○黒田
委員 北澤さんは非常に範囲の大きな問題について
お尋ねになりましたが、私は小さい範囲で條約の解釈に関するものに限定いたしまして、若干
お尋ねしてみたいと思います。この日華條約はサンフランシスコ
平和條約に示された諸原則に
従つて締結されておりまして、個々の條文もサンフランシスコ條約の條文中の当該事項を取扱
つた條項になら
つて作成されてありますので、さきにサンフランシスコ條約の審謹に当りましたわれわれといたしましては、本條約の個々の條文につきましては、賛否は別といたしまして、特に研究を要するというようなものは
比較的少いのであります。具体的に申しますれば、第一條から第九條まで、それから第十二條等は今あらためて研究を要するような題目ではありません。第十三條及び第十四條は、これも議論しなければならぬというほどの條文ではないと思います。ただ第十條で取扱
つております国籍問題が、サンフランシスコ條約には全然規定がなか
つたと思います。これが新しい問題といえば新しい問題であると思います。そこで問題は、むしろ本文の中よりも議事録あるいは交換公文の中に含まれておる事項にあると私は思います。もつと根本的には、このような條約を
締結することの政治的、
経済的意義ということにあると思うのでありますけれども、政治論は私はきようはいたしません。そこでサンフランシスコ條約と共通性を持つような問題は研究題目にしないで、特にこの條約の特質と申しますか、特異点と申しますか、特に異
なつた特徴として現われておると思われる問題につきまして、質問をしてみたいと思います。それは今申しましたように、本文の中よりかむしろ交換公文とか議事録の中にあるのであります。
私が第一に
お尋ねしてみたいと思いますのは、この條約の條項の適用範囲の問題であります。本條約は
吉田首相のダレス氏に対する
書簡から出発したものと考えられておりますが、その
書簡の中において私どもの注意を特に引きましたものは、この條約の條項の適用の範囲に関する問題であります。そしてそのことが交換公文第一号にも示されておるのであります。このようなことはサンフランシスコ條約にはありません。たとえば
日本との條約の相手国にな
つております
アメリカが、この條約の條項は
アメリカの支配しておる領域に適用するんなどということは書いてないのであります。そんなことは書く必要がないからであります。イギリスについてもフランスについても同様であります。しかるに何
ゆえに日華條約についてのみ、交換公文によりまして、本條約の適用区域の明示があるか、私はそこに何かサンフランシスコ條約に比して、この條約に特別な性質があるからこのようなことにな
つておるのだ、こう考えるのであります。そこでわかり切
つたようなことでありますけれども、一応念のために
お尋ねしたいと思いますのは、
吉田書簡及び交換公文の第一号にあります「
中華民国政府の支配下に現にあり、」というのは、中国本土ではないと思うがどうか。それからついでにその
あとに書いてあります「今後入るすべての領域」というのは、中国本土のことを予想しておると思いますが、どうでありますか。なぜ私がこのような質問をするかというと、もし
中華民国政府が中国本土に所在しておりまして、中国本土を事実上支配しておる
政府と客観的にも見られるようなことでありますならば、サンフランシスコ條約の條項の場合と同様に、條約で適用の区域を明示するという必要はないのであります。ところが
中華民国政府と中国本土との
関係が、普通の場合における国家とその代表者たる
政府というような
関係にないから、このような特異な條約條項適用地域の表示がなされたのではないかと私は思います。中国という国家が蒋介石
政府の支配しておる国家であり、その領土が中国本土であり、この中国本土に適用せられる條約をつくるというのであるならば、この條約が中国本土に適用せられるというようなことを特に書く必要はない。特に現に支配しておる地域に適用があるということを書いたのは、台湾及び澎湖島がまだ
国民政府の
国際法上の領土とな
つていないから、しかも事実上それを
現実に支配しておるのであるから、特にこういう文句を入れたのだろう、こういうようにちよつと考えられるのであります。しかし、それならば「今後入るすべての領域に適用がある」ということを書いてあるのが無意味であると思われます。この表示がもし将来、一般的意味での領土の拡張があり、條約が、当然この新領域にも及ぶというようなことを意味するのでありますならば、これを表示する必要はないのであります。それは、書いてなくても当然そうなるからであります。そこで結局この條項適用領域の表示は、私が先ほど申しましたように、第一には、現に支配下にある領域というのは中国本土は含まない、第二に、将来入るべき地域というのは、それは中国本土を予想しておるのである、こう解釈するよりほかにないと思う。これはわかり切
つたことのように思いますけれども、念のためにまずこれをお聞きしておきます。