○法制局長(奧野健一君) 食糧管理法は御
承知のように第一条におきまして「本法ハ国民食糧ノ確保及国民経済ノ安定ヲ図ル為食糧ヲ管理シ其ノ需給及価格ノ調整並ニ配給ノ統制ヲ行フコトヲ目的トス」というふうにございまして、これは我が国の国民食糧を確保するというその目的を達するために、先ず食糧を管理して而して需給価格の調整を図り、更に配給の統制を行うということによ
つて食糧の確保ということを実行するという趣旨を明確に表示したものであると
考えます。即ち立法者と申しますか、この
法律制定によりまして食糧の統制の実施を意図しておるものであることが明らかであります。従いましてこの
法律がそういう趣旨をここに明らかにしておりますのでありますから、この
法律を執行いたします
政府といたしましても、それは食糧確保のために食糧の管理、需給の調整、配給の統制ということをやるべきことが、いわゆるこの
法律を誠実に実行する
政府の
責任であろうと思うのであります。而してこの
法律では御
承知のように先ず第三条によりまして
米麦等の強制買入れをいたしまして食糧を管理する、なおそのほかにいろいろな補助的な食糧管理の
方法がありますが、これは第三条によりまして大体食糧の買上げを行いまして管理をする、なおそのほかに輸入食糧の管理等によ
つて食糧の管理ということも行われることは勿論でありますが、而してその管理食糧に対して八条の二以下の規定によりまして食糧の配給計画を立ててこれを配給の統制を行うということにな
つており、又需給の調整及び価格の調整につきましては九条等の規定によりまして価格及び需給の調整を行な
つて行く、こういう管理並びに需給の調整及び配給の統制という三つの
方法によ
つて我が国の国民食糧の確保を行な
つて行こうというのがこの
法律でありますから、この
法律を施行すべき
政府といたしましては、この三つの
方法によ
つてこの食糧確保の目的を達して行かなければならないと
考えられるのであります。そこで食糧の管理に関するいわゆる三条の規定によります
米麦等の買上げの問題でありますが、この三条の規定は相当命令に委任されておるのであります。即ち
米麦その他のものについて「生産者ハ命令ノ定ムル所ニ依り其ノ生産シタル
米麦等ニシテ命令ヲ以テ定ムルモノヲ
政府ニ売渡スベシ」というので、命令を以て定むるものを強制買上げをすることによ
つて管理して行こうというように
考えられます。而してこの命令を以て定むるものというのは
米麦、米穀、大麦その他のいろいろな
米麦の種類及び数量双方を命令で以て定め得る、委任されておるものと解釈し得ると
考えます。従いまして現に雑穀等については命令を定めてないような実情であるようであります。即ち命令によ
つてどういう種類のものを強制的に買上げるか、どういう数量を買上げるかも命令によ
つて委任されておるというふうに一応
考えられます。そういたしますとこの命令によ
つて、それでは命令を出さなければ全部買上げなくてもいいことになるかということが問題になろうと思います。或いは又逆に米穀とか
米麦というようなものを買入れないで、雑穀のようなものを少し買入れるというようなことによ
つてもいいのかということが問題になります。或いは米というようなものをやめて麦だけにするとか或いは雑穀だけによ
つてもいいかということが問題になるわけでありますが、形式的に申しますと種類及び数量は命令で委任されておるというふうにまあ形式的に
考えれば
考えられるのでありますが、併しそれにはやはり第一条の国民食糧の確保という目的を達するための手段としてこの強制買上げによる管理ということを規定されております。でありますから食糧確保という制約はこれは動かし得ないものとして存在しておると
考えます。その目的を達するために
政府の裁量によ
つてその目的を達するに必要なる数量、その目的を達するに必要なる
米麦等の買入れということを認めておるものと解釈するのが正しいのではないか。
従つて全部これを、命令を全然出さないで、
米麦その他全然買上げないとか、尤も他に輸入食糧等によ
つて非常に豊富に
政府の管理の食糧があ
つて、配給等に事を欠かないということであれば又別であります。要するに国民食糧の確保という目的を遂行する手段でありますから、この目的を達成するに必要なる限度のものを買入れるなり或いはその他の
方法によ
つて管理するということが、やはりこの
法律を運用して行く
政府の
責任であろう。そうでなければ又誠実なる
法律の執行ということが言い得られないのではないかというふうに
考えるのであります。即ち食糧の管理の点、第三条の点についてはさように
考えます。
又配給統制に関する事柄は八条の二以下にございます。即ち八条の二によりますと、「農林大臣ハ毎月主要食糧ノ配給計画ヲ定メ之ヲ都道府県知事ニ指示ス」それから又購入券を発給するといつたような手続によ
つて、第八条の二以下の手続によ
つて配給の統制を行うのだということが、この食糧管理法によ
つて定められたる配給のやり方であろうと
考える。でありますからこういう
法律が現に存在しておる以上は、農林大臣としてはこれに基いた配給のやり方をやらなければならないのではないかと思います。ただこの場合におきましても、それでは主要食糧の配給計画を定める云々という、主要食糧というのはこれは第二条にありまして、米穀から甘藷、馬鈴薯、雑穀等皆含んでおりますから、全部それらのものについて行わなければならないが、例えば現に雑穀等或いは馬鈴薯等については配給計画を定めるといつたようなことをや
つていないようでありますが、全部の主要食糧、二条に掲げておる主要食糧の全部についてやらなければならないかというと、これもやはり先ほど言つたものと同じように、結局国民の食糧の確保という枠内において必要なるものというふうに
考えていいのではないか。要するに日本国民の食糧の確保に必要なるという、目的を達成するに必要であるという制約の下に、配給のやり方は八条の二以下の手続によ
つてやらなければならないのではないかというふうに
考えます。
なお需給の調整或いは価格の調整等につきましてはこれは九条等によ
つて「特ニ必要アリト認ムルトキハ政令ノ定ムル所ニ依り」云々というので、これは
政府の任意に任されておるようであります。これとてもやはり結局はこの
法律の趣旨、言い換えれば第一条の
関係からして、国民の食糧の確保並びに国民経済の安定ということの必要性を以てこの九条の働きをしているというふうに
考えます。
結論的に申しますと、現に食糧管理法というものがあ
つて、廃止されないで現存する以上は、やはり食糧管理法によ
つて国民の食糧の確保のために食糧の管理と需給の調整と配給の統制、この三つの
方法を以て国民の食糧の確保を図れ、こういう
法律でありますので、
政府の自由によ
つてこれをやめるということは、この
法律のある以上は
責任上、
法律の誠実な執行をすべき
政府としては、この
法律に基いて食糧の管理をや
つて行かなければならないものであ
つて、その内容については先ほど申しましたように相当の範囲において裁量の余地、或いは命令に委任されている点があります。やはりこれとても結局は国民の食糧の確保というものの制約を受けているというふうに
考えます。