○足鹿覺君 ただいま
審議中の
繭糸価格安定法案に対しまして、日本社会党第二十三控室の立場から反対の
意見を述べたいと存ずるのであります。反対の根拠はたくさんあるのでありますが、時間の
関係もありますから、五つの点に要約して申し上げたいと思います。
まず第一点は、基本的な問題についてであります。
繭糸価格安定法案の立法の
趣旨は、生糸の輸出増進及び蚕糸業の経営の安定をはかるために、その手段として繭及び生糸価格の安定帯を設けることをねらいとしているとい
つておるのであります。しかるに、この法案の内容を検討いたしてみますと、あくまで製糸業の安定と輸出の増進だけを主眼とし、これを優先とする根本思想で貫かれているのであります。すなわち、蚕糸業の安定にはまつたく触れないのみか、繭価の安定
措置も名目だけでありまして、実に驚くべき、看板に偽りのある法案といわなければならないのであります。
すなわち、本法案の原々案が糸価安定法として出発したことは御存じの滑りである。去る十月十五日、全国農民代表者大会の抗議と、これが
要望によりまして、どろなわ的に
政府は繭の一字を入れたにすぎないのでありまして、
繭糸価格安定法案の内容についての農林委員会の
審議の過程におきましても、何ら
政府の具体的施策は繭価の安定について提示せられていないことによ
つても明らかといわなければなりません。そもそも安定の何たるかを明確にしないで、ただ安定の字句によ
つて大衆を眩惑するがこのとき、子供だましのトリックをも
つて養蚕農民をつろうといたしましても、養蚕農民は決してこれにだまされることはないのである。かかる法案が何ら修正されることなく通過したとしますならば繭価に対するしわ寄せは制度化され、養蚕農民の利益は極度に阻害されることは必定であるのでありまして私どもは養蚕農民の立場から断固反対の意を表明いたしたいと存ずるのであります。
第二の反対の理由は、
政府は糸価の安定は輸出生糸を増進させ、それよ
つて蚕糸業経営の安定ありとしておりますが、糸価とその値幅とをいかに定めるかが先決でありまして、その後にいかにこれを安定せしめるかが問題にな
つているにもかかわらずこの解決はあげて海外需要者の
要望にこたえる糸価によることをも
つて逃げておるのであります。われわれの主張は、安定は一にかか
つて再生産のできる繭生産費の維持を絶対の要件とし、これを基本として、加うるに適正なる製糸加工賃及び販売費を加算した生糸価格孝設定することが、
わが国蚕糸業
振興の根本であり、そのためには
政府は相当額の
予算の裏づけをも
つてすることこそ施策の根本問題でなければならないことを主張いたしたのであります。
本法案による犠牲及び負担はあげて養蚕農民だけにしわ寄せをされるとは、現在行われております
ところの不合理きわまる生繭の共同販売の実態よりいたしても、これは明白であります。今その取引の実態を見ますのに、養蚕業者は価格未決定のままに繭を製糸業者に売渡し、一
府県単位に繭価の協定を行
つているのである。この協定に要する日数は驚くなかれ、
平均五十日前後も要するのである、養蚕家の利益の代弁者であるといわれる養蚕団体は、一銭の販売資金も確保しておらない。しかも
協同組合でありながら、出資金のない農業
協同組合が多く、完全なる経済無力者であります。しかも、この団体はその維持費を、繭の販売あつせん手数料として製糸業者より仰いでいる建前でありまして、実情から見まして、とうていかかる実情で健全な取引が行われるはずがないのであります。しかも、ここに蚕糸官僚が不当にその権力を行使農林省が公表いたした生糸加工販売費の五万四千三百四十三円は、驚くなかれ、ほとんど全国一様に糸価より優先差引されているのであります。これはとりもなおさず、製糸業者と蚕糸官僚及び養蚕ボスの野合によ
つての製糸業の利益優先よき事例であると断定いたしてもさしつかえないと思うのであります。
かかる実態から見て、常に製糸の利益は優先確保され、農林省が公表いたしました繭生産費一貫目当り一千七百八十七円のごときはまつたく無視され勢い養蚕農民はこれら不動の支配態勢のもとに完全に屈従せしめられているのでありまして、これら生産費の補償販売取引方法の改善にこそ具体的な
措置が緊要であるにもかかわらず本法案には何ら捨てて顧みられておらないのが現状であります。
