○木内政府
委員 そういたしますと、
外貨予算の
説明をする責任官庁は安本でありますが、安本の方から御
説明があつたものという前提のもとに、政府として今どういう態度をとりつつあるか、その裏に一体どういうことが考えられているのか、あるいは今後向うべき方向はどうであるかという点を主眼にいたしまして、多少感じておりますことを申し上げたいと思います。
外貨予算制度を実行いたしましてからすでにまる二年になり、大分なれて参りました。
予算というものを組む組み方、それに必要ないろいろな計数の準備、先がどうなるであろうかという予想等は、かなり慣熟して参りましたから、安心な気持が出て来たのであります。かつこれは喜んでいいかと思いますが、私はこの間外国をまわりましたとき、欧州においても、イギリスにおいても、アメリカにおいても、
日本の為替管理の運営は非常によろしい、非常にはつきりしているし、私
どもが先は大体こうなるであろう——昨年例の有名なる巨大
輸入によ
つて一応
外貨は減
つて参りましたが、その減
つて来る前において、これから減らす予定だぞ、しかしその減る
程度はこのくらい、このくらい減つたらそれからまたふえるようになるであろうというようなことを外国の銀行——それらの銀行はわれわれに対する信用を與えておる相手であります。授信者であるところの彼らには、ある
程度説明することがいいことでありますので、ある
程度説明して来たのですが、そういうことは非常に多とされました。また大体われわれの予言した通りになりました。それらの面からかなり信用を博しておることに
なつておる。
従つて外貨予算の運営というものは、大体において満足すべき状態にあるということを言
つていいと思います。その満足すべき状態に
なつて来たについて、今後それではさらにそれをいいものにする道は何かということを考え得る状態になりました。ことに今のは主として運営面で申したが、運営の
基礎になる現実の
外貨の保有というものは、御承知の通りかなりたくさんになりました。その面からも何らかの転換を試みてもいい時代に
なつたと思います。そこでその転換の方向にはいろいろありますが、その第一は、今までの
外貨予算を組みますのに考えておりました第一原則と申しますか、第一箇條として考えておりましたことが
ドルの節約であります。とにかく
ドルというものを節約しなければならない。最初のころに例のローガンという人が参りまして、私
どもに指導を與えてくれた時代がありました。
ドルは一文もないということがいまだに耳に残
つている。一
ドルもないという言葉を言われたことがある。それほど極端に考えておりませんでしたけれ
ども、
ドルの節約を非常に重い題目に考えておりました。たしかにそれが効果を現わしている。のみならず朝鮮
事変の発展という私
どもの
日本国の
外貨面においては非常に運のいい、都合のいい事態が起りました。
ドルは思つたよりもふえました。そこで今後考うべきことは、
ドルは一文もないと思えということをかえまして、
ドル節約ということを第一信條にしていたのをかえまして、今の
ドルを最も有効に使うものは何だろうというように考えをかえてしかるべきと思います。それは但し、今
ドルがあるのは現在
ドルがあるのであ
つて、将来の
見込み、二年、三年の先を申しますと、今の朝鮮
事変特需というものがなく
なつた場合を考えますと、
ポンドの余る
関係、
ドルの足りない
関係というのが、
日本の
基礎的な置かれている位置であります。これはなかなか抜け切らない。
従つて今ある
ドルを使うならば、その
ドルを使うことによ
つて、将来現在の幸運な状態が解消した場合に陷るであろうところの
ドル不足を、そのときに
ドル不足に陷らないために打つべき手があるならば、その手に向
つて現在比較的潤沢である
ドルを注入せよ、こういうことになる。これは今までの
外貨予算の組み方の非常に大きな変更になるわけです。今までは何でもかんでも
ドルを節約しよう、
ドルをためろということであつたのですが、今後はたまつた
ドルを多少——減らさないまでも、もうたまらないことに
なつてもいいから、場合によ
つては多少減らしても、数年先に予想される
ドル不足に備えて、有効適切に使えということにかえていい患う。そうなるといろいろなことが出て来るのであります。たとえば
