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山際参考人 私ただいま御紹介にあずかりました
輸出銀行の
専務理事をいたしております
山際でございます。本日は広く
貿易計画に関する所見を申し上げるようにということでございますが、私の関与いたしております仕事は、
貿易のうちのまたきわめて制限された狭い部分でございます。一般的の事柄につきましては、私特に申し上げるべきほどの知識経験も十分ではございませんから、従事いたしておりまする
輸出銀行の業務を中心といたしまして、その最近の状況を御紹介かたがた、いささか将来のこの
輸出銀行が担当しておる
貿易面のことについて申し上げたいと存じます。
輸出銀行は御
承知のように、一昨年の十二月に法律を御制定になりまして、昨年の二月一日から業務を開始いたしました。その仕事は、
日本の
輸出品の中で俗に言う
プラント輸出、すなわち工場設備でありますとか、重
機械類でありますとか、船舶とか車両、重工業並びに重
機械工業方面の
輸出品について、やや
長期の運転資金を供与することによ
つて、その
貿易の伸張をはかるというのが目的にな
つているのでございます。
ちようど去る一月三十一日で満一周年に当るのでございますが、その間の実績を
ちよつと御
参考までに申し上げますと、
輸出銀行が昨年の二月一日業務開始以来先月末まで一箇年の間に、それらの
輸出を目的といたしまして、資金の融通を承諾いたしました金額が八十九億円でございます。その中に
現実に資金を放出いたしました金額が七十五億、すでに回収になりました金額が約十四億ございますので、一月末の残高は六十一億二千四百万円にな
つているのでございます。この実績が、はたして過去一年間において、
日本の
貿易上
計画されてお
つた予想とどうであ
つたかということを
考えまするのに、私は一昨年の末
輸出銀行の法律を国会で御審議になりました当時の予想に比べますれば、今申し上げました過去一箇年の実績は、いわば十分でないというように申し上げねばならぬかと思うのでございます、安定本部がお示しにな
つております
国際収支の
見通しの表によりますと、二十六年度の
機械輸出の見込みは一億二千五百万
ドルということにな
つております。
機械類の
輸出の中で今申し上げましたプラント物が占めます割合は、大体において五割と見られておりますから、六千数百万
ドルの
輸出が行われるというお見込みにな
つているわけでございます。二十六年度に関します限りは、私
どものただいま申し述べました実績にも照し合せまして、この
程度の
輸出は可能であろうと思います。しかしながらこれはおそらく一昨年国会において
輸出銀行法をおつくりになるときに御審議になりましたお見込みに比べますれば、比較的低い数字でありまして、なお
計画に対してはどのくらいの割合と申しますことも、非常に困難でありまするけれ
ども、おそらくせいぜい七、八割の実績ではなか
つたかと思うのでございます。
なぜそれでは
日本の
プラント輸出というものが、昨年中において予期のごとく伸びなか
つたかということを
考えてみますると、いろいろそれには原因もございましようが、一番先にわれわれが目につきますることは、やはりその価格の問題でございます。プラント物の
輸出に関しましては、これを購入いたします各国は、おおむね国際入札によ
つて契約を結んでおりますが、その入札は、ずいぶん各地において行われたのでありまするけれ
ども、
日本がこれを落札したというケースが割合に十分でなか
つた。その一番おもな点は、その価格の問題であ
つたと思うのであります。なぜしからば価格が高いかということにな
つて来るわけでございますが、これはまたいろいろな原因を包含しておると存じます。プラント物の
輸出につきまして一番
考えられますることは、何と申しましても鋼材の価格の問題でございます。ごく大体論を申し上げますと、
日本と競争になります国は、ドイツ、イギリス、ベルギーなどがおもな競争国でございますが、これらの国における鋼材の
国内の価格と、
日本の鋼材の
国内価格と比較いたしますと、大ざつぱに言
つて日本が約倍であります。倍の
値段の鉄材を使
つて、それに加工をして
輸出するのでありますから、価格の点において、すでに出発点において
