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参考人(
馬場義続君) 本年の三月三十日に当院の
前之園委員長とそれから棚橋小
委員長から、
昭和二十三
年度決算に対する
会計検査院の
検査報告に掲げられた
不当事項第三百九十七号につき証人を喚問した結果
足利工業株式会社が
特別調達庁に納入した二重
煙突代金の
請求とこれに基いて発生した過
拂金の
処理に関して
会社関係者に
詐欺横領の
容疑があり、更に同
会社の
顧問であつた
大橋武夫に
所得税法並びに
政治資金規正法違反の
容疑が認められるので、
委員会の
決議により速かに
搜査をするようにという御要望の旨の申入があ
つたのであります。これに対しまして事実を明確にして置くことが必要であると思いましたので、書面でその要領の御
提出をお願いいたしましたところ、四月四日に
前之園委員長から私宛に次のような
要旨を掲げて、これを告発するものではないが、
委員会の
決議により速かに
職権調査を行われることを要望するという旨を附記され「覚」と題する同月三日附の公文書が
提出されたのであります。
説明を申上げます。便宜上その事実の
要旨を申上げますと、一、
足利工業株式会社社長田中平吉及び同
会社專務取締役高橋正吉は
特別調達庁に納入した二重
煙突の
代金の
支拂を受けるのに、
特別調達庁から
検収業務を委嘱せられていた
太平商工株式会社の
検收業務関係者及び
特別調達庁関係者らと共に二重
煙突の
納入数量を僞わ
つて三万二千九十二呎分に相当する二千二百三十七万六千九百六十七円の
不当支拂を受けた
詐欺の
容疑があり、二、
特別調達庁は右二千二百余万円の過
拂金の
回收のため、
足利工業株式会社にその
所有財産を売却
処分させてその
代金を納入させていたが、
右高橋正吉はその
売却代金の一部を横領した
容疑があり、三、
大橋武夫は(一)、
昭和二十三年四月頃から約一年間
足利工業株式会社の
顧問在任中、同
会社より月額三万円の
顧問料を受取
つていたのに、
政府に対しその所得の申告をしなかつた
所得税法違反の
容疑と、それから(二)、
昭和二十四年一月施行の衆議院議員選挙に際し、高橋正吉から二十万円を贈與されたが、これには
政治資金規正法違反の
容疑がそれぞれ認められる。四、高橋正吉は右三の(二)について贈與税の脱税の
容疑が認められる。
大体こういう内容の
搜査要請がありましたのであります。これの
搜査を始めますと間もなく、
足利工業株式会社社長の
田中平吉に対して今度は高橋正吉から
東京地方検察庁に告訴状が
提出されたのであります。それは
昭和二十六年五月七日元足利工業株式
会社專務取締役高橋正吉が同
会社の社長
田中平吉及び元株式
会社第一銀行足利支店長梶川有に対して背任横領の罪名で告訴して参
つたのであります。その告訴状が必ずしも明確ではありませんが、これを要約いたしますると、被告訴人の
田中平吉は同梶川有と共謀の上
昭和二十三年十二月二十九日頃
足利工業株式会社の代表者である告訴人が二重
煙突の納入
代金として
特別調達庁から受取つた日本銀行
支拂の額面四千百七万六千八百五十円の小切手を株式
会社第一銀行本店より同行足利支店の告訴人名義の預金口座に振込方を依頼したのに、ほしいままに右足利支店の
足利工業株式会社名義の預金口座に入金した上、その頃
足利工業株式会社の第一銀行足利支店に対する借入金が千三十万円であ
つたのを三千八百万円あるように僞わ
つてこれが返済に藉口して三千数百万円を横領したものであると、こういう要領の告訴が提起されたのであります。そこで私どもといたしましては
国会からの要請でありますから、私のほうの
搜査部長岡崎検事に指名いたしまして本
委員会から送付されました
資料を検討せしめたのであります。その結果
本件は過拂発生に起因する犯罪と、過
拂金の措置に起因する犯罪、及びこれらに関連して派生した犯罪の大体三つに分類されることが認められますので、これを中心に
搜査方針を立てまして、四月下旬から五月上旬にかけまして基礎的段階として先ず
足利工業株式会社及び同
会社関係者の銀行取引に関する
搜査に着手したのであります。ところが五月七日に今申しましたように、たまたま高橋正吉から右のような告訴がありましたので、銀行取引に関する
搜査と並行いたしまして、この告訴事実をも併せて
搜査に着手したのであります。先ず
田中平吉について取調を進めたのでありますが、
田中平吉からは不得要領の供述しか得られなか
