○
大隈信幸君
日本が
戰争に敗れまして、
占領下にありますこと六カ年、それは新
憲法下におきまして
民主主義への道を踏み出しましたところの新らしい歴史の第一頁でございました。今や、
運命は、この
二つの條約即ち
平和條約及び
日米安全保障條約を仲介といたしまして、更に
日本を
独立への道へ導こうとしておるのでございます。占領から解放されまして
独立を達成することは大きな喜びでございます。併しながら、
日本をめぐります
国際政局は決して平穏なものではなく、まさに我が祖国は嵐の中に立
つておるのでございます。このように、この
二つの條約の
承認によりまして、
日本の進路は
決定せられるのであります。この国の
運命即ち
国民一人一人の
運命に繋がりますところの重大な問題を含みます両條約の
審議に当りましては、
特別委員会といたしましては、期せずして、本
委員会の
審議を通じまして、
国民の聞かんとする多くの点を解明すベく、文字
通り愼重審議をなすことに意見の一致を見たのでありまして、会を重ねること二十一回、昨十七日に結論に到達したのでございます。
審議は連日午前午後に亘りまして、時には夜遅くまで続行いたしたのでございます。
衆議院が九回の短期間の
審議をいたしましたのに比べますと、
参議院はまさに実質的には有に三倍もの努力を傾けたわけでございまして、
二院制度におきまするところの
参議院の特色をいささか発揮できたことは本員の喜びとするところであります。(拍手)以下本
特別委員会におきまするところの
審議の経過並びに結果を御
報告申上げます。
本
特別委員会は十月十七日に成立いたしましたが、
衆議院におきまする両條約の
審議を待ちつつ、その間、二十五日に、
伊藤述史、
加藤久朗、
金森徳次郎、
松本俊一、
尾形昭二及び今中次麿の諸氏を
参考人として出席を求めまして、両條約に関する意見を聽取いたしました。次いで二十六日に両條約に関する
政府の
提案理由の
説明及び
逐條説明を聽取いたしました。
政府の
提案理由の
説明によりますと、去る九月八日
サンフランシスコにおいて
日本及び四十八カ国により調印されました
平和條約の基調は和解と信頼の
精神であ
つて、この
精神は降伏後
連合国側に立
つて共同交戦国として対
独戦争に加わ
つたイタリアに対する講和にも見られなかつたところであるが、勿論、
平和條約は、
日本が
敗戦国であるという事実そのものをも否定するものではなく、
領土條項、
財産及び
請求権の
條項など、個々の場合には、我々の苦悩と憂慮を禁じ得ない
規定も存することは事実であります。併しながら、條約に盛られた一般的な
内容は、過去の諸
平和條約に比し、寛大且つ公正であり、又
我が国の将来に関して、政治上、
経済上の
永久的制限のないことは勿論、軍事上の制限さえも受けることがない。これは、
戰争を開始し且つ敗れた我々にと
つては、相携えて祖国の再建に邁進するの勇気を與えるものである。要するに、現在我々の最も待望するものは、完全な
独立と自由の速かな実現及び
世界各国に対する完全な
平和関係の回復であ
つて、これら
二つとも、
平和條約によらなくては、これを求め得ないもので、これ
政府が
平和條約を
締結せんとする
理由であると申すのであります。
次に、
平和條約と同日に
サンフランシスコにおいて調印されました
日米安全保障條約は、
政府の
提案理由の
説明に従いますと、無責任なる
侵略主義が跡を絶
つていない
国際の現状においては、
集団的防衛の手段をとることが今日
国際間の通念であ
つて、
平和條約の
効力発生により
独立と自由を回復した暁、軍備のない
我が国が、
自己防衛、ひいては極東の平和、
世界の平和のために何らかの
集団的防衛の方法を講ずることが是非とも必要で、これがこの
日米安全保障條約
締結の
理由であるというのであります。
平和條約と同時に署名された
議定書及びこの宣言は、
内容上、
平和條約と一体的の
関係に立つものであるから、
平和條約と共に
一括承認を願いたい。又
安全保障條約と同時に
日米間に交換された
交換公文は、
平和條約の第二章安全の
規定に掲げた
原則を念のため明らかにするものであるから、
安全保障條約と一括して
承認を得たいと
政府は申しておるのであります。
特別委員会は、十月二十九日、三十日及び三十一日の三日間に亘りまして両條約の
一般質問に入りました。詳細は
議事録に譲りまして、簡單に
質疑応答の模樣を御
報告申上げます。
先ず総論的には、
戰争犠牲者への対策に関する要望、
イデオロギー外交の排除、
反動主義の否定、
民主主義の確立、
社会保障制度の擁護、
労働基準法等の遵守の問題に関連して、諸
委員から
政府に対する鞭撻又は
警告的陳述のあつたのに対して、
政府側からの所信の披瀝又は弁明があり、且つ
貿易政策、
金融政策及び
精神文化対策に関し、熱心な
質問、
答弁が展開せられました。
次に
事項別に見ますと、
賠償問題につきましては、
賠償の総額が記入されていないために、
相手国に莫大な希望を持たせ、永久に
賠償を取立てられる虞れがあり、
日本経済を圧迫することになりはしないか。
フイリピン国は
平和條約第十四條に
役務賠償と書いてあるのを
承認しない態度を一方的に留保しているが、
役務賠償以外は応じない
趣旨であるのか。又
平和條約第十四條にいわゆる「存立可能な
経済」とは具体的にどのくらいの程度であるのか。
米国の対
日援助費や
日本の
外債方拂は優先的に考慮されるのか。
賠償交渉は
各国別か或いは
実地調査団を派遣するのか。第十六條の
中立国にある
日本の
私有財産までも取上げるのは酷ではないか等の
質問がございました。右に対し、大要、
政府側は次のように答えました。即ち総額がきま
