○黒田委員 私は
大臣に、
日本国と
インドとの間の
平和條約に関して御質問申し上げたいと思いますが、この條約の個々の條文につきましては、すでに今までに他の委員諸君から、問題とすべき点は質問されておりますので省略いたします。それで私がお尋ねしてみたいと思いますことは、この條約の根本的な性質についてであります。これにつきましても、今まで多少他の委員諸君が触れられておりますけれども、なお少しつつ込んで質問してみたいと思います。
インドは
サンフランシスコ條約の内容に反対でありましたために、
サンフランシスコ会議には参加しなかつた。そして今回新たに別個の條約を
日本と結んだのであります。それでありますから、この條約が
サンフランシスコ條約とは形式上別個の條約であるということだけは明らかでありますが、私は單にそれだけでなく、性質も全然異にしている條約ではないかと思うのであります。この点についてお聞きいたしたいと思いますことと、これに関連いたしまして、
サンフランシスコ條約第二十六條とこの條約との
関係はどうかという問題にも触れてみたいと思います。これは私には非常にむずかしい問題のように思えるのであります。また
政府もどの
程度はつきりお答えくださるかわかりませんけれども、一応私の
考え方を申し述べさしていただきたいと思います。
インドがサンフランシスコ講和
会議の招請を受けながら出席を拒絶いたしました理由は、これは申すまでもありません。
インドは対日
平和條約の基本目標といたしまして、先ほども
大臣が仰せられましたように、第一には、この條約の
條項は、
日本に対して平等の地位を與えるものでなければならぬ。それから第二には、講和條約の
條項は率直解放的であ
つて一切の国、ことに極東における安定的な平和の維持に関心を持つ
諸国が早晩これに加入し得られるようなものでなければならぬ。こういうような根本目標を持
つておりまして、
サンフランシスコ條約は、この要件を満足させるものでなければならないのに、実際にはそうでないということを指摘いたしまして、その反対論点といたしまして、御
承知のように三つの点をあげております。第一は、琉球諸島及び小笠原諸島を
アメリカの
信託統治領としたことに反対である。第二は、この條約で占領軍から駐屯軍への切りかえを約束するようなことをきめることには反対である。第三には、台湾、千島列島及び南樺太の
帰属を、條約上明示していないということに反対である。こういう三つの点をあげたのであります。この三つの反対理由は、單に條約の表面に現われました理由であるにすぎないので、その背後にはこの反対理由の基礎とな
つております
インドの外交政策があり、
インドの外交政策が
サンフランシスコ條約に現われました合衆国の外交政策と一致しないものがある。これが
インドが
サンフランシスコ会議へ参加しなかつたことの基礎的な原因と
なつたのであろうと
考えます。私は
インドのネールの外交政策をあらためてここで申し上げる必要もないと思いますけれども、ごく簡単に説明すれば、ネール外交の基調は、第一には、米ソ
両国の協調を基礎とした国際安全機構たる国連を中心とする世界平和の維持、第二には、帝国主義支配に付随する政治、社会、
経済機構の排除、民族主義の支持、これらの排除のあとに生れた、新しい
アジア諸国家の育成
発展及び相互の
協力ということであろうと
考えます。このことから
インドはいずれのパワー・ブロツクにも属しない、いずれのパワーブロツクとも防衛條約を結ぶごとを拒否しております。何となれば、もしこのような條約を結べば、他のパワー・ブロツクと敵対
関係に入るからである。
インドはこういう対立的
立場に立たないで、米ソ相互の理解のもとに世界平和を維持しようという、一見非常に困難に思えるような道を、なおかつ、あくまで熱心に追求しております。このネールの
考え方に立
つて、合衆国の
考え方、すなわち
アメリカ合衆国の世界政策への
日本の引込みという政策が、
サンフランシスコ條約に露骨に現われておると見て、
インドは
日本をこのような
立場に追い込むことに反対するという
立場から参加しなかつたのであると私は見ておるのであります。なおそのほかに、
サンフランシスコ條約は、
インドが多大の関心を持
つております中国問題につきましても、
インドの
方針と異なる
方針を予定しておると見ておつたようであります。すなわち
アメリカは蒋介石政権を中国の代表
政府として、これとの講和條約を
日本に結ばせるということを予定しておる、こういうふうに見ておつたようであります。ところが
インドは新中国政権を
承認しておるのでありまして、ここに根本的な外交
方針上の差が現われておる。
インドはこういうふうに見ております。また、国連と中国との
関係におきましても、
アメリカがいまだに蒋介石政権に国連の議席を持たせることを固執しておるに対して、
インドは四億五千万人の人口を持つ新中国が国連から除外されてお
つては、この世界機構は完全に世界を代表しておるということはできないのだ、こういう見方に立ちまして、中華人民共和国の国連加盟を支持しておる、こういう根本的な差がある。この
インドの外交政策と、サンフランシスコ講和條約の上に現われた
アメリカの外交政策とが異なるので、
インドは参加しなかつた、こう見なければならないと思います。そうしてこの
インドの外交政策は、その後今日までの間に変化したと見られる何らの証明もないと私は思いますから、今回サンフラシスコ條約への参加を避けて、別に
日本国との間の
平和條約を結びましたのは、やはり依然として私はただいま申しましたような
インド外交政策の
精神のもとにおいてこれをなしたのである、こう解釈する以外に、私はこの條約の根本的性質の解釈のしようはないと思います。そうでなければ
インドが
サンフランシスコ平和條約に参加しなかつた
意味がないからであります。そこで私はこの
意味におきまして、今回
締結せられました
日本と
インドとの新條約の性質は、サンフランシスコ講和條約の性質とは根本的にその性質を異にしておるものである、私はこう解釈するよりほかに、ネール外交の
精神のもとにおいて
日本と條約を結びましたこの條約の性質の解釈の仕方がないと
考えるもの皆あります。しかしこの問題は、おそらく
両国ともここまではつきりつつ込んでのお
話合いはなかつたと思います。しかし私どもが一応この條約に対する
態度を決定いたしますにつきましては、この点を明らかにしておきたいのであります。まずこれだけを最初に質問いたしまして、その次に第二十六條との
関係を少しばかり御質問申し上げたいと思います。