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川浪参考人 それでは、ごく簡單に
アメリカにおける問題の沿革から
お話いたしまして、現状について御
説明したいと思います。
まぐろの
カン詰は、
戦前昭和二、三年ごろから彼の地の
事情を調査した結果、
相当市場性があるということで、
わが国で仕事を始めたわけであります。当時一年ごとに
輸出が非常に伸張いたしまして、
アメリカにおける
消費量がおよそ三百万箱当時、
日本から六十五万箱も
輸出するというような
事態が起きたわけです。しかし、当時も今日とやや似たような無統制な
濫売気味というようなことも、おのずから結果として出ましたので、これが
アメリカにおいて非常な問題とな
つて、やかましい論議がされるように
なつたわけです。そこで当時
業界からも二、三の代表が、二、三回海を渡りまして、
向うの
事情を調査され、さらに御
意見を聞き、また
農林省も人を派しまして、民間と協力するということに
なつたわけであります。そこで
昭和九年に、どうしても一種の統制をしなければ、この
市場の確保がむずかしいという結論になりまして、
農林省は
輸出水産物取締法に基いて省令を出しました。
年間とんぼまぐろの油づけ
カン詰を三十五万箱に限り
輸出する。それから
アメリカにおいてはライト・ミート、すなわちきはだ
まぐろ、
かつお等を原料とした
カン詰が非常に多くできますので、これとの競争を避けるために、
かつお類は一箱も出さない、
とんぼまぐろだけを
輸出するということにいたしました。一方
カン詰の
生産につきましては、やはり法に基きまして
水産組合を設けて、
工場許可制として、さらに割当を実施して
生産を
制限しました。一方
販売につきましては、
共同販売会社を設立いたしまして、これが法の裏づけを受けまして、三十五万箱以内、しかも
アメリカの
市場を十分に調査いたしまして
向うの
市場を乱さないように
販売を
行つたわけであります。
従つてそれ以来は何ら問題もなく、戦時に至るまで円滑に
輸出が続いたのであります。しかるに終戦後は、御案内の
通り企業の自由、もう一つは
事業者団体法並びに
独禁法の関係がありまして、何ら調整を施すすべが見当らないということで、
昭和二十四年から
輸出が
相当活発になりました。翌年の二十五年には、
戦前の六十五万箱の倍以上の百三十五万箱という
輸出をいたしたわけであります。当時
業界といたしましては、
戦前の轍を踏むまいとして、何とか調整を考えないと必ず問題になるということで、
業界の識者は非常に心配をいたしまして、いろいろと研究をいたしたのでありますが、いかんせん、前述の
団体法あるいは
独禁法等の関係がありまして、政府としても、なかなか手の打ちようがなく、民間としても、なすにまかせざるを得ないような情勢にあつたわけであります。はたして
アメリカにおきましては、これが非常に問題に
なつたわけであります。もつとも
戦前と異りまして、
戦時中アメリカは肉の高いために、またこの
カン詰を特に宣伝いたしましたために、非常に消費が伸びまして現在約八百万箱以上の消化をいたしております。しかしながら、それに対して
日本からの百三十五万箱というものは、やはり
相当な比重であります。しかもその売り方が事実濫売に陷つたことを
業界としては反省せざるを得ないのであります。それは
戦前において約二十二、三社であ
つた生産会社が六十社以上になり、
輸出商も
戦前には大体十社以内の方々が専門にこれに当
つておられました。
アメリカのいわゆる
大手筋の
インポーターと取組んで、正常なる
ルートによ
つて輸出しておりました。それで問題がなか
つたのでありますが、戰後は、
ちようど一九五○年、
昭和二十五年に
輸出いたしました商社の数を全部洗
つてみました
ところが、官社以上にな
つておるわけです。
従つてアメリカにおきましても、やはり
大手筋の
インポーターのほかに、ブローカーのような種類のバイヤーが続続と現われまして、
販売の
ルートを乱したのであります。
日本側としては
向うの
事情がわかりませんから、あえて乱そうと
思つて売つたわけではないのでありますが、結果においては、やはり乱れたわけであります。極端なものになりますと、ほとんど
小売屋に近いものがオツフアをよこす。そうすると百箱、二百箱でもこれを
輸出する。その場合、
アメリカにおける
販売の経路は、非常に組織立
つておりまして、その間、商人としては
相当のマージンを見ておるわけでありますが、ごく最末端の方に、同じような値段のものが飛び込んで
行つては、
大手筋の
インポーターとしては非常に迷惑を受ける。
かたがたアメリカの
生産業者といたしさしては、同じく
