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公述人(野口正造君) 本日のこの
公聴会におきまして
意見を申述べさして頂く機会を得ましたことは、私の衷心から感謝に堪えない次第でありまするが、私はこの機会に先ず
国民大衆の一人としての
立場から、及び現在私が所属しておりまする生命
保険業者の
立場から、この双方の
立場からの
意見を申述べさして頂きたいと存ずるものでございます。
終戦以来すでに六カ年を経過いたしまして、今や講和条約の調印もすでに成りまして、いよいよ我が祖国
日本の自立、独立国家としての発展に向わんとしておりまする今日、殊に終戦直後のあの
経済、政治、文化、思想の混乱、虚脱
状態も漸く安定の域に達せんといたしております。殊に我が
国民の最も深憂に堪えなか
つたインフレーシヨンの危機も幸いにして
政府及び
国民全体の協力によりまして、ここにこれを切り開くことができましたことは誠に御同慶の至りであると存じます。而もこの
国民経済生活も漸次非常事態を通り抜けまして、今や常態、即ちノーマルな事態に向
つておりまするが、昨年の朝鮮事変の勃発と同時に、一部におきましては特需景気等が起
つて参りまして、
物価の局部的な変動を見ることに
なつたことは皆様の御承知の通りであります。而もこれも漸次鎮静に向いまして、本年の三月あたりを頂上といたしまして漸次低下の
方向に向いましたが、併し最近に至りましては再びこの
物価奔騰の傾向に向いつつあることも皆様の御承知のことと思うのであります。で而もこのときに当りまして、例えば本年の八月におきましてすでに電力
料金の
値上げとか主食と塩の
値上げとか、或いは十月に至りましてはガスの
値上げ、又十一月の一日からは
鉄道の運賃とか、更にこの
郵便料金、
電信電話の
料金等の
値上げが
政府において御計画にな
つているのでございまするが、いずれもこの
政府事業におきまして、又公益
事業の
値上げ、これが今日これら
物価値上げの最尖端にな
つているという実情でありまして、このことが先刻も数人の参考人のかたが
お話になりましたように、今日の
物価騰貴に対するその先駆を
政府が行な
つておられるというような実情であるのでございます。でこの点につきまして我々は
国民の一人といたしまして、この
値上げが今日の
国民生活に如何なる
影響を及ぼしつつあるかということを静かに眺めて見なければならないと思うのでございます。殊に
政府事業は国家的な独占
事業でありまして、消費者が
経済手段によ
つてこれに対抗し得ないことは民間
一般産業と非常に違
つている点であります。従いまして
政府事業の
経営には最も厳正の上にも厳正を期してこれが
経営が行われるべきであるかと思うのでありまして、かかる点から
考えまして
政府事業の
物価の
値上げということについては最も慎重に、又
国民大衆の声も十分にお聞きにな
つてこれを御実行になるということが、私どもは
国民として望ましいことであると存ずるのであります。で
価格引上げによりまして
国民大衆の生計費はおのずから上
つて参りまするし、これと同時に労働組合等におきましても賃
上げの共同闘争を計画される
一つの原因にもなりまするし、又現にそうなりつつあるのであります。又社会不安を醸成するに至るということも、これは
考えられることであります。なかんずくこの
郵便料金や
電信電話
料金等の
値上げにつきましては、一部にはこれは直ちに
国民生活に脅威を及ぼすがごときことはない。その
影響は他の物の
値上げに比較して非常に少いというような
考え方を持つ人があるかも知れませんけれども、これは又
一つの大きな錯覚であると私は感ぜざるを得ないのであります。
郵便電気通信等が国際的に国内的に
事業発展のために、又文化交流の上に重要な役割を有するということは言うまでもないことでありまして、これも先刻のどなたか参考人の御一人からこの点についての御指摘もあ
つたのでございます。これを他の
事業と同じように
値上げするということは、これらの
事業の運営を阻害し、又文化交流を制約するものであります。何となれば、
郵便電気通信等に依存いたしておりまするいろいろの
事業或いは文化
事業等は、他の営利
事業等は、他の営利
事業と異りまして、その
値上げを直ちに消費者又は利害
関係者に転嫁するということが非常に困難であるからであります。従いましてこれは専業の制約を来し、大きく言えば
日本の文化国家としての再生に暗影を投ずる
一つの因子となるということも、これは言い得ると思うのであります。要するに
政府事業は
物価政策上重要な地位にあるものでありまするから、一層
合理化を図
つて頂きまして、極力
値上げを避けるということと共に、止むを得ない場合におきましては
予算の全体から見まして不急な支出はこれをでき得る限り削減する、そうしてその削減せられた余剰をこれに補給しても、成るべく
値上げをしないように、
価格を維持するということに
努力して頂きたいというのが、これが
国民の
一つの声であると私は感ずるのであります。 然るに今ここに
郵便料金の
値上げの問題が今御諮問に与
つておるのでございますが、私は原則的に申述べるとすれば、今申
