○
金子委員 私はここに上程されております
戰傷病者戦没者遺族等援護法案に対して、反対するものであります。
提案された
政府提出原案に反対するとともに、
自由党修正案に対しても、これは末梢的な
部分修正にとどまるのでありまして本
法律の
目的を達成するためには、相当不満な点が多いのでありますので、この点についても反対いたすものであります。もちろん本
法律の
目的そのものに反対するものではないのでありまして、その
内容が、わが改進党が年来主張しているものとはなはだしく相違しておる、どうしても納得できない、こういう点にあるのであります。
次に、そのうち重要な諸点を申し述べますと、第一に、本
法律の
性格の問題であります。戦争に参加いたしまして
傷病者となり、あるいはまた戦死した
人々は、自己の
意思いかんを問わず、国の
至上命令として動員されたものでありまして、
従つて、国が当然その
補償、すなわち償いをなすべきだ、こういう考え方を持つておるのであります。そこで本
法律の表題は、
戦傷病者戰没者遺族等補償臨時措置法というふうな形に改むべきだと思うのであります。また今国会において議決された
軍人恩給特例法も、
昭和二十八年四月までの期限であるとすれば、当然一箇年の
臨時措置法でありまして、それまでに
恩給法特例審議会等において、拔本的な
法律を立法いたしまして、そうして
補償対策を確立しなければならない、こういうことを考えておるわけであります。ただいま
高橋委員が御
説明になりましたように、この問題を後に
附帯決議としておきめになるということであるならば、何ゆえにこれを
法律として今
修正できないかということに、私は大きな疑問を持つものであります。この点は、
遺家族厚生連盟や、また去る
厚生委員会におきまする
公聽会の
公述人の大多数の
意見も、そういうことを主張しておるのであります。
次は、
年金支給の
金額でございます。
戰傷病者の
障害年金の
政府案によりますと、
特別項症年六万六千円、第一項症五万四千円、以下六千円下りで六項症までとし、二万四千円でとどまることに
なつておるのでありますが、これをかりに戰争当時伍長であ
つた者を、
現行一般の
恩給法の
規定を適用した場合には、その
受給者は、年額にいたしまして
普通恩給、
増加恩給、
扶養加給かりに二人といたしましても、
特項症の場合には九万二千五百余円、一項症の場合には七万三千六百余円となるのでありまして、その間に非常な開きがあり、
恩給規定の七割強にしか当つておらないのであります。
また
遺家族年金について見ますると、
現行の
恩給法では、かりに月給一万円の公務員が公務で
死亡いたしたと仮定いたしましたときに、その
遺家族が受けますところの
扶養手当は六万六千円及び
子供一人当り四千八百円という
金額を
支給されるのに対しまして
本法によりますところの
戦死者の
遺家族は妻一万円、老
父母とも五千円、こういうふうにこれまた比較にならない少額になるのでございます。
次に
本法案は、船員、学徒、徴用工等の戰争犠牲者を、
援護の対象から除外している点であります。船員の場合、当時直接軍から
給與を受けてお
つた者のみを取上げておるのでありますが、御承知の通り、戦争当時は、直接軍から
給與を受けておるといなとを問わず、同じ立場に立つて戦闘に参加いたしたのでございます。
政府の
説明によりますと、厚生
年金あるいは船員保険というようなものによつて
支給されているというのでありますが、これは問題が筋違いでありまして、この金は
国家の
補償という今回出す金とは
性格が違うのであります。次に学徒、工員というものも、総動員法によりましてこれまた
国家のために殉じた者でありますので、当然この中へ入れなければならぬ、こう信ずるものであります。
それから、次は生活保護法を適用されている
傷病者遺家族の問題でございます。この問題について、
法律としては何ら触れておらないのでありますが、
政府はこの問題は、出先の機関において運用上よろしきを得るという
説明にとどまつているのでありましてそれでは私どもは納得が行かないのであります。たとえば、東京都におけるところの戦争未亡人が、
子供二人、親二人、計五人の家族を持つたといたしますと、生活保護法による
支給金額は六千六百九十余円を
支給されているのでありますが、この場合それが戦争
遺家族として今度の
原案によつて
国家から
年金を
支給された場合に、月額二千五百円に当つているのであります。そうだとすれば、生活の最低線を保持しようとする気の毒な
遺家族に対しては、今度の
法律による恩典というものは、経済的には何ら意味がないという結論になるのであります。なお場合によつては、そのために失格もしなくちやならぬということにもなるのであります。
政府の
説明しておりますところの
遺家族援護に要する経費の
説明におきましても、生活保護費が四億三千七百余万円節約できるということを、
はつきり言うておるのであります。こういうことではなりませんので、われわれは前から、今度の
補償は、この生活保護法とのかみ合いができることも憂慮いたしまして、生活保護法によるところの最低生活を保持する
金額は、どうしても
年金として
支給しなければ、こういう問題が起るということは、かねがねこの