相当のハンディキャップがついておると思うのであります。そのほか單に鋼材に限らず諸種の
原材料につきましても、やはり物価が割高にな
つておるということが、
プラント輸出の振興について、
相当な妨げにな
つておるということは、おおい得ない事実であろうと思います。そのほかプラント物を製作いたしまする
機械設備が、すでに
わが国においては国際設備に比べますれば遅れておりまして、能率も十分でないということが、また価格面に
相当の影響を持
つておることと思うのであります。それに加えまして、御
承知のように
日本は、従来
機械類の
輸出ということはあまりいたさなか
つたのであります。それは
国内の建設、また外地の建設などに追われておりまして、
機械類はむしろ
輸入国として立
つてお
つたのでございますが、終戰後
経済情勢の一変とともに、
日本が現に持
つておりまするところの、重工業設備、また各種の
機械工業設側を十分に活用して参りますためには、どうしてもこれは
輸出の形においてその設備を活用するより仕方がないという場面に遭遇いたしましたので、プラント物の
輸出ということが戰後の新しい
輸出品として行われるように
なつたわけでございます。そういたしますと、プラント物の購入と申しますことは、
簡單な消費材の購入と違いまして、買います方でも一定の産業
計画、事業
計画に従いまして、一旦
輸入をいたします以上は将来長きにわた
つてそれを使わなければならぬという
関係にありますので、どういたしましても従来から信用の高い欧州物などに依存するという
傾向になりがちなのは、当然想像されるところでございます。それに対しまして
日本の重工業なり
機械工業なりの状況というものは、まだ世界の国々には十分知られておりません。ただいま申し上げましたように、戰前においてはその機会がなか
つたのでございまするから、
従つて、今後の努力によ
つて、
日本ではどういう種類の
機械がどの
程度できるということを知らせて参らなければ、なかなか注文が来ないということにな
つておるわけであります。それらのいろいろな原因が重な
つて参りまして、
プラント輸出はなかなか思うように進展いたしがたい状況にあるわけでございます。
そのような情勢のもとに、
経済安定本部のお示しにな
つております表によりますと、二十七年度は
機械類の
輸出を二億四千万
ドルと見込んでおられます。もし従前の通り約半分が
プラント輸出であるということになりますと、一億二千万
ドルからの
プラント輸出をせねばならぬということになるわけでございます。最近プラント物の引合いの状況を見ますると、今申し上げましたようないろいろな理由のために、あまりその引合いは活溌でないのでございまするが、わずかに二十六年度のこの
見通しの数字を保
つておりますのは、現在の特殊な現象といたしまして、
アメリカからの船の注文が
相当たくさん参
つておるのでございます。このゆえにプラント物の
輸出の数字が
相当伸びておる状況にな
つておるのでございます。現に
輸出銀行といたしまして
アメリカの注文による船舶、これは全部タンカーでございますが、すでに資金の融通を承諾いたしておりますものが、六隻で十一万
トンにな
つております。なお現在申込みを受け、または内談がありますタンカーが、十一隻二十三万
トン、これを両者合計いたしますと、今日まですでに資金を融通し、もしくは内談が参
つております
程度のものは、三十五万
トンに近いということになるのでございます。この数字のゆえに
プラント輸出の数字がやや今日示されたような数字を保
つておると思うのでございまして、それらの特別のものを除きました一般
機械類に関しまして情勢を
考えますと、なかなかこれは将来楽観を許さぬ状況にあると
考えるのであります。
先ほど来、
日本の物価水準が比較的高いために、国際競争上不利であるということを申し上げたわけでありまするが、さらばさような状況のもとにおいてなぜ船がさように注文されるかということになりますが、これはもうすでに御
承知の通り、世界における、ことにタンカーの建造需要というものは非常にたくさんでございまして、ヨーロッパの目ぼしい造船国の船台は、すでにここ三年、四年の注文は全部と
つておるという状況であります。やむを得ず