機械の
輸入をして合理化をする、あるいは何か技術を買うといつたようなこと。今までは大体クレジットでももらわなければ、いわゆる外資の導入でもなければそういうものに手がつけられないというのが常識のように
なつておりましたが、そこを少しかえまして、必ずしもクレジットを得られなくても、そういうものを
現金を拂
つて買つたらいいではないかということなります。
第二点は、南米諸国なんかによくあるのですが、
機械類とかあるいは電車であるとか、そういつたようなものをクレジットで
輸出してくれないかというのがある。今度はこちらから、クレジットを與える方です。積み出すとすぐに代金を回収せずに、三年、四年待
つてやるという行き方です。これは
外貨事情から申せば、まさにそういうものが
日本の
外貨事情に適当な
輸出の方向である。現在は
ドルがありまして、三年先がないということが考えられるのですから、三年先に代金が入
つて来ることは非常にけつこうであります。のみならずそういうことによ
つて新しい市場が開拓されるならば、これもけつこうでありますから、そういうことも考える。確かにこれは今までなれないことです。ことに
日本は講和発効近くにありますが、まだほんとうの外交
関係が許されておりませんから、はたして債務者から真に取立てができるかどうかという点において、
日本は強制力を欠いておりますから安心が行かない。その点さえ安心が行くならば、
外貨事情として見るならば、そういうのは歓迎である、こういうことになります。
第三には、近ごろよく世間でも喧伝されておりますが、外国にある何か鉱山なら鉱山を開発する。逆にこちらからクレジットを與える。しかしその結果として数年後には、ある一定の期間後には、安い鉱石が買えるというようなこと。これも将来に向
つての
外貨節約になりますから、今多少の
外貨を使うことはさしつかえなし。すなわちそういうことも幸いにして考え得る事態に
なつたというようなことがおもなる変化であります。
さらにもう
一つつけ加えて申した方がいいと思いますのは、そういう事情に
なつたについては、従来は何でもかんでも
ドル節約でありますから、
ポンド地域、
オープン・
アカウント地域等から買い得るならば、そちらから買
つてドル地域から買うのはよそう。ほかの
ドルならざる地域、
ポンドであるとか
オープン・
アカウント地域に向
つて物を買う。
輸入先をむりにそちらへ押し込む。
ドルの
外貨予算を組まなければ、自然業者は
予算のある方から
輸入しなければなりませんから、そういうふうに操作することは比較的容易であつたのでありますが、これはどうか。必ずしもいいとは言えない。これは別途
ポンド対策と
関係いたします。
ポンド過剰が今憂えられておりますから、それを極端にやるなら、極端でなくても、それをやる
程度ポンドの過剰は拡大されますから、手放しにやることはいいとは申せません。しかし
ドルの事情から言えばそういうことが考えられるという
状況になりました。これも非常に大きな変化であります。
さらにもう少し深く申しますと、将来の
ドル市場は一体いかにして、
ドル輸出はいかにして確保されるかというと、これは單に個々の商品をながめていただけでは、個々の商品の販路なり、売り先なり、あるいは銀行のコネクシヨンなり、あるいはその商品の価格なりを考えていただけでは解決できない部面がある。と申しますのは、一般に
ドル輸出というものは
日本における物価全体のレベルに
関係がある。
日本の物価、物価と申しますよりも
輸出品の
生産コストと言つた方がいいですが、
輸出品の
生産コストというものが、全般的に
ドル輸出ができるように、
ドルで
輸出しても買い手がつくように、品質に比して低廉でなければならないというように発展しなければならない。大きく申しますと、
日本の
輸出品の
生産コストをいかにして下げるかということに
関係します。先ほど申しました例は、直接に
関係しますが、安い原料を直接に買つたから
生産コストが下るということのほかに、一般に
日本の物価が下
つて、一般に
生産コストが下るということが大事である。今後はそこで
日本の
生産コストを高めないような