つていなくても、
善隣友好の
精神で交渉すれば自然に総額はきまる。
フイリピン等の主張に対しては誠意を以て交渉する。存立可能な
経済云々と申しても、
相手国と相談して具体的にきめなければならないが、
生活水準は切下げたくない。水準を上げつつ
賠償も支拂うという
考え方である。具体的な
話合いはすべてこれから始まるのである。
賠償と
外債等のいずれが優先するかの問題も、
相手国との
話合いが必要である。総合的に考えて善処し、和解と信頼の
精神で進めば、解決は付くと考える云々でありました。
次に領域に関しましては、
連合国が
大西洋憲章を無視して
領土慾を現わしたきらいはないか。色丹、歯舞諸島は
千島に含まないとは
公式解釈か。
南西諸島は
国連憲章第七十七條の1の(ろ)によ
つて分離して
信託統治となる以上、
日本に
主権は残らぬ理窟となるではないか。
南西諸島等の
住民は
日本人として残るか等の
質問に対し、
政府側から、
ポツダム宣言で
日本の領域が四大島及び
連合国の定める諸小島に限るとある以上、いたし方がない。色丹、
歯舞群島は、
ダレス氏の声明もあり、これらが
北海道の一部であることは
連合国の絶対多数の
承認するところである。
国連憲章第七十七條1の(ろ)による分離にはいろいろの態樣があるわけであ
つて、
サンフランシスコ会議の
米英全権の
発言にある
通り、
信託統治に置かれても、
南西諸島等の
主権は
日本に残り、
住民は
日本人として残るといつた
答弁がございました。
主権が残ることに
なつたのは
政府苦心の結果で、多とするとの一
委員の
発言もありました。
安全保障條約については、圧迫によ
つて突然できた感じに受取られ、
曾つての日満
議定書的である。不平等である。
行政協定は
憲法に違反しないか。その
内容の大綱なりとも承知しなければ
審議ができない。
安全保障機構、例えば伝えられる
日米合同委員会に国会に対し責任を持つか。
ソ連を刺激するのではないか。不名誉であるのではないか。再軍備を前提とするか。
自衛戰争と
憲法の
交戰権否定との
関係如何。内乱に
米軍の
援助を得るのは
内政干渉とならないか等の諸
質問に対し、
政府の
答弁は、圧迫は何もない。
平和條約で得た
独立を守るためである。片務的という気持はむしろ
米国が言いたいところで、
ヴアンデンバーグ決議による
相互援助の義務は
日本が目下負い得ないから、
米国の一方的義務のように書かれている。
安全保障條約は
原則を定め、
行政協定は
施行細則で、
憲法に牴触はあり得ない。現在まだできていないが、機構は
憲法以上のものは作らない。
安全保障條約
はり自衛のためで侵略のためではない。
自衛のために
外国軍隊を招くことは不名誉ではない。再軍備は前提とな
つていない。
我が国は
自衛権はあるが、その行使の方法として
戰争はできない。手段がないからである。その手段を
米国が供してくれる。それが
安全保障條約である。
日本は
交戰権が主体とならぬから
憲法に触れない。
北大西洋條約も、第三国の関與する内乱の場合に他国軍の出動のあることは
有権的解釈とな
つている等でありました。
又、
日本を無防備に置いても誰も侵略しないとの考えは非現実的であり、
安保條約を
占領下で結ぶのは自主的でないとの説があるが、そんな悠長なことは
言つていられないとの一
委員の
発言もあつたことは附言いたします。
次に
中共との
関係については、
台湾政府と
中共政府との選択は
日本に任されているのか、又は
連合国がどちらかを選ぶのかとの
質問に対し、総理は、
連合国の
考えがまとまつたときに、それを付度して
日本が定めるのであると答えました。
又、
外国では
平和條約は
日本を
アジアから切り離したとの論さえあるが、
日本は
アジアの人民と手をと
つて進まねばならぬのではないか。対
中共問題は自主的であるべきであるが、
日本は国府と結ばねばならぬとの圧迫があつたのか。
ソ連と
中共は
サンフランシスコ條約を目して新
戰争の準備と称している等の
質問に対して
政府側から、條約は
日本のほか四十八万国で調印された。何らの圧迫はなかつた。未
調印国とは
休戰状態が残るが、
日本側に重大な
違反行為がない限り、この
休戰状態を破
つて戰鬪行為に移ることはできない。條約は平和のためであるから休職の違反と言うことはできない等、
答弁があり、更に、
中共貿易については望ましいが、現在政治的に阻まれているのは遺憾である。
我が国と中国とは
経済的に自然に結び、付くべき
運命にあるとの
意味の
答弁がございました。
更に、
憲法第九條の
戰力不保持、
交戰権放棄と條約との
関係については、
政府側から、
日本は
自衛権は依然保持するか、戰力がないから、この権利を有効に行使することができない。そこで
外国軍隊によ
つて守
つてもらうのである。
日本に
曾つて戰力の行使を誤まつたから、(「はつきりやれ」「わからんぞ」と呼ぶ者あり)それを放棄する旨、
憲法第九條の
規定と
なつたのであ
つて、
外国軍隊による
自衛権の行使は差支えない。又その場合、
戰争とな
つても、それは
日本は
戰争の主体でないから
憲法に違反しないとの
説明がなされました。
又、
平和條約第
五條(a)項(iii)の「あらゆる
援助」の
意味について、
安全保障理事会等の
決定を待つた上で、
日本の国法によ
つて可能な範囲の
援助を與えればよいとの
説明がございました。
在外私有財産については、何故、條約中に
補償の
規定を置かなかつたか。條約に
規定あるなしにかかわらず
補償すべきではないか。十四万トンに達する
差押え船舶は
在外財産の中に入るか等の
質問あり、これに対し
政府から、
日本の財政が
