○堂森芳夫君 私は
日本社会党を代表いたしまして、現在
財政的に重大な
危機に当面しておりまする社会保險、特に健康保險制度に対しまして
政府は如何なる施策を以てこの
危機に対処せんとしておられるかをお尋ねしたいのでございます。
健康保險制度は
昭和二年、当時賃金百円以下の労働者を対象として漸次拡大して参り、現在では
政府管掌のものおよそ三百六十四万人、組合管掌のものおよそ三百万、船員十三万、共済組合ではおよそ二百三十七万でございまして、その扶養家族を加えまするならば二千万人を超えておるのであります。又国民健康保險制度は、
昭和二十三年の改正
法律を以ちまして、全国で五千七百の
市町村においてその設立を見まして、の対象は二千数百万に達しております。合せて全人口のほぼ七割近くがこの保險制度の恩典に浴することと
なつたのであります。而もこれらの被保險者は殆んど労働者であり、農民であります。従いまして健康保險制度は、これらの労働者や農民のその日の生活の糧であるところの労働力を疾病から守り、労働力の保全を策するところの最も緊要なる制度として、我々はその帰趨につきましては重大な関心を持
つているのであります。ところがこの保險制度が現在
財政上の
赤字によりまして
危機に階
つておるのであります。
政府は先に輿論の反対を押切
つて、二回に亘り労働者の実質賃金低下という労働者の一方的
犠牲におきまして、世界的にも最高水準の料率であります千分の六十という高率の
引上げをいたしまして、保險
財政上の
赤字三十億の補填を行わんとして参つたのであります。併し大蔵省からの
国庫余剰金の借入状況を見ますると、本年四月二日三十三億、同月二十日八億円、合計三十億でございまして、これによ
つて漸く前
年度未拂の診療報酬二月分、三月分の支拂を完了すると共に、本年四月分以降の支拂に充当して参つたのでありまするが、保險
経済は常に本質的
危機を内蔵したままで、
政府の無為無策のうちに放置せられて参つたのであります。
次に国民健康保險でありまするが、医療報酬の支拂のうちおよそ四一%は借入金或いは繰入金によ
つて賄われておるのであります。ところが保險会計は現在のところ一般
市町村の会計に比べて見まして、二分の一乃至三分の一の巨額に達しえずるので、到底この繰入金や借入金で保險会計を賄
つて行くことは不可能であるのであります。全国的に見まして国民健康保險組合は
赤字財政に悩み、組合の
事業停止、開店休業の組合が続出しておるのでありまして、
事業継続のものも医療報酬の未拂は殆んど常識とな
つておるのが
現状であります。然らば何が故にそうした
赤字が出て参つたのか。この
赤字の原因は、
政府の言うところによれば受診率の
増加である。利用者が殖えたからだと申しておるのであります。成るほど受診率は
昭和三十一
年度は〇・六五であつたものが、二十二
年度は一・一五、二十三
年度は一・四、二十四
年度は二・六、二十五
年度も同樣に
増加し、本
年度も四月以降受診率は依然上昇を辿
つておるのであります。更に被扶養者の受診率の著しい上昇は注目すべきものがあります。併しながらかかる利用率の上昇は、即ち十年間の無謀な戰争のために蝕まれましたところの国民体力の低下、国民抵抗力の減退或いは戰後のインフレ政策による大衆生活の破綻よりいたしまして、保險証を持
つて続々大衆が病院、医院を訪れるからであります。即ち受診率の上昇ということは大衆の低生活、即ちソシアル・ダンピングの結果であると言うことができるのであります。かかる事情からいたしまして、現に健康保險制度は非常な
危機に陥
つておるのであります。
そこでかかる観点から先ず総理にお尋ねいたしたいのであります。御存じのごとく利用率の
増加は、無謀な戰争と戰後の大衆の低生活、即ちソシアル・ダンピングに基くものでありまするから、当然それによ
つて来たされる保險
経済の
赤字は、
政府の全
責任において補償すべきものであると考えるのであります。去る第六回
国会において、衆議院で私の同僚の岡良一代議士が質問を行いまして、保險
経済の
赤字に対し如何なる態度で臨むかと質しましたところが、吉田総理を初め当時の林厚生大臣、増田官房長官も、保險制度が円滑に運営されるように社会保障制度審
議会が設けられておるのであるから、その
結論を得て、速かに具体的
措置を講じたいので御了承を願いたいと答弁しておるのであります。この社会保障制度審
議会の
勧告が発せられましてから、すでに一年以上経過しておるのであります。然るに今日に至るもなお
危機に瀕しておる健康保險制度につきまして、何ら手を著けていないのは一体どういう理由であるかとお尋ねしたいのであります。社会保障制度審
議会は昨年十月の
勧告に次いで、更に本年十月二十日、社会保障制度推進に関する御告をいたしまして、社会保障制度に関する推進策として医療保障、特に国民健康保險に重点を重いて
昭和二十七年は
予算を編成すべきだと言
つておるのであります。吉田総理大臣は、社会保障制度審
議会の
勧告を無視されるのか、その権威を尊重されるのか、この点を先ずお伺いしたいのであります。
次にこれに関連いたしまして、健康保險並びに国民健康保險においては、医療報酬を
国庫の
負担において円滑なる保險制度の運営を行う用意があるかどうか、この点明らかに御答弁願いたいのであります
次に
大蔵大臣にお尋ねいたします。去る十月二十九日日本
教育会館において、日本労働組合総評
議会、日本労働組合総同盟等多数の民主団体と、医療担当者であります日本医師会、日本歯科医師会等が打
つて一丸となりまして、社会保險医療強化国民大会なるものを開催いたしまして、