大手筋を適して正常の
ルートによ
つて流しておる
ところへ、
日本からそういうものがどしどし行き、しかも
相当の安値で
販売されるというので、
アメリカの
生産者はもちろんのこと、
販売業者まで
相当の迷惑を受けたことは、確かだと思うのであります。
そこでたまたまメキシコと
アメリカとの間の
協定によ
つてツナの
輸入税が二二・五%であ
つたのでありますが、それを
アメリカが
昭和二十五年七月一日に廃棄する通告をいたしました。その結果、六箇月後の
昭和二十六年一月一日から四五%に
引上げられたわけであります。そこで
日本からの油づけの
カン詰の
輸出はほとんど不可能に
なつたわけであります。これにつきましては
戦前も問題が起きました当時、やはり四五%に
引上げられました。しかしながら
生産制限と共販の協力によりまして、円滑に
輸出をしていたのでありますから、今日でも四五%でいいではないか、こういう
考え方を現に
アメリカの
有力商が持
つております。しかし当時と今日とは非常に
生産コストの條件が違
つております。第一にごくわかりやすいものは
空カンの値段であります。たとえば
アメリカにおける
カン詰会社が使
つている
空カンは、
ブリキにいたしまして、現在一トン六万九千円ぐらいの
ブリキを使
つております。しかし
日本ではやむを得ない
事情のもとに、
八幡製鉄から
製カン会社が買います
ブリキの値段は、昨年われわれが非常に努力をいたしまして、値下げをお願いした結果でも、なおかつ十三万円であります。それだけでも当時とはまつたく
事情を異にするのであります。もちろんそのほかに
労働基準法等による賃金の増高というようなこともございます。その他
水産庁でこまかい資料をつく
つてありますが、
税金等のこともありまして、
戦前とはまつたく
コストが比較にならぬのであります。
従つて今日においては四五%の
税金をかけられては、まつたく手も足も出ないわけであります。一昨年百二十五万箱出たものが、昨年は油づけでわずかに二十二万箱であつたかと思います。これは
冷凍を
輸出される場合に、魚のきずものが出たり、あるいは鮮度の悪いものなどを、場合によ
つてカン詰会社がごく安く買いと
つてカン詰にすることによ
つて、初めてごく少量のものは出せるのでありますが、正常な
輸出はできないのであります。油づけは四五%でありますが、塩水づけの
カン詰は
アメリカと
アイスランドとの問に
協定がありまして、一二・五%の
関税率でございます。そこでわれわれ
業界といたしましては、やむを得ず昨年の五、六月ごろからでありますが、ぽつぽつこれをつく
つて輸出をするようにな
つたのであります。
ところが、これは現に
アメリカで、
標準カンである七オンス
カンが、油づけは一
カン三十二、三セントで売られておるそうでありますが、塩水づけの方は二十一、ニセントで売られてお
つて、一
カン約十セントも安い。しかしこれを調理して食べる場合はほとんどかわりがないと
言つてもさしつかえないくらいな品物でありますので、これがまた非常な人気を呼びまして、どんどん
輸出が伸びて
行つたわけであります。途中から始めた仕事でありながら、昨年たしか三十六万箱
輸出いたしたわけであります。そこで
アメリカの
業者としては、これはまたたいへんだ、こんな
代用品のようなものを売り込まれてはたまらぬということで、これに対して油づけ同様四五%の
税金にまで
引上げようという
運動が強力に行われたわけであります。幸いと申しますか、一時間的には
アイスランドとの
協定がありますために、昨年の下院におきましてもこれが取上げられないで今日に及んでおるわけでありますが、各
方面からの陳情によりまして、先月の末から今月の初めにかけて、
アメリカの
関税委員会が
大統領の命によ
つてこの問題を調査することになりまして、
公聽会を開きました。
公聴会にはわが方からも
向うで依頼してあります弁護士あるいは二世の方等が出て、いろいろと
日本の
事情を訴えて抗弁をしてくださつたわけでありますが、
冷凍と
ブラインと打
割つた話を申し上げますと、
冷凍の方は、
アメリカでもぜひ
日本の
冷凍を
買つてカン詰をつくらなくてはならぬ
生産者が
相当におるわけであります。
従つて税金を上げてはいかぬということについての見方が
カン詰よりは
相当多いということなのであります。そこで
関税委員会における
公聽会の模様を情報によ
つて判断いたしますと、
相当の効果はあつたけれ
ども、
冷凍と比較すれば、やや
日本側の
意見の発表の方が力が弱いという感じが受けられるそうであります。そこで
公聴会は
終つたのでありますが、
公聴会終了後
委員が約二箇月にわた
つて実地調査をするそうであります。その上で