つたのでありますが、取引銀行における預金操作
状況の取調の進展に伴いまして、
昭和二十三年十二月二十八日に
特別調達庁から二重
煙突五万呎の
代金として四千百七万六千八百五十円のうち、五百万円については
田中平吉の横領の
容疑が相当濃厚にな
つて参りましたので、先ず六月十三日に
田中平吉を業務上横領の嫌疑で逮捕状を
請求いたしまして、翌十四日に
田中を逮捕し、同月十六日に勾留をして即日勾留状発付と共に身柄を東京拘置所に勾留の上取調を進めたのであります。
田中平吉と
関係人の取調が進むにつれまして、過拂発生の原因となりました二重
煙突代金の
支拂請求に高橋正吉が中心とな
つて内容虚僞の物品納入検査書を使用し、
特別調達庁の係官を欺罔して多額の
代金を騙取した
容疑が濃厚になりましたので、六月二十五日に
詐欺容疑で高橋正吉に対する逮捕状を
請求し、即日高橋を逮捕の上、同月二十七日勾留
請求をなし、同日勾留状発付と共に身柄を東京拘置所に勾留して取調を進めたのであります。高橋正吉の取調によりまして二重
煙突受注以後の全貌がほぼ明らかになると共に、過拂発生の直接の原因とな
つております最終分の五万呎の
代金四千百七万六千八百五十円の
請求に当
つて、
請求書に添附すべき足利税務署長武藤儀四郎作成の納税証明書が変造されて、内容虚偽の物品納入検収調書と共に
特別調達庁に
提出された事実が判明いたしまして、同時に納税証明書の変造には高橋政雄及び羽鳥元章が関與した
容疑が濃厚となりましたので、
田中平吉及び高橋正吉の両名に対しまして
搜査上の必要によりいずれも勾留延長を
請求しましたが、
田中平吉は六十歳の高齢である上に勾留中に持病の神経痛が昂じて参りましたので、六月二十九日に釈放し、引続き
搜査を続けましたが、高橋正吉は勾留満期の七月十六日に釈放いたしました。その高橋正吉釈放の日に、
田中平吉及び高橋正吉の勾留解除と同時に公判を
請求すると共に、即日公文書変造
容疑で高橋政雄及び羽鳥元章の逮捕状を
請求し、同日高橋政雄を翌十七日羽鳥元章をそれぞれ逮捕して十八日に高橋政雄を、次いで十九日に羽鳥元章を東京拘置所に勾留した上で取調を進め、その取調の結果事実がはつきりしましたので、八月の七日に高橋政雄を公文書変造罪で東京地方裁判所の公判を
請求し、羽鳥はその日起訴猶予
処分に付しました。かような取調の進捗に伴いまして過拂発生に起因する犯罪、即ち過拂の起因に
なつた犯罪を中心に取調を進めたのでありますが、更に過
拂金の措置に関する犯罪及びこれに関連して発生した犯罪の
搜査をも行な
つたのであります。以上の由中、高橋に対する
詐欺並びに公文書変造行使の起訴によりまして当
委員会から要請されました第一の事実については一応の取調が終
つたのでありますが、これに関連しまして
特別調達庁の
本件関係者がこの
詐欺に加功しておるのではないかということがやはり
搜査要求書の中に謳
つてあるのでありますが、この点は詳細に取調をいたしましたが、これまでの取調の段階ではさような事情は知らなかつたという供述でありまして、
特別調達庁の係員がこの
詐欺に加功しておるということは証拠上明らかにならなか
つたのであります。又太平商工の検収員の藤原
英三が
本件の検収調書を発行しておるのでありますが、これは実際に納入されていないことを承知の上発行しておるのでありますから、犯罪の成立、
詐欺罪の幇助としての犯罪の成立は認められますが、本人は高橋のほうから直ちに納入されると言われて、それを過信して出したというようなことを申しておりますのと、又私のほうも納得の行かない点がありますので、
処分を留保して更に
搜査を継続しておる状態であります。
次に
搜査要請の第二番の過
拂金の
回收として
足利工業株式会社に対して
所有財産を売却
処分せしめた、その
売却代金の一部を横領した
容疑があるという件でありますが、この点につきまして
田中平吉及び高橋正吉らが
昭和二十三年十二月二十八日まだ五万呎の二重
煙突を完納していなか
つたのに、完納したごとく装うことによ
つて特別調達庁係官を欺罔して、特調から五万呎の
代金を、メーカーに対して四千百万円の交付を受けたため、
特別調達庁より未納分に相当する二千二百万円余を過
拂金として返納を命ぜられたのであります。これが返納
方法の
一つとして、高橋正吉が
田中平吉を通じて
特別調達庁経理局次長川田三郎に売却方を委託して
提出いたしました東武鉄道株式
会社株式三万五千株を川田三郎を欺罔しし騙取したという
詐欺の
