○姫井
公述人 山口県
小野田市長の姫井
伊介であります。この立法につきましては、感謝をいたし、
賛意を表します。しかし、若干の修正希望があります。もつとも私は研究も日浅くして、
鉱業法、
特別鉱害復旧臨時措置法との関係の検討が不十分であります。さらにまたこの
法案に対する詳しい説明も聞いておりません。また関係政令の
内容も不明でありますから、相当の疑問があります。その疑問を内に含みながら、希望の
意見を申し述べたいと思いますから、あるいは的はずれの点があるかも存じませんが、御了承をお願いいたします。
第一は
復旧費についてでありますが、第二條の三項に「
主務大臣が特別の事情があると認める応急
工事費」云云とある。しかし、事情によりますと、
主務大臣の認めを持たないうちに応急
工事をして行かなければならないもの、事後の承認を受けなければならない緊急なものがある。その場合を当然この
法案では含めておられるかどうか。含めておられなければ、含めるようにしていただきたい。
第二番目は、
公共施設の
内容が不明確であります。二條の六項の七、八、九、十号の中には公共造営物のほか、建築物、たとえば事務所とか管理所、宿直所といつたものまでも含まるのかどうか。含ま
つておればよろしいが、含ま
つていなければ、ここに大きな考慮を払
つてもらわなければならない。同じく十一号に学校とのみあります。これは先ほど
福岡県知事もお話しに
なつたと思いますが、
地方公共団体が
維持管理するいろいろの役場とか、警察、消防、病院、公民館その他社会的の
施設がたくさんありますが、これはどうしてもこの中に入れなければ、家屋等の方にそれが入れられますと、非常に差別的な
措置が講ぜられることになるのであります。従
つて第四章の家屋等に入れることは不適当であると考えるのであります。
第三番目は、
事業団の地域であります。これは第
五條で「政令で定める地域」とのみあります。どの
範囲を政令で定める地域とするか、これがはつきりしなければ、政令もわかりませんから非常に疑問が生ずるのであります。もし利害関係の市町村全体のみが入るとするならば、またそれによ
つて事業団の構成、
運営等について多くの問題が出て来るわけであります。さらに四十
一條の解散の場合でありますが、この区域内の市町村の長の三分の二以上の請求があつたら解散するということでありますが、これまた重大なる関係を持ちますから、この地域というものは、はつきりしてもらわなければならないということであります。
第四番、
事業団の
業務であります。三十
一條の一項の六号に「地域内の家屋等の
復旧工事に要する費用の貸付」とあります。同じく三十二條の二項に「貸付の相手方、
限度」云々ということが書いてありますが、それのみで、この貸付はどういうふうに運用されるのか、他に條文を見出さない。これははなはだ不明瞭なことなのであります。この貸付金などにしましても、どうしてやるのかということがわか
つていないのであります。
第五番は解散であります。解散の條項に破産というのがありますが、この
事業団は機能法人としてあります、営利法人ではない。そうしたものに破産ということがあり得るかどうか。どういう場合に破産があるのか。もし破産があるとすれば、
運営がよろしきを得ないというよりも、組織がよろしくないということに私は結論づけなければならない。さらに解散の問題につきまして、一体解散の後は
復旧事業はどうするのか、ここに大きな疑問が出て来るのであります。
第六番は、
効用減少の
農地復旧についてでありますが、これは
納付金を申す意味ではなくして——もちろん
規定は五十
一條にありますが、法の
目的の上から考えまして、現在のような、農家が持
つております耕作面積が非常に過小である、こうした農民の生活の保障の上から、先ほ
どもたびたびお話がありましたが、
金銭賠償よりも原形
復旧制度がとられなければならない。さらに、減収する原因は
鉱害なんですが、一方
国家的
立場から考えましても、農民個人の生活問題のみならず、今までできただけの農作物ができないという点、これは重大問題であります。この点はやはり原形
復旧によ
つて効用減少の
農地というものができないまでの方策を講じなければ、この
法律の
目的に反する。さらに十分の三を下るものは云々ということがあります。
納付金のことが書いてありますが、その十分の三に下らないもの、たとえば一割とか二割とかの
効用減少があつた場合には、その
鉱害はどういうふうに処理されるか。これは泣寝入りで行くべきか、
国家が総合計画の上においての差引勘定に入れて
補償するのか、この辺がわかりません。なお
効用減少の
賠償は、一時金支払いであ
つてはならない、それがために毎年減少が起るのですから。今までは毎年正常な収穫があつたのに、一たび
鉱害によ
つて減収がありますと、それが毎年続くのですから、一年でも
