○
参考人(
平林剛君) 私は全
専売労働組合の
中央執行委員長平林剛であります。
私
どもの
組合は約
組合員が三万八千名でありまして、
専売企業との
関係におきましては、すでに御
承知の
通りに
たばこ産業に従事することによ
つて専売益金を年間に約千百七十五億円ほどの
金額を納付する
役割を担当しておるのであります。これは私
どもの一時間
当りの
労働に換算をいたしましても約六千七百五十万円、一日我々が働くことによりまして
益金として五億二千万円を
国庫に納める
役割を仰せつかつておるのが私
ども専売の
労働者であります。私
どもの
組合が今回
仲裁裁定を頂くまでの
経過は
只今もよく
説明のありましたように、今年の七月の四日に
専売公社に
要求書を提出いたしました。その要綱は七月以降から
基準賃金を一万一千八百円にして欲しいということであ
つたのであります。この
要求は、
朝鮮動乱以後の
物価の
上昇によりまして私
どもの
生活の維持が困難に
なつたことと、それまでに
協定をいたしてありました
基礎と
なつておる
民間産業の
賃金が著るしく
変化して参りましたので、
協定に基いて
団体交渉を行な
つて参つたのであります。
調停委員会は八月の二十五日にこの
要求に対しまして八月以降一万一千九十三円にしなさいという
調停案を提示したのでありまして、そのほかにも我々の
生活上のことから考慮して一時金として一人
当り四千七百円を速かに支給しなさいという
調停案を頂いたのであります。併しながらこの
調停案は先ほど
専売公社の
総裁が
説明をいたしましたように、
公社の受諾し得ないことになりましたために、これでは
調停案を即時実施することが不可能であると考えましたので、我々はこれを同じく受諾しないという
立場を
とつて不成立に
終つてしまつたのであります。こんな
経過を経まして、今回の
裁定が提示されました。
基準賃金を八月以降一万四百円にしろということが骨子でありますが、これは
組合の
要求から見ますと、
基準賃金において約千四百円低いのであります。而も
実施月は八月に相成りました。
調停委員会から提示されました
調停案に
比較をいたしまして、なお六百六十三円
基準賃金において低く、而も
調停案で提示されました一時金四千七百円は
仲裁委員会の否定するところとな
つて参つたのであります。私
どもはこの
裁定に対しましていろいろの
意見がございますけれ
ども、
公共企業体労働関係法に我々の
賃金の
紛争を最終的に処理するために
裁定には服従せよという
規定がございますから、私
どもは法律の
趣旨に基きましてこの
裁定に
服我はこの
裁定に服従し、これを一日も速かに実現して頂くことが我々の
生活の窮乏を一日も早く救うことであると考えましたので、
組合の
態度をさように定めたのでありますが、ところが
政府側の考えはすでにこの
国会に提出せられておりますような
態度でありまして、私
どもは
公共企業体労働関係法の
趣旨から、
政府の
考え方につきましてはいささかこの際に反省をして頂く余地があるのではないかと考えておる次第であります。大体
政府は
予算上不可能であるという旨でその
承認を
国会に求めておりますけれ
ども、
専売裁定を実施する上において私は
予算上は可能であると思うのであります。これは
仲裁委員会の
説明や
専売公社が証言をされたことで明瞭であります。
経営者は
裁定を履行するためのお金約四億円は現実にある
予備費を流用して頂けばそこに財源があるということを明言をいたしておるのでありまして
予算上はないということはどこにも言い得ないのではないかと思うのであります。又私は仮に
政府の
言葉が今
既定予算としてきまつておる四十一億何がしを越えておるから
予算上不可能であるというお
言葉のようでありますが、それならば今
臨時国会に対して
政府は
補正予算を
編成中であります。
補正予算をまだ
国会としておきめにならないこの時においてなぜ
予算上不可能であろうか。これは誠におかしい話だと思うのであります。
