○平塚参考人 アメリカにおけるまぐろの関税問題が起きまして、先般業界の者がいろいろ協議いたしまして、これに
関係を有する全国の業者が東京に集まりまして、まぐろ関税対策協議会を設立いたしたのでありますが、早急にこの問題を打開しなければならぬ必要がありまして、協議の結果、
代表者としてアメリカに交渉に
行つてもらいたいという交渉を受けましたので、不肖私が
代表者として一月二十七日に
日本を立
つてアメリカに行
つたのであります。
昨年の一月、突如としてまぐろの油漬カン詰に対して、従来二割二分五厘であつた税金が四割五分に上
つたのであります。また昨年の暮に冷凍まぐろに対して一ポンド三セント——これは時価から換算しますると、ちようど二割の税金に該当するのでありますが、これは議院を通過してしま
つたのであります。それで私はあちらに参りましたときに、ちようどカン詰の課税の公聴会が二十七日に開かれてお
つたのであります。これは油づけのカン詰に四割五分課税されたために、
日本の生産者は輸出が不可能に
なつた結果、油を入れない塩水づけのカン詰を輸出したのであります。それに対して、これは一割二分五厘の税であ
つたのでありますが、それを二割五分に上げるということであるのであります。公聴会が開かれておつた
関係で、急速にこの運動をしなければならぬと思いまして、私はその公聴会の
委員長である上院のジヨージという方——この方は財政
委員長であ
つて上院の大物であるのであります。在外事務所の武内所長の
紹介によりまして、この方にまずも
つて会
つて、
日本の立場をいろいろと
説明したのでありますが、まことによく親切に私の
意見を聞いていただいたのであります。それからさらにスパークマンという上院の議員——この方は先般ダレスと一緒に
日本に来られたのでありまして、まぐろのことは
日本に滞在中ダレスからさんざん聞かされて、よくわか
つているからということを申されておりましたが、自分はまぐろの関税を上げることには反対だという意思をはつきり表明しております。さらにコナリーという外交
委員長にもお会いするつもりで行
つたのですが、ちようど公聴会の時間と時間がかち合つたために、二度行きましたが、まぐろのことは十分わか
つておるので、来週にひ
とつ会おうじやないかということになりまして、この方には会うことができませんでしたけれ
ども、祕書官にいろいろ参考
書類を提出して、尽力方をお願いしておいたのであります。そのほかに下院の有力者のマコーマックという方にもお会いしていろいろとお願いしたのであります。非常に複雑な問題でありまして、カン詰に対しては、議会の問題でなく、向うの国内法に大統領の権限で五割まで自由に上げ下げすることができるという法律がありまして、これは政治的に大統領に頼んで食いとめる以外にないのであります。そこでちようど取引の
関係で先般
日本に来られた大きな機械会社の社長の手を経て、マコーマックという人にいろいろ運動して来たのであります。
公聴会の模様をちよつと申し述べたいと思いますが、ここでただいま申し上げた方のほかに、スミスという有力な上院の議員、こういう大物がこの公聴会に全部
出席して論議されておるのであります。
傍聴の結果を申し上げますと、公聴会に参加しているものは、まぐろに
関係を持
つておる業者、いわゆる漁撈をや
つておる者、あるいはカン詰をつく
つておる者の
代表者が五十人くらいワシントンに集ま
つて、盛んに税をかけろとか、また
日本のまぐろを輸入することを商売としている
関係者は、盛んに反対しておりました。そして業者がめいめい哀訴嘆願するの黙
つて議長が聞いてお
つて、あとで非常に大きな発言をしてお
つたのであります。
日本のまぐろに関税をかけるということは非常に無理じやないか。
日本が困るじやないか。
日本はドルを獲得するためにアメリカの支払い勘定に向ける必要があ
つてアメリカに持
つて来ておるのに、重税を課してこれを輸入させないというようなことは望ましいことじやないじやないか。そういうものはアジアで売れないものじやないか。アメリカ以外に持
つて来ることができないのじやないか。そういうものに課税をするということは穏当でない。議長がそういう
意見を述べておるのであります。私
どもは反対すべく弁護士を雇い、あるいは
日本との取引先の有力な方に大勢
出席してもら
つて論議を尽したのであります。公聴会は四日と五日間、冷凍まぐろとカン詰めとおのおの別に公聴会を開いて幕をとじたのであります。
私は政治家に話す場合には、
日本はアメリカと非常な友交
関係を継続しており、ダレス氏がしばしば
日本に来られ、
日本の吉田総理大臣といろいろの協定をや
つて、どうしてもアジアにおいては
日本を援助せなければならぬということを言われており、また
日本の各
国民もそれに同調しておる。一方においてわずかばかりのものの輸出に対して重税を課するというようなことは、両国の親善