補償に堪える見通しが付かなかつたので條約には書かれなかつたが、検討の上、国内問題として
補償の問題を
決定いたしたい。問題の船舶は当然
在外財産に入る。これが
除外方を交渉したが認められなかつた等の
答弁がありました。
以上が三日間に
亘つた一般質疑応答の大要であります。
続いて十一月二日から
平和條約の章別の
逐條審議に入りましたので、以下その
質疑応答の概要を申述べます。
先ず
前文でありますが、第一に、
我が国の
国連加盟に関し、
拒否権の障害を打開する方法を講ずべきではないかとの
質問に対し、「
加盟を申請」することが一つの足掛りとなり、正式の
加盟ができない間も、
イタリアのごとく、
国連に
代表部を送
つて、事実上
加盟国と同樣に取扱われている国があるとの
答弁があつた後、
前文第三項の「安定及び福祉の
條件」をめぐ
つて二つの相対立する
考え方の
質問がなされました。一つは、この文句の挿入にむしろ反対する
考え方で、
憲法ですでに新
日本の行き方として同
趣旨のことが謳われているのに、何故に條約に挿入されたか。
日本は無論この
趣旨を守るが、例えば
貿易等においては
相手があること故、将来必ず問題が起る。
日本の
経済を発展させるために豊富な
労働力によると、すぐ労働三法に引つかかり、又は
ソシアル・ダンピング等の非難となる。法の保護だけがあ
つても、これを受けるほうが、
勤労精神を旺盛にして、それに値する
心がまえがなくて、法を惡用するようなことにな
つてはいけないという
趣旨の
質問と、他は、
日本はすでに
反動化の兆がある、
民主化は
僞わりであ
つてはならないとの論旨から、
社会保障制度、
労働基準法、
ゼネスト禁止法案、
団体等規正法案、
国家公務員法等に関連して、
政府の方針を質す
質問がなされました。前者に対しては、
政府側は、この文書は
イタリア平和條約では
條文の中に入
つているが、
日本の場合は
前文に誰
つて、
日本の
自発的行動に信頼することにされた。
世界に向
つて日本は公正な通商をなすことを示さねばならない。働く人人の
條件を
世界の水準に持
つて行かねばならないが、
最高水準を行く
労働立法は、それを受取るほうの
心がまえが必要である旨の
答弁があり、後者に対しては、
団体等規正法等は
前文の
趣旨に副う線を守る。
社会保障制度に関しては、同
制度審議会の勧告はできるだけ急速に実現に努力する等の
答弁がございました。
更に
前文に関連して、
精神的、教育的、社会思想的な方面から
日本の現状を批判し、
民主革命をやつたはずの
日本に、依然として国家を最高の道德と考える古い
指導者が残
つているのではないか。そして、そのような人が教育の衝に立つたり、中央、地方の行政を
行なつたりしているのでは、
日本の将来について
外国筋で心配を表明する人のいるのも当然であるとの
趣旨の
発言もありました。なお、
前文も
法的拘束力ありやとの
質問に対しては、
政府は、
前文は、條約
締結の事由、又は目的、或いは
根本原則を謳うので、條約の本文とは区別して考えられ、
締結国に対しては
道德的義務を課するものであるとの
見解が表明せられました。
次に第一章に関しては大略次のような応答がございました。先ず、(b)項の「完全な
主権」とは、完全な
独立のことと思うが、そうすれば、第六條(a)項の
外国軍隊の残留と矛盾するではないか。例えば
エジプトは不完全な
独立と自由を見ているではないかとの問に対しては、
完全独立といつても、自主的な
主権の制限はあ
つて差支えない。
北大西洋條約で、英、仏、伊に
米軍が駐屯しているが、英、仏、伊の
独立は害されていない。
アラブ諸国における
外国軍の駐屯は古い植民地政策的なもので、
北大西洋條約に基くものは全然別であるとの
答弁がありました。又、
戰争状態は
日本国と
連合国との間に終了するとの
規定は、
反対解釈として、一部の未
調印国とは
戦争状態が残ることを
意味するが、この
戰争状態とは如何なるものかとの間に対し、
降伏文書は
交戰状態を終了せしめて
休戰状態を作つたので、この休戰が残るわけであるとの
説明がございました。更に、「
日本国民の
主権」とあるのは
日本の
主権在民を契約的に確認したものと解すべきかとの
質問に対しては、さようではなくて、
対外主権は最高で、他国の制肘を受けない、いわゆるサブジエクト・ツーの
関係の終了を
意味するものであるとの
答弁がなされました。第二章に移ります。
第二章では、先ず一般的に、
大西洋憲章の
領土不拡張乃至は
住民の同意の
原則が無視せられて
領土決定があつた。今回の條約は寛大と称せられるが、領域に関しては懲罰的とも言える。将来
国際感情の融和を待
つて再検討の機の来るのを期待するとの
発言に対し、
政府は、
日本は
ポツダム宣言を受諾して、
領土の
決定は
連合国に任したのである。併しその
決定の前に、
政府としてはあらゆる資料を提出して、できるだけの措置を講じた旨、
答弁がございました。
第二條に関しては、朝鮮には現在
二つの
政府があるが、
日本の
相手とするのは南北いずれであるかとの
質問に対しては、
国連の努力によりでき、三十数カ国によ
つて承認せられている南の
政府であるとの
答弁がありました。又
国連軍は現に北鮮と停戰交渉をしているが、
日本も国内に多数の
北鮮人を擁する
関係もあり、事実上、北鮮をも
相手とすべきではないかとの
見解については、
南北統一政府の早くできることを希望するが、
大韓民国だけを
相手にせざるを得ない旨の
政府側の
答弁がございました。
次に第三條の
南西諸島、
小笠原群島の
信託統治については、多数の
委員から各種の質疑が続出しました。その二、三を例示いたしますと、次の
通りであります。
主権は
日本に残ると
