○栗田
参考人 私は
福岡県の炭鉱被害による被害者代表の栗田であります。
公述に先だちまして諸矢生方に三審御礼を申し上げたいと存じます。
福岡県の
鉱害、いな全国の
鉱害問題につきまして、さきの国会におきまして特別
鉱害復旧措置法案を御制定いただき、また鉱業法の改正にあたりましても、いろいろと私
どもに御同情あるお言葉、御決議をいただきましてまことにありがとうございます。さらに今回
臨時石炭鉱害復旧法案がさような意味からここに
提案されるに至りました点も厚く御礼を申し上げます。ただ私
ども今からお願い申し上げたいと
考えますのは、私
どもに御同情ある土場からこの
臨時石炭鉱害復旧法案が出て参
つたのでございますが、この法案をつぶさに検討いたして参りますと、私
ども被害者がこの法案自体をのみ込んで行くことは被害者として将来非常に困る
立場に参るわけであります。被害者が不安な
立場に置かれることは将来の石炭の開発にも非常な影響があるものと私は
考えます。この意味から被害者の
立場ということだけでなくて、一歩進んで将来の石炭採掘に対する大きな支障を来す問題としてお取上げを願いたいと
考える次第でございます。
第一、私
どもがこの法案に反対いたしますのは第七十三條から五條に至ります、一応の効用回復ができた後においては炭鉱の
責任が消滅するということでございます。御
承知のように、私
どもは鉱業法の改正にあたりまして、一応原形復旧を主張しておるのでございます。今般ドイツ、イギリス等に
政府その他から御派遣になりました方に現地の状況を承りましても、私
どもは当然原形復旧がなさるべきだという主張を曲げないものでございます。しかるに現在の鉱業法が金銭賠償で、しかも金銭賠償の額が非常なわずかな額に制約をされておるように
考えられます。そういうことであ
つて、制約されたところの金額で、効用回復はある
程度の形をつく
つてやると言われるだけで補償の打切りをされますと、御
承知のように
福岡県の
鉱害は非常に厖大なものでございまして、全部つくり土をかえて農地の改良事業のようなことをやることはできかねるのであります。
従つてボタを下に置いてある
程度山上を持
つて行く、あまりおもしろくない土でも一応置いて、ただ農業土木の上から
鉱害復旧の面がなされておるということが多ついのであります。そういうことになりますと少くとも三年、五年はできません。実際私
どもの知
つておる嘉穂郡の一部では、山土ばかり入れてお
つて今日まで二十年の間まだほんとうの田ができないというような現実の面もあるのであります。それらのものがあることによ
つて、今回は修正されて三年以内という
一つの特別の條章はできましたけれ
ども、今申しますようなことから、やはり
鉱害復旧である以上は、炭鉱の方に免責措置をと
つていただくことは困ることであります。これを具体的に私が
数字を申し述べてみますと、
福岡県の賃貸
価格は大体十九円五十八銭というように
資源庁並びに農林省では割出されておるのでありますが、炭鉱地帶の今現実に被害を受けておるところの賃貸
価格を調査してみますと、最低十六円から二十円の線でございまして、大体において十八円
程度でございます。十八円にいたしますと、この法案によ
つて定められたところの二千倍ないし五千倍ということになりますと最高が九万円、最低が三万六千円で、平均しましても六万三千円でございます。ところがこれは田が全部陷落した不毛田にそれだけ出されることになるのであります。傾斜田はその傾斜の度合いによりまして、また炭鉱の負担が下
つて参ります。少くとも実際の面では、これが五万円
程度以下になるのじなないかということをこの法案を見て憂慮するものであります。法案自体の実施にあたりまして、より以上とることはなかなか困難であると思います。ところが一方耕地の復旧をする
価格は、現在農林省で大体において反当十三万八千円を限度として
国家がその半額を助成せられております。その十三万八千円で先ほど申しますように一応工事ができ上るのであります。山土を入れるとか非常に粗悪な土をも
つて埋められておるという場合は打切り補償の場合で、これは政令で定められることにな
つておりますが、今