関係を一部分でも破壊することになるのじやないか。しかもアメリカにおいてはカリフォルニア一州の問題であ
つて、全米の
国民には直接の
関係がないじやないか。反対に
日本は全国的に
関係があるので、
日本の水産業者がほとんど全部このまぐろに対しての大きな
関心を持
つておる。
日本としてはそれだけ大きな問題である。もしこれが不幸にして重税を課せられるような場合になりますると、輸出ができないというように
なつて、業者が非常に困る。従
つて反米思想をあおるような結果に陥ることをわれわれは杞憂しているものである。中共に貿易をやろうと思
つても、共産
主義の国とはや
つてもらいたくないというアメリカの希望
通り、
日本政府は中共に対してもソ連に対しても、共産
主義の国家とは取引しないということを吉田総理大臣は声明しておる。そういう際であるから、なおさらわれわれはこの関税問題を食いとめなければならぬと思
つて、私は選ばれて
日本から来たというようなことを、いろいろ申し述べたのであります。
議会の
方面に対してはその
程度であるのでありますが、国務省の次官補にも会
つております。また国防省の
関係の人にも会いました。通産省の
関係の人にも会いました。お手元に配付してあります名簿でごらんくださればいいのでありますが、少くも
日本に
関係のある官庁にはそれぞれ
お話を申し述べたのであります。
元来こういう問題がなぜ起きたかということを少しく申し述べてみたいと思うのでありますが、一昨年
日本のまぐろカン詰が、過去にない大量のものをアメリカに輸出したのであります。百四十万箱のカン誌を輸出した。これに刺激を受けまして向うの生産者が非常に騒ぎ出して、
日本から大量に来られると、われわれの商売に非常に影響するからということで、われわれの知らぬ間に運動して、そしていわゆる大統領の権限で二割五分の関税を四割五分に
引上げたのであります。ところが、カン詰に重税が課せられたためにカン詰の輸出が不能に
なつた、その結果として今度は冷凍まぐろを昨年は一万六千たる輸出した。これも過去の実績がそれほど大きなものがなか
つたのでありまして、これにもおびえてしま
つて、カン詰を封ずると冷凍で攻めて来るというので、冷凍の方の関税に対しては、太平洋のまぐろ漁業組合というものがありまして、これが
相当大きな組織のもとに活動して来たのであります。そして議会の問題と
なつて、下院を通過したのであります。これを上院で食いとめるということであるのでありますが、向うの言い分を聞きますと、
日本は無
統制に濫売もするし、数も無限に持
つて来るというので、非常に自分たちのまぐろの商売の妨害になるからということが動機と
なつて、カン詰の関税の問題を起したのであります。幸いにして国務省には、先般日米加漁業条約を締結しましたときのアメリカの
代表、過去において
日本の水産
部長を長くや
つておられたへリングトンが国務省におりますので、ヘリングトンと親交の間柄でありますから、関税の問題について何回も会
つて私はいろいろ相談をしたのであります。結局この問題を起したものは、
一つは漁業組合が結束して運動を起した。もう
一つはカン詰の生産者、しかもそれはロスアンゼルスに大きな生産者が二軒あるのであります。
一つはヴアン・キヤムプと言いまして、有名な大きな会社であります。もう
一つはフレンチ・サーデインという、これも何百万箱というまぐろのカン詰をつく
つておる。この二つの
関係者がワシントンにおいて運動した結果であるのであります。そこでこれを食いとめるということは、政治的になかなか困難でありますが、結局この二つの団体と申しますか、
関係者に了解をさせる以外に
方法はないと私は
考えまして、ヘリングトンの好意によりまして、さきにツナ・ボート・アソシエーションの専務
理事をしておるチヤップマンという人、これは前には国務省におられた方でありますが、この方と私は非常な長時間いろいろ懇談をしたのであります。無
統制に持
つて来たと申しながら、アメリカの生産高の二割くらいのものを持
つて来たからとい
つて、アメリカの市場を撹乱したと
日本は思
つていないのだ、そういうことはひ
とつ了解してもらわなければならぬ、しかしこういう問題を起した以上は、われわれは過去のように無
統制に決してやる意思はない。濫売もしなければ、あなた方の商売にじやまにならぬようにする。現に原料においては、アメリカの原料が足りなくて、南米からも
日本からも冷凍を持
つて来て、カン詰にしておるじやないか。そのために漁業者の
とつた魚が余るというようなことに
なつておらぬじやないか。もちろんこれはアメリカの市場の
関係が悪いときにはじやまになるだろうけれ
ども、幸いにして売れ行きがいいのであるから、どんどん
日本から持
つて来て足りなくて、南米からもと
