○深川タマヱ君 占領の夜はまさに明けんといたしております。併し
日本の行く手は余りにも大きい苦悩と憂慮に閉ざされて、お先真つ暗であるというのが、僞わらない今日の
国民心理であろうかと存じます。満洲事変から中日事変を経て太平洋
戰争に至るまでの間は、
国民が悔ゆるとも取返しの付かないほど大きく
国民の運命が左右された大事件でありながら、
国民にその真実が知らされないで、
国民は自己の
判断によ
つて自己の運命を決定する自由を奪われていたということであります。年遷り日変りてここに六星霜、再び
日本の独立は復活いたしましたが、これを完成のものにいたしますためには更に一段の
努力を要することと存じます。にもかかわらず
国民には再び事実が知らされておりませんので、
国民は
如何に心がまえをいたしてよいか宙に迷
つておる姿であります。
国民が知りたいであろうと思われておる点を総合いたしましてお尋ね申上げますが、どうぞ御懇切な御
答弁が頂きとう存じます。
第一問は、朝鮮戰線に
日本が
軍隊として出動する義務はないものと
解釈するが
如何かということであります。私どもは
講和会議に全権を送りました。そうして署名して帰られました。
講和條約の第五條によりますと、国連が国連憲章第二條に基いて行動を起すときには、
日本人はその
如何なる場合にも援助する義務を背負うという項目がございます。私どもは、
日本に今軍備がないのでございますから、たとえ朝鮮動乱が熾烈になりましても、
軍隊として出動いたして国連を援助する義務はないものと思
つておりますけれども、
国民の多くのうち、殊に婦人団体では、その問題に非常に
危惧の念を持つのでございますが、改めてこの席から総理から御回答を頂くことができますならば仕合せと存じます。
第二問は義勇軍のことでございますが、将来国連が義勇軍を募集することがあるかも知れません。又
日本人の中にはこれに応募したい希望が出るかも知れません。西ドイツのアデナウアー元帥は、欧洲統合軍に西ドイツ軍に参加させよと要請されましたときに、その
前提條件として、先ず西ドイツが独立軍を組織することを要請いたして、気骨のあるところを示しております。
日本が軍備がないにかかわらず、将来
国民が一人々々ばらばらに
外国の指揮の下に傭兵のような形で従軍するということは、
国民の自負心から申してもよくないことと存じますので、そのときには
一つ総理はどういう
態度をおとりになりますか。ここではつきりさせて頂きとう存じます。
第三間は賠償の問題でございますけれども、
政府はこの役務賠償まで漕ぎ付けたことは成功だと言われておりますけれども、私どもの
解釈は、役務賠償と申しましても、労務者の賃金を
政府が支拂うといたしますと、現金賠償と大した違いはないのではないかと
考えるわけであります。
総理大臣は、近代戰におきまして敗戰国は賠償の能力がないのを普通とするものだけれども、アジアの親善を取返すために
日本はできるだけの賠償をしようと思うと言われております。私は
日本の
総理大臣のその
外交センスを高く買うものであります。併しながら、それにいたしましても、最小の労費を以て最大の効果を挙げることができますならば、勿論これに越したことはございません。フイリピンのロムロ全権の話によりましても、賠償は形式よりもその精神を重んずると言われております。私は今日のフイリピンは、事によると
日本人の
心理状態に対して相当認識不足の点があるのではないかと
考えるわけであります。論より証拠、過日
サンフランシスコにおける
講和会議の席で、フイリピン全権のロムロさんの
演説をラジオで聞きましたところが、
日本人諸君は誠に我々に対して忌わしい侮辱を與えてくれた、けれども、運命は再び
日本人と隣人として、而も平和裡に暮さなければならなく
なつた。東洋には四海同胞という諺があるけれども、兄弟となるにはその
前提條件として先ず心が清純でなければならない。将来
日本人諸君が深い悔悟と著るしい更生の兆がはつきりと見えたならば、改めて防衛協定その他の條約に応じようと言われております。、この前太平洋
戰争におきましても、
日本人は一部誤ま
つた軍人の指導の下に踊らされておりますので、軍人と一般
国民との間には相当
心理状態に開きがあると存じます。
講和会議じやなく、終戰以後におきましても、
日本人は六年の間総懺悔をいたしまして、民主的に精神革命をいたしたわけであります。けれども終戰後六年の間、フイリピンとの間に交通が杜絶いたしていたのも原因でございましようけれども、今日のフイリピン人は、相変らず、あの当時フイリピンで暴虐をいたした一部
日本の軍人と今日ある
日本人全体とは同じ
心理状態であるがごとく
解釈しているのではないかと存じます。この点の認識を深めますならば、あれは懲罰に匹敵するような賠償問題はよほど軽減されるのではないかと存じますので、この点、今後とも
政府の御
努力を願いたいところでございます。第四問は
安保條約のことについてでございますけれども、総理は勇敢に全責任を一身に帶びて署名されてお帰りになりました。