言つても、実際は何も残らないではないか。
信託とせずに
安全保障條約の対象としたほうがよかつたのではないか。
信託とするときに
日本に相談があるのか。この
信託制度は
日本を監視するためではないか。
信託は折角の
日米の友好を阻害するものではないか。
日本国憲法はこれらの島々に適用されるのか。
憲法第九條の
関係上、島民が
外国の
義勇兵にとられる
ことば憲法違反ではないか等々の
質問であります。これらに対し、
政府は、
主権が
日本に残る以上、これらの島々は
日本の
領土として残り、
住民は
日本人として残るのであ
つて、具体的には今後の事態の発展に待たねばならない。詳細は今日なお
答弁の段階にないが、いよいよ
信託制度を施行するときは、実際上、
日本に相談あるものと思う。
信託制度は
日本の安全のためであ
つて監視のためではない。又、友好を阻害することにはならない。
イタリアの場合は
信託になる土地の
主権は放棄させられているが、
日本の場合は残る。
憲法は、
米国の行使する立法、行政及び司法の権力によ
つて排除されない限り、法理的には適用される建前であるが、事実上施行されなくなる。
憲法第九條は
国民が個人として
外国の
義勇兵となることには
関係がない等、
答弁がございました。なお、第三條末段について
米国と
話合いをする了解があるかとの問に対しては、
現地住民の希望が容れられるような
話合いがあると確信する旨、答えられました。
千島に関してはその範囲が問題となりましたが、歯舞、色丹は、
北海道の一部であ
つて、
千島ではないとの主張を持する旨、
政府の
見解が披瀝せられました。国後、
エトロフ両島も一八五五年の
日露條約で明らかに
日本領と認められ、又
宮部ラインによ
つてウルツプ以北とは学術上あらゆる点において異なり、
国民感情的にも
千島にあらずと思われるが、常識的には
千島の中に入るのではないかとの
趣旨の応答もございました。由来、
千島諸島は全体を通じて毫も
我が国が侵略又は貧欲によ
つて得たものではないので、これらについてはできるだけ我がほうの
見解が了解せらるることが期待されるのであります。
次に第四條の(b)項とは、主として、韓国にあつた
日本の
財産に関し、すでになされた処分の効力を認める
趣旨と思われるが、この項が挿入されたのは
大韓民国からの圧力に基くものと思われるが如何との
質問に対しては、
政府は、この項は條約の
最終草案に挿入されたものであ
つて、
大韓民国からの要請によるものと想像せられると答え、更に、
大韓民国は交戰国でも戰勝国でもないのに、(b)項によ
つて戰勝国的な待遇を與えられているではないかとの追及に対しては、
政府は、
平和條約第十九條の(a)項によ
つて、
占領期間中
占領当局の指令に基いて行われた作為の効力を
承認しているから、(b)項がなくてもあ
つても大体同樣である。又第四條(a)項の取極を行うときに、
大韓民国に対し、我がほうの貸方として主張することができると答えました。
第三章に移ります。第三章は安全の
條文で、
五條、六條から成
つています。
第六
條但書の
意味について
政府側は、これは
サンフランシスコム会議における
ダレス全権の
説明の
通り、
但書がなければ、
占領軍は一度撤退して、更に改めて
駐留軍として来る必要があるとの論も起り得るから、引続き
駐留軍として残ることができる
趣旨を明らかにするために置いた
規定である旨、
説明があり、これに続いて、
但書がある以上、
安全保障條約はあのように大急ぎで結ぶ必要がなかつたのではないか、大つ急ぎで結んだのは結局
日本に対する信頼の欠如ではないかとの
質問に対しては、然らざるゆえんが答えられ、又、
但書による
駐留軍は即ち第
五條(C)の項の
集団的安全保障軍で、インド、
エジプト等が
日本のために心配してくれている
日本の
主権侵害的な
軍隊でないと断言できるかと念を押したのに対して、
政府は断言できる旨明瞭に答えました。
次に、第六條(b)項については、
ソ連が
平和條約に調印しなかつたから実効なしと解してよろしいかとの
質問に対しては、
政府は、この條約と同
趣旨の條約が結ばれるときに実効が現われるのみならず、この條約は
日本のほか四十八カ国の署名するところであるから、道義的、政治的の
意味は大であると答えました。
更に、
平和條約第
五條、第六條の
規定によ
つて日本の安全が保障されるか、
ソ連のごとき
国連加盟国で
平和條約の
調印国でない国、又は
中共のごとき
国連非
加盟国で
平和條約非
調印国に対しても、
日本の安全は保障せられるのかとの
質問に対しては、第
五條によ
つて国連精神が適用されるから、一応、
平和体制が確立する。又
国連憲章第二條の四項によ
つてソ逋も拘束されるし、
中共については、同憲章第二條の六項によ
つて中共も
国際の平和と安全に必要な
原則に従うように
国連加盟国は努力する義務があるとの
答弁がございました。これについて然らば、別に第
五條、第六條はなくても、
日本は真空にならないではないかとの
質問に対しては、
国連憲章が忠実に実行されるならばお話の
通りであるが、無責任な
侵略主義が駆逐されていない現状では、丸裸かで
国際場裡には出られないとの答えがあり、丸裸か、真空などの表現は
国民へ誤まらす、如何にも
国連憲章が空疎なような印象を與えるとの問答がありました後、第六條(b)項に関連し、
日本の
軍隊にあらざりしものが
強制労働をさせられていることに対する
政府の
考え方如何、これは
国際法違反ではないかとの
質問に対して、
政府側は、それは軍人の抑留以上に不合理であ
つて、
国際法違反であると述べました。
なお、第六條に関連し、
安全保障條約の行政的取極はまだ
内容がきま