第三の反対の根拠といたしまして、本法案の
予算の構成は三十億であります。生糸一俵当りの価格を十四万五千円とし、これを二万俵買い上げることによ
つて骨格が形成されているのであります。二万俵は日本における年間生産量のおおむね十分の一、横浜・神戸両市場に出まわりをいたしまする
ところの量の約四分の一で、三箇月にわたる数量であるのであります。かかる少量をも
つてはたして糸価の牽制ができ得るかどうか、また一面において、かかる安い糸価は、いまだ海外から一ぺんも希望価格としてすら私どもは耳にしたことのない不当な安値で、
政府のいう二万俵確保せねば糸価の牽制ができないという主張に無理にこじつけた作為的な単価でありまして、この二万俵は、蚕糸経営の安定か優先せしめるための農林省発表による再生産費たる二十三万八千四百九十三円を確保補償することに照しまするならば、少くとも二万俵にて四十七億有余の資金を必要とすることは明らかであります。これらの利点から見まして、まつたく問題にならない貧弱な
予算でどうしても糸価の安定及び牽制の効果が上るとは言い得られないのであります。
この点につきましては、昨日の公聴会においても各公述人から公述せられ、さらに明確に本法案に対しては多くを期待できないが、あるはなきにまさる
程度のきわめて消極的な賛意すらなかつたことは、われわれの記憶に新たなる
ところでありまして、その内容がいかに不完全なものであるかということを如実に現わしておるとい
つてさしつかえはありません。しいてその効果を申し上げまするならば、かかる僅少の
予算をも
つてしては大製糸業者の利用のみにとどまり、その救済に役立たしめるか、あるいは一部の業者のためにする蚕糸官僚拡充以外の何ものでもないということを立証して余りがあると存ずるのであります。そもそもこの三十億の
予算の財源は農民の犠牲供出による繭から得られた貴重なものでありまして、この財源をかくのごとき製糸資本家に一方的利用をなさしめるがごとき本法案に対しましては、断じてこれを容認することはできないのであります。
第四点は
政府の企図する繭糸価格安定
審議会についてであります。その委員の構成につきましては、
関係行政庁の職員を平然と参加せしめるがごとき規定にな
つておるのであります。
わが国蚕糸政策の伝統ともいうべき官僚の支配的意図が最も端的に表明されておるといわなければなりません。かかる意図は断じて改められなければならないが、委員会においては、この問題について満足すべき
政府の答弁がなかつたにもかかわらずこの問題はほとんど
審議されなか
つたのであります。民間有識者から当然選ばれる農民代表あるいは利害
関係者等がこの委員会の半数を占めることによ
つて真にこの委員会は養蚕農民の利益をある意味において代表できるでありましよう。しかし、今の
政府原案においては、行政庁の役人と一般学識経験者のみによ
つてこの委員会が占められ、これが運営せられる結果はそもいかなる事態を招来するか。過去のこれに類する委員会の運営の事例によ
つても明らかであるといわなければならないのであります。
以上、これを要しまするのに、本法案は養蚕農民に犠牲と屈従を
要請し繭の再生産維持をまつたく無視した暴案であるといわなければまりません。本法案通後に来るものは繭価の不当な抑制でありまして、養蚕農民の犠牲のもとにおいて製糸
企業の経営安定がはかられることは多言を要しません。かかる養蚕農民へのしわ寄せ自体を防止し、真に本法の適正健全をはかるために、全国農民代表者大会の
決議に基いて、われわれは繭買入れの
措置が糸価と見合う
ところの適正繭価の策定
方針について
政府及び当局に執拗に
要請し続け、また本法案の一條及び十條の大幅な修正について
政府当局の所信を伺
つたのでありますが、何らこれについて責任ある回答を得ることはできなか
つたのであります。また
審議会の点につきましても、前述したごとき不合理なるままにおいて、多数をも
つて本法案は決定をせられたものであります。かかる
政府、與党の誠意を示されないが不完全なる法案に対しまして、また養蚕農民の利益を踏みにじるごとき
政府の意図に対しましては、われわれは断じて容認することはできないのであります。
ここに全国の養蚕農民の名において断固本法案に反対の
意見を表明するものであります。