相当復旧しておるというような御見解ですが、実情をもう少しよく見ていただきたい。まだ非常に復旧していないのです。炭鉱側が見せるところは一部分であつて、こんなにりつぱになつておりますといつてモデルは見せてくれるかもしれませんが、被害者はまだ非常に泣いております。それから今後の被害の増加状況なんですが、先ほどの青山教授のお話では、大体この被害は、炭鉱業者側の注意によつて、だんだん減つて行くような傾向になりつつあるのだということでございましたけれども、実際は御承知のように、現在筑豊の大きな山では大体カツペ採炭というのが非常に進みつつありまして、カツペ式の採炭法によりますと、充填が非常に不十分で、当然田面なりあるいは地表に対しまする被害が、今までより以上にどんどん出るのではないかというふうに私たちは危惧いたしております。ですから、こういう法案で少しずつ復旧して行きましても、なおその被害がどんどん急カーブで増加するということになりますと、非常に大問題になるのでありますが、その被害の増加、また被害をいかにして食いとめるか、という点に対する見通し、あるいはそういうものに対してどういうふうにお考えになつておりますかを、もしおわかりになれば承りたいと思います。
  48. 田中二郎

    ○田中公述人 それは私の專門外でよくわかりません。
  49. 多武良哲三

    ○多武良委員長代理 ほかに質疑がございませんか。——別にないようでありますから、次に姫井伊介君。
  50. 姫井伊介

    ○姫井公述人 山口小野田市長の姫井伊介であります。この立法につきましては、感謝をいたし、賛意を表します。しかし、若干の修正希望があります。もつとも私は研究も日浅くして、鉱業法特別鉱害復旧臨時措置法との関係の検討が不十分であります。さらにまたこの法案に対する詳しい説明も聞いておりません。また関係政令の内容も不明でありますから、相当の疑問があります。その疑問を内に含みながら、希望の意見を申し述べたいと思いますから、あるいは的はずれの点があるかも存じませんが、御了承をお願いいたします。  第一は復旧費についてでありますが、第二條の三項に「主務大臣が特別の事情があると認める応急工事費」云云とある。しかし、事情によりますと、主務大臣の認めを持たないうちに応急工事をして行かなければならないもの、事後の承認を受けなければならない緊急なものがある。その場合を当然この法案では含めておられるかどうか。含めておられなければ、含めるようにしていただきたい。  第二番目は、公共施設内容が不明確であります。二條の六項の七、八、九、十号の中には公共造営物のほか、建築物、たとえば事務所とか管理所、宿直所といつたものまでも含まるのかどうか。含まつておればよろしいが、含まつていなければ、ここに大きな考慮を払つてもらわなければならない。同じく十一号に学校とのみあります。これは先ほど福岡県知事もお話しになつたと思いますが、地方公共団体維持管理するいろいろの役場とか、警察、消防、病院、公民館その他社会的の施設がたくさんありますが、これはどうしてもこの中に入れなければ、家屋等の方にそれが入れられますと、非常に差別的な措置が講ぜられることになるのであります。従つて第四章の家屋等に入れることは不適当であると考えるのであります。  第三番目は、事業団の地域であります。これは第五條で「政令で定める地域」とのみあります。どの範囲を政令で定める地域とするか、これがはつきりしなければ、政令もわかりませんから非常に疑問が生ずるのであります。もし利害関係の市町村全体のみが入るとするならば、またそれによつて事業団の構成、運営等について多くの問題が出て来るわけであります。さらに四十一條の解散の場合でありますが、この区域内の市町村の長の三分の二以上の請求があつたら解散するということでありますが、これまた重大なる関係を持ちますから、この地域というものは、はつきりしてもらわなければならないということであります。  第四番、事業団業務であります。三十一條の一項の六号に「地域内の家屋等の復旧工事に要する費用の貸付」とあります。同じく三十二條の二項に「貸付の相手方、限度」云々ということが書いてありますが、それのみで、この貸付はどういうふうに運用されるのか、他に條文を見出さない。これははなはだ不明瞭なことなのであります。この貸付金などにしましても、どうしてやるのかということがわかつていないのであります。  第五番は解散であります。解散の條項に破産というのがありますが、この事業団は機能法人としてあります、営利法人ではない。そうしたものに破産ということがあり得るかどうか。どういう場合に破産があるのか。もし破産があるとすれば、運営がよろしきを得ないというよりも、組織がよろしくないということに私は結論づけなければならない。さらに解散の問題につきまして、一体解散の後は復旧事業はどうするのか、ここに大きな疑問が出て来るのであります。  第六番は、効用減少の農地復旧についてでありますが、これは納付金を申す意味ではなくして——もちろん規定は五十一條にありますが、法の目的の上から考えまして、現在のような、農家が持つております耕作面積が非常に過小である、こうした農民の生活の保障の上から、先ほどもたびたびお話がありましたが、金銭賠償よりも原形復旧制度がとられなければならない。さらに、減収する原因は鉱害なんですが、一方国家立場から考えましても、農民個人の生活問題のみならず、今までできただけの農作物ができないという点、これは重大問題であります。この点はやはり原形復旧によつて効用減少の農地というものができないまでの方策を講じなければ、この法律目的に反する。さらに十分の三を下るものは云々ということがあります。納付金のことが書いてありますが、その十分の三に下らないもの、たとえば一割とか二割とかの効用減少があつた場合には、その鉱害はどういうふうに処理されるか。これは泣寝入りで行くべきか、国家が総合計画の上においての差引勘定に入れて補償するのか、この辺がわかりません。なお効用減少の賠償は、一時金支払いであつてはならない、それがために毎年減少が起るのですから。今までは毎年正常な収穫があつたのに、一たび鉱害によつて減収がありますと、それが毎年続くのですから、一年でもつて賠償するということになりますと、これまた農民の大きなる永久的な被害負担になるということなのであります。しかしただ考慮することは、こうした場合に、いわゆる惰農を生ぜしめてはならない。農民も一生懸命働くようにしなければ、効用減少したから、手を組んでおれば毎年々々くれるのだということではいけないので、ここはよほど考えなければいけない。結局結論は、原形復旧をやらなければならない。  七番は復旧不適地の処理でありますが、効用回復困難な原因もやはり鉱害なんです。これはさきに申しましたように、国全体の収穫がそれによつて減少することも大きな問題である。また農民から土地を失わせるということも問題であつて、これはすなわち生活の圧迫になつて来るわけなのであります。この復旧不適地に支払う金額は、農林省、通産省の省令で算定基準をきめるというが、これは不明確なんです。この大きな問題に対しまして、どういうふうな算定基準を行われるか、これから検討してかからなければならないということであります。これは七十八條でありますが、この七十八條におきましてもその二項で支払つた後の鉱害消滅するというようなことが書いてあります。これも大きな問題で、何のことかわからない。  第八番は、第三章と第四章との不調整、つまり差別的な処理があるということですこれは今までたびたび述べられたのでありますが、この被害は天災地変ではなく、鉱害にあるということは現実に明らかにわかつておるのです。なぜこの明らかになつているものを復旧の基本計画に入れないかということです。