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土屋政府委員 公海自由の
原則が
公海使用の自由を含むものであることは、これはもちろんのことであると思うのであります。この点においてこの條約は、條約
案前文の第二項に、「
主権国として、
国際法及び
国際慣習の
原則に基く
公海の
漁業資源を開発する各自の
権利に照して」という
言葉で表わしておるのが、実は今御
質問のございました
公海自由の
原則を確認したものとわれわれは認めまして、これを自由と認めた
いきさつがあるのであります。そういう
関係から見まして、この條約の
公海自由の
原則を、表面的ではありますが、
はつきり認めておると私は言えると思うのであります。ただこの
公海の自由と申しますのは、近年の
国際慣習から見まして、必ずしも
各国が常に他国に
制限されることなく、自分の
権利をただ
権利として主張ができるという
情勢ではないように考えられるわけであります。
公海の自由を確保するためには、この
公海の自由の
使用というものが、
各国にと
つて利益があるように、
人類の福祉に役立つようにというのが、主たる目的でなければならないはずであるわけであります。そこでもし
各国がこの
漁獲というものを自由に無
制限にいたしますと、
漁業資源の
保存に、あるいは
漁業資源の枯渇を来すというようなおそれがある場合におきましては、
関係国がお互いに
協定いたしまして
各国の
自由意思において
協定した
範囲内において
制限を設けるということは、決して
公海自由の
原則にもとるものではないというふうな考えをもちましてその
観点に立
つてこの條約は一応の
論議を進めて来たわけであります。ただいま、
各国が自由平等の
立場に立つべしという御説でございました。その点は私
どもも全面的にそのように
承知しております。
従つてこの條約には、たとい一国が
実績がない、あるいはその他の
関係で自発的に
抑止するという
義務を負うにいたしましても、反面
実績のある国はきめられた
制限内において、
保存措置内においてその
漁獲を現在以上に進められないという
義務を負うわけでありまして決して一方的に、片務的に、ある
一つの
締約国が
権利を持つ、
義務を持つということにはならないと思うのであります。
従つてこの点におきましては、形は一国は
漁獲に従事し、一国は
漁獲を自制しなければならないということになりますが、これもいろいろの
基礎の上から、そういう
義務を負うことが決して片務的でない、自由平等であるという
原則を乱していないと思うのであります。また
実績につきまして、
沿岸国と非
沿岸国を区別すべきでないという
お話ももつともな
お話で、これもこの條約の中では、
会議中はいろいろ問題があ
つたのでありますが、結果といたしましては、
沿岸国であるが
ゆえに、あるいは非
沿岸国であるが
ゆえに、不当な
利益もしくは
不利益をこうむるという
規定にはな
つていないはずであります。ただ第四條の第二項でございますが、この際一項で
原則を設けまして、
原則に立ちまして
例外を設けました節、
カナダと
アメリカの
沿岸につきましては、
操業の
歴史的な
交錯、
魚種の
交錯その他の点から見まして、特殊な例を設けたように見えますが、これもよくお読みをいただきますと、
カナダもしくは
アメリカ、ただ一国が
実績があつたか
ゆえに、ほかの国、すなわち
カナダに
実績があるけれ
ども、
アメリカに
実績がない。
従つてアメリカだけに
自発的抑止を勧告するとか、あるいは逆の場合におきまして、
アメリカに
実績があるが、
カナダに
実績がないから、
カナダには自発的な
抑止をしてもらおうということが、実際
上操業の
歴史的交錯、
魚種の
交錯その他の点からできないのであります。そこでこの二つの国に対しましては、この
沿岸のみにつきましては、特殊な事情を認めて、
アメリカもしくは
カナダおのおの一国だけの自主的な
制限はしないでよろしいという
規定を設けたことが、一応
例外になるわけでございますが、この点は
日本が自発的な
抑止を受けるのではなく、
アメリカも
カナダもどつちか一国だけが受けることがないという特殊な
規定を設けたので、これも根本的に見ますと、自由平等の
原則、あるいは
沿岸国である、あるいは非
沿岸国であるが
ゆえに、特殊な
不利益をこうむるという
原則は、ここに確立してはいないと思うのであります。またこの
協定を十年間という
期間に限つたことについては異議があるという
お話であります。この点は私も
交渉をするにつきまして、何年にするかという問題につきましては、ずいぶん
論議を重ねたのでありますが、
北太平洋に棲息する
魚種で、将来もしくは現在におきまして
漁業制限の対象となるような
魚種につきましては、大体短かい
期間ではその調査もしくは実際の結果というものはわからない。これはかなり長い
期間を置いて
実績を調べないとわからない。
従つてこの條約は短かい
期間にして、そうしてこの條約が適当であるか、不適当でちるかということを断定するということは、はなはだ当を得ないという
結論を得ましたので、大体十年を
限つて三箇国間におきまして、この
協定下に
漁業を進めてみる、その結果、もしこの條約に不都合の点があれば、これを修正する、もし條約
自身が不必要だという
結論に達するとすれば、この條約は当然に廃棄されるという
意味から、大体十年を常識的に考えてみて標準として三箇国の
漁業操作を行
つてみようという結果にな
つたのであります。