つていないと言うが、これはあり得べからざる
説明で、九月十日の
マンチエスター・ガーデイアン紙は、
日本の
警察予備隊は必要の場合
米軍の
指揮下に入る旨
規定があると伝えておるがこの
質問に対して、
政府側から、それは推測であるとの
答弁がございました。
次に第六條(a)項に関し、
サンフランシスコ会議で、
ダレス全権は、
駐留軍は
日本が自発的に與える地位を持つ旨、言われたが、
日本はどの程度自発的に與えるつもりかとの問に対して、
安全保障條約による
米軍駐留は
日本の安全のためであ
つて、それは
日米相談の上きめるとの答えがございました。第
五條(C)項にいわゆる
集団的自衛権の発動によ
つて警察予備隊を国外に派遣せよと要求された場合、
五條(a)項のあらゆる
援助を與える
関係上、派遣の義務があるのではないかとの
質問に対して、それは
憲法第九條及び
警察予備隊の本質上あり得ない旨の
答弁があり、これに関連して、
憲法と條約及び法律の効力問題の議論が交され、
政府側から、国家が條約を結ぶ場合は
憲法に従
つて結ぶのであ
つて、換言すれば、條約は国内的な努力としては
憲法の下にあり、法律の上にある。第
五條(a)項の「あらゆる
援助」とは、
憲法上、法律上、合法的で可能な範囲の
援助という
意味である。又
国際連合も
加盟国の法律上不法なことを要請するはずはないし、たとえ、お
つても服する要はないとの
趣旨の
答弁がございました。
又第六條(a)項
但書について、
マンチエスター・ガーデイアン紙のごとき比較的公平な新聞も、この部分は倫理的に最も擁護しにくい部分であると論じている。
日本は両手を縛られたまま
外国軍隊の駐留を認めた。国務省はこの
條項に乘り気でなかつたと伝えられる。又排他的でもあるとの意見に対し、
政府側は、この
但書は念のための
規定で、本質は第
五條(C)項と同一であり、排他的ではないとの
答弁をいたしました。
続いて第四章政治及び
経済條項に移ります。
本章で先ず取上げられました漁業に関連して、マツカーサー・ラインはどうなるかとの
質問に対して、
政府は、マツカーサー・ラインは
占領下の暫定措置であ
つて、
平和條約発効後は
調印国に対しても非
調印国との
関係においてもなくなる。併しながら非
調印国は実際上マツカーサー・ラインの消滅を認めないとの態度をとるかも知れない
中共側はもともとマツカーサー・ラインは認めず、東支那海は全部自国のものとの態度をとる樣子である。それは勿論不当であるが、その不当な主張をあえてするところに無法な勢力の残存を見る旨答えられました。
第九條の
規定に関し、これは公海漁業を制限する意図からであると思うが如何。現在対等の交渉はできないから、
平和條約が発効して完全に平等な立場を得てから漁業交渉をなすべきではないか。過去の
日本漁業が不評判であつたのは労働
條件が低かつたからではないか。この点について反省が不十分であれば、将来も信用を回復できないのではないか。第九條によ
つて協定を結ぶと同時に、窮迫している漁村の生活を改善する国内対策を実施すべきである。吉田書簡には一九四〇年以前に出漁していなかつた区域への出漁を禁止するとあるが、実際上どうして漁民に知らせるのか等の諸
質問に対し、
政府側から、公海の漁業は
国際的な
原則に基いて行われなければならない。併し何ら制限を置かぬことは資源保護上好ましからぬ。現に行われている予備交渉は対等な立場を與えられている。労働
條件の改善の要は多々あり、これが実現方を努力中である。出漁区域のことは水産庁で明らかにわか
つているから個々に知らしめることになると思う。別に立法の要はないと考えられる等、
答弁がございました。又同じく漁業に関して、アメリカ、カナダ方面へ出漁する前に近い所で漁業ができるようにしてやるべきであり、その点から、
ソ連、
中共との交渉が必要である。公海の漁業制限ということは断然反対してもらいたい。公海でも他国の養殖している魚族についてはその権利を尊重しなくてはならないが、公海の一部を区切
つて独占するようなことは、
相手国の如何を問わずあ
つてはならない等、諸意見の開陳がございました。更に第九條に関連して、現在東京で進行中の
日米加漁業予備交渉について種々の応答がありました。
サンジエルマン・アン・レイで結ばれましたいわゆるコンゴー盆地條約につきましては、
日本がこの條約の利益を放棄させられたことは、主に英国の主張によるものと思われるが、この英国は
日本に対して法律上は最惠国待遇を與えぬと噂せられ、又
日本のガツト加入も賛成しないとも伝えられ、
意味深長である。コンゴー地域へは
日本は昭和十二年には一億四千万ヤールの綿布を輸出しており、将来も希望をかけている市場だけに打撃であるが、対策如何との
質問に対し、
政府は、遺憾であるが、條約できまつた以上小細工は禁物で、公共な貿易をして信用を増すよりいたし方がないと答えました。又更に、
日本は権益を失つた上に各国から誤解をこうむ
つているから、公正な貿易をするのは勿論だが、もつと積極的に、例えば在外事務所に優秀な商務官を置いて現地で打てば響くように誤解を解く方策を講ずべきである。在外事務所は現在のままでよろしいのかとの
質問に対し、
政府から、在外事務所については必ずしも満足していない。外務、通産両省一体とな
つて十分意を用いるつもりであるとの
答弁がなされました。又在外事務所についてはもつと予算を與え、人も殖やし、活動ができるように措置せられたいとの
発言もございました。
第十一條戰犯
関係につきましては、現に国外で刑を言い渡されて拘禁されている者の数はどのくらいか。これらの人々の内地送還は可能か。第十一條の減刑、赦免に関する
規定は、
外国に拘禁されている者に適用されないか。赦免、減刑、仮出獄に関する
