○
説明員(
鈴木忠一君) どうも今日はお叱りを受けることばかりで大変恐縮でございますが、
鈴木判事のいわゆる今おつしやられた退廷の
事件なんですが、これは
ちよつと概要を申上げますと、本年の七月十二日に岡崎の支部で、名古屋の高裁から
出張をして、その岡崎支部の調停室で
裁判長が高城
裁判長、それに陪席
判事として
鈴木正路
判事と赤間鎭雄
判事の会議体として証人三人を訊問すべく
出張したのであります。そして最初の三宅という証人を訊問をして、併しまだ調書が作成されませんから、証人に一応訊問したところを確めながら調書を作ろうとしたところが、陪席の
鈴木判事から、調書はあとで作ればよいではないか。これは公判廷外の調書でありますから、読み聞けをして証人の署名捺印までその場で取らなければいけないことに訴訟規則ではな
つておるのです。それを
鈴木判事は証人の署名捺印をした書類を取
つて置いてあとで作成すればいいのではないかというような意を述べたものでありますが、それを高城
裁判長が採用しなか
つた。その前にも若干感情の行違いがあ
つたらしいのでございますが、きつかけは今言
つたこの証人調書をその場で完成をするかしないかというのがきつかけです。暫くしますと、
鈴木判事は
ちよつと失敬すると
言つて退廷をしたのでありますが、再びドアから
ちよつと顔を出して、それじや僕は失敬しますと
言つて自宅へ帰
つてしま
つた。そのあと
裁判長と陪席一人は、まさか家に帰
つてしま
つたとは思わないものですから、ずるずるべ
つたりにあとの証人も調べて帰
つてしま
つたわけなんです。それが新聞記事等になりましたものですから、
鈴木、赤間
判事からも
事件の内容を高等
裁判所に
報告をしまして、その結果名古屋の高等
裁判所の処置としては、七月の三十一に……その前に事実の調査の
委員を任命してその事実の調査をした後に、七月の三十一日に
裁判官会議を開いて、その結果、
鈴木判事を下級
裁判所事務処理規則の二十
一條によ
つて名古屋の長官と、名古屋の
地方裁判所所長から注意を與えるということに決議をしたわけですが、
事務処理規則の二十
一條の注意というのは、別に懲戒でも何でもない事実上の注意ということになるわけです。それから高城
裁判長と赤間
判事、これは
鈴木判事が退席をしたのにかかわらず、その後会議体としてあとでそのまま証人訊問をしたというのも手続法上は面白くはない。併しこれも懲戒には値しないからとい
つて、これはやはり処理規則の二十
一條によ
つて長官から注意を與えたのであります。そういう
報告が名古屋から
裁判官会議でこういう処置をしたという
報告が
最高裁判所にありましたものですから、最前御
発言になりました
通り会議体の
裁判官が審理の途中で勝手に退席してしまうということは、これは会議体そのものを否定をし、会議体の活動を麻痺させるような行為で、確かに
裁判所始ま
つて以来の出来事なんですから、最高としては單に
事務処理規則の二十
一條で注意をするという
程度の軽い
事件ではないのではないか、そういう軽い処置をとることは何かしら合理的な
理由がなければそういう軽い処置はどれないではないかというような疑いを持ちましたものですから、
裁判官会議から命ぜられまして私が名古屋に赴いて事実の調査をいたしまして
関係人等にもいろいろ事実を聞きました、本人からも聞きましたけれ
ども、まあ感情の行違いは多少高城
裁判長と赤間、
鈴木判事との間にあ
つたらしいことを伺いますけれ
ども、今申したような、
中途で退席をして而も家に帰
つてしま
つたということを正当付けるような
理由は発見できないように存じたのであります。そのことを
裁判官会議に
報告をいたしましたので、
裁判官会議ではいろいろ議論もありましたのですが、書類その他のものから判断をいたしまして、
鈴木判事に対しては分限の申立てをすべきではないか分限の申立をするのが正当だ、ところが
鈴木判事は身分はこれは本来名古屋の
地方裁判所の
判事であります。名古屋の
地方裁判所の
判事が、名古屋の高等
裁判所の代行
判事として高等で働いてお
つたわけなんです。
従つて懲戒の申立てをする
裁判所は名古屋の
地方裁判所もやれますし、高等
裁判所もやれますし、それから全国の
裁判官に対して
行政監督を持
つておる
最高裁判所もやれるわけであります。併し今申したように名古屋の
地方裁判所は懲戒はしないで注意をするという決議をしております、それだのにかかわらず名古屋の
地方裁判所が、いや懲戒すべきだとい
つて分限の申立てをするというのもこれも形としては面白くなかろうと思いましたので、
最高裁判所としてはみずからこの懲戒の申立てを名古屋の高等
裁判所に対してしたわけであります。それが九月の一日、その結果九月の十八日に名古屋の高等
裁判所は本人を訊問し、証人をも調べまして、そして十月の十六日に
裁判官の分限の法規に基いて
鈴木判事を戒告ということにいたしたわけなのであります。戒告の決定をしたことは、
最高裁判所のほうにも勿論通知がありましたので、
最高裁判所として不服ならば、これに対して
最高裁判所に抗告ができるわけなんですけれ
ども、その抗告はいたしませんものでしたから、戒告という
裁判が確定をいたしたのであります。一方訴追
委員会でもこの
事件を重大視いたしまして、訴追
委員が名古屋に
出張なす
つて事件を調べ、そして更に本人を訴追
委員会に呼び、
裁判長及び陪席の赤間
判事をも呼んで調べられた。その結果十月の十日に訴追
委員会は
裁判官の彈劾に価いする
事件だけれ
ども、本人が非常にその後悔悟しておるし、訴訟の促進というような面でも非常に働いたというような点も認められて、起訴猶予ということに決定をなす
つたのであります。
事件の概要は今申上げた
通りであります。