つて賠償するということになりますと、これまた農民の大きなる永久的な被害
負担になるということなのであります。しかしただ考慮することは、こうした場合に、いわゆる惰農を生ぜしめてはならない。農民も一生懸命働くようにしなければ、
効用減少したから、手を組んでおれば毎年々々くれるのだということではいけないので、ここはよほど考えなければいけない。結局結論は、原形
復旧をやらなければならない。
七番は
復旧不適地の処理でありますが、
効用回復困難な原因もやはり
鉱害なんです。これは
さきに申しましたように、国全体の収穫がそれによ
つて減少することも大きな問題である。また農民から
土地を失わせるということも問題であ
つて、これはすなわち生活の圧迫に
なつて来るわけなのであります。この
復旧不適地に支払う金額は、農林省、通産省の省令で算定
基準をきめるというが、これは不明確なんです。この大きな問題に対しまして、どういうふうな算定
基準を行われるか、これから検討してかからなければならないということであります。これは七十
八條でありますが、この七十
八條におきましてもその二項で支払つた後の
鉱害は
消滅するというようなことが書いてあります。これも大きな問題で、何のことかわからない。
第八番は、第三章と第四章との不
調整、つまり差別的な処理があるということですこれは今までたびたび述べられたのでありますが、この被害は天災地変ではなく、
鉱害にあるということは現実に明らかにわか
つておるのです。なぜこの明らかに
なつているものを
復旧の基本計画に入れないかということです。
農地や
農業施設と同様にはつきりわか
つておるのだから、何もめんどうくさい手続をしないでも基本的な総合計画に入れさえすればよい。しかるに
鉱害により家屋等としての
効用が著しく阻害しておる場合——著くしなくて軽微な被害でも被害なんですよ。それはやはり
鉱害のもたらした被害なんです。それを自分でしろというようなことはあるべきではない。弱い
立場にある被害者に、やれ協議にかけよとか、
裁定をどうするとか、そんなめんどうな手続を一体とらせてよいのでしようか。そうしないでも当然これは見てやらなければならない現実の問題なんです。これを何か仲裁の折衷
方法というか、説明があつたのでありますが、そんなことではないのです。まつたく
鉱害の本質を誤
つておられる。八十三條に「著しく多額の費用を要しないで
復旧工事により原状の
回復をすることができると認めるときは、
復旧工事を施行」云々とありますが、これも被害者から言えば非常に虫のよい話です。金のよけいいらない簡単なものはさせるが、金のいるものは一体どうするか。ほとんどこれは言い訳的な
規定に
なつている。なおまた
土地の陷落または捨石の崩壊停止が認められる場合とありますが、そういうことは一体現実に認められるかどうか。これはもうとまつたのだぞとい
つても、ところがあにはからんや、脱水があり、排水があり、旧
坑内に満ちているところの水を出せばどかどかと思いもよらざるところに被害が出て来る。突如としてひんぴんとして起るこれらのものにつきましても、やはりどうしても根本的な計画が立てられなければならない。さらに八十六條になりますと、これはまことに無情冷酷だと私は断ぜざるを得ない。この農民に
負担金を申しつけて、それを払わなかつたならばこれはもう打切りだというのです。現在農民は税金さえよく納められない。滞納にあえいでいるところに金を出せ、金を出さなければお前の権利は打切
つてしまうというのは、何とかもう少し親切な
方法がありそうだと思うのであります。しかも
法案の
内容を見ますと、個人所有の家屋の性質上国の補助金支出を期待することができない。もし直接国が個人に補助を出すことができないならば、それこそ
事業団の
復旧資金というものを設けて、それに流し込めばよい。それによ
つて事業団がやればよい。直接の補助じやない、できる道はある。でありますから、家屋等につきましても、そういうふうな無理なことをしないで、民生安定のために公平適正な
規定を設けていただきたいと思う。
九番目には、
鉱害復旧の
賠償の徹底であります。六十六條の前段にも
規定であるのでありますが、ところがやはり最後の
責任がどこにあるかはつきりしない。
賠償責任者が不明であるとか、資力がないとか、そういう場合の
賠償の徹底はどうしてやるかということが明確にしていないように私には見えるのです。さらに鉱業権や租鉱権やあるいは
採掘権、それらの
消滅後の
責任ということもはつきりしていない。
賠償の
責任者に
納付金をさせる。ところがその
納付金は、相当
炭鉱業者はもうけるから、それについて出すのは何でもないじやないかという考えもあります。ありますが、今一歩しりぞいて考えますと、その
負担が来れば、いつしかそれが