公共企業体労働関係法の第十六條によりますると、
政府は
予算上不可能な
協定や
予算上不可能な
裁定があつた場合にはその
裁定若しくは
協定について
国会の
承認を求めるということが
規定をされております。ですから、若し双方の
紛争を円満に解決をするという
趣旨であるならば、
政府は
公労法上の重大な
関係者でありますから、
裁定若しくは協会を
承認して頂くような
措置を
国会に求めるのが
政府のお
とりになる
態度ではないかと思つておるのであります。ところが大変この点をあいまいにいたしまして、
国会のほうに責任を持つて来られるのは私は
公共企業体労働関係法を共に運営して行く重大な
関係者としてお
とりになる
態度ではないと思うのであります。特に
大蔵当局は
専売裁定が提旨され、或いは
専売の
賃金問題が
調停案にかかつておりますときは、今回の
臨時国会に提出をした
補正予算を
編成中であ
つたのであります。私は若し
政府が
公共企業体労働関係法の本当の
趣旨を御理解しておるならば、
専売公社の
賃金が多分この辺になる、或いはこうなる、こういうことをあらかじめ用意をされて
補正予算を組まれるという
態度こそが
公共企業体労働関係法の
趣旨に合致をするものである、かように考えておるのであります。
もう
一つは、
政府の中に頻りに
専売公社の今回の
裁定による
賃金はほかと
比較をして
バランスがとれないということをおつしやつております。まあこの
バランス論は、
大蔵省としては
全般の財政の
見地から見て
全般的な
バランスをとるというお考えは、これは
大蔵省として当然のことであるかも知れませんけれ
ども、
公共企業体労働関係法によつて
仲裁裁定が示されたのでありますから、そういう場合には、ただ御自分のほうの職務で
バランスだけを見るということではなくして、
大蔵大臣といえ
ども、
大蔵省といえ
どもやはり法律の拘束下にあるものだと考えておるのでありまして、こういう
建前から
バランス論だけでない
立場をお
とりになる、これが
政府に対して私
どもは強く要望したい点であるのであります。特に仮に
バランス論がありましたとしても、
公共企業体労働関係法によりまして、国鉄或いは
専売二つの
企業体に対してそれぞれ
団体交渉を許しておるのであります。つまり一年間のその年の
賃金を定めるには
公社と
組合が
団体交渉をしてきめろということが定められておるのであります。従つてこの定めに従つて
団体交渉する結論は、別々の場所で
団体交渉し、別々の
企業形態を持ち
企業経理を持つのでありますから、或る場合には
バランスが崩れるということは当然あり得ることであると思うのであります。なんでもかんでも
バランスはとらなきやならんということであれば、国鉄と
専売の
組合は一緒の人と話をしなかつたならばさようなことにならないのでありまして、やはり
公労法上
団体交渉によつて
賃金を定めよという定めがあるならば、その結論によつては、時に
バランスが失われることは当然でありまして、これはやはり
専売公社法の第二十一條に
規定してありますように、「
公社の
職員の
給与は、その職務と責任に応ずるものでなければならない。」かようなところから行きましても、当然多少の
バランスを失することがあつても止むを得ないことである。それをお認めに
なつておるのが
公共企業体労働関係法であると思つておるのであります。特に
国会におきましては、
公共企業体労働関係法第三十五條その他によりまして、
賃金に関する
紛争は一切
仲裁委員会にお任せに
なつておるわけであります。これは
国会がおきめに
なつた
公労法で明らかであります。この
賃金の
紛争についての最終的処理を
仲裁委員会にお任せに
なつた
国会の意思に反して、
裁定が出るとやれ
バランスが失つておるの、高過ぎるの、低過ぎるのと、こういうことを
政府がおつしやることは、私は
国会がおきめに
なつて
仲裁委員会にお任せに
なつたその精神にも反して行くものであろうと、かように考えておるのであります。特に
大蔵大臣は
政府の各