つておるのに、あなた方のどこにどう妨害になるか、ぼくは了解に苦しむ、というような話をしますると、無制限に来られたときは非常に心配だから、関税をかけておかなければならぬというようなことを申しておりますので、それは無制限に決して持
つて来ない。要するにアメリカのマーケット次第だ。売れ行きの悪いときには
日本は手控える。売れ行きのいいときには持
つて来た
つて、あなた方にじやまにならぬじやないか。また関税をかけても
日本は
コストが安いから入る、こういう見方をしておるのですが、それは誤つたお
考えです。ヘリングトンが一番よく
日本のことを知
つておるでしようが、
日本は昔のまぐろをと
つておつた時代と今日とでは全然趣きを異にしておる。漁船も大型の漁船をつくり、またいろいろの戦後の法律ができて、労働賃金も上
つており、また税金も高いし、とうていアメリカの輸入税に対してはたえられるものではないということを話しました結果、そういう話をするなら、もう二年くらい前に来て話をしてもらえれば、関税問題などを起さなか
つたのだというようなことを言うておりました。一昨年、昨年と
日本が輸出したことが、ただ将来無制限に来るということの不安があ
つて、運動を起した
程度であるのでありまして、あまり根底の深いものではないのであります。それからもう一方の運動をしておる有力なヴアン・キヤムプ、フレンチ・サーデインの社長と副社長と私はいろいろ懇談したのであります。
日本が油づけに課税されたため塩水づけのものを持
つて来た。これはわれわれがカン詰の販売上非常に支障を起こすものである。こういうものを大量に持
つて来られるということは非常な脅威だ、こう言う。これは脅威なわけでありまして、油は入
つておりませんし、税金が低いですから、非常に
価格が安い。
日本はつくれば幾らでも持
つて行けるのでありますから、これまでわれわれが大量につく
つている油づけのカン詰に、安いみばの悪い、そうしてある年限を経過すると内容的にも変化をするようなまぐろのカン詰をアメリカへ持
つて来られては、自分たちが長年宣伝もするし、努力をして大量に売られるように
なつた油づけのカン詰に影響する。まぐろのカン詰というものは今までよかつたけれ
ども、どうも品質も変化するし、みばも悪いというようなものは、それだけ油づけの方に影響する。何とかして塩水づけのまぐろをつくらないという
方法はないかと言うから、それはある。大体
日本もこういうものをつく
つてまでも持
つて来る意思はなかつたんだけれ
ども、あまりに一方的に税金が高く
なつたものであるから、やむを得ずこれは持
つて来ている。もし油づけのカン詰の関税が引下がるのであれば、われわれはブラインと申しおります塩水づけのカン詰を一箱もつくらぬということは、対内的にまとめることができる。それは非常におもしろい問題である。ほんとうにそれだけの
統制力をあなたは持
つておるか。それはぼくが立つ前にいろいろ協議会で協議した結果、これは全権を委任されて来ておるんだから、必ず一方の税金が下るならば、あなた方のいやがるブラインのカン詰は輸出しない。しかしながら関税が下るということは、早急に行くものでもないから、少くとも五二年、五三年、すなわち今年と来年、この期間内において、あなた方がアメリカの
国民としてアメリカの政府を動かして——大統領の権限で下げられる問題であるから、その方の運動をしてもらいたい。もしそれが成功するならば、われわれはあなた方のいやがるブラインは一箱も持
つて来ない、私はこういう返事をしたのでありますが、それに対して、一体君たちはどのくらいの
数量を希望しておるかと言いますから、私はカン詰に対してはアメリカの生産高の大体一割五分くらい——本年と来年二箇年間はあなた方の生産高の一割五分——割五分ということは、約百万箱に該当するのでありますが、それ以上は手控えよう。どんなにあなた方が今ブラインの入ることが困ると言われても、われわれはそのカン詰持
つて来る以外に
方法がないのであるから、二箇年間はあなた方も忍んでもらわなければならぬ。もし油づけのカン詰の関税が下るならば、将来一箱も持
つて来ない。
数量においては、アメリカの売れ行きによ
つて、あなたの方が大量の生産をして、それが楽に売れた場合に、
日本のカン詰が多く入つたからとい
つて、市場を撹乱するようなことはないじやないか。もちろん将来輸出に対しては、責任のある、信用のある商社に限
つて、だれにでも売るというようなことはしない。しかし
日本にも独占禁止法があるんだから、ある
程度の自治的
統制はできるけれ
ども、完全な
統制はできない。一部分流れて来ることがあ
つても、それはあまり気にとめないでもらいたい。今までのようなことをや
つてもら
つては困る。それでは一体どういうことをあなた方気に入らないのかと言うと、五百万も七百万も売
つておる先に持
つて来て、三百箱でも五百箱でも、だれにでも買いにやれば
日本は売
つておつた。それは小売屋が
