○羽生三七君
只今議題となりました農林業振興基本政策確立に関する決議案の提案
理由を御
説明申上げます。
先ず案文を朗読いたします。
農林業振興基本政策確立に関する決議
かねて政府は、わが国が国際連合食糧農業機関に加盟することを希望し、今回これが憲章を受諾することについて
国会の承認を求めた。
この憲章は、その前文において、この憲章を受諾する国の
決意を明記している。然るに、わが国の農林業政策は果してこの
決意に副
つているか、かえりみて甚だ忸怩たるを得ない。
講和後におけるわが国自立経済の確立と民生の安定を図ることは政府の重要使命である。然るに、政府の施策中、特に農林業政策を見るに、及ばざるところが尠くなく、且つ一貫性を欠き、ために農業者は不断の動揺にさらされ、生産に対して積極的熱意を持つことが困難と思われる状態にある。かかる條件の下においては、自立経済の基盤は確立せられず、ひいては民生の安定を期待することも至難と言わなければならない。
年間千数百億円にのぼる食糧の輸入を最大限に節約するに足る食糧自給度の向上は、わが国農業が当面する重大な課題であると共に、経済自立の緊切な要件であ
つて、これは決して狹隘なアウタルキーを意味するものではなく、寧ろわが国工業が要求する重要原料の確保に必要な外貨に余裕を與えるという積極的役割を果すものというべきである。
かかる意味において、政府は農林業生産力の発展強化を図るため、速やかに、一貫した、長期不動の政策を確立し、これを完遂するに足る経費を確保すべく財政的、資金的処置を講ずるの要切なるものがある。
わが国が国際連合食糧農業機関憲章を受諾し、
世界農業機構の一環につらならんとする今日、右の趣旨に沿
つて政府の断乎たる措置を要求する。
なお政府は右に関する具体的方針を決定し、できるだけ速やかに本院に
報告せられたい。
右決議する。
以上がこの決議案の趣旨でございます。
只今外務
委員長の
報告にありましたように、国際連合食糧農業機関憲章を受諾し、且つ又国際小麦協定への参加も我々は承認を得たわけであります。こうして
日本農業がいよいよ国際農業の一環としての役割を果さなければならない時期が到来したわけでありますが、顧みて今日の
日本の経済の状態を見まするならば、
講和の批准はいよいよ成立せんといたしておりますが、
講和成立後の
日本経済の状況を展望いたしますに、その前途は極めて多難なるものがあると想定されます。即ち朝鮮、台湾、満洲、樺太等を失つた今日の
日本が、この資源の大部分を外国からの輸入に依存しなければならず、加うるに国内における人口の過剰は戦前に比べて非常に多く、今や八千数百万の人口を数えるに至
つております。この際、私
どもは
日本の農業生産力の基礎を拡大いたしまして、年間千数百億円に上る輸入食糧費を節減することは、我が国自立経済の緊要なる條件であると考えております。今や
日本の手持外貨は約五億ドル程度と想定されておりますが、若し政府が食糧統制撤廃の前提といたしました輸入食糧の総額約三百七十万トンの確保ということが現実の問題とな
つて参りますならば、これに要する経費は年間約四億数千万ドルであります。これは
日本の手持外貨五億ドルの大部分を消費するものでありまして、このような経済の中で、
日本の自立が達成され得るや否や極めて疑問なるものがあります。本月八日の新聞を見まするならば、イギリスは
内閣が更迭をいたしましたが、イギリスの大蔵大臣の最初の施政方針
演説におきまして、イギリスはイギリス国家の経済再建のために極力輸入を節減し、でき得べくんば食糧についても重大な規制を加えるということをイギリスの新蔵相は声明せられております。我々は今日イギリスと引比べまして、更に困難なる経済的地位にある国であると、この国を判断をいたしておりますが、この
日本においてこのような莫大なる食糧輸入費を、年間その都度支拂い得るや否やということは、これは困難であるということは申上げるまでもないことであります。
然るに先に政府は食糧統制撤廃を企画いたしまして、諸般の事情によ
つて一たびはこれが中止せられましたが、私
どもは経済の合理性というものは自由経済によ
つて確立せられますが、社会的合理性は必ずしも確立せられないと信じております。これは
日本の農業生産の基盤を十分に拡大して、一面においては農業生産者の地位を確保し、農業の拡大再生産を図
つて、先ず農業者の地位を安定し、延いては食糧増産の結果として、この一般消費者大衆にも十分な経済的余裕を與えなければならないという立場から見まして、政府の食糧統制撤廃案とは非常な大きな違いを我々は持