衆議院の勢力分野から
考えましても、この批准は当然通過するものと
考えなければならないと存じます。併したとえ
自由党だけで通過いたしましても、他の政党が全部
反対するというようなことが若しありといたしますならば、
国民は大変この問題に
危惧の念を抱くだろうと思います。それは、
予算を初めといたしまして、治外法権その他、
国民の
権利義務を大きく制限するような問題がたくさん含まれておりますので、当然この問題は
国会で議決すべき性質のものを、普通の法律の施行細則と同じように行政取極に移されておる点が、すでに大きい
憲法違反ではないかというような疑惑も伴うことでございますので、(
拍手)今後
政府は、御面倒であろうとも、謙讓に各政党にお諮りになりまして、相成るべくは各党派なり、仕方がなければできるだけ
政府と近い、まあ妥協の余地があるとお見込みの他の政党の代表者だけでも、
一つ一緒にアメリカ側と折衝に当るようにお諮りになることが、
政府のためにも、
国民のためにもよいのではないかと存じます。(「全体として惡いのだ」と呼ぶ者あり)
更にその次は、この行政取極の内容について若干希望條件を申述べますが、日米合同委員会の組織についてであります。伝え聞くところによりますと、向う側とこちら側とはどうやら委員の数が同じようで、場合によりますと、委員長は先方が占めるやに聞いておりますけれども、これだけ見ましても、この合同委員会の機能はアメリカの
意思の
通り動くということはわかり切
つたことであります。この際、私たちが特に
考えておかなければなりませんことは、
日本の
国民の中にも
講和会議以後に
外国の
軍隊に駐屯してもらうということには非常に
反対する
国民が相当多いことであります。而もその中には本当に愛国心から出た
意見もあるようでございます。私たちもその人たちと同じ血を分けた
国民でございます。
講和会議以後にな
つて、なお且つ
外国の
軍隊に踏みとどま
つて保護をしてもらわなければならないということは返すがえすも残念でございます。併し事態
如何ともいたしがたき事情もございますので、(「ノーノー」と呼ぶ者あり)暫定的にこれに応ずる恰好にな
つておりますけれども、その代り(「ちよつとおかしいぞ」と呼ぶ者あり)行政取極を
承知いたして、この
国会で批准を通過するとなりますと、この席に席を連ねております
議員は、重大な責務といたしまして、後に
日本の
国民はこの日米
安保條約を廃棄いたしたいという
意思が出ましたときには、何者の制肘も受げないで、
日本人だけの
意思でこの條約が廃棄できるような條件にしておくということは、後世
国民に対する重大な責任であろうかと存じます。(「初めから断わ
つたらいいじやないか」と呼ぶ者あり)
それから、その次に補正
予算のことについてでございますが、(「成るほど勝手なものだ」と呼ぶ者あり)今回出されました補正
予算を拜見いたしまして一番に私の感じますことは、一家の主婦が、(発言る者多し、「黙
つて聞け」と呼ぶ者あり)こういう世帶の持ち方をしたならば、必ずその世帶は繁昌しないであろうということを感じたわけであります。なぜならば、昨年六月朝鮮動乱以来一年有半に亘るところの特需景気に基く臨時收入が千六百七十八億円の厖大に達しております。一家のうちでございましたならば、臨時收入がありましたときに、これをどう使うかによ
つて、家が繁昌するかしないかとの分れ目であろうと思います。或る主婦は、ふだん切り詰めた生活をしておるのだから、この際
一つ暫らくは皆で御馳走を食べよう、或いは父親の背広も作ろう、母親の毛皮の外套もというように、必ず出さなければならないときま
つていないような冗費支出に精魂を凝らすでございましようけれども、賢明なる主婦はこの
態度をとりません。長いこと苦労はしたけれども、今この金を使
つてしまうと元も子もなくな
つてしまいます。もつと将来本当に安心して使うことができるように、この金を暫らく貯蓄にするとか、或いは安全なる
方面に投資しようということにするだろうと思います。(「
戦争するためにへそくりを作るのですか」と呼ぶ者あり)その代りそこから上る利潤によ
つて生活するようなことになるだろうと思います。今日、
日本で一番大切なることは、基礎産業でありますところの電源開発、それから造船の問題、鉱工業に対する生産意欲に対することだろうと思います。私たちの聞く範囲では、電力の現有は六百万キロですか、更にこれに半分の三百万キロを加えますと、
日本の産業様相が一変されると聞いております。即ち鉄道は電気になりますと高い石炭をインドやアメリカから輸入することが少くなるのでありましよう。合成繊維が増産されますと羊毛や綿花の輸入が少くて済むことになります。更に化学肥料の増産になりますと、輸出が増加いたしまして、将来は
国民の自然増収から税金も大幅に引下げられることになるだろうと存じます。特にこの
方面の生産支出のほうに、もつと多くを割くよう御
努力賜わりたいと存じますが、大蔵大臣の御
答弁が願いたいところであります。(「軍需産業ですよ」と呼ぶ者あり)
