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平林太一君
大分條項が
あとになりまして恐縮いたしております。第
二條の(b)項、(c)項、(b)項の「
日本国は、
台湾及び澎湖諸島に対するすべての
権利、
権原及び
請求権を放棄する。」、(c)項の「
日本国は、
千島列島並びに
日本国が千九百五年九月五日の
ポーツマス條約の結果として
主権を獲得した
樺太の一部及びこれに近接する諸島に対するすべての
権利、
権原及び
請求権を放棄する。」、これは
前者の場合と後者の場合とは頗る
性格の違いますことを発見せざるを得ないのでありますが、これに対しまして、
政務次官、條約
局長にお尋ねをいたしたいと思います。私はこれを申すにつけても、本日たまたまこの六日付の
ワシントン電報によりまして、我が
領土の問題に対しまして、
只今米国の輿論或いは
米国の
態度といたしまして伝えて来た情報があるのでありますが、私のたまたま昨日からお尋ねいたしたいと思
つておりました折から、非常にこれは重要なる
参考に相なりまするので、これを一応申上げたいと思います。六日発の
ワシントン電報であります。「当地の
権威筋は
歯舞、
色丹両島に対する
日本の
領有権主張に深く同情し、それが
論議の
余地なしに
日本の
領土であることを認めている。同じ筋は、また
琉球及び
小笠原については、将来どんな
形式の
信託統治が行われようとも
主権は
日本に帰属すると説明した。その
見解は
大要次の
通りである。
一、一八五五年の
神奈川條約などの
外交文書は
歯舞及び
色丹を
千島列島から除外しており、又一八七五年の
千島、
樺太交換條約は尊重すべきものと
考える、併しこれらの島は現在
ソヴイエトの
占領下にあるから、
日本の
主張は理論的、法的、道義的に妥当であ
つても実際的な
解決は極めて困難である。
日本が
両島に対する要求を提出できるようになるまでには、
日米両国が互いに忍耐し協力することが必要である。
日本は
千島の地位が
決定される前に自己の
立場を説明する十分な
機会を持
つている。問題の大半は
平和條約が如何に実施されるかということ、又
日米両国間の
相互の信頼ということにかか
つている。
日本が條約
発効後
発言権を得たときは、問題を
国際司法裁判所に提起するか、それとも
国連に加入した際に然るべき措置をとるかは
日本の自由である。
二、
琉球及ば
小笠原の
信託統治については、
米国はそれを
戰略的信託統治下に置くことは実現不能と
考えている。それは
安全保障理事会の
承認を必要として、
理事会では
ソヴイエトが
拒否権を持
つているからである、それは又一般的な
信託統治下に置くことも困難である。なぜなら元来の目的が
戰略的なものだからである。かくて将来の
信託統治の
形式及び
信託統治の期限は未
決定のままとな
つている。
平和條約にはこれらの
両島の
主権を
日本が放棄するという
規定はないから、
主権は
日本にあり、
住民は
日本の国籍を保持することになる。将来は本土との間の自由な貿易と航海を可能とするために一切の制限が除かれることになるであろう。
なお右の筋以外の
方面では、一部の議員などはもつと強い、もつと極端な調子で
日本の
主張に同情を寄せている。」
これであります。極めて
領土問題に対しまする本
委員会におきまする既往の
論議の
質疑応答を顧みまするにつきまして、非常に大きな
参考をもたらしたものと信じておる次第でありますが、これらのことを見ましても、昨日来
質疑応答の中に
小笠原及び
琉球に対しまする
主権の問題に対しましては、
政府のこれに対しまする
最終的結論としての
主権問題に対しましては、
潜在主権というような
言葉をお使いになられておりますが、これは又
質疑に対するそういう結果に自然相成
つたことも深く窺えるのでありますが、この相手方でありまする
米国の
事情が、すでに極めて明確に、この
主権の問題を質
疑いたしておりますこの際におきまして、我がほうが何かみずから苦しんで
潜在主権であるとか
主権でないとかいうようなことは、このようなことに拘泥するものではないと思います。
主権がすでに明らかにあると
先方が言
つておるのでありますから、我がほうは
潜在主権であるとか、或いは
正式主権であるとかいうようなことを
考える私は
余地はないと思います。はつきりいたしまして、
主権は我がほうにありということを明らかに、心を広ういたしまして、内外に宣言することが、極めて私はこのとるべき
態度ではないかと、かように思うのでありますが、
政務次官、この点に対しましてのお
考えがありまするならば、強いてこれを申し上げるわけでありませんが、極めてこのことは
政府当局といたしましては、このいわゆる所信或いは又一度きめました
事柄が、中途からいろいろな
意見が出ましたことに対しまして、それを何か緩和するというようなことのない強い
決定をいたしたことについて、一路邁進するということを明らかにせられることは極めて必要であると思いますから、お
考えがありますならば、この際、承わることも極めて必要と思います。そのようなことにつきましても、これを申上げて置きたいのでありますが、御
承知の
通り、この
台湾、澎湖島の場合とは違いまして、