農地農業施設と同様にはつきりわかつておるのだから、何もめんどうくさい手続をしないでも基本的な総合計画に入れさえすればよい。しかるに鉱害により家屋等としての効用が著しく阻害しておる場合——著くしなくて軽微な被害でも被害なんですよ。それはやはり鉱害のもたらした被害なんです。それを自分でしろというようなことはあるべきではない。弱い立場にある被害者に、やれ協議にかけよとか、裁定をどうするとか、そんなめんどうな手続を一体とらせてよいのでしようか。そうしないでも当然これは見てやらなければならない現実の問題なんです。これを何か仲裁の折衷方法というか、説明があつたのでありますが、そんなことではないのです。まつたく鉱害の本質を誤つておられる。八十三條に「著しく多額の費用を要しないで復旧工事により原状の回復をすることができると認めるときは、復旧工事を施行」云々とありますが、これも被害者から言えば非常に虫のよい話です。金のよけいいらない簡単なものはさせるが、金のいるものは一体どうするか。ほとんどこれは言い訳的な規定なつている。なおまた土地の陷落または捨石の崩壊停止が認められる場合とありますが、そういうことは一体現実に認められるかどうか。これはもうとまつたのだぞといつても、ところがあにはからんや、脱水があり、排水があり、旧坑内に満ちているところの水を出せばどかどかと思いもよらざるところに被害が出て来る。突如としてひんぴんとして起るこれらのものにつきましても、やはりどうしても根本的な計画が立てられなければならない。さらに八十六條になりますと、これはまことに無情冷酷だと私は断ぜざるを得ない。この農民に負担金を申しつけて、それを払わなかつたならばこれはもう打切りだというのです。現在農民は税金さえよく納められない。滞納にあえいでいるところに金を出せ、金を出さなければお前の権利は打切つてしまうというのは、何とかもう少し親切な方法がありそうだと思うのであります。しかも法案内容を見ますと、個人所有の家屋の性質上国の補助金支出を期待することができない。もし直接国が個人に補助を出すことができないならば、それこそ事業団復旧資金というものを設けて、それに流し込めばよい。それによつて事業団がやればよい。直接の補助じやない、できる道はある。でありますから、家屋等につきましても、そういうふうな無理なことをしないで、民生安定のために公平適正な規定を設けていただきたいと思う。  九番目には、鉱害復旧賠償の徹底であります。六十六條の前段にも規定であるのでありますが、ところがやはり最後の責任がどこにあるかはつきりしない。賠償責任者が不明であるとか、資力がないとか、そういう場合の賠償の徹底はどうしてやるかということが明確にしていないように私には見えるのです。さらに鉱業権や租鉱権やあるいは採掘権、それらの消滅後の責任ということもはつきりしていない。賠償責任者に納付金をさせる。ところがその納付金は、相当炭鉱業者はもうけるから、それについて出すのは何でもないじやないかという考えもあります。ありますが、今一歩しりぞいて考えますと、その負担が来れば、いつしかそれが石炭の価格の上に転嫁される傾向になつて参ります。そうしますと炭価はまた自然高くなる。そうすると物価の基本対策の上において、常に現在見るような悪循環をやつて行かなければならぬ。炭価が高いから、電気料を高くする。電気料が高いから、ベースを上げてくれといつたような悪循環をもたらして来る。この点は国として十分考えなければならぬ。物価対策の面からもこの点を考える必要がある。だから何も対立的にけんかするのではなくて、国と賠償責任者はもつと適正な割合の負担区分にして、そうして賠償を徹底させなければならぬ。  第十番目は、地方公共団体負担であります。これもいろいろお話がありましたが、鉱害の原因であるところの石炭を掘りますことは、これは全国産業振興のためなんです。その被害は一地方のみではない。すなわち重要なる基礎産業である。それを地域的にその地域における被害者であるとか、炭鉱業者とかなんとかが責任を負わなければならぬということは非常におかしいのです。そういう観点からいたしまして、これはどうしても全国的な操作にしなければならぬということは当然なんです。そういう地方におきましては鉱産税で若干の收入はありますが、その若干の収入がありますところは大体労働行政に多くの金を使つております。私ども小野田では労働会館などをこしらえて、それに多くの金を使います。さらに多くの失業者、あの企業整備によりまして出ました失業群を、失業対策としてまかなつて行かなければなりませんところの負担はまことに莫大なものなんです。しかもこの復旧効用回復で、効用の増加ではないのです。価値が附加されるのじやない。にもかかわらず地方がそれを負担しなければならぬということは、理論が通らないと思うのです。どうしてもこれは全国的に転換して行かなければならぬ五十三條、九十四條の関係になつて参ります。さらに先ほども話がありました九十一條には、一応国が予算の範囲で補助ができると書いてあるが、非常に弱い。しかも家屋等のことについては何もない。家屋等のことは一切知らぬという。都道府県にいたしましても、国がやるのに対して、補助金を交付する。しかもこれには公共施設も家屋ということも何も書いていない。だから地方公共団体は、目に見える特別な受益のある場合のほかはとうてい負担にたえられない、理論上からいつて負担すべきものではないと考えるのであります。  第十一は、法律施行期間であります。提案理由の最後に、十年の臨時立法としたとあるのでありますが、それならば十年たつて法が廃止されたならば、あとはどうなるか。経過処理の規定は何もないのであります。だれが引受けてどうするか。しかも石炭の掘採は今後何年かかるか。一体十年で終ると考えられるのか。おそらくそんなことは考えられないでしよう。幾十年の長きにわたつて石炭を掘るとするならば、鉱害は続出するのであります。なお第三章第四章におきまして、いろいろ時間的措置があります。一箇月したらどうとか、一年したらどうとか、三年したらどうとかいうが、十箇年過ぎたらどうなるか。再検査請求権とか損害賠償の請求権というものはなくなつてしまうのか。相手がなくなつたらどうなるか。幽霊の立ち消えのようなことになつておる。さらに借入金や復旧事業債券等の始末は一体どうするのか。こういうことも何もない。たといある炭鉱石炭を掘ることをやめましても、鉱害は起るのであります。小野田は農地、宅地で、小さい市でありますから、大体千両町歩でありますが、そのうち三百町歩の鉱害地を持つておるのであります。四分の一強であります。小野田市は石炭については三百年の歴史を持つており、江戸時代からの採掘の跡がある。たぬき掘りなどをやつている。しかもこのごろは残柱掘りといつて、残つた柱をのけます。その上に脱水がある、排水があります。どんどん鉱害は続出して来ている。特別鉱害のものもまだ残つておる。町の底ははちの巣のようになつておる。これで国土の有効なる利用や、保全並びに民生の安定が一体できるか。この十箇年後の法の廃止によつてそういうふうな大きな目的は中断されてしまうのではないか。十年したらこの法はなくなるぞ、十年したらおれは死んでしまうぞといつて、あとの遺言は何もない。それからどうするということは何もない。そのときは何とかするということで、一体民生の安定はできるか。従いまして法律の時期的な限定は私は不合理きわまるものだと思う。どこまでも原形復旧制度によりまして、この法は恒久化して行くべきものである。今度の機会にこれができませんでも、少くとも将来その含みのもとに立法をやつていただきたい。  最後にこれに関連して考えることは、鉱業法との調整であり、さらにまた鉱害復旧保険制度、このことも考えられるのではありますまいか。以上。
  51. 多武良哲三