現下財政的
危機に直面せる社会保險医療制度の根本的改革強化を図り、以て医療の向上と国民の福祉増進を期すると言
つておるのであります。社会保障制度審
議会の第二次
勧告は、
危機に直面する健康保險制度を
財政的に
裏付けるために、單に
事務費の全額のみではなく、給付費についても医療費の二割を是非とも
国庫が
負担すべきであると言
つておるのであります。池田
大蔵大臣は、
政府は常に資本の蓄積を唱えられ、戰後の
経済復興を言
つておられるのでありますが、資本の蓄積は一体誰がやるのでありましようか。これは言うまでもなく、低賃金で働くところの労働者であり、低米価を強いられておりますところの農民の活動力であります。労働力の保全を策するところの健康保險制度を確立することこそが資本の蓄積、
経済復興のための根本的大前提であると言うことができるのであります。池田
大蔵大臣は、何らの準備もなく、国民生活に大きい不安を捲き起しておりまする主食
統制撤廃を断行しようとした蛮勇をお持ち合せのようでありまするが、労働力保全という極めて重要な社会保險制度に、少くとも社会保障制度審
議会の
勧告をしておる程度の国費を投入される勇気をお持ち合せであるかどうかをお尋ねしたいのであります。
次に厚生大臣にお尋ねいたします。昨年の第七
国会において
政府は極めて高率の保險料率の
引上げを行い、労働者に実質賃金の低下を強いて三十億の
赤字を補わんとして参つたのであります、この料率は世事外的にも極めて同率のものであります。
政府は低賃金の結果、病気にかかる労働者が逐次
増加して行くことによる保險
経済の
赤字を労働者の
犠牲において行うのではなく、今や、抜本的建直しを断行せねばならん時期に直面しておる健康保險制度に対して、一体どのような態度をおとりになるのか、先ずお尋ねしたいのであります。厚生省は本年一月からの保險料率の
引上げで、漸く大蔵省からの借金が返せる見込が付いたかのごとく言
つておりまするが、本年五月十四日の社会保險担当医師大会に全国から集まりました社会保險医は、若し健康保險制度の
財政的裏付と適当な社会保險診療費の是正が行われないならば、社会保險医を総辞職することも辞せないという重大決意を示し、国民の保健上からも一大
危機が迫
つておるのであります。厚生省に設けられておりまする中央社会保險医療養協
議会では、小
委員によ
つていわゆる一点單価に関し討議がされておるようでありまするが、医療報酬の問題を厚生大臣は如何に考えられておるのか。この問題は極めて重大な性質のものでありますだけに、はつきりした大臣の所見を聞いておきたいのであります。一点單価一円の値上げでも月に七億円の
赤字が加わ
つて参るのでありまするから、特に重大なのであります。更にこれに関連しまして、厚生大臣は来るべき通常
国会において医療報酬の
国庫負担を明文化するところの法の改正を実施せられる御意思がありや否やをお伺いしたいのであります。我々が、医療報酬の一部
国庫負担の実現を強く要求いたしまするのは、單に
赤字財政の克服だけではなく、憲法に保障せられまするところの国民の健康を、
政府がその
責任において保障するという大原則を実現するという立場からも要求するものであります。
次に健康保險制度の
財政的
危機を招いた原因の一つは、薬品の価格が国民の
負担力に比べて割高なことでございます。
現状の医療制度と薬事行政又は製薬
事業の
実態との間の大きな開きを指摘いたしたいのでありまして、厚生大臣の所見を承わりたいのであります。
我が国の医療制度は社会保險、国立施設、保健所の発達等、かなり見るべきものがあるのでありまして、社会化への道を前進しておるにもかかわらず、製薬
事業のみひとり全く野放しで、而も巨大資本を擁する製薬資本家は、利潤追求の野放し
経済のままに放置してあるのであります。我々の概算によれば年間製薬
事業家が投ずる宣伝費、広告費は数十億を超えておると思われるのでありまして、これは生産費を遙か数倍、数十倍を超えた値段で大衆に売りつけておるのであります。そもそも医療問題について、あたかも車の両輪のごとき
関係にあるべき医療制度と製薬
事業が、一方は社会化への道を辿り、一方は全く相反した方向へ廻転しておるのでありまするが、今日の薬事行政の下では、国民大衆こそが製薬資本家の搾取の対象となり、薬代を支拂うのでなくして広告代を支拂
つておると言
つても過言ではないのであります。製薬
事業の公共性に鑑みまして、国民生活に重大な
関係を持
つておりまするところの製薬
事業、薬事行政に対して如何なる考え方を持
つておられまするかを併せて御答弁願いたいのであります。
次に、社会保障制度審
議会の
勧告にも言
つておりまするごとく、複雑多岐に亘る現行社会保障制度の根本的改革が行われなければ、到底現在のような
状態では社会保險制度の円満なる運行は不可能なのであります。このために共済保險、国民健康保險、健康保險等、極めて複雑多岐な多数の組織に分れておりまするところの、これらの健康保險制度を單一化いたしまして、国民保險省のごとき名称の一省を作り、その下に医療、予防と公衆衛生の結合を図り、或いは公的医療機関の充実と適正を図り、医療担当者に対する再
教育の徹底であるとか、又は医療担当者の生活の保障を前提とする医療制度の採用、かくのごとく一元的な国民医療体系の確立を私は希望するものでありまするが、厚生大臣は如何にお考えになりますか、この点をもお答え願いたいのであります。
以上で私の質問を終ります。(
拍手)
〔
国務大臣池田勇人君
登壇、
拍手〕