日本の方へその注文がまわ
つて来ておるというのが
実情にな
つておるのでございます。
日本のタンカーの問題にいたしましても、なおある
程度出ておりまするプラント物の
輸出につきましても、要するに
値段の点では、そのように比較的不利益ではあるけれ
ども、ヨーロッパ各国と違いまして建造の期間が短いということが、唯一のとりえにな
つておるのでございます。でありますから価格は比較的高くても、早くその品物を受け取
つてかせがした方がそろばん上有利だというときには、
日本物を買
つてくれるわけでありまして、それらが相ま
つて今日示された数字を維持しているという状況になると言えるのであります。
ただ過去一箇年間における
輸出銀行の業務の面を通じまして、それがかねて問題にな
つておりまする
ドル地域、
ポンド地域の
関係において、どういう数字にな
つておるかと申しますと、比較的
ドル払いが多いのでございます。すなわち
ドル払いは全体契約の六四%、
ポンド払いが二八%で、他の八%がオープン・アカウントということにな
つております。これはしかし、
先ほど来申し上げております
輸出船の建造が
相当まとま
つており、しかもそれが全部
アメリカから参
つておるということのために、生じておる現象なのでございまして、将来だんだん継続発展を予想されるところの、その他の
機械類ということになりますと、なかなか
ドル払いが、このような調子には参らぬのでございまして、
日本の工業水準の発達の現段階などから
考えましても、やはりこのアジア
地域における
輸出市場というものが、
日本の
機械類の
プラント輸出のおもなる先ということに
考えざるを得ないと思います。そういたしますと、先般来問題にな
つておりまする
ドル、
ポンドの問題にも当然響いて参ることになろうと思います。今後の問題といたしまして特に私
どもの方では、本年の新しい場面といたしまして、單にプラント物の
輸出ということのほかに、
先ほど来からも問題にな
つておりましたアジアの
経済開発に対する協力の問題が、やはり今年の新しい課題として取上げられて行くことになろうと思うのでございます。これは一面におきましては、
日本が
輸出を継続いたしますための
原材料を、アジアの市場において確保することによ
つてその事業の永続性を確保し、またものによりましては、比較的安い原価で、この
輸入ができるということにも役立ちましようし、またある場合におきましては、従来
ドル地域において購入いたしておりましたものを、
ポンド地域から購入できるという
輸入市場の転換ということも期待し得るかと思うのでございます。
先ほども例にお引きになりましたが、インドのポルトガル領であるゴアにつきまして、
鉄鉱石の開発の設備をこちらから
プラント輸出いたしまして、その代金の決済は、よ
つて生じた鉱石によ
つて支払いを受けるという方式は、これはポルトガルのゴアは、
ドル地域でございますけれ
ども、やはり原料を
アメリカよりも比較的安く確保できるという
意味合いも含めて、今後行われるアジア
経済協力の
一つの例になろうかと思うのでございます。なお本年はかような
輸出金融の
方法によ
つて、原料の確保をはかるということのほかに、
輸出金融、これは
輸入と申しましても、一般の商品の
輸入ではございませんで、開発を伴
つて、こちらから
輸入の前金の形で資金をあらかじめ出してやることによ
つて、その
生産物を
日本へ継続的に
輸入できるような
輸入金融をやる、こういうねらいなんでございまするが、今年の課題といたしましては、ぜひこれをやりたいということで、それには法律の改正を要しますから、ただいま
政府の
当局と相談をいたしております。おそらく不日御審議を願うような段階になろうと思いますが、この方式による
輸入金融と、従前の方式による
輸出金融と、両々相ま
つてアジアの
経済開発に協力するという方式で、さらに本年は進むことになろうと思うのでございます。
そのほかに現在問題とな
つておりますところの日米
経済協力の現われとして、
日本の
機械類を
アメリカが、臨時的ではありましようけれ
ども、とにかく買おうという状況にな
つておりますが、あれな
どもやはりプラント物の
輸出の
一つの項目にな
