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永井純一郎君 今日まで
逐條審議を続けまして
質疑を重ねて来まして、外務大臣或いは
総理大臣から明らかにして頂かなければ明らかにならなか
つた点があるように思いまするので、それらの二、三について質問をいたします。で私は先ず二十九度線がなぜ引かれたのかということについて
質疑を次官なり
局長なりと重ねて来ておりますが、これはなかなか明らかに我々としてはな
つておらない。この第三條では、南西諸島等の
信託統治の地治域になる地域は、
信託統治の提案がされ、これが戰略地区として
考えられる場合には、安全保障理事会等の
関係があ
つてなかなか通らないかも知れない。併しながら一般の
信託統治地域として通る場合には、安保理事会を別に通さなくてもできるのだというようなことであると思います。ところがいずれにしましてもそういう提案がきまるまでは、第三條の後段で、合衆国が
立法、司法、行政の一切の権限を持つということに、第三條の後段ではな
つておるのであります。そこでこれを法理的に詮索して行くと、結局二十九度以南の
信託統治地域に
なつた地域並びに百万に及ぶ同胞の諸君は、恐らくこの前段或いは後段いずれかによ
つて、いずれの場合にも永久に解放されるときは私はないのじやないかということを、第三條から心配するのであります。ではなぜそういう必要があ
つて二十九度線は引かれたのかということを総理からこの百万に及ぶ島民の人たちに
説明をして頂かなければならないし、又
説明をしなければならない私は義務がおありだと、こう思うのであります。多くのこの同胞の諸氏を代表して、この條約
委員会が始まる一番初めに陳情があ
つた次第もありましたが、実に悲痛な訴えがそのときもありました。で私
どもが今まで
説明を聞いて来たことから判断いたしますと、この
信託統治地域になる所と、それから我々のいるこの
四つの島、これは実質的には今までの
説明を静かに顧ると、何ら違わないということが私は言えると思います。
日本の固有の
領土がこうして分離され、
国連憲章の七十七條の(ろ)号によ
つて分離されるという
説明を事務当局からいたしておりますが、私はこの
国連憲章の七十七條の(ろ)号自体の法律上の解釈がすでに無理である。固有のこういう
領土を無理々々に分離することは
国連憲章の精神ではない。帝国主義的な植民地等であ
つたような所は、これは話がわかるのでありまするけれ
ども、固有の我が国の
領土でありまして、又これはポツダム宣言の中にも、カイロ宣言の條項は履行せらるべきであるということをわざわざ謳
つております。そこで
信託統治地域につきましては、
政府の
説明では
主権はあるのだ、併し結局それは潜在的な
主権だというふうに
説明をいたしております。勿論
信託統治地域は軍事基地化され、それから武裝化されます。従
つてその軍事上の必要からいろいろな国民の権利義務なりその他のことがすべて
制限を受けます。従
つて日本の
主権はあるのだが、それは潜在的な
主権であるというふうに
説明をしておると思います。ところが我々のおるこの
四つの島も実は実質的には安保條約を結ぶことによ
つて、幾らか大小の、重い軽いの違いはあるかも知れませんが、これは同じことがやはり言えると思います。安保條約を結びますことによ
つて、やはりこの本土でも行政権、裁判権或いは軍隊が自由に通過する、そういう
内容はよくはまだわからないという
説明にはな
つておりまするが、やはり非常に顯在的な
主権があるというふうには思えないわけであります。むしろ潜在的な
主権だと
言つたほうが適切ではないかとさえ思えるのであります。而も
信託統治地域になる地域は、一般の
信託統治の場合も或いは戰略地区の場合も、これはいずれも武裝化できるということにな
つております。従
つて島民が、島におる
日本人が軍隊化されることも私はあると思います。ところが
四つの島のこの本土のほうでは、その点は憲法の第九條の解釈論で大橋
法務総裁といろいろと論議をいたしたのでありますが、これは結局第九條の解釈を、
政府は憲法の上からは義勇軍或いは傭兵制度というものが、法律上の議論としては認められるというふうに理解されるのであります。これは実際上総理は併しそういうことはやらない、こうお
考えにな
つておると私は確信いたしますが、
法務総裁のような憲法の解釈論をされることは、私
どもは非常に迷惑である。諸
外国に対しても惡いのではないか、こう
考えるのであります。そういう意味から言うと、一応実際上そういうことが行われるか否かは別といたしまして、憲法上そういうことは、義勇軍或いは更に又傭兵制度というものが認められる、法律上の解釈としてそういうことが言えるというふうな感じを受けるのであります。こういう点をこういうふうに総合して
考えますと、私は二十九度線を引いた意味はどこにあるのか、それは最近盛んに国民の間で議論されておるのであります。心配をしておるのであります。そこで私
どもが
質疑を重ねて来て
考えますのに、こういう実質的に我々の住む
四つの島は
信託統治地域と殆んど差異がない。ですから私は安保條約そのものに賛成するものではありません。むしろ完全に或が国の
領土にしておいて、それを安全保障條約の対象にしたほうがいいのではないか、或いは租借地にしたほうがいいのではないかということは当然
考えられます。或いはそういう
お話が総理とダレス氏との間にあ
つたかも知れませんが、それがなぜそれではそうならないで、
信託統治地域にしなければならなか
つたかということは、外交上の
話合いの経過を言うことば恐らくできない、こう総理は言われると思います。そこで、それを無理にその間の事情を話せというふうに私は要求するつもりはありませんが、併し私
ども国民はこういうふうに、特に島民の諸君は私は
考えておると思います。それは今度の條約では
軍備に何ら
制限をしておらないのであります。そこでやがて
日本が、総理は直ぐにやらないというように
答弁しておられますから直ぐにはおやりにならないと思いますが、やがてやはり
軍備の問題が我が国に具体化して来る、そうして安全保障條約第四條に言うところの
国連の安全のための措置等ができるようになりましたならば、或いはこの本土に関する限りは安全保障條約というものは、これは相当長い期間かかると思いますが、なくなるときが来るかも知れませんが、
信託統治地域のほうは永久に恐らくなくならないのではないか、というのはなぜかということを
考えて見ますと、これは戰略地区として戰略の上から必要だということよりも、そのこともありましようが、私はむしろ今日まで
政府が
考えており、且つ占領下でさえ非常に反民主的な
経済的或いは社会的の政策をすでにとりつつある、そういうことに対する
日本の反民主化或いは保守化への監視のために、永久にここに
信託統治或いは施政権を
米国は持
つておることが必要であ
つて、ここを根拠地として
日本を監視するために二十九度線をわざわざ引かれたのではないかというふうに感ずるのであります。総理も御
承知の
通り占領下にすでに、例えば最も重要な占領政策として行われた農地改革等は、占領中にすでにこの農地改革の線から逆行して進められております。又今日労働
関係法規の改惡でありまするとか、ゼネストの禁止でありまするとか、こうい
つたような勤労者の基本的な憲法上の権利に対しても制約がされることが
考えられつつあるというようなことがありまするので、又一面再
軍備を全然
制限しておらないということがあるために、私は恐らく
信託統治地域の二十九度線というものが監視のために引かれたように、今までの
質疑応答を総合すると
考えられます。若しそうであるとするならば、私は第三條ができたことは非常に大きな
政府の責任であると
考える。これが果して、なぜどういう理由のために二十九度線が引かれておるのかということか総理からもう少し明らかにして頂きたい。かように存ずるのでございます。