輸入政策外貨予算の組み方ということに集約して来るわけであります。今まで申しましたところも、みなそこに固ま
つて来るわけですが、言にして言えばそこに落着いて来る。そういうことが
外貨予算を組む上の主たる関心事に
なつて来る。これは従来から申しますと、かなり大きな変化であります。このことは実は今までありました安本当局等からの御
説明には、あるいは十分に出ておらないかもしれません。多少そういう意図をすでに織り込んではおりますが、まだ十分に織り込んでいない。実は今後そうならなければならない。そういう考え方の変化が今起りつつあるという事実を、御
参考までに申し上げました。現にや
つておりますことには、まだその意図は十分に出ておらないかもしれません。事実出て来ておりませんですね。
外貨予算の第一点、
外貨事情は比較的、ことに
ドル事情がいいということから、そういう変化が来るということを御
参考までに申し上げます。
第二点は
ポンドでありますが、
ポンド過剰ということが起りましたのは、言うまでもなく
ドル・クローズをいたしました新協定耳来であります。新協定をつくりましたころは、その憂えありということはたれしも知
つておりました。知
つていたればこそ、あの協定の交渉に三箇月余もかかつたということに
なつたのでありますが、しかし正直なところ、今日すでに現われましたほど、早くかつ強烈に現われて来るとは当初思わなかつた。これは私
ども関係者全部、
日本国民みなそうだと思いますが、
見込み違いであります。いろいろな事情によ
つて、これは非常に強烈に早く現われたのであ
つて、これは何とかしなければならないのでありますが、さてこの対策というものは非常に広汎なことに
関係いたしますので、まだ政府部内においてはつきりした意思の決定はないものと私は了解しております。為替管理
委員会の
委員長という職務は、身分保障が伴
つておる職分でありまして、つまり政治に関與してはならないし、政治的決定というものには深入りしてはならない位置にあります。あくまで一種の技術家として勧告をする、何かものを見定めてアイデアを出すということが、私
どもの職分でありまして、これをいよいよ実行するかしないかは、政治の衝に当
つておられる大臣方の御責任であります。私はそれに対して一種の意見をしておるにすぎない身分であります。
従つてどのような御決定になりつつあるかも必ずしも知
つておりませんが、まだ十分なる決定には達していないと思います。
従つてこの問題に対してあまりここで申し上げる自由もありませんし、申し上げるべきでないと思いますから差控えさせていただきたいと思います。ただ一言申し上げてもいいことは、この問題は非常に大きな問題であ
つて、必ずしも
ポンドがたまつたからとい
つて、見様によ
つてはそう驚かなくてもいいのかもしれません。もし伝えられるところの
ポンドの切下げなるものがなく、かつ真偽のほどは存じませんが、最近伝えられますように、アメリカとの協調のもとに、
ポンドもなるべく早い機会に
ドルヘの転換性を回復するということを、英国政府は終局の目的として立てておるのは事実であります。それがアメリカとの協力のもとに、存外早く来るのだという見方もあります。もしそうだとすれば、その問題はそのときまで安心して待
つていればいいので、何でもないことであります。ところがそういう
見込みというものは、必ずしも正確にはたれしも言えないことでありますし、容易に結論を出せない。單にこれは国内面だけを見て、その面からだけ対策を決するものではなくて、これが
ポンドの先行き、英米の間にどういうことに
なつているであろうということにも、関心を向けながら考えらるべきだと思います。従いましてなかなかこれはきまらないのでありますが、但しこの間私
ども委員会の意見といたしまして、英国向きに
鉄鋼を
輸出しようというような大きな商談がありましたのに対しまして、それは適当ではないのではないかということを勧告をいたしました。これは新聞にも報道されておりますし、別に隠すべきことではない。事実でありますから率直に申し上げますが、私
どもはあのような商談を、單に見送
つているべきものではない。すでに
ポンド過剰という事実は、予想に反してかくのごとく顕著にすみやかに現われた以上、ああいう商談を見送