つて来ようかと思うのでございます。さらにまたこれは将来の問題でございますが、
考えられますことは、たとえば役務賠償と申しますか、
日本が役務によ
つて賠償を支払うというような場合に、その役務によ
つて建設すべき設備等の資材を、
日本からもし
輸入してもらうことができますならば、そこにまた
一つの
プラント輸出のチャンスがあるということになろうとも思われるのでございます。これらいろいろな将来伸びて行く方面を
考え合せまして、ぜひとも
日本に現在能力として過剰にな
つておりますところの重工業なり
機械工業なりを、この
輸出貿易の面において大いに役立たせたいと
考えておるのでございますが、しかしながらこれら各種のものを動員いたしましても、前に申し上げましたような物価の
関係その他におきまして、はたして二十七年度は、ここにありますような今年に倍加する二億四千万
ドルの
機械輸出が可能であるかどうかという点になりますと、私
どもは率直に申しまして、よほどこれは努力を必要とする数字であろうと思
つております。全体といたしまして
日本が
貿易に
経済自立の基礎を置き、その
貿易の一環といたしまして重工業、
機械工業の製品の
輸出を
考えるという
立場から
考えて参りますと、どうしても私は本年において特に皆様方に御留意を願いたいと思いますことは、
日本の重工業、
機械工業というものを、
輸出産業の体制に切りかえるということであるのでございます。すなわち厖大な内需を控えておりました
日本の重工業、
機械工業というものは、能力がそのまま残
つているのでございまして、もし将来内需のみを満たすということに
考えますならば、今日ほどの重工業設備や
機械工業設備は必要ないのでございます。しかしながら
貿易に基礎を置いて八千万の国民が生活を立てて行くという見地から申しますと、どうしてもこの貴重な設備と知識、経験を動員いたしまして、重要なる
輸出品としてプラント物の
輸出を促進せねばならぬと思うのでございまして、これにはその根本の
考え方を、重工業、
機械工業が
輸出産業であるという頭に、官民切りかえることが必要ではないかと思うのでございます。これは
政府の
施策のみではありませんで、従事いたしております
業者自身も、この点について十分な将来の
見通しを立てる必要があろうと思うのであります。現在、
先ほど水上さんからお話がございましたように、
国際収支の上におきましてはバランスが好調であるとは申しますものの、
内容的に検討いたしますと、
特需であるとかあるいは在留外人の散布するところの
外貨資金などによ
つて、
相当の分がカバーされておる
国際収支でございます。
貿易部分をこれらの臨時的な要素にと
つてかわらせまして、
拡大された、安定された状況まで持
つて行くためには、非常な努力が必要ではありますけれ
ども、ぜひともそうして行かなければ
日本の
経済を維持する
程度の
貿易企業にまで伸ばすことはできないと思うのでございます。なお重工業、
機械工業を
輸出産業として
考えるということにつきましては、たとえば外国へ売り込んでおりますこちらの
機械類メーカーのごときも、内需がありませんと、どつと外国へ人を出したり注文をと
つたりいたしますけれ
ども、
国内でやや大きい
特需が出るとか、何らかの形で
国内需要がふえたとなりますと、すぐに対外的に働きかける努力をやめてしまうのでございますから、これはやはり将来長い
見通しのもとにおいては、
輸出しなければだめだというところの精神が徹底していない結果のように思うのでございまして、この機会に私はその点について十分な
考え直しを必要とするのではないかということを、最近痛感いたしておるのであります。なおその実行のために必要なことは、
先ほど申し上げました
国内物価の問題でございますが、これはなかなか重大な問題でございまして、おそらく
経済政策の総合的な結果がそこに現われておるのだろうと存じます。單に
貿易の見地からのみ論ずるわけには参りませんけれ
ども、これらも
貿易の点と関連いたしましてだんだん解決されて行くことを願
つておる次第でございます。
あまり
関係いたしておりますものも広くございませんために、御
参考にならぬことも申し上げたのでありますが、私の担当しておりまする仕事の分野につきまして、一応所見を申し上げた次第でございます。