○林(百)
委員 私は
日本共産党を代表して、この
インドとの
平和條約に反対するものあります。
われわれ
日本人民は
インドのネールの政権とではなくて、
インドの人民との間に、真実の友好
関係の樹立を望んでおるのであります。数百年来
イギリスの帝国主義の圧制に苦しんでいた
インドの人民は、サンフランシスコ條約によ
つて、
日本がかえ
つて独立するどころか、
アメリカの植民地になり、
アメリカの軍事的な基地に
なつたことについて多大の同情を寄せ、これがために
インドはサンフランシスコ
会議には参加しなか
つたのであります。また
インドの人民はこのたびのメーデー事件に際しましても、
アメリカの軍隊が
日本を長く
占領している限り、このような事戰が起きるのは当然だという理解のある声明を発しておるのであります。ところがネール政権は、この
インド人民の
日本の人民に対する友好
関係の熱烈な要望に押されまして、サンフランシスコ
会議当時には、
日本に完全な主権をもたらさない、またアジアに新たな戦争の脅威を生むサンフランシスコ條約には反対だというボイコツトをしたのであります。ところが今度の
インドとの條約を見ますと、右のような
インドと
日本の両人民の意思を正しく代表しておるものとわれわれは考えられないのであります。もし代表しておるというならば、これは当然ポツダム宣言あるいは極東
委員会の諸原則に基かなければならないのでありまして、明らかにこれは全面講和、
日本の非武装、
日本の主権の完全な復帰というようなことが、うたわれてなければならないはずであります。
インドがサンフランシスコ條約に反対したところの信託統治の問題、あるいは台湾、澎湖島、樺太、千島の帰属の明確化によるアジアの戰争の禍根を絶つこと、それから
占領軍の
日本への永続的な駐屯に反対するということ、こういう点についてはつきりした
インドの人民の意思表示がこの條約に盛られておらなければならないはずであります。ところがこのような重要な問題については、
一つもこの條約の中には明確に示されてはおらないのでおります。
従つてこの條約は、このような重大な事項をあいまいにしておるのであります。これは明らかに多数講和の一部分でありまして、なしくずし講和の一部分であります。
なぜこのような條約を岡崎氏とネール政権との間で結ばなければならなか
つたかというと、これは明らかにサンフランシスコ条約、だんだんアジアで不評判にな
つて来た、しかも遂に
日本と蒋介石との間の條約すら結ばざるを得なく
なつた、この不評判を何とかして取返さなければならないというために、この不評判なサンフラシスコ條約あるいは日台條約等を美化するために、新しく企てられた惡質な、欺瞞的な手段であります。明らかにこれは
アメリカのさしがねによ
つてや
つたといわざるを得ないのであります。これは明らかに
アメリカと
イギリスと
インドと
日本との四箇国の反動どもの妥協と支配だというふうにいわざるを得ないのであります。
第一にこの條約は、米国側にと
つては、非合法なサンフランシスコ條約を美化するために非常に便利である。ネール
政府がサンフランシスコ條約をボイコットしたことについては、米国では非常に大きな打撃を受けた。そこで米国
政府は、何とかしてネール政権をして、自己の立場に立たせるために、二つの手を用いた。
一つは、食糧問題で攻めて行
つた。昨年の秋、飢餓に苦しむ
インドの人民に送る予定だ
つたところの四十万トンの小麦を、四万トンに減らして、しかもそれを百二十四ドルの高値で売
つた、しかも
アメリカの
国会では、この飢饉に苦しんでおる
インド人に小麦を送るときに、
インドがサンフランシスコ條約に対してと
つた中立的な態度を放棄せよということを要求しているのであります。もう
一つの手は、利益をも
つてつる点であります。このことは、先ほどの
湯川経済局長の話もありました通りに、
アメリカが盛んに
借款を與えるようなジエスチユアを
インドにしておる。
ポールス米大使は、
インドに対して数億ドルの
借款計画を本国に要請するというようなことを発表しておる。米国は、このように金で
インドをつ