日本国の勧告は、個人々々の事情によるのか、又は記念日等に全般的な形で行われるのか等、幾多の
質問がございまして、これらに対しては、現に濠州のマヌス島に二百四十三人、フイリピンのモンテンパに百十三人であ
つて、これらの人々の内地送還についてはあらゆる方法で努力中であるから、相当見通しがあるとわれる。減刑等の対象となるのは
日本に拘禁されている者だけであるから、
外国で拘禁されている者についてはできるだけ條約発効前に内地に送還を図りたい。減刑等に関する
日本の勧告は一定の機会又は個人々々のいずれについても行い得るよう努力したいとの
答弁がございました。
十二條に関連し、西独はすでにガツトに加入しているが、
日本の加入見通し如何との問に対し、條約中に
日本のガツト加入支持の
規定を挿入するよう努力し、
米国はこれに同情的であつたが、
連合国全部の支持は得られなかつた旨の
答弁がございました。次に、内
国民待遇の例外が明らかでないため
日本経済が巨大な
外国資本に圧迫されないか、外資導入も必要だが、事業の性質上検討を要するとの
質問に対し、発券銀行、專売事業、地下資源等は、通常内
国民待遇の例外と考えられている旨、及び外資導入ぱ場合々々により善処する旨述べられました。現在、関税は低過ぎる。又、
外国品、例えば時計、化粧品等が都内に氾濫している。これらは半公然的に密輸入されているが、
政府の所見如何との
質問に対し、
政府は、條約の発効により関税自
主権を回復し、この状態の是正方法を
日本だけでとり得るようになると
答弁をいたしました。十二條の内
国民待遇の相互主義は、巨大な
外国資本と弱い国内
経済の間では実際上相互主義でなく、弱い
経済に種々好ましからざる現象、例えば生産財が入
つて来ずに奢侈品の植民地的氾濫、中小工業の圧迫、低賃金を、目当ての外資の導入の現象が現われるとの
見解に対し、
政府側は、
日本は極端に言えば九〇%までは中小企業であるから、これを保証することは絶対に必要である。奢侈品氾濫については同感であるが、法的に阻止することは考えられない。低賃金を目当ての外資導入は、よい技術の導入ともなり、
日本工業の進歩にもなるという利点もある。要は程度の問題で、
日本工業を阻止せぬように場合々々につき考えるべきであると答えました。
次に第五章
請求権及び
財産に移ります。
先ず第十四條
賠償に関しては、一
委員から、
衆議院の応答では役務以外の
賠償もしなければならぬように受取れる節があつたが、それは誤まりと思うがとの
質問に対し、
政府側はその
通りと答え、ヴエルサイユ條約は金銭
賠償、対伊條約では物品
賠償であるが、
日本は金も物もないから
役務賠償であるとの
説明がありました。次に、ガリオア、イロア資金は
賠償に優先するかとの問に対して、極東
委員会の対日政策の
賠償の部には優先するとあるが、
平和條約によると優劣前後の差はないとの答えがございました。又十四條(a)2(I)(C)にある「
日本国民が所有し、又は支配した団体」とは、議決権の全部又は過半数が
日本国民の所有であつたものという
意味で、いわゆる満洲法人又はアメリカ法による
日本人の法人とか会社を指すものであるとの
説明がございました。フイリピンは役務以外の金銭
賠償のごときを要望しているようであるがどうかとの
質問に対しては、要望があるようであるが、正式には聞いていない、條約面からは金銭
賠償は考えられておらぬと答えられました。
賠償に当てられる
在外財産は
補償すべきではないとの問に対しては、法律上
補償すべきや否やは疑問あるも、政治上は
補償したい。但し財政上の問題もあるので考慮中であるとの
答弁でございました。次に、ガリオア、イロア資金は、
政府は贈與であると宣伝していたが、これは
国民を瞞していたのかとの
質問に対し、大蔵大臣は、対
日援助費は債務と心得ると二年前から国会で
言つておつた、
イタリアの場合は
米国は一方的に放棄した、
日本としては今日感謝の気持を持
つて、余りとやかく言わぬが花との
趣旨を答えました。「存立可能の
経済」の具体的
内容を示せとの問に対しては、今後の折衝によりだんだん具体化して来るので、現在の
生活水準を圧迫して下げるようなことはしたくない、水準を上げつつ
賠償も支拂うのであるとの
答弁がございました。十四條(a)2(I)の「留置し、清算し、その他何らかの方法で処分する権利を有する。」とは、今後の交渉で
相手国に権利を放棄せしめる余地があるかとの問に対し、
イタリアの場合は、在米資産を五百万ドルと見積り、現金拂をして、資産はそのままとした。こんな例もあるから、交渉の余地はあるとの答えがありました。又戰利品と
賠償について
政府側から、戰利品とは交戰中に軍の直接管轄内に落ちたもの、
賠償は、講和によ
つて平和関係が回復する際、戰敗国が負たり財的負担であ
つて、昔は戰費プラス損害が
賠償の
内容であつたが、
戰争の損害が大となるにつれて
内容が変り、ヴエルサイス條約では、戰費は除けて損害だけを戰敗国に拂わす
考え方と
なつた。今度の
戰争では更に圧縮して、戰敗国の支拂能力に標準をおく思想に変
つて来た。
ソ連が満洲から撤去した莫大な資産は、
ソ連は戰利品と称しているが、
連合国は戰時
国際法に言う戰利品の中に入るべきではないと考えているようである旨、及び在外資産所有者に対する
補償の問題を考えるとき、右の在満資産も一括して考慮の中に入るべき旨、
説明されました。
第十
五條は
日本にあつた
連合国の
財産補償についての
規定でてございます。これに関しては
連合国財産補償法案の
説明を
政府側から聽取いたしました。元来この種
財産の
補償は、ヴエルサイユ條約、対伊條約では、條約中に長々と
規定しているのでありますが、対日條約は