関税委員会としての
意見をまとめて
大統領に報告をするわけであります。その後において何らかの
措置がとられるのであります。その
措置と申しますのは、これもいろいろ情報によ
つておりますので、非常にはつきりしたことではないのでありますが、たとえば
アイスランドとの間に
ブラインというものの
協定があるのでありますけれ
ども、
アイスランドと
アメリカがこの
協定をした当時はツナ・
ブラインというものはなか
つたのであります。
従つてこの
協定の中にはそういうものが含まれていないという解釈もすれば成り立つわけであります。必ずしも
協定廃棄とまで行かなくても、そういう解釈によ
つてアメリカの方から
アイスランドへ通告をして一定の期間を経過すれば、それは
協定から除かれるのではないかというような説もあるようでございます。
大統領といたしましては、愼重に
関税委員会に調査せしめまして、
協定の破棄なりあるいはそういう方法をとるなりされるのではないかと思うのであります。そこでわれわれといたしましては、現に
平塚さんが
冷凍、
カン詰の代表として
向うへ
行つて、いろいろと各
方面への
運動をされておりますが、
平塚さんの情報によりましても、やはり
関税委員会が
意見を決定して
大統領に行くまでの間で、何とかこれを食いとめなくてはならぬ、また
大統領に
行つた場合でもそういう
措置をとられないように、いわゆる国際政治問題として考えていただく以外に道はない。これは
平塚さんがおいでになる前から、お互いの間でそう考えておりましたが、
平塚さんの御報告もまさにその
通りなのであります。そこでわれわれとしては、ぜひとも
議会方面におかれましてもこの問題を特にお取上げ
願つて、やはり
日本の輿論を十分に
アメリカ側に反映していただくようにお願いしたいのであります。過般
冷凍業者と
カン詰業者と
まぐろ、かつお
漁業者と一体となりまして対
米輸出まぐろ対策協議会というものを、結成して、高崎さんを会長として
相当大きな
運動を展開しておるのでありますが、この
運動の効果はある程度上
つておると思います。ということは、
平塚さんの情報によりましても、昨年の暮れごろには、
冷凍についても
カン詰についても立ちどころに
税金を上げられることがほぼ必至だというような情報が盛んに参つたわけでありますが、その後
協議会といたしまして、いろいろと
アメリカの各
方面へ働きかけました結果、過般
関税委員会の
公聽会においても、また
冷凍まぐろの上院における
公聴会におきましても、これに反対する
意見もかなり強力に出たそうであります。
従つてこれが下院で通過し、あるいは
ブラインを四五%に
引上げるというようなことが立ちどころに行われるという情勢は、大分緩和されたと思うのでありますが、いずれにいたしましても、
冷凍もまた
ブラインも
相当の
税金をかけられました場合には、非常に
輸出は困難となりまして、かりにこれを
輸出する場合には、結局、そのしわが
相当に
漁業者に寄
つて行くという結果になるのではないか。そうした場合においては、
日本の
水産業の
振興という建前から申しましても、非常に重大な問題になるのじやないかと私
ども考えるのであります。もちろん
税金が上りますと、
冷凍業者も
カン詰業者も、かりに
漁業者にしわを寄せたとしても、
相当やりにくくなり、ほとんどできなくなると
言つてさしつかえないと思う。
なお
冷凍のことは立川さんから專門的に
お話があるかと思うのでありますが、
日本の
ツナ産業全体といたしましては、やはり
冷凍と
カン詰が常に並行して
輸出されない場合には、決して健全な姿ではないということが、過去の実績によ
つて明らかなんであります。たとえば一昨年は
カン詰が非常に盛んに出たものでありますから、
冷凍の方としては非常にやりにくい
状態であつたわけです。一方昨年は
カン詰がほとんど
輸出できませんでしたために、今度は一時
冷凍の方はやりよいようにも見えましたけれ
ども、だんだん伺
つておりますと、やはり買いたたかれるとか、あるいはクレームをつけられるとか、何だかんだして決して円滑な
輸出はできなかつたわけであります。
方漁業者といたしましても、
カン詰と
冷凍が同じような歩調で買われた場合に、初めて
漁業者としても採算もある程度いいでしようし、安心して仕事もできるんじやないか。
そこで私
ども考えますことは、現に
アメリカのある報告等にちよつと名前が載
つております。がツナ・ボート・アソシエーシヨンのチエアマンであるチヤツプマンさんの思想は、油づけにも塩水づけにも、それから
冷凍にも、またペルーから入るそうだがつおの
カン詰にも、その他南米から入るツナ類に対して、平均して
税金をかけるということを、根本に持