委員会においても主張しておつたのでございます。
以上は、問題になる点のきわめてあらましの三、四の点を述べたのでありますが、
厚生委員会といたしましては、戦争犠牲者
援護補償の問題を取上げまして昨年第十国会以来一年有余にわたりまして
厚生委員会において小
委員会を置いて、
会議を重ねること三十数回、與党野党を問わず、まつたく一致いたしまして、熱心にこの問題を研究いたしたのであります。その結果、
厚生委員会の決議として
政府に申入れたのであります。私がただいま述べておりますところの諸点は、当時その決議の中にも含まれておつたのであります。
従つて、與党の
諸君も、この問題は当時は重々
賛成しておられた問題でございます。しかるに
政府は、
厚生委員会の決議した案に比較的近かつたものを主張しておつた前厚生大臣案を、橋本個人案だというようなことで葬つてしまい、なおその上に橋本厚生大臣の首をすげかえて、兼任大臣であるところの現大臣を充てまして、そして
総額二百三十七億円と、
公債一人当り五万円、こういう
金額を予算に計上して、強引に予算を通過させたのでございます。
政府は
本法案の
審議にあたりまして、各
委員が質問に当りますと、常に御趣旨の点はよく了解しておる、しかし遺憾ながら予算がないからやむを得ぬ、こういうふうなことを答弁しておるのでありますが、一体
法律案がどういうものであるかということを、全然国会に提案しないでおいて、そして予算の頭金だけをきめておいて、あとで金がないということは、私はどうしてもりくつが通らぬと思うのであります。のみならずこういうふうなやり方は、国会における法案の
審議を無視するものであると私は思うのであります。本件は、一箇年前から
委員会が取上げて、この
金額も相当の
金額を要しますし、しかも
法律の
内容はいろいろの
法律のかみ合いがあります複雑なものでありまするがゆえに、一層こういうふうな
法律に対しては、まず
法律というものを先に出さなければならない。また
委員会において一年も前からそういう問題が熱心に研究されておることを、
政府は十分知つておるのであります。にもかかわらず、予算を通してから
法律を出して来ておる。こういうことでは、私どもはこのあり方に対しては、どうしても納得が行かないのであります。
最後に、私は一言申し上げますが、私どもは、野党なるがゆえに、できない相談を持つて行つて反対するというふうな考え方は、毛頭持つておりません。国の財政にもおのずからある
限度があることは、よう承知しておるのであります。しかしながら、戰争犠牲者は、まつたく
国家のために赤紙一枚で動員されたものでありまして
国家存立のために一命をささげたのであります。これらの戰沒者二百万のうち、はたして軍国主義者として行動した者が一体何人あるか、ただ純真な気持で、
国家のために盡すのだという一念で、犠牲に
なつた人たちなのであります。一方、戰争中に軍の指導者たちと、また軍閥とともに、この戰争に国民をかり立てたという大きな役目を果しておるのは、役人であります。官僚であります。その官僚たちは、追放解除者も恩給や扶助料、
障害年金というものをただちに受けておる。職業として割がいいから、悪いからといつて選択したのでもない、赤紙で動員されて、そして
国家のためと思つて働いて、手を失つたり、あるいは足を切つて、松葉づえにすがつて、あるいはその
遺族が生活に困窮しておる。こういう者に対して
国家の
補償が少いということは、私はどうしても合点が行かないのであります。
私は
皆様方に、静かにあの戰いたけなわでありました七、八年前に思いをめぐらしていただきたい。いなかといわず、町といわず、全国の津々浦々で、毎日のように村人、
子供、婦人会の日の丸の旗の波と万歳の声に送られまして、そしてひたすらにお国のために命をささげて出征された若人を、戰争に負けたからといつて、
国家に銭がないのだからしかたがないのだ、―銭がないならば、
国家はあらゆる人たちに対する
補償を打切るならば、これは別です。しかしながら、一方の公務員は既得権だ、この人たちは戰争に負けたのだからしかたがないのだ、というようなことであつてはならない、こう私は信ずるのであります。政治の要諦は、国民の信頼でありまして、国民の信頼は、信義を守るということであります。敗戰国として国費に限りありとしても、少くとも、同じようにいろいろな立場にある人たちが、機会均等に
国家の恩典に浴するということでなければならない。そうすることによつて、私はたといその
金額は少くても、納得してくださることだと思うのであります。そういう観点から見ましても、この
法律案というものがあまりに矛盾が多過ぎる。
従つて以上申し上げたような趣旨をもちまして、
野党連合といたしましても、
修正案を出すことに
賛成しまして、そうして手続をいたしましたところが、遺憾ながら現段階においていけない、ノーという返事であります。しかしながら、私どもは、今は占領されておりますのでやむを得ませんが、数旬にしてほんとうにわれわれの考え方によつて、この
法律というものが
審議できる時期が参るのであります。
従つて私は
本法案に対して、また
修正案に対して、反対であると同時に、
本法案を、独立後において新しく独自の立場において、正しく立法することを希望して、反対
意見を終ります。