上げましたような方針によ
つて政府が対処せられんことを希望する次第であります。併しながらこれは
一つの現実の問題といたしまして、若し
政府におかれましても今私が総論的に申
上げましたようなことについて、これこの方策についても真実に考究し、或いは検討せられても、なおどうしても
値上げをせざるを得ないということでありまするならば、私は次のように述べたいと存ずるのでございます。なお特にこの点につきましては先刻も申
上げましたように、私が現在所属いたしております生命
保険業者の一人としての
考え方もこれに織り込んで申述べさして頂きたいのでございます。
今度
政府が
郵便料金の
値上げを実施せられることに
なつたのでございますが、
物価の騰貴、
通信特別会計独立採算制の
立場からどうしてもこれが必要だということで御
提案にな
つておりまするが、これらにつきましては一応は止むを得ないことであると私も感ずるのでございます。併しながら先刻も申
上げましたように、通貨も
物価もやや安定して、将来にはなお明るい希望を持ち、又持たなければならない今日におきまして、今回
政府において企画せられましたような大幅の
値上げということは、これは
インフレの高進に拍車を加えるばかりもなく、漸く安定の軌道に乘りかか
つておりまする
国民生活を骨かす
一つの要因となるのではないかと
考えるのであります。これに加えるに、更に今日いろいろの
事業の中には必ずしもすべてが非常に繁栄の
方向に向
つておるものばかりではないのでありまして、戦後の回復等においてなおその間に遅速あるを免れないのでございます。これら
経営不振に悩んでおりまする
企業体にとりまして今回の大幅な
郵便料金値上げということは相当の
影響を與えることはいなむことができないのでございます。例えば今我が国の民営生命
保険事業を見てみまするときに、現在民営
保険会社におきましては、
国民全体の人口の約二割五分に達する契約者を擁しております。そうして会社と契約者との連絡はすべて
通信によらなければならない。
事業の性質上本邦におきまする最も大きな
通信事業の
利用者であると言うことができると存ずるのでございます。而も生命
保険会社の、今二十社ありまするが、この二十社の一年間の郵側
料金の総額は、例えば昨年度を見ましても二億円を超えております。でこれに
電信電話料等を加えますると、その
通信料の全額は正に二億五千万円を超えておるという
状態でございまして、この会社
経営に関しましての
事業費のうち、物件費の二割強というものを占めておるのであります。実に
郵便料金、
通信料金だけが、全
事業費の中の物件費の二割を占めておるという、そういう非常に多額の
料金をいたしておるような実情でございます。而も今回
政府において御計画にな
つておりまする
郵便料金値上の平均率は六割八分と仄聞いたしておるのでありますが、若しもこれが事実といたしまするならば、これによ
つて生命
保険会社全体にと
つてはおよそ最低に見積りましても一億三千六百万円の増加を来すということになるのでございまして、このことが生命
保険会社の現在の
経営に非常に大きな
影響を及ぼすということは、これは火を見るよりも明らかであるのであります。で生命
保険会社の使用する今日の
郵便種類の中で最も大部分を占めておるものは開封もございまして、これは全体の約八〇%を占めております。これは丁度法案第五種に相当するものであります。それからその次は
葉書でございまして、丁度法案第二種として挙げられておりまするこの
葉書がこれに次ぐのでございまして、これらの
種類のものに関しましては、次に述べまするような
理由によりまして、
政府におかれましても特に御考慮をお願い申
上げたいと存ずる次第でございます。
でその
理由として先ず第一にお聞き取りを願いたいことは、我が国の生命
保険会社の保有いたしております生命
保険契約は、本年の二十六年七月の未現在におきまして二十会社の合計は約二十万件余りでございまして、
保険金額は六千六十五億円に上
つております。而してこれら契約者に対する
保険料の払込案内や督促状の送付その他の
通信で、契約一件に対しまして最低一年に二回乃至四回の開封並びに
葉書による
通信を必要といたしております。この点につきましては終戦直後におきましては、御承知の通り会社も非常に困難な
状態でありましたので、契約者に対するサーヴイスのごときも、誠に申訳ないことではありまするが、非常に低下いたしております。
従つて保険会社から
保険料の払込の案内もよこさない、督促状もよこさないと言
つて、契約者の
かたがたから随分お小言を頂戴したことがあるのでございまするが、その後
経済の安定と同時に、又会社の
経営状態の
向上と相待ちまして、現在では
戦前と同様に成るべくしております。契約者に対するサーヴイスとしての、例えば
保険料払込に対する予告とか或いは督促状等も成るべく出すように心掛けておる次第でございます。こういう点からもこの開封或いは
葉書等によ
つて契約者等に差出す
通信のヴオリユームというものはますます今までよりも大きな率を以て増大して行く傾向に今日あるのでございます。第二の