千島及び
樺太の問題は全然お
考えが違
つておる。いわゆるこの二つの
領土は我がほうは一応
主権も放棄させられたのでありますが、併しこれが今日
受取人のない
幽霊領土とな
つておる、
前者の場合は将来
朝鮮事変のこの終熄或いはこれが行き方、将来
朝鮮事変の進行に連れて、それぞれ相並行して、
国際連合によ
つてこれらの対象になることが窺えるのでありますが、
〔
理事加藤正人君
退席、
委員長着席〕
この
千島、
樺太の場合はそういうことのできない
性格を持
つておることを我々は
考えざるを得ない。又発見せざるを得ないのであります。それで、当時の
事情といたしましては、いわゆる
ヤルタの
秘密協定によりまして、
ルーズベルトは当時
口頭を以て、
千島、
樺太を
ロシアにやるということの
程度であ
つたことを我々はこれを忘れてはならないのであります。併しそのようであ
つたが、
スターリンはその
口頭でこれを出したという軽いなにを利用いたしまして、利用と申しますか、これを非常に
一つのチヤンスといたしまして、
一つ文書でということで、これが
両島を
ロシアへやるということが
文書に
なつた。その
文書に
なつたという
性格がすでにそのようである。このためには、ついに
ルーズベルトは一日出発を延期した。その
文書にするというような向うの申入れに対して、そういうような
性格が当時の
事情であ
つたのであります。
ヤルタの
秘密協定によりまして、そういうふうに
ソ連にやるということにな
つたのでありますが、
アメリカといたしましては、御
承知の
通りこのウイルソンの時代から、
公開外交というものを大旆を掲げて一貫しております。これが
国際連盟の
規約の中にも
公開外交の本質を明らかに
規約の中にも登録し、或いは公表しておる。従いまして今回の
国連憲章の中にもこのことが受継がれておる次第であります。
アメリカの憲法は、たとえ
大統領が判を捺しましても、
アメリカの国家を拘束するところの力はない。上院の三分の二の賛成を得て
大統領が批准したものでなければ
アメリカを拘束するところの條約にはならない。この事実は
スターリンも十分
承知しておるはずであるのであります。
ヤルタ協定の履行といたしまして、
樺太、
千島を
ソ連に引渡すということは、
アメリカ国民の良心がこれを許さないことである。と同じに、今日は、全
米アメリカ国民の感情の上からいたしましても、このことを欲しておらないということが明らかであるのであります。でありますから、
樺太、
千島の問題は、たまたま本日の、
只今私が申上げました六日
付ワシントン電報によりましてもこのことに触れておる。このことは、将来
日本と
アメリカが深い
友好関係を続けることによ
つて、これらのこともその時を得て必ずその
解決をすることになるであろう、こういうようなことを明らかにいたしておるのでありますから、この点に対しまして、
政務次官、條約
局長に、非常に重大なこのことの
取扱方に対する再認識を
一つ私は要望せざるを得ないのであります。
先方も言
つております
通り、すでにいわゆる理論的、法的、道徳的に妥当であるということを認めておるのであります。
アメリカがこのようにまで明らかに
千島、
樺太に対してこのような
見解を下して参
つたのであります。これらのことに対しましては、ひそかに思うにつけましても、昨日の
秘密会におきまして、條約
局長の切々たる
首席全権の当時の
領土に対する苦衷を拜察いたしまして、私自身も非常に胸を打たれるものがあ
つたのでありますが、そのような
事柄が漸くその効を奏して来たのではないかと思われます。又同時に、恐らくかようなことになりましたことは、このたびの
国会におきましては、
国会はこの
領土の
問題等に対しまして、非常に事実を事実としてこれは
論議いたしておることは恐らく
先方にも相当な影響を與えておると思います。私は本参議院における
特別委員会における先日来の
委員会各位の御
意見に対しまして、改めて非常な敬意を表する次第であります。このようなことを思うにつけましても、本
委員会の使命は今後ますます重大であると
考えざるを得ません。従いまして
政府におかれましても、この
委員会に臨みますところの
態度に対しましては、真にこの際、如何にしてこの国の
興廃存亡をここで防ぐかという、
政府対
国会というようなありふれた
見解を一擲いたしまして、十分なる
一つ真意を以てこの
委員会に当られたいということを要望いたすのであります。昨日
英国から参りました
電報によると、チヤーチル新首相は
英国下院に対しまして、求められずしてみずから
秘密会を
英国下院に求めて、そうして
英国の今日置かれておる非常な危局の現状を
下院に知らしめ訴えて、
政府及び
国会相共に力を協せて
英国の危機を打開せなくてはならんということを昨日
言つたということが
電報で伝えられて来ておりますが、誠にそういうことを思うにつけましても、この
政府の
態度、いわゆる真に腹を割
つて、又語ることが差支えのあります場合は進んで
秘密会をみずから
政府自体が求められて、いわゆる
委員会から求められずに、
政府みずから
秘密会を求めて
真意を
委員に訴えるという
態度に出られたいということを、併せてこの
機会に
政府に対して要望いたす次第であります。以上であります。