容疑事実があるのであります。この点について申上げますが。これが返納
方法の
一つ……。今申しました四千百七万六千八百五十円の交付を受けますために二千二百万円余の過拂を生じ、これが返納を命ぜられたのでありまして、これが返納の
方法の
一つとして同年の二月下旬頃高橋正吉はその所有に係る東武鉄造株式
会社株式三万五千株を、右
田中平吉は同様式一万五千三十株をそれぞれ
足利工業株式会社に無償で提供した上、同年三月八日、同
会社より
特別調達庁経理局次長川田三郎に対し、右株式を返納金の返済に充てるという約束の下に、白紙委任状を附してその
処分権を一任して交付しましたが、川田三郎は同
会社よりの委託の趣旨に基き株価の値上りを待
つて売却し、
特別調達庁に対する同
会社の返納金に充当することとして、一時株式
会社大阪銀行日本橋支店に保護預けをして、これを保管するに至つたところ、高橋正吉は右の事情を知
つておるにもかかわらず、生活費等に窮した結果、右川田三郎を欺罔して、自己の提供分前記株式を無断で取戻し、これを他に売却し、生活費等に流用しようと企てまして、同年五月六日頃、東京都中央区日本橋江戸橋一丁目十二番地所在の
特別調達庁において、右川田三郎に対し、
売却代金を直ちに納入する意思がないのに、あるように裝
つて、今度株の値も六十二円に上
つて、買手も見付か
つたので、自分が提供した三万五千株は自分で売り、
代金はすぐ納めるからこれを交付してもらいたいと川田を騙して、即日同人が預り保管中の前記東武鉄道株式
会社株式三万五千株中、三千五百株を交付させてこれを騙取したという
容疑事実であります。でこれにつきましては私どもとしては一応
詐欺の嫌疑が濃厚であると
考えたのでありますが、この株式提供につきましては、返還計画書の覚書が作成されておりまして、それに当時の大橋
顧問が立会人として
署名せられておりますので、後に申上げますが、一括してこの
本件に関する大橋氏
関係の
部分につきまして、一応書面で回答を求めた上で
処分を決するという方針をとりまして、この
部分の
処分も
只今のところ留保いたしておるのであります。
次はこの横領の
容疑の中に入
つておりますと思いますが、この自動車の
売却代金の問題でございます。この点につきましては山下の供述が非情にあいまいでありまして、まだ真相を捕捉するまでには至
つていないのであります。御承知のごとくこの
足利工業株式会社は、
帳簿等が殆んど正規にできていなく
つて、このほうから正確な
資料を掴むことができなか
つたのと、山下の供述が今申しましたように非常にあいまいである。と同時に、この自動車は虎ノ門自動車株式
会社に売却されているのでありますが、この虎ノ門自動車の社長の有城氏が八月から九月頃まで大阪のほうに行
つておられて、取調をすることができなか
つたので、延び延びにな
つておりますが、最近有城氏の取調も終了しまして、大体の輪郭を掴むことができたのであります。この点も大橋
顧問が関與しておられる
部分があるので、併せてこれの事情につきまして、その供述を聞いた上で
処分を決定するという段階に至
つております。
最後は大橋
顧問の
顧問料に関連する
所得税法違反の
容疑事実と、それから
昭和二十四年一月、衆議院議員選挙の際高橋正吉から二十万円の贈與を受けていることに関する
政治資金規正法違反の
容疑の点でありますが、この
顧問料の問題は高橋の供述によりますと、
昭和二十三年の六月二十八日に三十万円を
顧問料の前拂として当時の大橋
顧問に差上げたという供述をいたしておりますほか、ほかに小口で数万円やはり
顧問料名義で行
つております。これにつきましても、果して
顧問料であるか否か。或いはその
顧問料の性質が如何なるものであるかということがわからないと、最後の決定をいたしかねますので、これも併せて大橋現総裁に対して書面でその事情をお尋ねしておりますから、その回答を待
つて決定をするという段階に至
つております。それから政治資金規正法の点でございますが、これは一応二十万円が選挙の行
つておりますので、政治資金規正法の疑いがあるということになりますが、御承知のように政治資金規正法は短期時効の定めがありまして、二年で時効にかかります。そうしますと本年の一月に時効にかかりましたが、政治資金規正法が成立いたしておりましても時効が完成しておりますので、これにつきましては更に
搜査を継続することも如何かと、かように
考えているのであります。
大体の今日までの
搜査の
経過は以上の
通りでございます。