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羽仁五郎君 只今の
質問に関連して條約
局長に
質問しておきたいのですが、第一章の第
一條(b)項に関する
お答えの
質疑応答を伺
つていて、こういう感じを抱くのですが、そういうことはあるのかどうか伺
つておきたい。
第一に、
日本の外務省は、敗前戰しばしば、これは敗戰前の政治形態と関連があ
つたんでしようが、
日本の人民というものを無視した外交をや
つておられた。そういう或いは伝統が今日もまだ残
つていて、とかく主権在民というような憲法の
原則がありながら、外交
関係などにおいては主権在民の大
原則というものが消え去
つて、それでいわゆる
官僚主義というか、或いは外務省のドグマチズムというか、そういうふうなものが又復活する余地かあるのじやないかと思いますが、先ほどの御
答弁の場合に、例えば(b)項で以て
法律的には
日本の主権在民というものがこれは全然含まれていないということを
答弁される必要が、
はつきり断言される必要かあるのかないのか。
それから高橋
委員からの御
質問に対して、ジヤパニーズ・ピープルに在るという場合に、ピープルというのは人民というふうに訳されておるのが普通でしよう。三十年ほどになるが一遍も問題がないということを平然としておつしやいましたが、重大な問題があ
つたことがありますよ。いわゆるケロツグ・ブリアン
協定の問題があ
つた。そういう
意味で、私はまさかあなたにそういう民主主義以前の伝統が残
つているというふうには
心配しないのですけれ
ども、そういう印象を
国民に外務省がお與えになる御
意思は勿論ないだろう。主権在民ということは当然この條約全体を通じて、
法律的に且つ又技術的にも尊重されるものだというふうに
お答えがあ
つたほうが、條約
局長のみならず、或いは
日本外交の
将來主流を担当されるかたとしては、そういう面で却
つて国民を激励し、啓蒙して行くような
お答えがあ
つたほうがいいのじやないか。それを消極的にこの(b)にはそういうことはない、(b)になく
つたつて全体にあると言えるのだから、そちらのほうを強調して頂くほうがいいのじやないか。そうしてピープルという字を過去の外務省は非常に嫌いだ
つたのですが、現在の外務省はそういうものを嫌われる必要はないのだから、ナシヨナル、ピープルというような場合には、今度は直せないかも知れませんが、人民というふうな、主権在民の趣旨を一層現わす文字を使われることに躊躇される
理由はないのじやないか。これが第一の点です。
第二の点は、先ほど金子
委員に対する
お答えにもありましたが、先ほど來しばしばあなたも、そうして首相も政務次官もそうかも知れませんが、
日本に現在この
平和條約の第六條(a)項但書ですか、それによ
つて外国軍隊が駐在する場合についての、
国民の実際率直な不安或いは疑問というものを
質問するのに、それにいつもおつかぶせて、イギリスやフランスにも
アメリカの軍隊が駐在している。それで英国やフランスの主権が侵害されているとは言えますまいという答えをなさる。これは素人がそういう
答弁をするならば結構だと思うのだけれ
ども、あなたのように、他面においては極めてテクニカルな論拠によ
つて政府の
立場を擁護されておりながら、今度はそれが若干不利にな
つて來ると、その技術的な又專門的な判断を乘越えて、素人の暴論みたいなことをなさるのは、私は
日本の外務省のためにとらない。そうして特にあとの点について、三つの点を私は重大だと思う。第一は、
日本は過去において、例えば外国人に対する個人的なエチケツトということを大変言うのです。あくびしてはいかんとか、楊子で歯をいじく
つてはいかんとか。併し国と国との礼節というふうなものは甚だとしか
つた。これはあなたも十分反省しておられるだろうと思います。それで個人的な礼節を言いながら、他面外国の政体に対して実に許すべからざる暴言をしばしば吐いている。こういうことがやはりまだ幾分残
つているのだとすれば、その点についても十分御戒愼下さ
つて、みずから戒められて、殊に現在、
将來もそうですけれ
ども、現在まだ
日本が
降伏状態にあるのだ、外国のイギリスだ
つてフランスだ
つてアメリカの軍隊がいるじやないか。それで主権が侵害されているのか、そういうふうなイギリスなり、フランスの問題でも、イギリスやフランスにもしばしばそういう問題がありますよというような、そういう
日本の例に引合いに出されることは、イギリスやフランスにと
つて迷惑であるかもわからない。
西村さん聞いていて下さるのですか……。私はそういう点も第一には留意して頂くべきではないかと思います。そんな杞憂はいらんとおつしやれば別ですけれ
ども、併し先日も言いましたように、
日本はまるで世界各国の審判官のように、
日本の国は万国に冠絶したいい国だ、外国
はつまらん国だというようなことを昔から言
つて來ておる。そういうような習慣を打破するために、第一点に
日本の場合を今聞いておるのだから、わざわざイギリスやフランスも主権を侵害されたことになるというような大ざつぱな議論は差控える御
意思はないか。第二には、イギリス乃至フランスの場合と
日本の場合とは、あなたの
言つておられるのとは全く
條件が違います。如何に
條件が違うかということは、私から釈迦に説法する必要はないだろうと思う。英国なりフランスなりの場合は主権がすでに先に存在しておるのだ。又そこにはその国の軍隊が先に存在しておる。
日本の場合にはまだ主権が先に存在していないし、
日本には軍隊がない。そういう二点だけと
つても
條件が全く違う。
條件が全く違うものをとるのはいわゆる論理学上から申しますと、惡い
意味のアナロギーであ
つてロジツクではない。だからそういう第二点からもこういうことはおやめにな
つたほうがいい。又第三には、最も重大なことは、イギリスやフランスにもいろいろな問題が起
つておるということは、まさかあなたは御存じないことはあるまいと思う。それがイギリスやフランスでも主権の侵害の虞れがあるということで、英国の人民又フランスの人民が非常に苦しんでおる問題が現にありますよ。それで現にイギリスに
アメリカの軍隊が駐在しておる結果、例えば一時は当時のイギリスの閣僚であるストレイチーの進退に関して問題が起
つたことすらある。そういうことはあなたもまさか知らんはずはないだろうと思う。だからイギリスやフランスの例だ
つて主権侵害の問題が生じていないとは言えない。
そういうように第一、国際上の礼節というものから、第二は、
條件が違うという点から、第三は、イギリスやフランスの場合でも主権の完全なる保持という点においてさまざまな問題が起
つておる。最近はイギリスの飛行機が米国の飛行場に到着するのに、
アメリカ軍の許可を受けなければ飛行場に到着できない。こういうことが問題にな
つておる。そういう問題が多々あるのだから、そういうことはあなたがた専門家でよく知
つておるでしよう。この第六條(a)項の但書に対して、イギリスやフランスの例をお引きになるというのは今後おやめになる
意思はないかということを伺
つて置きます。