委員会におきまして、国鉄
労働組合との
バランスについて大変御心配をなさつておるようであります。国鉄と
専売との
バランスの違うことは私のとらないところであるというようなことをおつしやつておるようでありますが、私は
専売公社や
公共企業体労働関係法のどこを見ましても、国鉄の
賃金と
専売の
賃金は全く同じでなくてはならんというようなことはどこにも書いてない。それから又
専売公社の
賃金は国鉄の
賃金より低く
なつてはいかんということも書いてないのであります。むしろ私は最近いろいろのことを調べて見ますと、
公務員との対比を見た場合に、
公務員より
ベース賃金において我々は低い
賃金であつたということがわかるのであります。
人事院のお調べに
なつた
資料によりますと、
昭和二十五年の四月当時においてやりました
勤労統計における工業平均を一〇〇といたしますと、
公務員は約八三・三でありました。ところが
専売公社は七三・三であ
つたのであります。今
年度に入りまして一月における対比で見ましても、工業平均において一〇〇であつたときに
公務員は九〇・一でありました。ところが
専売公社は七五・四であります。このように
ベース賃金におきまして我々の
賃金は
公務員より低かつたということが言い得るのであります。
バランスのことを大変
大蔵省は心配しておりますけれ
ども、
ベース賃金においてそのように我々は、今までそういう
意味では
バランスを失しておつたということを言い得るのであります。而も平均年齢とか、或いは平均勤続を
比較して云々と言われますが、その場合でも平均年齢において
専売の平均年齢が三〇・二歳、
公務員は二九歳でありまして、平均勤続において
専売は七・七でありましたが、
公務員は七年であります。いずれもこれは
人事院が使用した
資料によつてかように申上げるのでありますが、それだけでなく
公務員の勤務時間は四十一時間三十分、我々は一週四十四時間であります。かようなことから行きまして、私は若し
バランス論を言われるならば、今までにおいてももつと
専売の
賃金についても御考慮願いたかつたと思つておるのであります。結局このような
バランス論が言われておりますのは、
大蔵大臣が
専売労働者に対する、或いは
専売の
労働者が果しておる
役割に対して余り御理解がないのではないか、こういうところに帰するのではないかとさえ考えるのであります。言い換えれば、
大蔵大臣が
専売益金確保の最高の責任者でもあるということをお忘れに
なつておるのではないかと思うのです。先ほど申上げましたように、我々は年間に千百七十五億円の
国庫納付に協力をいたしておるのであります。
専売公社の従業員は四月当時約三万九千五百五十人おりましたけれ
ども、現在では三万八千八百十七名という、少い人員でこれだけの
労働をしておりましたし、四月以降は
予定以上の
専売益金を七十五億円も八月末の計算で確保して参りました。今度の
臨時国会における
補正予算の組替えにおきましても、なお特に四十五億円
専売益金を
増加するために
努力せよという案をお出しに
なつておるのであります。私は
大蔵大臣がまさか我々を働けるだけ働かして
賃金はそれでよろしいというようなお考えではないと信じまして、そういう点について一段と御考慮を願いたいと考えておるのであります。
とにかく私
どもはこの機会に、
裁定の問題に関して
公共企業体労働関係法のあり方をいろいろ考えて参つておりますので、それについて一言
意見を申述べさして頂きたいと思うのでありますが、私
どもは公共
企業体労働関係が制定されましてから、
裁定にめぐり会
つたのは今度で三度目であります。第一回は
昭和二十五年の初春におきまして、例の一億二千万円を
承認するか不
承認するかで大変
国会で審査を煩わしたわけでありますが、実にこの問題は
裁定が提示されてから三カ月間揉みに揉みまして、結局
裁定を実施することになりました。第二回目は
昭和二十六年の三月提示されたいわゆる
基準賃金を七千九百円にしろということであります。これは