つておるのであります。併し今日私はその問題を論議するのが趣意ではございませんので、これについては多くを申上げません。ただここで申上げたいことは、これらの政策を見ておりまするに、政府の施策に必ずしも一貫性がない。例えば過ぐる
国会におきまして、曽
つて食糧確保臨時措置法の一部改正案を議会に出したことがありますが、これは審議未了に終りました。その際に、一面においてはやはり食糧統制の一部解除を計画された。又今回におきましても同樣に、一面においては食糧統制撤廃を企図されながら、而も今回やはり二千五百五十万石というような過大な割当を農民に背負
つてもらわなければならないというような矛盾した政策がとられておる。この一貫性のない政策では農民は十分に安心をして農業生産にいそしむことができないのであります。この意味におきまして、私
どもは消費者大衆と農業生産者の立場との両面から見ましても、
日本のこの政府が確乎たる農業政策を立案いたしまして、この立案に基いて或いは土地改良を行い、或いは農業技術の改善を行い、或いは畜産を導入し、その他農業政策万般に亘りまして、
確固不動の政策を立案いたしまして、これに要する経費を年間相当額国家財政のうちから支出してもらいたいというのが我々の念願であります。年間千数百億円に上る莫大な輸入食糧費を出すことを思いますならば、この何割かを節約することによ
つて、
日本の農業再生産発展の基礎に国家資本として投下することは必ずしも不当なる要求ではございません。(
拍手)なお又、当院の去る本
会議において私触れたことがあるのでありますが、しばしば政府は資本の蓄積ということを言われておりますが、資本の蓄積は必ずしも大資本の蓄積を意味するものではないと思うのであります。農家が或いは土地改良を行い、或いは農業技術の改善を行い、或いは家畜を導入し、或いは台所を能率的に改善する等、農業者が明日の生産力を高め得られるような、そういう施策に対する国家の助成というものは單なる涙金ではなしに、これは農業再生産力の発展を通じまして、何年か後には再び利潤を伴
つて政府の懐ろに跳返
つて来る
国民的資本の蓄積であると、私
どもは解釈いたしております。
この意味におきまして、政府が相当額の予算を計上して、この
日本の食糧自給度の向上を図るということは、決して単なる国家の損失を意味する財政的負担ではなしに、将来の
日本の自立経済の基盤を拡大し、延いては
日本経済の発展のために重大な寄與をなし得るものと私は解釈をしているのであります。こういう際に、
只今申上げましたように国際連合食糧農業機関憲章を受諾し、或いは国際小麦協定に参加をいたしましたが、この国際小麦協定への参加は
日本農業の将来に又重大なる課題を與えております。併し時間がございませんので、私はその詳細に触れることは避けますが、諸般の点からいたしまして、政府がこの際一貫した農業政策を立案し、これを保障するに足る財政的支出を十分考慮せられることが、私
どもの心から念願してやまないところであります。
今回この国際連合食糧農業機関憲章の受諾に当りまして、この憲章の第一條の3の(c)項を見ますると、次のように書いてあります。「一般に、前文に掲げるこの機関の目的を達成するために必要且つ適当なあらゆる
行動をとること。」ということが
各国に要請されております。従いましてこの憲章を受諾した今日、
日本の政府におかれましては、特に農林省を中心に適切な農林業の振興の基本的な対策をと
つてもらいたいと念願しているのであります。私
ども委員会審査省略で当議場に発案をいたしましたが、農林
委員会におきましては、與党野党の差別なく、若し確固たる政府の一貫した農業政策が立案せられますならば、政府の更迭等の有無にかかわらず、あらゆる政党、あらゆる
内閣が、十分この
日本の基本的な農業政策の確立に値するような立派な政策案ができましたならば、すべての人がこれに協力するということが懇談的に話合われたのであります。これらの意味をお考え願いましても、これが単なる一党一派の党略によるものではなしに、飽くまで
日本農業の基盤の拡大と再生産力の発展が、重大な
日本の自立経済の基礎を確立する上に役立つという大きな意味も含めておりますので、政府もこの点については十分な対策を立ててもらいたいと思いますし、我々の提案の趣旨を諒とせられまして、
議員の皆樣におかれましても、絶大なる御
賛成を念願してやまないのであります。
以上を以ちまして提案の
理由といたします。(
拍手)