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参考人(栗田数雄君) 私が福岡県におきまする鉱業
被害者の代表栗田数雄でございます。本日この貴重な時間を割いて私ども
被害者の実情をお聞き下さることを誠に有難く御礼を申上げます。更に特別鉱害の法案の際には、諸先生がたの格段の御尽力によりまして法案が成立いたしまして、すでに工事も着々と行
なつておる点につきまして、又
一般鉱害の法案の際に際しましても、我々
被害者の苦境をよく御忖度頂きまして、いろいろの面に、現地視察等によりまして御同情を賜りましたことを重ねて厚くお礼を申上げる次第でございます。
私どもは今朝福岡から参りまして、この席にはべらせて頂くのでありまして、
政府の御草案がどういうふうにできておるかということは、
只今ここに書類を頂戴いたしまして、初めて大体の要項がわか
つたのでございまするが、ただ私ども現地におりまして、まあ非常に心配して多数の代表が飛んで参りましたことは、この法案がだんだん長引くのではないか、この臨時
国会にも取上げられぬというようなことも聞きまして、非常に遺憾に
考えましたことが
一つでございます。もう
一つは、
一般鉱害の対策が、鉱業法の改正に当りまして、我々
被害者は原形復旧を主張したのであります。ところが鉱山側では、現在の鉱業経営の面からして、金銭賠償でやらなければならんという、そこに
意見が対立いたしまして、私どもの原形復旧の線が破れて金銭賠償の旧態依然たる鉱業法にな
つたのでございまして、私どもは原形復旧そのものが正しい法案であるということは、まだ信念を捨てておらんのでございます。併しながら先ほどお礼を申しましたように、諸先生がたが
被害者に御同情下さいまして、原形復旧に代る何ものかの法律を作
つてやろうというて、ここに生れんとする法律であるのでありまするが、私ども噂に聞きましたところによりますと、その法案が
被害者に有利であるのでなく、むしろ鉱業権者に有利な面ばかり謳い込んであるように
考えるのであります。例えば鉱業賠償金の、年々賠償金の打切りの問題等であります。或いは又鉱害地の強制買収の問題、こういうことも承わりまして飛んで参
つたのでございます。先ず私どもはこの法案を速急に上程願
つて、私ども
被害者を救済して頂かなければならないという理由は、一応その際も御
検討願いましたように、
一般鉱害と特別鉱害とは鉱害のあり方については何ら変りございません。ただ鉱業権者が採掘する時期において、或いは国家の要請の時期において異なるものでありまして、一村、一部落の耕地が陥落し、或いは家屋が倒壊に瀕しておるというようなもの、特別鉱害、
一般鉱害の別など、何も
被害者としては関知するものではございません。ただその内容でございまするが、
被害者としては、当然ここは特別鉱害に入るべきものだと、こう
考えておるものが、あの定められた期限内に遡及してないということで特別鉱害から漏れておる。これらに対しては
被害者は非常な不満と不安焦燥の念に駆られておる。又事業をいたしまするにしましても、特別鉱害の地域がこういうふうに出て来てお
つて、その中に
一般鉱害があ
つて、特別鉱害がこうある。水利
関係、交通
関係、すべての面から行きましても、特別鉱害と
一般鉱害とをここに合せ得るということによ
つて工事の有終の美、工事費を逓減することができるのでございます。大体において特別鉱害でも第一類を認めて頂きまして、それらの面は大体にお取上げを願
つておりまするけれども、いよいよ工事にかか
つて参りますると、まだまだそれらの点が漏れておるものが
相当ございまして、かような点から一刻も早く私どもはこの法案が成立して、
被害者が安心してその職につき、不安な念に駆られぬということにして頂きたいというのが、私どもが馳せ参じました
一つの大きな理由でございます。
第二は、特別鉱害においてもさようでございますが、何もその耕地を強制買収なさらなくても農民は異議なく土地を提供いたしまして、そうして工事の復旧に協力いたしておるのであります。金さへ払えば百姓はいいじやないかというような端的なお
考えがあるとするならば大きな間違いでありまして、現在の農村、農民というものはやはり我が土地を愛する、祖先が生んでくれた土地を守
つて行くという本当の純情な精神に生きておるものでございまして、一時幾ら金をもら
つたからとい
つて喜ぶものでもございません。又その米を、稲を、野菜を作ること、それを愛することによ
つて我が子を育てるような気持で以て百姓がや
つておるのは農道精神でございます。一時百姓が闇屋をや
つたとかいろいろ批難を受けましたけれども、それは一部戦後に起
つた特殊な現象でございまして、少くとも鉱害地の
ごとく耕地の少い農民は、さような
考えを持
つておる者はなしとは申しませんが、私は大勢を論ずる上においては大きな誤りである、それにおいて強制買収するというようなことが行われることは甚だ以て遺憾千万であるのでございます。これらの点はお
考えに
なつたということも承わるのでありまするけれども、強く私どもは主張するものでございます。
それからここに今見まして、鉱害
賠償関係の消滅ということがございますが、私どもは耕地が完全に回復して、米が普通に取れれば、それに補償して下さいということは申しません。又それを補償しようとなされる私どもは
要求をしたこともございません。又炭鉱としてもなさらんことは明白でございます。過般鉱業法の改正の
審議に当りまして、私
被害者が非常に弱い、
被害者ぐらい弱いものはない、実際今まで非常に重圧を食いましてもそれを甘受しておるということを
委員会の席上申しましたところが、東大の我妻先生が、あんたは非常に
被害者が弱い、苦しいと、こう言われるけれども、実際