更に
最後に
総理大臣に伺いたいことは、(「ゆつくりやれ」と呼ぶ者あり)日米でなく、
米国と
ソ連との対立を話合いによ
つて解決付けるべく、
総理大臣の一段の
努力を願いたいという点であります。今回の
講和によりまして、
日本は
民主主義陣営に加担いたしますことによりまして、
世界の二大勢力の対立が激化いたしまして、
戦争の危險を孕むからいけないと言われております。併し私たちは、最近の
世界の
戦争は、二大陣営の対立から起るのではなくして、一方の陣営は緊張していたけれども、一方の陣営はその
反対に油断をしていたのが原因で、その油断に乘ぜられて
侵略せられる。それが原因で小
戰争が繰返されるのだろうと存じますので、今回その油断をしていた一方の陣営が立ち上りまして、共同防衛の恰好で相均衡いたしますと、暫らくはこれで平和が保たれるだろうと思います。併し然らば永久にこの
態度でよいかと思いますと、そうではないと思います。この行き方は間違
つていると存じます。ひどい軍備の競争になりますと、相手に対する疑惑の念が因になりまして、簡單なる問題で
世界戦争にならないとも限らないと存じます。昔でございましたならば、
外国の
戦争は対岸の火災視してもいられましたが、
安保條約で
日本が国連を援助する契約もいたしておりますし、第一、
日本にはアメリカ
軍隊が駐屯するということになりますと、
世界戦争は早速
日本の禍いの種になりますので、何をさておきましても、今後
世界を平和に行くということを図る
政策は一番大切だろうと
考えるわけであります。私たちの聞くところによりますと、欧洲の北大西洋條約参加国の現有兵力は未だ大したものではないようであります。又小国は軍備競争のための
財政負担に悲鳴を揚げているようであります。
民主主義国の強みと申しましたならば、原子爆彈の現有勢力が多いことにあるので、ございましようけれども、これも使
つたときは優勢かも知れませんけれども、これを使えば必ず復讐が来るということを
考えますとなかなか簡單には使わないだろう。そういたしますと案外、宝の持ち腐れになりまして、原子爆彈以外の軍備によ
つて勝敗を決することになるかも知れないと思いますと、
ソ連の陸軍侮りがたしと聞いておりますので、楽観は許されないだろうと思います。ところが
ソ連側にも又弱点があるようであります。最近
ソ連側には民族主義が抬頭いたしますし、なお、国内におきましては余りにも粛清が度を過ごしまして、重要な地位に新人が就きましたために運転が困難で(実際は内政が忙しくて外に手を伸ばす余裕がないとさえ聞いております。かてて加えて
スターリンの年まさに七十有余歳でございますか、
スターリンほどの人は、たとえ戦
つたら勝つ見込があるかも知れないと思うときでも、ここまで成功いたしたこの革命を瓦解するようなことがあ
つてはなりませんので、両虎鬪えば共に傷つきますことを
考えますと、なかなかそういう冒險をおかすほどの思慮の浅い人間でないだろうと存じます。そういうことを勘案いたしますと、すでに氏神の出るときではないかと思います。併し幾ら頑張りましても、たかだか
日本とインドぐらいが
如何に高邁な
理想を述べましても、背後に強い軍備がございませんので、所詮は蟷螂の斧のように非常に弱いと存じます。それで
考えますには、
ソ連の言うことも満更筋の通らないことばかりではないと思います。例えば最近軍縮の問題も提唱いたしておりますし、それから原子爆彈に対する有効なる国際管理も
言つておりますし、朝鮮戰線におきましても北鮮並びに
中共の
軍隊は責任を以て引かすから、その代りに
日本と
中共とが貿易をすることを許してくれ、或いは
中共を国連に参加さしてくれというような條件を
考えているらしうございますけれども、半身不随にな
つている今日の国連に今更
中共が参加したとて大した問題にもなりませんし、
日本と
中共とが貿易をいたしましても、
日本の戦略物資を輸出いたすことを厳重に取締りますならば、大して禍いの種にもならないだろうと思います。この程度の條件で朝鮮の動乱が收まるならば私は望外の仕合せではないかと存じます。そこで、第二次
世界大戦の末期にヤルタに会合いたしましたアメリカの大統領と
チヤーチルと
ソ連の
スターリンと三人は、今後
世界の問題は三人の話合いによ
つて解決付けようということになりまして、一夜に三回も乾杯をしたほど、なこやかな空気が保たれたようでありますが、再びこういうチヤンスを作りたいと私たちは
考えるわけであります。幸いにいたしまして
日本の国の
総理大臣は多年
外交畑で鍛えられた優秀なるお腕をお持合せであります上に、
外交センスを豊富にお持合せでありますので、晩年を
世界平和のために役立てるお
覚悟で、アメリカのよき相談相手、顧問或いは内助の功、そういう
意味で、相成るべくは
ソ連とアメリカとが静かに話合いによ
つて世界のもろもろの摩擦を解決するように
努力して下さいますことをお願いいたしまして、私の
質問を終ろうと存じます。(
拍手)
〔
国務大臣吉田茂君登壇、
拍手〕