    ○多武良委員長代理 次は和田満恵君。
  52. 和田滿恵

    ○和田公述人 私は山口鉱害対策組合連合会書記長和田滿惠でございます。一被害農家といたしまして被害者の立場から本法案に対しまして私見を述べ、お願いをいたしたいと思います。  結論を先に申し上げますが、本法案に対しまして私は賛成の意を表するものであります。しかしながら以下の諸点について、簡単に修正意見を申し述べて御検討を煩わしたいと思います。  第一点といたしましては、鉱害の全部にわたつて復旧をしていただきたいというお願いであります。国が一個の法律制定せられるにあたりまして、その対象によつて差別的な取扱いをなさることは好ましい状態とは考えられません。ことに私ども被害者といたしましては、いかなる物件にしろ鉱害がありましたならば、その復旧要求を持つということは当然過ぎるほど当然であるからであります。  第二点として申し上げたいことは、先ほども公述人がるる主張なさいました原形復旧をしていただきたいということであります。このことの理由は、簡単に申し上げますが、損害賠償の理念からして当然のことであると思います。ことに基礎法ともいうべき鉱業法金銭賠償主義をとつておられることは、われわれ鉱害の被害者の犠牲において成り立つていると申し上げても過言でないと私は信ずるものであります。かるがゆえに、この鉱業法をぜひとも原形復旧主義に改めていただきたいと念願するものでありますが、それができなければ、せめてその間だけでも、本法案をもつてその欠階を補つてもらいたいというのが私の主張であります。この点は先ほどの青山先生の御意見とちよつと矛盾しているようでございますが、根本は同じであると私は思います。  第三点といたしましては、家屋、建物等の復旧に関して申し上げたいと思います。このことも各公述人の方々が非常に詳しく申し上げましたし、昭和二十五年五月二日の、先ほど直方の市長さんがおつしやいました衆議院における鉱害に関する御決議にも、住宅は日夜倒壊に瀕する脅威に脅かされ、路傍の人も見るに忍びないと諸先生方が御断定を與えてくださつておりますので、何も言うことはございません。ただ、ただいまはやつている歌の文句ではありませんが、諸先生方もほんとうの被害者の身になつてこのことを考えていただきますならば、私はその間の事情がよくわかると思います。多く語らず、皆様の御胸中にすがりまして、ぜひとも家屋の復旧の徹底化を要望してやまないものであります。  第四点は、打切り賠償の件でございます。このことは過去におきまして、いろいろ被害農民や被害者の貧困に乘じまして、わずかな額で打切りをせられて泣寝入りをしている実例が多々あるわけでございますから、かようなことがないように、ぜひとも打切り賠償には愼重を期せられたいと要望いたします。  第五点といたしましては、復旧不適地の賠償基準に関するお願いでございます。本件につきましては、法案第五十一條の算定が一応見込まれるわけでございますが、たとえば実例をあげて申し上げますならば、復旧不適地にきまりました耕作者がその土地以外に土地を持たない場合、あるいは持つておりましてもその土地が僅少の場合、換言いたしますとその復旧不適地が本人の生活を維持している場合、もし不適地に該当した場合には本人はその生活の根拠を失うということになります。もう一つ言いかえますならば、父祖伝来の愛着の地を失つて、あまつさえ失業するという悲惨な事態を惹起するわけでございます。かかる場合、当然その本人の生活保障も算定基準の中に包含せらるべきであることは、当然過ぎるほど当然と私は思います。どうぞ諸先生方にはその間の場合もよく考慮していただきまして、復旧不適地の賠償の妥当適正化をはかられたい。  第六点といたしましては、復旧後の賠償算定についての御考慮を煩わしたいことでございます。すなわち第七十三條第二項に、「その効用回復されていないと認めるときは、遅滞なく、農林省令、通商産業省令」云々とございます。不幸にしてよく研究もしておりませんし、その内容を具体的に存じませんので、あるいは妥当を欠くことがあるかとも思いますが、私は復旧後の賠償基準にはぜひ実収量を基準としていただきたいということを主張するのでございます。このことは惰農が得をしたり、精農が損をしたりすることがないように、いわゆる正直者がばかを見ないように賠償の公正を期していただきたいと思うのでございます。  第七点といたしましては、本法案の恒久化か、しからざれば鉱業法金銭賠償主義原状回復主義に改正せらるべきか、どちらかでなければならないということでございます。もしそれこれを怠るとするならば、とりもなおさず先ほどもちよつと触れたと思いますが、われわれ鉱害被害者の犠牲の恒久化以外の何ものでもないということであります。いまさら駄弁を弄するまでもなく、本法案の恒久化は必ず実現していただきたいと切望してやまない次第でございます。いわんや石炭事業の存する限り、鉱害の発生が無限に続くということは常識であります。現実の問題であります。  以上をもちまして私の修正意見の大体を終つたのであります。相前後したり、論理もちくはぐで重複した点もあるかと思いますが、お許しを願います。ただ思うままを簡単率直に申し述べたつもりでございますが、最後に一言申し上げたいことは、時まさに独立新日本の再生の門出にあたりまして、さきに諸先生方の御心配によりまして特別鉱害がただいま着々と進捗しておりますこのとき、これと相まつて一般鉱害復旧を見ることができますならい、われわれ被害者は何たるありがたい、うれしいことでございましようか、想像をしてみても感謝感激にたえない次第でございます。こいねがわくば、なるべく本法案の完璧を期せられまして、法案所期の目的達成の一日もすみやかならんことを懇願いたしまして、私の公述を終らせていただきます。
  53. 多武良哲三