つて、米国側にネール政権を引寄せようというあらゆる努力をしてお
つたのであります。一方
英国にと
つてはどういうことかというと、
英国の下院の対日講和論争で明らかなように、
英国よりも三分の一の低賃金で、しかも
アメリカの最新式の技術によ
つてしり押しされているところの
日本の資本が、東南アジアのスターリング・ブロックへ進出することは、これはどうしても阻止しなければならないということが、最大の
関心事であ
つたのであります。本條約は、このためにむしろ
締結が急がれたのであります。すなわち第
二條及び交換公文によりますと、英
連邦諸国並びに隣接国から
日本を締め出す関税障壁の道が、合法的に認められておるのであります。マーフイー大使は、
中共貿易のかわりに東南アジアを
日本に與えるのだからということを言
つておりますけれども、しかしこの條約を見ますと、これは明らかに東南アジアから
日本の
貿易を締め出すものであります。経済的には英米ブロックの
日本に対するむしろ宣戰布告にもひとしいような結果になることは、これはすでに
日本の新聞ですらこの点をついておるのであります。
その次に問題になる点は、ネール
政府、吉田
政府は、この條約によ
つて、
アメリカと
イギリスに、
インドと
日本の人民を売り渡したものであります。
インドとの
平和條約は、アジアに平和をもたらさないのみか、かえ
つて東南アジアから
日本の
貿易がボイコツトされるということになりますと、中日、日ソ
貿易は禁止されている、
アメリカでは厖大な関税障壁が設けられて、
日本の
貿易がまたここでもデツド・ロツクに乗
つているということになると、
日本の
貿易がますます侵略的な性格を持つか、あるいは
アメリカ経済にますます従属し、
アメリカの戰争
政策にますます奉仕するよりほか道のない方向に追いやられると思うのであります。
アメリカ政府は、朝鮮の戦争に失敗した結果、最近ではクラークが公然と満州爆撃を豪語しておるのであります。こういう点を見ますと、すでにアジアには中立の道というものはあり得ないと思うのであります。英米の侵略主義と徹底的に戰うか、この手先であるところの吉田
政府あるいは李承晩、蒋介石を倒すかどうかという二つの道しかないのであります。
日本の人民か、このような吉田
政府とネール政権、英米の傀儡政権との間の二つのとりきめに対して、何らの期待を持
つていないことは、現に八幡製鉄のような大きな資本ですら、不安な
インドに長期の
投資の危険を冒すことはできない、これはむしろ二、三年先を見なければわからないということを言
つておるのを見ても明らかであると思うのであります。
日本の人民は、ポツダム宣言に基く中国、
インド、すべてのアジアの人民との友好
関係を望んでおるのでありまして、このような英米の利益りために
日本と
インドの利益を犠牲にするようなとりきめには反対するのであります。
ここで一言私が申し上げたいことは、自由党の諸君は吉田内閣の
與党であるから、これに賛成するのは許されるとしても、社会党の諸君が、このような
日本の
貿易を東南アジアからボイコツトし、
インドの人民を抑圧し、共産党員を二万五千人投獄し、数百人の共産党員を惨殺しておるようなネール政権と吉田政権とのとりきめに、感謝までしておるということは、私はこれ一は笑うべきことだと思うのであります。社会党はこれによ
つて全面講和を
引下げて、多数講和に屈服したといわざるを得ないのであります。このような多数講和、なしくずし講和に社会党が、自由党ですら表明しない感謝の声明をするということは、私は中立者の立場が、いかに欺瞞的であるかということを、明らかに示したといわざるを得ないのであります。自由党はもちろんであります。この自由党に引きずられてこのたびのあやまちを犯した社会党の、このような裏切り的な態度に対しては、
日本と
インドの労働階級と全人民が、やがて諸君を痛烈に批判するであろうことを銘記すべきだと私は思うのであります。
このような意味におきまして、私はこの條約の欺瞞性を見抜いて、はつきり
日本と
インドの人民の名において、この條約には反対するものであります。