資源庁なり農林省で構想を練
つていらつしやる内容を承
つてみますと、大体において表作で三万二千円
程度、裏作でそれにまた加算されまして大体四万円
程度でありまして、ほんとうに百姓から申しますと、稻のできないようなところに三年を期間として四万円
程度で打切りがなされておるのであります。これは被害者とするならばいかに精を出して堆肥をここへ入れましても、少くとも八万円
程度を——これは人によりますれば十万円以上を主張しておる人もありますが、私
ども一応そういう線でなくて穏当の八万円と仮定するならば、十三万八千円に加うるに最悪の場合は八万円という金がかかりますから、二十一万八千円になる。二十一万八千円になるのに鉱山の負担が五万円そこそこであ
つて、はたしてその差額を
政府に御補助願うことができるか。これは私
ども一般耕地改良におきまして、農民の血の出るような金を半額出す場合において、
政府に五割を出していただいておるのでございます。一方鉱山
業者が炭鉱によ
つて相当の利益をあげられる場合において半額以上、要するに三倍の十五万円の金を御補助願えることができるだろうか。そういうことができないということが一応
考えられるのでございまして、この点はやむを得ざる場合はともかくとしても、現在の法案というものは、これでも
つて免責措置をとられることはわれわれ絶対でございます。
次はお手元に差上げておりますように、家屋、墓地等の非公共事業に対する措置でございますが、これはただ單に鉱山側と被害者との協議を行
つて、中間の労をと
つていただくことによりまして一時金を貸していただくことにな
つております。しかしながら私
ども被害者としては、石炭増産のために常により多く犠牲を払わされているのでございます。家屋、墓地につきましてもさきにいろいろごらん願いましたように、戸障子がたたずにほんとうに困
つております。それらのものが放任さ
つております。それらのものが放任されて、ただ単に通産曲調の裁定その他でも
つて措置せられる、国からは何もいただかないということはまことに被害者としては困るのでございまして、これは県並びに市町村連盟の方でも強く主張せられる点でございます。
次は県並びに市町村に関しまするところの負担でございます。これらのものが
三つの條項において取上げられておるようでございましてすなわち農地及び農業用
施設の復旧の一部を負担させられる場合と、それから事業団に対する地方公共団体の負担、さらに鉱業権者が不明である、あるいは資力がないという場合において、市町村並びに県がその額を負担しなければならぬ。県も市町村もともにこれは被害者でございまして、それだけの余力はない、こういう意味から県並びに市町村と同様私
ども被害人としてもいわゆる税を負担する者として反対せざるを得ないのでございます。
第四におきまして七十八條でも
つて一応復旧
計画によ
つて工事をやるのだが、それができない場合においては復旧の不適地として除外する、その土地はそのままほ
つたらかすというようにできております。こういうことになりますと先ほど私
どもが
数字をあげて申しましたように、
一定の金額に制約されておりますと相当厖大な土地が不適格地として将来放任されるのではないか。要するに炭鉱のできまするところに地上権を持
つている農民は将来どこに行くか、何に生業を求めるかということにな
つて参りますから、こういうものが濫用せられるということになれば、将来鉱業権の設定にあた
つて、被害者は断固これに反対をするものと
考えております。これらの問題は、最後においていかなる場合でも、被害者が納得の行く線でやられるならばともかくも、今回の法案によりましては、農林
大臣、
通産大臣の政令によ
つて、不適格地として認められて打切り補償のうき目にあわなければならぬ、かようなことになるわけでございます。私
ども被害民といたしましては、被害民自体の現在の苦境はもちろんでございまするが、将来の石炭鉱業権設定等にあたりまして、この法案がもしこのまま成立するということになれば非常な支障を来すということで、今川上京して参
つて先生方にお願いしておる次第でございます。はなはだ簡単でございますが、これで終ります。