理由は以上の契約者と会社相互間の
通信だけで最低仮に一年二回、一回を開封とし一回を
葉書とすると仮定いたしましても、各会社が現在一年間に支払
つておりまする
通信費は二十社で約一億六千万円となります。それで例えば最高
保険の契約を保有しておりまする会社のごときは、
一つの会社で一社だけの会社の
負担額を見ましても、昨年度におきまして開封だけで二千万円を超えております。これに
葉書……而も、これは本店だけの
通信量でございまして、これに支社とか、支部とか代理店相互間の
一般郵便物等を加えますならば、実に三千万円以上の
通信料を出しておるということに相成るのでございます。更にこれに
電信、電話等の
料金を加えますと、実に一社で以て昨年度において五千万円近くの
通信料を払
つておるという実情でございます。第三の
理由といたしましては、今回の
値上率が平均六割八分でございますが、これが実施いたされますと、現行
料金に比較いたしまして、前にも申
上げましたように、二十社で約最低に見積りましても一億三千六百万円の
負担増加ということに相成る次第でございます。第四に諸
物価の高騰に伴う
人件費、物件費等が著しく高ま
つて、これを切下げるために今日民間の
保険会社は極力
経営の
合理化を図らんとして
努力いたしております。一方生命
保険事業は他の
事業が、例えば
物価が上りますならば、商品とか労銀等の値段を
引上げることができまするけれども、生命
保険事業はこれに反しまして、
事業本来の性質から、
保険料にはおのずから
一つの限度があります。現在以上に
引上げるということは全く不可能でございます。殊に御承知の通り生命
保険会社は、今回の戦争によ
つて戦争
保険金も約款と違いまして無
条件に二十七億からの戦争
保険金の支払いをするとか、或いは在外資産が殆んどゼロになるとか……、かくして国家から三十八億以上の補償を頂いて、やつと一万円以下の契約の保証ができるという
状態にな
つて、殊更に非常に戦争による
影響が大きか
つたのでございます。併しこれを今回復せんとして生命
保険会社は真に
努力をいたしておるのでございまするが、この際に又この予期せざる大きな支出の増加ということは、この会社の
経営に非常に大きな
影響を与えるということに相成る次第でございます。
戦前において生命
保険事業が
世界第三位として
世界に認められておりましたものが、現在では国際的
統計を見ますと十位に劣
つております。併し我々は我々の
努力によ
つて、
国民と共に
戦前の地位に回復せんことを希
つて今や
努力しつつあるのでございます。と同時に今日の我が国の
経済再建のために最も必要な資本蓄積、殊に長期
資金の必要な点を
考えまするときに、どういたしましても生命
保険事業の発展ということは
国民経済の発達のために、殊に戦後
経済の再建のために必要欠くべからざるものと思うのでございまして、こういう面から
考えましても
事業の健全なる発達を図る
意味におきましても、今回のこの
料金引上げ等については
政府におかれましても十分なる御配慮をいたして頂きたいと
考える次第でございます。第五の点は、生命
保険会社の使用する
郵便物も、会社と契約者相互間のものと、会社の支社、支部、代理店、社員等相互間のものその他いろいろありまするが、そのうちに大部分を占めておりまするものは契約者に対する
保険料払込の案内、失効防止のためにする払込督促等、これらは主として法案の第二種の
葉書、第五種の開封を使用しております。従いまして生命
保険会社が大量に使用するこれら第二種及び第五種
郵便物に対しては特別の御配慮を仰ぎたいと存ずるのでございます。なおそれと同時にもう
一つお願い申して置きたいことは、特別の大口使用者に対しましては更に何らかの優遇の
方法を講ぜられたいということでございます。これは単に生命
保険会社だけの問題ではないと思うのでございます。これらの点から、今申述べましたような点から
結論といたしまして私どもは次のようなことをお願い申
上げたいと存ずるのでございます。
その第一は法案の第二種、即ち通常
葉書の予定額は
原案によりますると四円ということにな
つておりまするが、これを三円として頂きたいということ。第三は、法案第五種の業務用書類は百グラムごとに十円ということにな
つておりますが、これを八円にして頂きたい。
それからその次に第三といたしまして、大口使用者に対して特別の取扱いを講じて頂きたいということでございます。この点につきましては今回の法案の中にも、例えば市内においての特別
郵便については特別の御考慮が払われておるようでございますが、生命
保険会社のごときは必ずしも同一市内だけに限らないのでございまして、非常に大量のものではありまするけれども、全国的にこれが配付されるようなものでありまするので、この別納
郵便の一発送品一日について五百通以上の場合におきましては次のような便法を講じて頂きたいと思うのでございます。即ち
葉書につきましては二円五十銭、開封につきましては七円という
程度で大口取扱者に対する
一つの御考慮をお願い申
上げたいと存ずる次第でございます。
以上誠に杜撰ではございますけれども
意見を申
上げさして頂いた次第でございます。