日本から直接買うようなことをやられると、非常にわれわれの妨害になると言うから、もうそういうようなことは絶対しない。アメリカに店舗があり、
日本において
相当信用のある輸出業者にこれを取扱わせる。さらにカン詰は買取り会社をつく
つて、その買取り会社が輸出業者を使
つてアメリカに輸出することになるんだから、あなた方の心配するようなことにはならない、こういうことを私は強く主張した結果、わかつた。しかしながら今関税を上げろという運動をしておるのに、自分の商売に影響するから、油づけのカン詰の税金を下げろという運動はやりかねる、非常にやりにくいというのです。いろいろ話した結果、それではこういう
方法をとろうということに
意見が一致した。私は
日本に帰
つて、
日本のまぐろカン詰対策協議会の
代表者高碕達之助君の名において、
日本の
代表とアメリカのカン詰業者の
代表と
会議をした結果を文書にして、油づけの関税を下げるならば、ブラインは一箱もつくらぬということが、両者の間に
意見の一致を見たという
書類を
日本の政府に提出して、
日本の政府が、これをワシントンの政府に送
つてもらいたい。その結果として必ずワシントンからわれわれの方に交渉があると思われる。交渉があつた場合、これは非常にいい協定であるのだから、そこで税金を下げるということに到達するのではないか、こういうことで話合いをして、私はわかれて
日本に帰
つて来たのであります。帰る早々業界の
関係者に報告をし、ただいま申し上げたようなことを文書にして、先般外務、農林、通産省あてに出して、その許可を得おります。そうしてなるべく早くアメリカ政府にこれを伝達してもらいたいというふうにいたしたのであります。
公聴会の結果、
一つは大統領の権限、
一つは上院がこれを、下院を通過したものを通すか、あるいは食いとめるかということに対しましての
見通しは、私は冷凍はおそらく無税だろうと思います。しかしながら制限を加えようという意思が非常に濃厚である。つまり無税のものに対しては、ある
程度の分量をきめて、それ以上来たものに課税するという制限の
方法であります。クオーターという
言葉を使
つております。どうもアメリカの
国民の運動を押えつけるわけには行かない。しからばとい
つて、
日本を非常に窮地に陥れることも困るというので、おそらく上院はこの問題を長くひつぱるか、あるいは今のクオーター制を採用して解決するかという、二つの問題がまだはつきりいたしません。私の
見通しとしては、ただいま申し上げたように、冷凍箱に対してはクオーターを採用し、一定
数量以上のものに課税されるということで解決されるのではないか。カン詰の方は定率が二割五分であ
つて、今一割二分五厘ですが、これが最悪の場合に定率まで税金が上る可能性がある。うまく行けばすえ置きになるかもしれぬのでありますが、これは私は確信を持
つておりません。業者に対しては一方一割二分五厘税金が上
つても、生産
コストにそれほど大きな影響がないだろうから、とにかく百万箱までつく
つて輸出するようにしなければいかぬ。冷凍の方は大体において一万二千トンということを向うに申し入れてあるのでありますが、これくらいの
数量で押えておきませんと、再び関税の問題が起きるのであります。
日本として、
水産物の輸出としては非常に大きな問題であります。ゆえに一千四、五百万ドルの輸出ができるかできないかの大きな問題でありますので、そこまでこぎ着けたことは、ある
程度まで私は成功したものと思われるのであります。しかしこれはこのまま安心してはいかぬから、さらに人を派遣して、そうして将来たえず向うの業者と接触を重ねて、再びかような関税の問題の運動を起さないようにしなければならぬと思いまして、目下いろいろ協議を重ねております。
また輸出の一種の制限でありますが、独占禁止法がありますので、
国民に対して制限をするということはいろいろ困難であると思いますが、
関係者の大部分が自治的
統制を行えばそれで私はよろしいと思
つておるのでありますが、ただ業者だけでこれを自治酌
統制ということは、やはり困難が伴うのでありまして、先般来通産省と
農林省の
関係官に、役所の方でも法的に
考えて輸出の制限もし、業者が非常に多いのでありますが、多くできた場合には翌年に持ち越されて行けばよいじやないか、いわゆる生産過剰のものは、翌年度の輸出にして
日本にストックして置く、そうして向うとの公約をして来た冷凍は一万二千トン、カン詰は百万箱くらいで輸出をとめるように、これは官庁も業者に協力してや
つていただきたい、こういうことを目下交渉中であります。群の方もいろいろそれに対して
研究されておるようでありますから、私はせつかくそこまで行つたものを、また無
統制にして再び彼らに刺激を与えないようにしてもらいたいということを言
つたのであります。ちようど往復一月でそれだけの運動をして、私は帰
つたのであります。
大体以上をもちまして、私の御報告にかえたいと思います。