被害者が苦しい、弱いならば、なぜもち少し法に与えられたように、炭鉱を相手ど
つて訴訟をなさらんか、今までだ
つてこれこれの件数しか訴訟が起
つておらないということを先生おつしや
つたのであります。私はその言葉を聞きまして、誠に
参考になり、有難くは
考えましたけれども、実際面は、百姓が地位があり、金があり時間を持
つていらつしやる鉱業権者に対して、日々働いて僅かな兵糧の余りを売
つて食
つておる百姓が訴訟をいたしまして何で勝ましよう。地位もありません、金もありません、ひまも持たない百姓が訴訟をいたしましても、これは到底勝ち得ないということが今までの
事情でございます。そういうことで私ども
被害者としては、何も闘争するが目的ではないのでございます。鉱山地帯の
被害者は、何としましても鉱山あ
つての
被害者であります。
被害者は炭鉱が潰れれば翌日から潰れる形体になりますから、炭鉱と私どもは抗争する
考えは絶対持
つておりません。さような面からこの弱い
被害者というものをむしろ救済する法案があ
つてもいいけれども、それらの点において、今申しまする強い鉱業権者のために賠償を打切るような方法を定められなくても、私は今まで
通りや
つて頂いて決して無理なことを申さない、申すようなことがあればこれは制裁を受けてもいいと思うのです。なお、特に非常にむずかしい点は、原形復旧でありまするならばさような点はないようでありまするが、少くとも私どもは原形復旧を主張いたしておりまするけれども、将来はやはり効用回復の線に進まれるだろうと思う。そういうことになりますと、一層こういうふうに一方的に賠償を打切るというようなことでありまするので、
被害者は到底これを承服することができない、かような
考えを持
つております。
それから次は、今この書類を頂戴いたしましたので、
順序は多少変更しますが、復旧工事費の問題でございますが、これは別にむしろ
お願いを申上げたほうがいいじやないかと思いまするけれども、丁度関連いたしまするから
お願い申上げたいと
考えておりますのは、特別鉱害で、第二十四条によりまして、鉱山の負担金は二十円で一応釘付けに
なつております。ところが御
承知のように物価はだんだんと法律ができましたときから上
つて参
つて、設計その他も
政府が御認定に
なつておりますのは三割、四割と上
つておると
考えられる。それらの点を勘案いたしまして、
石炭の単価はどうであるかと
考えますと、少くともこれは全般的には存じませんけれども、六割、七割というような上昇率でないかと思う。これは誤りがあるかも知れません。そういう点からい
つて、一方二十四条の二十円を釘付けになさ
つて、工事をやれ、こういうようなことになりますと、工事を打切るか、乃至は何か粗末な工事をしなければできないということは明瞭な線でございます。この点は私は本特別議会においてでも御
審議を願いまして、そうして何とか釘付けの線を改訂して頂きたい、こういうことを
お願い申上げる次第でございます。
従つて現
段階においてそういうふうな支障の点もございまするから、
一般鉱害の納付金の徴収の際は、トン当り何円というようなそのときの金額によ
つて定められることでなくて、例えば炭価或いは工事費とかいうようなもののその率によ
つて御
決定願うようなことにして頂きたい。過去におきまして鉱業法においてトン当り五十銭の積立金があ
つた、それが
昭和十四年から物価が上りましてから改正法になりまするまで依然として五十銭、そういうふうなことでは法律があ
つてもないような結果になるのでございます。この点においては格段の
一つ御
審議を煩わしたいと
考える次第でございます。それとこの耕地その他は、国土保全の点や食糧
増産の面、公共的な面から
政府としては取上げるが、非公共のものは取上げはできないというような御
意見のようでございますが、私ども
被害者としては誠にその点遺憾と存じております。国家が鉱業権を御認定になる、監督権を持
つていらつしやる。でありますから、それらの点において
被害が起るならば、これの補償すべき責任まで
政府が持
つて頂くのが当然でないか。今まで小さい小山を濫掘しまして、家がまさに倒れんとしておる、井戸水がなく
なつておる、或いは墓石がひつくり返
つておる、鉱業権者はすでにどこに行
つたかわからんというような悲惨な事例もあるわけでございまして、これらの面は、少くとも私はやはり国家としてこれらに対して関与して頂きたいと
考える次第でございます。
その次は鉱害復旧団の問題でありまするが、私ども
被害者としては復旧団というような特別な団体を置いて頂くことは、
行政等の
簡素化、或いはそれらの面で、特別の費用を要するのじやないか、むしろ今までのような特別鉱害等のあり方によ
つて何とか善処をして頂くほうがいいのじやないか。もう
一つは、
被害者の立場から申しまして、
地方公共団体に何ほどかの費用負担を命じておりますが、これは非常に苦境に陥
つている
被害者もやはり
地方公共団体の構成の一員でございます。
被害を受けながら、
地方公共団体の一員として更に何ほどかの金を出せ、宝が地の底にあるからお前たちには何ほどか恩典を与えよう、こうおつしや
つて下さるならばいいのでありますけれども、宝を持
つておるためにお前たちにより以上に損害を与えよう、何ぼか出せというような私は
考え方は、絶対
被害者としては、
地方のいわゆる住民としては承服できないことです。
只今申しましたように、今朝上京しまして、何も取りとめた
構想もなく、貴重な時間を拝借いたしまして、なお私まだ申上げたいこともありまするけれども、小さいことに亘りまするので、何かの方法で以て諸先生がたに
お願いを申上げたいと思います。大変失礼いたしました。どうぞよろしく
お願いいたします。