    ○多武良委員長代理 栗田数雄君。
  54. 栗田數雄

    ○栗田公述人 私は福岡県の鉱業被害者代表の栗田數雄であります。さきに特別鉱害臨時措置法並びに鉱業法の改正にあたりまして、それぞれ本衆議院において公述をいたし、さらに本日ここにあらためて公述人として御選定くださいましたことをまことにありがたく、お礼を申し上げます。  石炭採掘の増強に伴いまして、鉱山業が発達して参りますその陰に、刻刻と増して参りまする陷落と鉱業被害、これがまた累積したるものとあわせまして、深刻な状態に苦しんでおります私どもの窮状、これは一昨年五月二日特別鉱害復旧法案成立にあたりまして衆議院の本会議の決議、同十二月七日の衆議院当通産委員会においてなされました鉱業法審議に際してなされました決議にも、先ほど来申し上げましたように、明らかなようでございます。従つて弱い被害者の救済と、国土保全と、民心の安定のために、耕地の原形復旧を執行せられるために、委員会を設置して必要な法案を立案すべきであるという決議がなされたのであります。かような過程を経ましてここに臨時石炭鉱害復旧法案が誕生いたしまして、諸先生方の審議を煩わすことに相なりましたことは、まことに感謝の至りでございます。このゆえをもちまして本法案はあくまで被害民の窮状を救済するということを中心として、国土保全、食糧の増産、民心の安定をはかつて、もつて鉱害による社会不安を除かねばならぬのであります。しかるに今般政府当局が御提案になられました法案は、加害炭鉱の利益の擁護の方向に重きが置かれて、被害者が依然として犠牲を強要せられる結果となる必然性があるように考えられます、私は被害者の総意を代表しまして。簡単に四項目にわたつて修正の意見を、さような面から述べさせていただきたいと思います。  第一番に、復旧工事完了して成功の認定があつたときにおいて、鉱業法の第百九條の規定による鉱業権者の損害賠償責任消滅規定は削除していただきたい。理由といたしましては、一定の工事完了いたしましても、米や麦が従来の通りの収量をとるようになるには、地方の回復がいるのであります。耕地が昔の土壌通りに熟田にならなければならないのであります。表土返しをいたしましても、今のところ三年や五年、またボタの上に赤土を置くとか、あるいは山土ばかりで積み立てたものは十数年を経ましても、なお従来の収穫量がないのであります。これらの十分に収穫量が得られないということは、過去におきまする鉱害復旧工事または土地改良の耕地整理事業の歴史を見ましても、私現実に二十七歳のときから今日までその線に携わつた事績から申しましても、困難であるということは明らかであります。こういうふうな事実があるにもかかわりませず、単なる工事の完成によつて、もつとも三年間の異議申立ての余地は與えられておりまするが、これで補償を打切つて鉱業権者責任を免除する。そうして被害者の将来に不安を抱かしめるということのみならず、私は工事完了の認定にあたつて相当の紛争を起すものと考えます。これは農林大臣が認定されると思いまするが、被害者の方ではこの赤土では二十年ぐらいは昔の土地にならない。いわゆる工事施工者はこれは三年したらとれるから受けとれ、かようなことで工事ができまして、これの授受にいろいろな紛争ができることは明らかであります。特に法第五十一條によりましてわずかの——特に私はわずかという言葉を使うのでございますが、納付金鉱業権者責任が免除せらるるとするならば、現実の復旧費復旧後の暫定補償金にも事を欠く結果となりまして、将来被害者に大きく犠牲をしていることは火を見るよりも明らかであります。昨年欧州の鉱害地を視察されました方の報告を拝聴いたしましても、ドイツの現行鉱業法の第百四十八條は、鉱山側があらゆる地表損害号に対して責任を有する旨を規定し、過失の有無を問わない。結果責任を明記している。このことは鉱山側に完全に賠償義務のあることを明示しておるが、この賠償義務原状回復責任であることを最高裁判所の判例が確認していると報告せられております。私ども被害者の大部分は、古くから戦争前まで鉱業法がどういうものであるかということを十分承知しておりませんでした。それは炭坑を村に始められるとなりますと、炭鉱の代表の方や、しかるべき仲介者が私どもをたずねられまして、皆さん、今度炭坑をあなたのところに始めさせていただきますが、私どもは将来皆さん方に決して御迷惑はかけませんと確約をしております。従つて戦争前までは一部の中小炭鉱を除いては被害者に対して十分とは言えないまでも、私どもの承知できる程度補償賠償が行われておつたのであります。現に福岡県では家屋、道路、河川の復旧はもちろんのことでございますが、困難な耕地の復旧におきましても、昭和十七年までに千三百余町歩の復旧がなされている事実をもつてしましても、鉱山業者が開坑当時の信義を尊重せられまして、被害者もまた炭鉱を信頼して、両者の間にはあまり大きな摩擦もなく今日まで原状回復がなされておつたことがわかるのであります。しかるに戦争中から戦後に至りまして、炭鉱経営の困難な重圧が被害者に転嫁せられた結果、今日のさんたんたる結果となつたのであります。欧州でも過去においては炭鉱被害者のそれぞれの間に摩擦を生じていたように伺いますが、被害者の熾烈な要求、政府の適当な措置と、鉱山側の理解によつて今日のごとき理想の一点を実現していることを私どもは見せつけられておるのであります。被害者はいたずらに無法な賠償を要求するものではありません。被害者の納得の行く復旧工事の完成と、熟田に至るまでの責任を追究いたすものでありまして、原形復旧でなくして、効用回復工事である以上は、私どもはあくまでこれは免責措置がとらるべきものではないと信ずるのでございます。  第二点は、家屋、墓地等の非公共事業復旧につきまして七、公共事業に劣らざる強力な施策を立て、社会不安を除去していただきたい。これはさき公述人からそれぞれ申された通りに、本法案を通読いたしますと、家屋、墓地等の復旧工事に関してはきわめて冷淡で、単に協議及び裁定によつてのみ解決を求められておりまするが、炭鉱被害で社会問題として一番悲惨でありますものは、これら家屋、墓地であります。非公共といえども被害を受けます過程及び社会性は公共事業と何らかわるものではございません。むしろその日その日の生活を求めておる家屋において、放任せらるべきではないのであります。これらも事業計画の中に取入れられるよう強力なる法案に修正を願いたいのであります。  第三に、地方公共団体負担を軽減または免除せられたい。鉱業被害地の県及び市町村は、鉱害に伴うて種々の負担を間接に受けております。この法案において農地及び農業用施設復旧費の一部の負担負担能力のない鉱害地復旧について、それぞれ負担を課せられております。また事業団事務経費の一部の負担も課せられておる。このことはさきにそれぞれ知事、市町村長等からお述べになりましたけれども、私ども被害者もやはり地方税を負担しておるものでございます。その立場から本案の修正を強く要望するものでございます。  第四に、復旧不適地の処理を第七十八條規定せられておりまするが、これが認定を農林、通産の省令で一方的に裁定せられて、鉱害賠償消滅を決せられることは不当である。市町村長並びに被害者の同意を要するように改正せられたい。これは第五十一條納付金に最高の限度が示されておりますが、炭鉱地帯のほとんどは復旧を要する耕土、いわゆるつくり土になる土壌が乏しいのであります。付近の野や山はたいてい岩石とか、三紀層の赤土で、復旧に対して相当多額な費用を要しますとともに、工事完了しましても、効用回復、いわゆるさきに述べましたように米麦ができるよう場になるには、相当大きい金額が必要とせられる関係上、これらの経費の面から、こういう條文がありまして、一方的に裁定せられますと、やがてこの法案が濫用せられまして、先ほども申されたように、被害者の生活基礎を根抵からくつがえし、社会不安を来す結果となるのであります。従つて決定に際しましては、市町村長——これは私の村のように三百六十町歩の耕地が三百三十町歩まで陥落しておるというようなところに、もし百町歩も二百町歩も経費が出ないということで放任せられると仮定するならば、町村は立ち行きません。かような意味から町村長並びに被害者の同意を要するように修正を希望するものでございます。  以上修正の希望の概要を申し上げましたが、本案がここにできまするまで一年有半歳であります。この間に資源庁の西尾鉱害課長、福岡県の県会議員井上馨氏、並びに三井の中井部長らはほんとうに真剣に本案に対して苦心さんたんを重ねておられたのであります。たまたま今回本案が本議会に上程するのを見ずして御承知のように過ぐる日飛行機事故によつて悲惨な殉死を遂げられたことは、私は同志としてまことに痛惜の至りでございます。私どもはかの尊い三氏の霊に報いるにも、本法案が適正にしかも本議会においてすみやかに成立をせらるるように、諸先生に謹んでお願いをいたす次第でございます。以上をもちまして公述を終ります。
  55. 多武良哲三

    ○多武良委員長 野呂静君。
  56. 野呂靜

    ○野呂公述人 私はただいま御紹介を受けました岐阜県可兒郡町村会長の野呂であります。本日鉱害復旧法案につきまして、この公聴会出席しまして公述をいたす機会を得ましたことは、私の最も仕合せとするところであります。この案についての修正意見におきましては、すでに午前、午後にわたつて皆さんから熱心なる御意見がありましたので、私が申そうと思つたことはほとんど申し盡されておりまするから、時間の関係上ごく簡単に申し上げることにいたします。ただいままでに皆さんから申されましたのは、ほとんど石炭関係のみの鉱害復旧案に対する御意見でありましたが、私はここに亜炭鉱害復旧に対しまして、しばらくお話を申し上げたいと思うのであります。  岐阜県可兒地区の亜炭鉱害現状を左に申し上げたいと思います。亜炭鉱地表は大部分が農地でありまして、一部分は家屋その他であります。今まで鉱害を受けておる地方は、ほとんど戦争中に濫掘いたしましたものばかりだと申してもよいくらいでございます。戦争後は保安局その他の嚴重なる監督のもとに保護されますので、今後はかかる鉱害はよほど減ることと存じておるのであります。この鉱害賠償につきましては、大体打切りが多うございまして、最近の例では、反当りが約十万円くらいでありまして、その未解決の分がまだ半数以上あります。本法に対する所感といたしましては、すべて賛成を申すものであります。可兒地区の亜炭について、今後本案の恩恵を受け得るよう十分に道を開いていただくことを御考慮願いたいと存ずるのでございます。そのほか本案の第十條に石炭とあるのを、亜炭を含むと御修正を願いたいのであります。  亜炭の利用状況について簡単に申し上げます。名古屋地区の産業発達は、御承知の通り戦前の線に達しておりまして、繊維、窯業、軽工業が非常なる発達をいたしております。これらの燃料としまして、亜炭が相当に活用せられておる現状であります。名古屋地方の燃料としておりまする九州、北海道、その他の石炭は相当遠方でありまするので、この運賃等におきましても、地元で産出する亜炭とは非常なる食い違いがあるのであります。また石炭のカロリーと亜炭のカロリーを比較しましても、カロリー当り、石炭におきましては一円二十銭ないし一円五十銭になるようであります。これは六千カロリーと見てであります。これに対し、亜炭におきましては五十銭に当るのでございます。これは四千カロリーと見てそういう結果になるのでございます。石炭の高級燃料に比しまして、亜炭はやや低位であります。戦争中に濫掘をいたしましたために、亜炭は品質の評判も非常に落ちておりましたが、その後だんだんと業者その他の者の認識を得まして、昨今では質その他においては相当に改善されておるのであります。なお将来は、亜炭鉱業はますます地方の商業として大いに発展の余地もあり、また発展をすべきものと思います。将来政府におかれましても、この点に大いに御留意くたさいまして、石炭同様のお取扱いを願いたいと思うのであります。亜炭は石炭と違いまして、利潤の点におきましてもきわめて低いものでありまするから、業者がこの鉱害復旧に対して負担をすることはとうていでき得るものでありません。さりとて被害におきましては、石炭も亜炭も同様であります。この点に御留意くださいまして、この負担はとうてい業者でできるものでもありませんし、また地元でできるものでもありませんから、これはぜひとも国家において負担してくださることが至当なものと存ずるのであります。そのほかは大体におきまして、今までに十分皆さんから申し述べられましたから、時間の関係上、私はこれをもつて公述を終る次第でございます。
  57. 多武良哲三