條文を簡單にする方針の下に国内法に讓つたのであります。当局の
説明によりますと、
補償総額は二百億円と三百億円の間で、且つ一年に百億円以上の
補償はしない法律の建前とな
つているとの由であります。
十九條即ち
日本側の
請求権放棄の
條項に関しましては、一
委員から、條約は和解と言いながら、この
條項は酷であ
つて、十
五條の
連合国の
財産補償と全く別のものがここに現われ、無差別爆撃に対する損害
賠償権まで放棄させられている。これは
国際法の発達のために惜しむとの
趣旨の
見解があつたのに対し、
政府は、遺憾ではあるが容認せざるを得なかつた。ヴエルサイユ條約、対伊條約にも同樣の先例がある旨、回答いたしました。
続いて第六章紛争の解決、第七章最終
條項並びに附属
議定書及び宣言についても、二、三
質疑応答がございましたが、便宜一切を
議事録に讓らせて頂きます。
十一月十四日には総理大臣の出席を求め、
平和條約に対する補足
質問及び
平和條約に関する総括
質問を行いました。主たる
質疑応答は次のごときものであります。(「少し明瞭に」と呼ぶ者あり)
安全保障條約は
日本が
独立後に平等の立場で結ぶべきであるのに、
平和條約と同時に急いで結んだのは
米国の圧力に屈したのではないか。
行政協定の
内容は未定だというが、米比間の協定や北大西津條約国間の協定に類似するとか、大体の構想があるはずであるから、それを
説明されたいとの
質問に対して、両條約とも相互信頼の下に結んだもので、
米国の圧力などはなかつた。
行政協定の
内容はまだきまらないから発表できないので、国会に白紙委任を求めるなどとの考えではない。全く今後の問題であると
答弁し、次に、
在外私有財産は
賠償の一部に充当されるのであるから、
憲法第二十九條に定めた国家の
補償をなすべきである。
外国に所在する故を、以て
憲法の対象にならないという法務総裁の
答弁は納得できない。国内問題として考慮するつもりはないかとの問題に対して、法務総裁より、
在外財産の処分は当該国の行う措置であるから
憲法の適用はないと考える。但し一般
戰争犠牲者と関連して処理する問題と思うとの
答弁でありました。
国連加入の可能性如何との
質問に対しては、少くとも
米国は加入可能との考えで斡旋すると思うし、
国連間の妥協で適当な方法ができると思うとの
答弁があり、
平和條約で
国連に協力する義務を負うが、他面、如何なる権利利益を受け得るとの問に対しては、例えば
日本に朝鮮事変のごとき事態が起つた場合は、
国連の救援を求められるとの答えでありました。又、
安全保障條約第一條の、
日本に内乱、駆擾が起つた場合の
米軍の出動については、事前に
日本側に連絡があるのかとの
質問に対し、国内治安は
日本が自主的に処置する建前だから、
米軍は軽々しく出動しまいし、当方からも
国民が止むを得ないと認めるような場合以外には要請はしないつもりだと
答弁いたしました。次に人口問題について、
日本の過剩人口は産業面の低賃金となり、諸
外国殊に英国等に危惧を與えているが、出産制限等に対策ありやとの問に対し、貿易、産業の振興により
生活水準を上げる方法等が差当り最も適当な方法と考えると述べ、又條約と
憲法との
関係に関して、
憲法に違反する條約は無効かとの
質問に対し、総理より、
憲法に違反する條約を結ぶつもりはない旨、法務総裁よりは、法律論としては、條約といえども
憲法に違反したものは国内的に効力はない。併し條約は
国際的には拘束力がある。万一誤ま
つて憲法違反の條約を批准した場合などは、
憲法を改正するか、條約の改廃を行うことが必要だとの理論になるとの
答弁があり、他の一
委員会からは、
憲法第九十八條第三項を引用して、條約は
憲法に優先して尊重されるべきだとの意見が開陳せられました。
十五日から
日米安全保障條約の
審議に入りました。この條約については、すでに当初の総括
質問及び
平和條約第
五條、第六條との関連においてかなり
質疑応答がございましたが、更に各
委員と
関係大臣との間に熱心な、
質疑応答が展開せられました。問題と
なつた主な点は次の
通りであります。
先ず
前文については、
米軍の駐留を暫定措置とした暫定の
意味、末段の「自国の防衛のため漸増的に自ら責任を負うことを期待」とある字句解釈につき
質問があつたのに対し、暫定とは第四條にその終期を定めたことに対応する
規定であり、いわゆるヴアンデンハーグ決議が念頭に置かれたわけではないこと、「責任を負う期待」とは、率直に言えば軍備を指すか、
日本自身の責任を期待する表現で、必ずしも再軍備のみを
意味しない、又その期待は
日本に対し義務を負わすものではないとの
説明でありました。
第一條については、
駐留軍の出動は
内政干渉にはならぬか。
米軍の出動は
国連機関の
決定によ
つて行われると思うが、
米国が自身の
自衛権発動又は
米国が他国と結んだ個別的又は集団
安全保障條約に基いて
駐留軍を出動させることもあるのではないか。即ち
日本が
米軍の利益のための基地として使用される懸念はないかとの
質問に対し、
米軍の出動は
日本政府の明示の要請を待
つて行われるから、
国際法上干渉にはならない。又、
米軍が
米国の
自衛権行使のため又は他国との安全保障取極によ
つて出動することもあり得るが、それは極東の安全のための行為で、これ即ち
日本の安全でもあるから、こり條約の
趣旨上差支えないとの
答弁でございました。又
米軍の駐屯は、
日本側が「許與し」とあるのみで、先方を義務付けていないので、
米軍の積極的
援助を期待し得るかとの問に対し、
米軍駐留の目的は極東の安全保障にあるから、
日本が攻撃を受けるがごとき場合は必ず出動するであろう。
安全保障條約中に当事国間の権利義務を明示しないのは、最近の