つておるべきものではないということを感じましたので、勧告を提出いたした次第であります。従いましてその勧告に現われた趣旨というものは、大体において為替管理
委員会の意見だというふうに御了解願
つていいかと思います。第二点の
ポンドについてはそのくらいにいたします。
そういたしますと、
あと何がありますか、
外貨予算の組み方でありますが、一般にいたしますと、最初に申しました通り、
予算を組むという技術、これは複雑な計算をいたしますし、
見込みをしなくちやなりませんから、若干技術が慣熟する必要があります。技術が慣熟して来たことは最初に申し上げた通りでありますが、すでに慣熟して来た以上、かつ
外貨の現実の状態が手持が潤沢である以上、従来のごとく三箇月刻みで、何となく長いものの
見込みは立たぬという状態は解消すべきでありまして、今後できるだけ長い契約、たとえば
鉄鋼生産の方ならば
鉄鋼というもの、鉱石の取得というものを、一年でも、二年でも、三年でもないしそれより長くても、もしそれが商売として合理的であり、有利であるならば、
外貨予算の面からそれがさえぎられて、お先まつ暗であ
つて、そういう契約ができないというようなことは解消して行くべきである。そうなると、長期契約がおできになりますから
従つてさつき申します通り、コストの切下げにも必然的になると思いますが、そういうようなことをこれからして行ける状態になりましたので、すみやかにいたしたいと思います。同様に、たとえば
綿花なら
綿花の
買付け、
年間百何十万俵は買
つてもいいということの腹づもりはしていながら、
外貨予算に出す方は小刻みにしか出せないというようなことも、
年間それだけ買うのがいいと考え、
外貨のある以上は、
年間のものをいつでも御自由に契約していただいてもいいというようにすることが、
綿花の
関係から見て、もしそれがコスト切下げになるならば、商売をやりよくすることになるならば、そういうこともいたすべきであります。そうして簡略に申せば
外貨予算の長期化ということでありますが、そういうような道に進んで行くということであります。但しそれらのことを申し上げます際に、もう
一つ再確認しておいていただきたいことは、
外貨予算というものは、
予算という字が使
つてありますが、それだけの
外貨を使うことを適当と考えたのではないのです。真にその
外貨を使
つて物を買うか買わないかは、各業者のおきめになることで、われわれが申しますのは、それだけの
外貨を使
つても手元はさしつかえないという意思表示であります。昨年の厖大なる
輸入のときに、あれは
予算に組んだではないかだから政府は買えというのだろう、買うのが国策だと思つたから自分たちは
輸入したのだ。ところが後で聞いてみれば国策ではなかつたのだ。国策に準じて厖大
輸入したのに対して、一向政府は世話を見てくれないという御不平があつたようでありますが、当時からたびたび
説明したことでありますが、それは
外貨予算の趣旨ではないのでありまして、
外貨予算というものは、それだけ使
つてもよろしい、使う
限度はここまで行けますということであ
つて、現実にお使いになるかどうかは、現在の自由経済、フリー・コンペティシヨン、自由経済競争の態勢において進めて行こうというのが経済の大原則でありますから、買う、買わぬはそれは商売ということであ
つて、政府が
予算を組んだからとい
つて、それだけ買
つてほしいというのではありません。その意味において、その点をもう一度再確認していただきたいのですが、そういうような考え方において、今も言つたように、相当多額なものを持
つているが、しかしこれは多額なものをぜひ買うのがいいのだというのではない。買うのがいいか悪いかは、むしろそれを買う方の円の金融の問題でありまして、これは金融
関係から眺めて行く、こう思います。
大体
外貨予算に
関係しまして、今特に頭にありますこと、今後そういう方向に
外貨予算というものの運営がかわ
つて行くのがいいのだというふうに、為替管理
委員会では考えているというものを拾
つてみますと、大体そのくらいであります。落ちておるかもしれませんが、
あとはひとつ御質問にお答えすることによ
つて申し述べさせていただきたいと思う次第であります。