    ○多武良委員長代理 次は山口正之君。
  58. 山口正之

    山口公述人 私は長崎県鉱害対策協議会の常任幹事の山口であります。長崎県の立場から一応鉱害のあらましについてかいつまんで申し上げ、引続いて修正の意見に移りたいと思うのであります。  鉱害の中心部であります長崎県の北松浦郡一曹は、いわゆる薄層炭でありまして、ために福岡県に見るような広大な地域におきます水没地帶は割合少いのであります。むしろ水源枯渇とか、傾斜田等の被害が顕著に現われております。また農耕地に乏しい長崎県といたしましては、平坦耕地に恵まれないために、山間僻地といえどもくまなく水田化されまして、実に丹念に営営として築き上げられましたため池に依存しておるのでありますが、これが一たび鉱害を受けることによつて、その被害者である農民は零細農家であるだけに、生活上に及ぼす脅威は実に深刻であるのであります。また御承知のごとく、巨大なピラミツド型に堆積された捨石の堆積よりする鉱害も、一たび水害等と競合する場合には、河川氾濫等の脅威にさらされるのであります。また離島海岸地区におきましても同様に、地形的な制約によつて坑内水、洗炭水あるいはボタ等につきましては、海中に投入せざるを得ないような実情よりいたしまして、いわゆる漁業権に対する鉱害を起しておるのであります。またこれら離島地区におきまして、飲料水源の枯渇による鉱害の問題は非常に深刻であります。やむなく水源を本土に求め、水船を仕立てて運んでおるような実情にあるのであります。詳しくは時間の関係で申し上げません。この程度にとどめます。  次に本法案に対する修正の意見に移りたいと思います。まず第一点は九十二條関係でありまして、公共施設に対する国庫補助は後日において償還せしめられるという問題の規定であります。この法律案は、いわゆる社会立法であり、特別立法でありといわれております。そのゆえんのものは、今日の鉱業法賠償規定によつて、あるいは実際慣行的に行われております賠償制度によつては、今日の鉱害復旧という問題は、とうてい解決することは不可能であるというところから、しかも鉱業法原則をかえてまで復旧するということは不可能であるという点から、一応忠実に鉱業法原則にもどりまして、賠償金相当額をきめられて、納付金として徴収することによつて通常の事例においてはそれだけの金額では不足を生ずるから、その不足分については国家的見地から国が財源措置を講ずる、こういう点においていわれておるのであると私は信じておる次第であります。そういう点から考えまして、農地農業用施設に対して国が補助するならば、同様のりくつから、公共施設に対しても実質的補助がなけらねばいけないのではないかというふうに考えるのであります。その理由をまず第一番として申し上げますと、公共施設に対する補助を返還せしめられることは、実質的に鉱業権者に対して復旧責任を認めることになるのだ。ややもすれば過重な負担をかけることになるのじやないかということは、鉱業法賠償原則に反するのではないかというおそれの点が一つであります。次は公共施設に対するいわゆる事実たる慣習としての賠償に反するものではなかろうか、もつと尊重さるべきものではなかろうかという点であります。資源庁の調査によりますと、土木公共施設についての鉱害は三十億円になつております。これに対しまして二十六年度賠償額が約八千万円であると記憶しております。農地は約百億円に対しまして六億円程度であつたと記憶しておりまするが、幸い農地におきましては、御承知のごとく、五十一條によつて土地基準賃貸価格の二千倍から五千倍の範囲内で金額を徴収されることになつておりまして、これはまさしく鉱業法の事実たる慣習として行われております賠償の実態に応じたものであると考えられまするけれども公共施設に対しては、これと異なつた実質的復旧責任を認めてあるという点において、公平な観点からいつても、妥当を欠くものではないかというふうに考えられるのであります。次に三点といたしましては、一番有力な理論、根拠になるのじやないかと思われます点は、賠償費イコール復旧費になるのじやないか。なるほどごもつともな考え方であると思うのでありますけれども、しからば公共施設に対する損害額が幾らであるかという問題は、非常にむずかしい問題であろうと考えるのであります。もちろん民法の原則に基きまして、相当因果関係から客観的に価値がきめられるものであろうと思いますけれども、考えまするに、公共施設は被害物件として見たならば、損傷物といいますか、いわゆるいたみやすい施設でありまするから、通常の事例におきましては、私はむしろ賠償費は復旧費よりも少いのではないかというふうに考えるのであります。従いまして、この点一応一例を引いて申し上げますと、かりに橋が落ちたといたしますならば、その落ちたことによつて起るところの損害は、その後における客観的価値判断によつてきまると思いまするけれども、その賠償限度額は一応きめられたといたしまして、それによつて新しい橋をかけることはおそらく不可能であろうと思います。しかもより堅牢な橋をかけることになると思うのであります。従いましてそういう改良分を含めまして、その不足分を国が負担して鉱害復旧を行うということがこの特別法の精神に合致するのではないかという点にかんがみまして、農地農業用施設と同様に、その他の公共施設についても実質的補助になるように、いわゆる事案たる慣習としての賠償に応じた基準をきめられて、それを納付金として同様徴収し、その不足分を国が補助する、こういう行き方にぜひこの点御修正願いたいと思うものであります。  次いで第二点は、事業団の維持経費に関する点であります。御承知のごとく、事業団の維持経費については、鉱業権者は第二十八條の二項によりまして、地方公共団体といたしましては、その工事施工者という意味も含めまして、九十四條によつて、それぞれ負担義務づけられておりまするが、これに対して国が支出をいたさないのは妥当を欠くものではないかと考えまして、むしろ全額国庫負担によるべきではなかろうかと考えるのであります。この事業団につきましては、いろいろ異論がございまして、当初立案いたしたころは、いわゆる納付金のプール機能を持たせるにあるといつた構想で企図されたようでありますが、その後におきましてこの構想がかわりまして、いわゆる納付金の徴収支払い業務が中心業務になるのだ。そういうものであれば、むしろそういう経費の点からいつても、もつと簡便に措置ができるのではなかろうかというような点から、この事業団設置をめぐりまして、いろいろ問題があつたのであります。私は一応事業団をこのまま認めるといたしまして、その公法人的な性格、特に第七十五條によりまして納付金の強制徴収を認めておる点、その他の業務内容からいたしまして、私は鉱害復旧工事の恩恵的な、補助的な事業団であるよりも、むしろ国家行政事務としての取扱いをするのがより適切でなかろうかと考えるのであります。従いましてこれは当然全額国庫によつて支出さるべきものでなかろうか。さらにまた鉱業権者賠償限度額以外にこの経費をとられるということは、むしろ負担が加重されるという意味からと、さらに地方公共団体からこれを徴収する理由はないのではないかという点から、ただいま申し上げましたように、当然国が支出すべきものであるというふうに考えるのであります。  第三点は、特に長崎県等におきまする悩みの問題でございますが、事業団が基本計画を作成するに際しまして、当事者間に鉱害の原因、鉱害があるとかないとかいう原因、安定しているとかいないとかいう問題で争いがありまして、なかなかきまらないのであります。こういう点についてこの法律は側らの調整措置が講ぜられていないのであります。私はむしろこの法律趣旨から考えましても、それが復旧に適するかどうか、いわゆる復旧の適否については行政的な公平な立場から、決定ができるような道を講じてもらいたい。申請等の道を講じてもらえるようにお願いいたしたいのであります。  先ほど事業団に関連して、一言申し落しましたので、つけ加えたいと思いますることは、事業団に関する評議員会規定でございます。十九條から二十四條にございますが、この評議員会の構成と議決方法を見ますると、一応事業団は九州地域に一つつくられるというふうに書いておりまするが、その構成は地域の広い、狭いによつてきめられるようになつておるようであります。しかもその議決方法は、過半数によつて決せられるというふうになつておりますが、各県ごとに事情も違いまするし、そういう構成メンバーによる過半数の決定は公平を欠く点があるのではないか。こういう点に対する調整措置も考えてもらいたいという点でふります。  さらに基本計画の作成にあたりましては事業団がつくることになつておりまするが、その対象になりまする復旧工事というものは、農地農業用施設のものであり、公共施設に関するものでありまする点から、その工事の性質上またその施工面から考えましても、当然実態を把握できるところの、指導監督すべき立場にある都道府県知事の指示することによつてこれを作成し、事業団はそれに基いて復旧基本計画を立てるのがより妥当でなかろうか。もちろん農地農業用施設については四十八條によつてあらかじめ都道府県知事の承認を受けることのなつておりまするけれども、そういう意味からこれは当然都道府県知事の指示によつてこの基本計画は立てるべきであるというふうに考えるのであります。  次の点について申しますと、もう一つ問題のありまするのは、六十六條と五十三條と九十一條の関係になるのでありまするが、賠償義務者が無資力であつたり、あるいはまた所在が不分明なために、復旧に充てらるべき納付金の徴収ができない、そういうふうな場合の法律規定でございまして、農地及び農業用施設については国と都道府県知事、さらに公共施設については五十三條によつて地方公共団体負担をするようになつておりまするが、これは当然納めらるべき納付金を代位して工事施工をしたということになるのでありまして、基本的には、鉱業法による賠償責任消滅していないのであります。しかしながら六十六條の第三項によりまして、その納付義務は一応免除されることになつております。私はこの点は非常に妥当を欠く点があるのではないかと思うのであります。しかも第七十五條によりまして、農地農業用施設に対する鉱害消滅するという規定があるのでございます。しかし公共施設に関する復旧工事完了した場合において、鉱害消滅したかどうかということにつきましては、必ずしも法律上は明確ではございませんけれども、本来の鉱業法規定による賠償責任消滅するものではないのだという点において、この賠償規定は、当然規定として明確に規定さるべきであると私は考えるのであります。  なお、時間の都合もありますからるる申し上げませんが、この法律によつて都道府県知事、さらにはその他の地方公共団体に対する相当の負担が政令によつてかけられることになつておりますが、その割合によつては相当の負担になると考えられますから、今日の財政事情よりして、その負担能力については十分御考慮をお願いいたしたいのであります。  以上数点にわたりまして申し上げましたけれども、要するに今日における地方の事情なり、鉱害の現地の事情を十分御了承願いまして御審議くださいまして、この法律案は特別鉱害以来現地民一同の待望久しかつた法律でありますから、一日も早くこの通常国会において成立、施行ができますようにお願いいたしまして、私の公述を終りたいと思います。
  59. 多武良哲三