石炭の価格の上に転嫁される傾向に
なつて参ります。そうしますと炭価はまた自然高くなる。そうすると物価の基本
対策の上において、常に現在見るような悪循環をや
つて行かなければならぬ。炭価が高いから、電気料を高くする。電気料が高いから、ベースを上げてくれといつたような悪循環をもたらして来る。この点は国として十分考えなければならぬ。物価
対策の面からもこの点を考える必要がある。だから何も対立的にけんかするのではなくて、国と
賠償責任者はもつと適正な割合の
負担区分にして、そうして
賠償を徹底させなければならぬ。
第十番目は、
地方公共団体の
負担であります。これもいろいろお話がありましたが、
鉱害の原因であるところの
石炭を掘りますことは、これは全国
産業振興のためなんです。その被害は一地方のみではない。すなわち重要なる基礎
産業である。それを地域的にその地域における被害者であるとか、
炭鉱業者とかなんとかが
責任を負わなければならぬということは非常におかしいのです。そういう
観点からいたしまして、これはどうしても全国的な操作にしなければならぬということは当然なんです。そういう地方におきましては鉱産税で若干の收入はありますが、その若干の収入がありますところは大体労働行政に多くの金を使
つております。私
ども小野田では労働会館などをこしらえて、それに多くの金を使います。さらに多くの失業者、あの企業整備によりまして出ました失業群を、失業
対策としてまか
なつて行かなければなりませんところの
負担はまことに莫大なものなんです。しかもこの
復旧は
効用の
回復で、
効用の増加ではないのです。価値が附加されるのじやない。にもかかわらず地方がそれを
負担しなければならぬということは、理論が通らないと思うのです。どうしてもこれは全国的に転換して行かなければならぬ五十三條、九十四條の関係に
なつて参ります。さらに先ほ
ども話がありました九十
一條には、一応国が予算の
範囲で補助ができると書いてあるが、非常に弱い。しかも家屋等のことについては何もない。家屋等のことは一切知らぬという。都道府県にいたしましても、国がやるのに対して、補助金を交付する。しかもこれには
公共施設も家屋ということも何も書いていない。だから
地方公共団体は、目に見える特別な受益のある場合のほかはとうてい
負担にたえられない、理論上からい
つても
負担すべきものではないと考えるのであります。
第十一は、
法律の
施行期間であります。提案
理由の最後に、十年の臨時立法としたとあるのでありますが、それならば十年た
つて法が廃止されたならば、あとはどうなるか。経過処理の
規定は何もないのであります。だれが引受けてどうするか。しかも
石炭の掘採は今後何年かかるか。一体十年で終ると考えられるのか。おそらくそんなことは考えられないでしよう。幾十年の長きにわた
つて石炭を掘るとするならば、
鉱害は続出するのであります。なお第三章第四章におきまして、いろいろ時間的
措置があります。一箇月したらどうとか、一年したらどうとか、三年したらどうとかいうが、十箇年過ぎたらどうなるか。再検査請求権とか損害
賠償の請求権というものはなく
なつてしまうのか。相手がなく
なつたらどうなるか。幽霊の立ち消えのようなことに
なつておる。さらに借入金や
復旧事業債券等の始末は一体どうするのか。こういうことも何もない。たといある
炭鉱が
石炭を掘ることをやめましても、
鉱害は起るのであります。小野田は
農地、宅地で、小さい市でありますから、大体千両町歩でありますが、そのうち三百町歩の
鉱害地を持
つておるのであります。四分の一強であります。小野田市は
石炭については三百年の歴史を持
つており、江戸時代からの
採掘の跡がある。たぬき掘りなどをや
つている。しかもこのごろは残柱掘りとい
つて、残つた柱をのけます。その上に脱水がある、排水があります。どんどん
鉱害は続出して来ている。特別
鉱害のものもまだ残
つておる。町の底ははちの巣のように
なつておる。これで
国土の有効なる利用や、
保全並びに民生の安定が一体できるか。この十箇年後の法の廃止によ
つてそういうふうな大きな
目的は中断されてしまうのではないか。十年したらこの法はなくなるぞ、十年したらおれは死んでしまうぞとい
つて、あとの遺言は何もない。それからどうするということは何もない。そのときは何とかするということで、一体民生の安定はできるか。従いまして
法律の時期的な限定は私は不合理きわまるものだと思う。どこまでも原形
復旧制度によりまして、この法は恒久化して行くべきものである。今度の
機会にこれができませんでも、少くとも将来その含みのもとに立法をや
つていただきたい。
最後にこれに関連して考えることは、
鉱業法との
調整であり、さらにまた
鉱害復旧保険
制度、このことも考えられるのではありますまいか。以上。