つておるようでありますが、具体的に申し上げますれば、われわれとしては現在
冷凍は無税、それから
カン詰の塩水づけは一二・五%、そうして幸いにして通商
協定等によ
つて、油づけ
カン詰がせめて一昨年の二二・五%に引下げられるならば、非常に
日本の
ツナ産業としては健全な姿になるのじやないか。私が
冷凍のことを申し上げるのも何でございますが、
カン詰の方は、御案内の
通り、安い労働力が加工賃としてその中に含まれますために、
アメリカよりも非常に有利な点があります。そういう点を考慮しますならば、平均とい
つても、
冷凍にはやや低く、
カン詰にはやや高くても、平均はとれると私は考えるのであります。
従つてぜひとも
冷凍無税、塩水づけは一二・五%、油づけは二二・五%ということになりますならば、非常に健全な
輸出ができるのじやないか。もちろん、この塩水づけにつきましては、
アメリカの
生産業者としてはいろいろな
事情で、それではおれの方でもやろうということにならないのであります。というのは、
日本では手で詰めておりますが、非常にきれいに詰まるわけであります。
アメリカはマシン・パツクであります。油を詰めた場合には表面がある程度落ちつくのでありますが、塩水の場合は落ちつきませんから、マシン・パツクだと非常にきたなくなる。外観が非常に悪くなりますので、
日本のまねをして、塩水づけをしても、競争にならぬのじやないかと思います。そんな関係も多分あ
つて、
アメリカの
業者は塩水づけをつくろうとしないのであります。
従つてわが国業者としては、もし油づけを二二・五%に引下げられるならば、塩水づけは好んで
輸出する必要もないし、また
向うさんの御
意見がそういうことであれば、自粛すればいいのじやないかと思うのであります。
要するに、先ほどの松田さんの御
意見にあつた、
業界としても反省しなければならぬという点につきましては、十分考えておるのでありまして、幸いその後の情勢から申しまして、ある極度
事業者団体法、
独禁法等の取扱いにつきましても、現実の問題として少しは緩和されつつあるという
事情もございますので、
カン詰といたしましては、過般
販売会社をつくりまして、なるべくこの会社を通して、
販売の
ルートが乱れないようにしようということで、目下資金のことで銀行の御了解を得つつあるわけでありまして、大体順調に進んでおるわけであります。
一方政府におかれましても、貿易管理令を改正されまして、場合によ
つては
向うの
市場を乱さないように、無理に押し込まないように、この辺がいいというような
ところで数量のチエツクをする。またダンピングを防ぐための価格のチェックをするということにな
つて数量の点ではまだチエツクしておりませんが、価格についてはすでに通産省がこれを実施しておられるわけであります。
日本側といたしましても十分反省の誠意を示しておるわけでありますから、願わくは、
アメリカ側においても、
日本の非常に苦しい、また
経済自立の上からぜひとも
まぐろの
輸出をある程度
アメリカになさねばならぬという観点から申しまして、
まぐろ産業の安定を
日本のために考えていただきたいと、われわれは願つおるわけであります。
もちろん、過般の大会におきましてリツジウエイさん、副
大統領である上院のバークレーさん、それからダレスさんがこのことについては非常に関心を持
つておられたようであります。それでそれぞれ嘆願をいたしまして、
運動をや
つておるわけでありますが、
アメリカの新聞等に
相当日本の立場を表明するような記事でも載ればいいのでありますけれ
ども、
相当の金を使うなり、何なりしなければ、なかなかそういうことも困難であります。できれば、今後のこともありますので、政府御
当局におかれましても、議会等の関係において
まぐろ産業のために、場合によ
つてはある程度の予算をと
つていただいて、宣伝費と申しますか、そういう有用な道に使い得る
相当の額をおとりきめでも願つたら、安定策に非常に効果があるのではないか。
業界といたしましては、
まぐろについてはいろいろなことで非常に金を集めてや
つておりますが、いかんせん、
経済の浅い
日本の
業界といたしましては、
アメリカとまつたくけたが違
つております。
アメリカの
業者はこの反対
運動のために何十万ドルという金を立ちどころに集めて、強力にや
つております。われわれの方では、過般
アメリカに
運動費として送
つたのがわずかに一万ドルであります。こんなことではとても金では対抗できないのでありますが、せめて政府におかれましてもそういう点に御留意
願つて、予算でも御計上願えたならば、幾らかでもこの問題解決のために有効に使えるのじやないか、これはお願いとして申し上げるのであります。