    ○多武良委員長代理 以上をもちまして公述は終了いたしました。ただいままでに公述されました公述人に対しまして質疑の通告がありますので、順次これを許します。淵上房太郎君。
  60. 淵上房太郎

    ○淵上委員 われわれはこれからこの法案審議するにあたりまして、私は先般来多少検討を重ねて来たのであります。いろいろの点において疑問があり、また不満があるのであります。本日は示唆に富む貴重なる御意見を拝聴してありがとうございましたが、ただその重要問題の一つに関連する賃貸価格の問題につきまして、私はたまたま午前中に日本石炭協会並びに日本石炭連合会の代表者の両君に質問いたしました関係上、均衡を得たいために、五十一條のいわゆる賠償義務者納付金の算定基準となる賃貸価格倍数の二千倍ないし五千倍という問題につきまして、地方公共団体理事者代表たる福岡県知事、直方市長、小野田市長並びに被害者代表たる栗田、和田、山口主君のこの点に関する御意見を順次お伺いいたしたいと思います。
  61. 杉本勝次

    ○杉本公述人 この問題につきましては、政府部門においての意見も十分統一されていないように考えます。おそらくこの五千倍というのは、農林省の主張だろうと思う。これをできるだけ引下げようというのは業者の主張であり、これは結局においてこの政令がどうきまつて来るかということに関連しますけれども、われわれとしましてはこの点は五千倍を下らざる——この五千倍を引下げて三千倍とすることには不賛成であります。
  62. 行實重十郎

    行實公述人 この問題は農林省と資源庁との間に、今福岡県知事の仰せられるように決定された線をいまだ見ないのであります。かりに賃貸価格は二十円といたしまして、五千倍として十万円であるのであります。そうしたことを考える場合、現在支払つておられまする炭鉱側の賠償は、多いところは一年間に一反歩二万円に近い金を支払つておられるのであります。少くとも私の考えでは、そうした打切りにひとしい処置をとられるところは、多分に被害の多いところと考えるのであります。今まで払われております実績からいたしましても、五千倍は当然であると考えるのであります。従つてほんとうのことは、農林省あるいは資源庁でどういう線が出ますか、炭鉱側は三千倍を上らざるというような御希望もあるかのようでございますので確実なることは申し上げられませんが、今まで払つておられまする実績からいたしまして、私はそれくらいのものは当然である、かように考えるのであります。
  63. 姫井伊介

    ○姫井公述人 私もほぼ同意見でありまして、基準賃貸価格もわかつておりませんし、また都道府県別に政令で定めるということになりますか、これもはつきりしておりません。従つて広い幅を持たせて、そのうちで最も適正な方法を講ぜらるべきものであると考えて、この案に賛成をいたします。
  64. 栗田數雄

    ○栗田公述人 私は公述の中で五十一條納付金が非常に少い、かようなことを申し上げまして、鉱山側から御公述なつたのでは五千倍は高い、こういうふうに見解の非常な相違があります。私が非常に少いと申し上げた理由を一応申し上げたい。福岡県の鉱害地賃貸価格調査は詳細に調べてあります。これは後に先生方のお手元に参ると思うのであります、あるいは参つているかもわかりません。それによりますと、福岡県の鉱害地賃貸価格の平均は十七円四十六銭であります。それから畑は五円八十九銭。これはほとんどが水没しているところにこの最高の五千倍というものがかけられると私は考える。しかし御承知のように、鉱業被害というのはぽかつと全部が水没するわけでない。段階的に鉱害があります。でありますからこの傾斜面の度合いによつて、五千倍であつてもまたそれぞれ減額される。これは当然であります。そういたしますると、全部が全部五千倍にいたしましても十七円四十六銭では八万七千三百円、ところがこれが段階的に参りまするから、その中間をとることが、私はそろばんを持つ上の非常に確実な線ではないかと思います。こういうことになりますと、その半分の四万三千六百円である。工事の方は、水没地では二十万円も二十五万円もかかる所がございますけれども、今申しましたように一応高い所がありまするからそれらの所は三万、五万の工事費で済みます。それらを平均いたしまして、現在農林省ではそれぞれの助成のわくが、その耕地とその耕地のうちの公共事業と二つにわかれておりますが、平均十三万八千円くらいを上まわるとして政府助成がなされておるようでございます。私は、おそらくこの法案が通りましても、資源庁の方では相当御期待になつておるようでございますが、大蔵省並びに農林省は、十三万八千円の、要するに普通土地改良費の半分である六万九千円以上は御承知にならぬではないかと考える。そういうことになると、この半分の四万三千六百円、これを政府の六万九千円に加えましても十一万二千六百円でありまして、政府助成の対象の十三万八千円に届かない。さらにこれが打切り補償の問題がきまると、工事完了後の回復に対する打切り補償があるとするならば、これにまた数万円の金がかかる。またポンプ等の維持管理として約二万円は見込んであるのでございます。こういうものを算定いたしますると、非常に足りない。そろばんが持てない。さらに畑のごときは、先ほど申しましたごとく全額かけましても二万九千四百五十円、私はこれで工事費が償い得るということは考えられません。ただ賃貸価格の調査にあたりまして、私の郡あるいは隣郡、福岡県を通じまして最高三十八円、三十九円というような賃貸価格が現にあります。実は驚いたわけでありますが、それらの土地はほんとうの微々たるものでありまして、実際価格にこれは適用されるものではありません。で、この福岡県の詳細な調査によりますと、十七円四十六銭というのが正確である、こういう点から私は先ほどさような公述をいたした次第でございます。
  65. 和田滿恵