北大西洋條約、米、濠、ニユージーランド間條約にも先例があるとの
答弁がございました。
第二條については、
日本が
米国の事前の同意なくしては権利許與ができないとは極めて不対等の感が深い。対等国間にかかる先例があるか。末段によれば、
外国軍艦は、
日本の沿岸、領海を、通過するに当
つて一々事前に
米国の同意を要するのかとの
質問があり、
政府側より、最近の中ソ條約、
北大西洋條約中にも同樣
規定があること、
外国軍艦の無害航行は差支えないこと、港湾に碇泊の場合は事前に許可の申請があるが、その場合は
米国と相談する。諸
外国軍艦の
日本領海を通過して朝鮮に出動するがごとき行動は、
日本が
国連との
関係で許容するもので、一々
米国の同意は必要がないとの
説明でありました。次に、第三條の
行政協定の問題は最も活溌に論議が展開されました。
質問の主なるものは、
行政協定を條約としてあらかじめ包括的に
承認を求め、その実体たる細目を示さないのは、国会の
審議権無視ではないか。法律及び予算を伴うものを後にな
つて審議を求めるというが、それが国会で
承認されなかつた場合はどうするつもりか。
行政協定は
米軍配備を規律するものとあるが、その
内容は純軍事的なものか、それとも
国民の権利義務を拘束するものも含むか等の
質問があり、法務総裁より、
行政協定は包括的に事前に国会の
承認を求めるものであるから、有効に成立し、法律論としては国会の
審議を要しない。併し
政府は、法律、予算の措置を伴うものについては国会の
審議を求める方針をとり、法律、予算の必要な事項については、この法律、予算が国会を通過することを
條件として
行政協定に記入する方針で行きたいとの
説明がありました。又、
憲法第九條の
戰争放棄の
規定に関連し、
憲法上保持しない戰力の解釈について質疑があり、
警察予備隊は、その装備、訓練の実態から見て戰力ではないか、
国連の要請があれば国外出動にも使用せられるのではないか等の
質問に対し、戰力とは、
戰争する力、即ち近代戰を退行し得る能力と考えるから、予備隊は戰力とは言えぬ。予備隊の本質は、予備隊令の示す
通り国内治安のためのものであるから、国外に出動できないとの
答弁でありました。
その他、條約と
憲法とはいずれが優先するか、国防分担金の
内容、
独立後
米軍工場に雇用される労働者の労働
條件の維持、
米軍の演習によ
つて損害を受けた農民漁民に対する
補償の問題、駐留
米軍の使用する消費物資の横流れ防止の措置、
日本憲法の平和
精神擁護等の諸問題について、十五、十六両日に亘り、熱心に
審議を行いました。詳細は
議事録に護りまして、
憲法と條約の
関係については、
政府は、條約は国内法の効力としては
憲法の下位にある、従
つて仮に
憲法に違反する條約が結ばれた場合、国内においては施行し得ない、併しその場合も
国際法的には條約として成立しているとの
見解を表示したのに対し、
委員の中には、條約の優位を説く
発言、逆に
憲法の優位を主張する意見の開陳があり、活溌な応酬がございましたことだけを附言いたします。
十六日には前日に引続き総理大臣の出席を求め、総括
質問を行いましたが、
委員の
質問に対し、
政府から、
賠償交渉の方式としては、各国と個別に交渉するものと、
関係国との
国際会議を開いて話合う方法とが考えられるが、情勢によ
つて有利なほうにきめる。併し国によ
つて軽重は付けられないし、国力を超えた支拂はできない。いずれにせよ各国と
話合い、これを集計して全体的具体方針がきめられよう。
国連によ
つて世界平和に寄與したい。併し
国連加入には時間がかかるので
安全保障條約を結んだ。即ち安全保條約は
国連加入前の補助的條約と言える。
信託統治地域の設定は決して
日本監視のものではない。
信託統治が永久化することはない。
米国は不要となれば必ず
日本に返還するのである。
賠償実施は、
関係国の不平不満を融和して、
日本産業の進展が期待できるという明るい面もあることを忘れてはならぬ等の
答弁がありました。
なお、吉田総理大臣とアチソン国務長官との
交換公文についても
質疑応答がございました。
以上が両條約についての
質疑応答の大要であります。詳細については速記録によ
つて御承知願いたいと存じます。
かくして
委員会は会議を開くこと二十一回、昨十七日を以て質疑終局ののち討論に入り、
日本社会党第二控室岡田宗司君より両條約に反対、自由党楠獺常猪君より両條約に賛成、第一クラブ羽仁五郎君より両條約反対、緑風会岡本愛祐君より両條約賛成、労農党堀眞琴君より両條約反対、
国民民主党木内四郎君より両條約賛成、共産党兼岩傳一君より両條約反対、
日本社会党第三控室加藤シヅエ君より
平和條約賛成、
安全保障條約反対の意見がそれぞれ開陳せられました。かくて討論を終了し、採決の結果、両件とも多数を以て
承認すべきものと
決定し、本
委員会は重大なる任務を終了した次第であります。
私は、この機会に、これらの條約を作成するに当り、
我が国に対する深い理解と忍耐強い交渉を以て
関係各国間の意見の相違を調整された
ダレス特使、並びに優れた指導力で
サンフランシスコ会議を予定のごとく成功せしめられたアチソン国務長官に対し敬意を表すると共に、これら條約の発効を契機といたしまして、
我が国が、内に個人の自由と尊厳に立脚する
民主主義を固め、外に列国の信用を恢復して
国際社会に文化国家としての名誉ある地位を占め、極東の平和、延いては
世界の平和に貢献し、(「
委員長の意見は言うな」と呼ぶ者あり)人類の進運に寄與するに至らんことを念願すると同時に、朝鮮事変が一日も早く平和のうちに解決することを念願しつつ、本
報告を終りたいと思います。(拍手)
―――――――――――――