国会に持つて来ることなくて解決することになりましたが、実際は今まであつた定員を千二百名減らして
裁定を実施させたのであります。言い換えれば私
どもが四万人で同じ仕事をやつていたのを少い人員でやる。つまり我々の
労働の過重によつて
裁定が実施されたのであります。第三回目が今度であります。私はこの三回の経験に鑑みまして、一体
公共企業体労働関係法の精神はどこへ行つてしまつたかということを強く言いたいのであります。つまり
専売公社と
組合との
賃金の
紛争は、
専売の
裁定が最終的な
紛争の解決点、最終点であります。ところが
裁定が提示されてから
紛争が捲き起つておるわけです。最終的処理を行うべき
裁定でありながら、
裁定が提示されてからごたごたが起きておる。これはつまり一体
賃金問題の
紛争の最終点は
裁定で終るのか、それとも
国会若しくはその後の
労働組合のいわゆる
国会闘争とか、又いろいろのことをやらなければ解決しないのか、こういうところの悪い例が私はとうとうでき上つてしまつておるような気がするのであります。でありますから、私は
公共企業体労働関係法の本来の
趣旨に舞い戻りまして、今度の
国会においては、どうぞ今までの何かこうわからない悪い慣例をこの際こそ正しい慣例に引戻して頂きたいということを特にお願をいたしたいと思うのであります。我々の強調いたしたいことは、今の月給ではとても食えないということでありまして、
専売労働者はその食えない
賃金で
公共企業体労働関係法に対して忠実でありました。これからも私は無用に紛議はできるだけ慎んで参りたいと考えておりますが、今度がまあ三度目の正直であります。今までの
政府の
見解から行きますと、私
どもはもうとても普通の
措置では駄目じやないかというような観念を懷きかけて参りました。東京において今
総裁からも私
どもがハンストを以て
政府に反省をして頂きたいということを訴えておることに御
意見がありましたが、私
どもも好きであれをやつておるのではないと思うのであります。ハンストをやつておる者も、決して好きでハンストをやつておるのでなくて、ハンストをせざるを得ない状況に我々を追い込んでおると思うのであります。勿論ハンストのような命を賭けるようなことは野蛮的で、民主主義の社会においては行うべき
措置ではないかも知れません。併し別の
意味で、私は
公労法を、法律というものを守つて行こうという民主主義が悪い慣例で崩れかかつていると思うのであります。こういう
意味の民主主義こそ私は
国会において正当な御判断によつて処理を
お願いをいたしたいと思うのであります。私
どもも
組合長といたしまして大変心配をいたしておりますのは、止むを得ざる
措置としてこの十日頃から私
どもがやはり
政府に反省をして頂くために団結の意思を示さなければならんのではないか。かように考えておりまして、このままで行けば我々は今後の生産に対しても協力する
態度を放棄する考えにみんな
なつてしまうことを大変恐れておるのであります。
専売裁定を実施することは、僅かに四億円の
予算措置であります。それによつて私
どもの今後の
態度にもいろいろ心理的に
影響するところでありますから、四億円かそれとも今後の
専売益金数百億円かというところに立つておるのでありまして、
大蔵大臣がまあ国の財政について大変明るいということを聞いておりますけれ
ども、私
ども労働者の気持ももう少しよくわかつて頂きたいものだ、こう考えておりまして、この点につきましては、
専売の
労働者は
国会における審議に深い期待を寄せておるのであります。
裁定を実施することは、これを実施することによつて
たばこの値上りをさせるとか、国民大衆に御迷惑をかけるということはないのであります。むしろよい
労働慣行を確立いたしまして、私
どもは生産に対する意欲を燃やすことができ、このために生産が上り、
専売益金の確保ができるのであると確信をいたします。これが公共の福祉にも通ずるものであると考えますので、長いこと申上げましたが、
国会の御善処を深く期待いたしまして、私の
意見を終る次第でございます。