    ○和田公述人 お答えいたします。私この問題についてよく研究いたしておりませんので、はつきりしたお答えはできぬかとも思いますが、この五十一條納付金の額は、一応賠償基準を時価で見積る、その土地の値打の範囲で見積る、こういう原則でお立てになつたのではないかと思料いたします。なおこの二千倍から五千倍という数字は、現在の賃貸価格基準としておりますけれども、これは逆算をしてこういうものが出たのではないか。収益還元による土地の評価というものをなされまして、たとえば一例を申し上げますと、熊本県では反当全県下の平均価格は評価が九万円になる。福岡県は七万円になる。山口県は四万円なら四万円になる。こういうふうに全平均をいたしますと、最高と最低が、そこの賃貸価格で割りまして何倍になつておるか、そういう倍数が出て、その倍数の最高と最低が出ておるのではないか、かように思料しておるのでございます。従つて一応私ども被害者の立場から申しますと、その土地の値打だけ支払つていただくというならは当然ごもつともだと思いますけれども、私は先ほど来の公述でも申し上げましたように、いろいろ特殊な立場がありますので、むしろ欲なことを申し上げるようでございますけれども、これではまだ足りないのではないか、かように考えます。  御参考に収益還元による土地評価額というものを簡単に御説明いたしますと、昭和二十一年から二十五年の、最高最低を除く三箇年平均反当米収量、収益率、それから昭和二十六年の米価の石当りの金額を出しまして、その反当の収益を出すわけであります。その反当収益を割出しますと、土地の価格が出るのだそうでございます。その価格を現在の平均の賃貸価格で割りまして、倍数が出ておるように思います。従つてこの二千倍から五千倍という数字は、かつてにおつくりになつたのではなくて、既往の実績に徴してさような計数が出たものと思料いたしております。御参考までに淵上先生に私が持つております資料を一部呈上いたしますから、御研究ください。
  66. 山口正之

    山口公述人 淵上先生にお答えいたします。長崎県におきましても基準賃貸価格はいろいろかわつておりまするし、この法律の立て方が、先ほどの公述で申しましたように、その土地々々にいわゆる事実たる慣習として行われている賠償の金額を目安として立てられたというふうに考えておりまするし、長崎県の同じ土地内におきましても、いろいろ金額もかわつておりまするから、一応そういう観点からいたしまして、二千倍から五千倍の範囲内というものが妥当ではなかろうかと考えているわけであります。
  67. 多武良哲三

    ○多武良委員長代理 今澄勇君。
  68. 今澄勇

    今澄委員 私は和田さんと直方の市長さんにお尋ねいたします。  私は端的にこの法案審議する議員の一人として申し上げますが、この法律が六月六日までに成立するためには、おそくも衆議院を二十五日に上らなければ成立しません。二十五日までに衆議院を上げるということになりますと、あとわずかに期間は二十日間でありますが、その間に現地視察その他をやれば、非常に期間が短かいのであります。私は本日の皆さん方のいろいろの御見解を聞きまして、心からこれらの被害者に同情いたしますとともに、この法律がこのような状態のもとにおいて、ともかくこの国会で通つたのがいいのか、それとも継続審議にして、いろいろ理想的な体制に整えて、あとになつた方がいいのかという技術的な問題をひとつお聞きしたい。私は今皆さん方の言われた修正意見をぜひこの法律の中に織り込んで通したいと思います。しかしながら政府部内におけるいろいろの相談もあるであろうし、政府の見解が各省ごとに定まらぬということになれば、当然この国会中に法案は通らぬという具体的な結果を招来します。そこで私はお二人の方に聞きたいのですが、この法案は急げば、どの点とどの点とどの点だけはひとつ修正してもらいたいという、最小限度の要望は何と何か、この法案は少くともこの国会において成立しなければならぬかどうか、この二点についてお伺いしておきたいと思います。
  69. 行實重十郎

    行實公述人 今澄先生には特別鉱害以来、鉱害の問題については非常に御理解ある御処置をとつていただいておりますが、率直に申しますと、私どもはただいま申しましたような修正をぜひお願いしたいのであります。ところが反面、この法案はぜひ本国会に通してもらいたいということにおいてジレンマに陷つているのであります。そこで今澄先生の突かれました点からいたしますと、私は少くとも非公共家屋等に対する問題については、ぜひともわれわれの要望をいれていただきたい。第二には農地の問題につきまして栗田公述人がお願いをしておりましたように十分に御研究を願いたい。欲を申しますれば全部でございますけれども、少くとも最小限度私はその点にでも、少し言いはばかりますけれども、別な公述人のお心持もあることと存じますので、私たちはどうしても通してもらいたいという念願からこの二つだけでも希望をいれさせてもらいまして、通していただくようひたすら先生方の御盡力をお願いしたいと思うのであります。
  70. 和田滿恵

    ○和田公述人 今澄先生のお話でございますが、ただいまの直方の市長さんと同様にわれわれの意見もぜひいれていただきたいのでございます。しかしながらもしいれずにこのままで法案が成立する場合、一応通過する方がよいかどちらかという問題になるならば、私はやはり一応この法案を通していただくことを切望いたします。その理由は、法は必ずしもそのままではとどまらない、やはり法も育成して行くべきだという観点に立つております。今後この法をりつぱなものに諸先生方の協力を得て、ぜひ育てて行きたいという熱意を持つておりますがゆえに、この法案を通していただきたい。なお相なるべくはわれわれの修正意見をできるだけ取入れていただくことをお願いいたします。修正の点についておいりようでしたら、この資料を差上げます。
  71. 多武良哲三

    ○多武良委員長代理 次は青野武一君。
  72. 青野武一

    ○青野委員 今澄君がいきなり結論に入る質問をしましたので、ちつと聞くらつたのでありますが、まだ日にちは相当ありまするし、通産委員会で勉強をすれば、参議院にまわるくらいな日にちは十分あると思います。せつかく被害者の血の出るような要求、そして関係者が遠方から万難を排してせわしい中を来て、被害者の立場を代表してるるおつしやつておられるところを聞きますると、そういつた要望はできるだけこれをこの法律案の内容に修正として私どもは入れるために努力すべきである。結果から申しますと、まことに恐縮ですが、今まで二十八日の午後十時半まではどんな問題でも一応総司令部のオーケーをとらなければわれわれではどうすることもできなかつた。しかしその点では確かに被害者に同情し、真剣にその損害に対して賠償すべきであるという意思を持つておりますれば、衆議院と参議院の各派が超党派的立場に立つて、真剣にこれを討議すれば、あまり多くの日にちもいらないし、まじめにやれば結論が出て来るのではないかと思う。一応通して悪いところは直すというが、すでに悪いところがあれば修正する時期に到達しておる。国会における法律案は事実上総司令部とは縁が切れている。どうでもこうでも悪くてもいいから通してくれということは、被害者の意思を代表しておるとは私どもには認められぬ。やはりその点についてできるだけの努力をすべきであると私は考える。そこで最後に直方の市長さんにお尋ねをいたしますが、かりに御希望になる点が相当箇所修正せられまして、これが衆参両院を通過してそうして法律ができましたときに、いろいろな問題が起つて参りまするが、そのときにはたとえば墓地、家屋というものに被害を受けた場合には、個人がその対象なつて交渉をされるのか、あるいは鉱害対策といつたように、いろいろな郡なら郡別に、あるいは県別に一つの被害者の機関を設けて、その機関が一つくの問題を交渉し、処理して行くのか、そういう体制が、たとえば福岡県百三十万被害者の代表機関である一つの組織がそれを担当して行くのか、そういう受入れ態勢ができておるかどうかという点をお聞きしておきたいと思います。  それから栗田さんには二十五年の五月、御承知の特別鉱害問題のときに責任者になつてたびたび東京に出て来られて、ほんとうに頭の下るような御努力をしていただいたことは私ども十分認めております。あなたのおります付近は特に三百六十町歩の中に三百三十町歩は四尺、五尺も、あるところは七尺も陷没しているということを聞いております。そういうところで現実の問題としてやはり原状回復という線を主張して行くと、三日も四日も雨が降つたときに、大体海岸線と落差が非常に少いところでございますから、たとえば炭鉱経営者によつては百馬力、百五十馬力のモーターをすえて排水をやつておりますが、そういう点はそのままにして、やはり原状回復の線を固執して、元の田地田畑にして行く何か具体的な御方策を持つておられるか、そういうものがないと、やはり法律の精神には原状回復がはつきり出て参りましても、実際問題としてできない。そうすると復旧不適地という焼印を押されて、農民の諸君はみずから持つておる土地回復できない。生活のかての農地を取上げられるという結果になる。そういう点について責任者として具体的にこうしてもらいたい、この法律が被害者の意思を十分盛り込まれて通つたときには、その復旧についての具体的な、私はこういう希望を持つておる、こういう考えを持つているということを、ひとつ最も被害の多いところの責任者である栗田さん、特に筑豊炭田で熱心にやつておられます直方の市長さんにも、市町村自治体の責任者として、多少そこに腹案がございますれば、それもやはりこの法律案の審議の過程にぜひ必要になつて参りますので、その点をお二人にお聞かせ願いたいと思います。
  73. 行實重十郎

    行實公述人 交渉団体として家屋その他のものに対してやるか、但しは個人的で交渉するかというお尋ねのように拝承いたしますが、今のところでは法的にもそうしたものを認められてもおりませんし、それが個人にかわつて団体で交渉するという段階には至つておりません。しかしながら法が現状のままで通るということになりますれば、一人の力ではとうてい現在の鉱害を救う道がないと存じます。好むと好まざるとにかかわらず、もしこのままで通るということになれば、自然の結果が団体の力によつて交渉するということになるものと、私は考えております。
  74. 栗田數雄

    ○栗田公述人 青野先生の御理解あるお尋ねに対しまして、一言簡単に私の所信を申し上げたいと存じます。  私ども鉱業法の改正にあたつて原状回復を叫んでおります。これは鉱業権者が要するに被害を與えたものを一定の金額で打切るという気持そのものがいけないと思う。結局は一応形をこわしたならば原状回復をすべきだ、こういう信念のもとに私は申し上げているので、先ほども公述の中にありましたように、ドイツ等では法律なつても原状回復だ——私ども原状回復というものを、たとえば山が下つたから、山を上げろという、いわゆる原形復旧を私どもは要望するものではありません。ただここに今まで水車をもつて汲み上げておつたものが十尺下つたとする、その場合、十尺下つたが、今までは三尺高過ぎた、そこで七尺上げればよい、これが私どもの主張する原状回復であります。ところが先ほど申しましたように、経費の関係から七尺上げることができない。要するに農林省の政令できめられておる効用回復の五尺でがまんしろという線が出て参つておるのでございます。こういうものは、すべからくある一定の、いわゆる将来不安のない工事のできるまでを私ども原状回復と申しておるのであります。鉱業法の改正によると、今のあり方が逆転するわけです。金銭をもつて賠償する、但し多くの金を要しないところは原状回復する、こうあるのですが、私ども原状回復を主体として、そうして特に多額の三十万も五十万もいるところを上げろという被害者の主張ではございません。要するに多額の金を要する、国の経済の行き方からして、これはとうてい救済できないというところは、金銭をもつて賠償するということを主張するものでございます。私どもの主張は何らいれられないものではないという自信を私は持つております。私の村のある一部では、すでに特別鉱害復旧をやつておる。それを見ましても、私どもは十尺下つたところを十尺上げてくださいということは申し上げておりません。効用回復の線を了承しておりますのは、原状回復の精神は被害者としては一歩も曲げるものではなく、また十分やつて行けるという事例はドイツ等で行われておる。あの事例は私は日本のりつぱな教科書になる、かように考えております。
  75. 青野武一

    ○青野委員 もう一点お尋ねしておきますが、私も同じように、大体この法案の中を一貫してやはり原形回復、これが最も正しいと思う。どうしてもそれができない場合に、たとえば百箇所そういう復旧をする場合に、何箇所かはどうしてもできない、費用が高くつくし、地理的に考えてもそう大した利用価値がないという場合は、これは金銭賠償でもやむを得ませんが、その精神がこの法案の中に貫かれて、被害者の言い分が相当修正の形で入るべきである。そうしなければ、この原案のままいろいろな関係で、これを通してしまつて、その次また一年か二年先で直してもらえばいいでは、何も公述人を九州から呼んで、たくさんの人がせわしい中を東京まで来る必要はありません。やはり被害者の血の出るような言い分をこの中に盛り込むことによつてこの法律案が生きるのです。私はそういう観点に立つて御質問申し上げたわけであります。問題は、あなたのように三百六十町歩のうち三百三十町歩も陥没しておるところは——炭鉱によつて各所にポンプをすえておる、蘆屋の海岸との落差がわずかの三メートルだということも聞いております。が、三日も大きな雨が降れば流れない、田は一面の水びたしになる、排水の設備ができてないところはやはり相当の犠牲がいる。元のようにしなければならぬことはもとよりでございますが、現実の問題として業者側がやはり喜んで賛成しないだろう。そういう点について、やはり正しい主張は何ものにも恐れずにこれを貫いて行く。被害者の立場に立つて正しいことはどんどん実行に移して行く。そういう意思が皆さんの中にあれば、総司令部と手の離れた各党がよく話し合つて、自分たちが被害者の立場に立つて物を考えれば、皆さんが公述なさいました内容を相当この中に織り込むことはそうむずかしいことではない。お互いに胸襟を開いて話し合えば、ある程度のものはこの中で修正として出て来る。日にちも努力すればとれないことはありません。そこでそういう点について、あなたのところは非常に被害の大きいところですが、現実の問題としてそういう精神がこの法案に織り込まれると、具体的にどういうようにしてもらいたい、それでは困るからこうしてもらいたいといつたようなことが、やはり組織と団体が背景でないと、法律はできてもなかなか交渉がうまく進行しない、長引く。そういうことが今まで常套手段になつておつた。まじめに考えてくれれば、業者が今日までほつておきはしません。生活上の幾多の若しみをなめておるからこそ、みな真剣になつてこういう要望を東京まで持つて来られたと思います。もしそういう点についてのお心組みがあれば、私どもは明日からこの法案審議する上にぜひ必要なことですから、地元の代表者の御意見参考のために承つておきたいと思います。
  76. 栗田數雄

    ○栗田公述人 その点さらに私の気持を確認しようというおぼしめしのようでありますが、私が公述いたしましたように、鉱山と被害者は車の両輪のようなものでして、鉱山がつぶれれば被害者はやはり相当な損害を受けるのであります。何も被害者は鉱山と敵対行為をするものではない。ただ先ほど申し上げますように、ある程度責任の回避をされなくて、やはり專心的に原状の回復をするという考え方から免責措置をとつていただかないようにということと、七十八條の、要するに一方的な農林、通産省の政令でもつて不適格として認められることは困る、この二点でございます。
  77. 青野武一

    ○青野委員 これはもう質問ではございません。公述人に対する質問は私は多少持つておりますが、やはり的は、この法案を提出せられた政府側に御質問したいことをたくさん持つておりますので、公述人に対しては私はございません。できればいろいろな事情を考慮して、急速に通産委員会を順次開いていただいて、まじめにこの法律案と取組んで、できるだけ皆さんの御要望を織り込んで、衆議院の方は参議院の審議期間を十分にとつて、早くこれを本会議で上げて行く、そういう方向にひとつ各党各派ともに努力していただきたいということを希望いたします。
  78. 多武良哲三

    ○多武良委員長代理 ほかに御質疑がないようでありますから、以上をもちまして公述人の御意見の御開陳並びに質疑は全部終了いたしました。  この際、一言ごあいさつを申し上げます。公述人各位には、御繁忙の際にもかかわらず、長時間にわたつて貴重な御意見の御開陳をくださいましたことを、厚く御礼申し上げます。なお当委員会におきましては、本法案の審査にあたりまして各位の御意見なり御趣旨の存するところを十分参考に供し、愼重審議をしたいと存じます。この席より、委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。   明日は午前十時より開会いたし、電源開発促進法案について討論採決に入りたいと存じますから、さよう御了承願います。  本日はこれにて散会いたします。     午後四時二十分散会