○
鈴木義男君 私は、
日本社会党を代表して、過般の
総理大臣の
演説に対して若干の質問を試みんとするものであります。
問題は多岐にわたるのでありますが、許されたる時間の
関係上、主として
講和條約並びに
日米安全保障條約に集約してただし、時間がありましたら、その他の問題に及びたいと存ずるのであります。そのうちには棚橋君や三木君の質問と重複するものがありまするが、
首相の答弁の十分ならざる点について、観点をかえてお尋ねをいたしたいのであります。
まず第一に
平和條約についてでありますが、今回のような形の條約に
調印せざるを得なか
つたということが、
わが国にと
つてはたして慶すべきか、はた弔すべきかは、後世歴史をまたずしては断ずるわけに行かないと思うのであります。しかし
吉田首相が、示されたる條約に單に
調印するだけのためとは申しながら、老躯をひつさげて、はるばる
サンフランシスコまで行
つて来られたということに対しましては、御苦労さまとねぎらいの言葉を呈する次第であります。
もしも
朝鮮事変というものがなか
つたならば、いうところの和解と寛大なる
講和條約が示されたかどうかは疑問であ
つたと思うのでありまするが、それにしても、今回の條約が、その
調印国の陣形において、はなはだしく
片寄つたものであることを遺憾とせざるを得ないのであります。交戰国のうちで最も有力な
ソビエト連邦と
中国が除かれておるのであります。また、これら二国と合せまするときには
世界の人口の半ばを占める
インドも、これには参加しておらないのであります。今回の
講和においては、
東洋の平和ということが最大の願望であ
つたわけでありまするが、
東洋に位置しておる国で、いろいろの理由からではありまするが、
国交回復の仲間に入
つておらないもの、
中国、
中共、
インドを初めとして、
朝鮮、
ビルマ等、むしろ多きに位しておるのであります。フイリピン、
インドネシアは、
調印はしましたが、批准については難色があると伝えられておるのであります。まことに遺憾な現象であります。
われわれは、かくのごとき事態の発生を憂えましたがゆえに、
講和の締結について
主導権を握る国々に対して、片面的な
講和でなく、全面的な
講和に到達できますように
努力方を懇請し続けて来たのであります。(
拍手)最後の瞬間まで続けて来たことは、諸君御承知の
通りであります。
ダレス氏が来日せられた都度、対
日理事会加盟国の
代表部に対し、並びに
外国新聞記者諸君に対し、また
コミスコ大会出席渡欧に際しましては、わが
党首脳部は、
歴訪各国の
首脳部に対して、文書をも
つて、あるいは口頭をも
つて、熱心に
全面的講和の達成のためにあつせんせられんことを要望したのであります。しかし、これは在野党の
側面的運動である。
政府こそ真撃に力を盡すべき仕事であ
つたと信ずるのでありますが、
政府は従来、交渉の過程にあ
つては、秘密を名として多くを語らなか
つたのであります。すでに
調印を終
つたこの機会に、
政府はできるだけ多くの国々との
講和実現について、
ダレス氏あるいはその他の方面にいかなる努力をなされたか、御報告を承
つておきたいのであります。これは過去のことでなくして、将来の
外交方針に至大の
関係を持つ問題であるからであります。この点については、現内閣がまじめに若干の努力でもしたというならば、これを了とするのでありますが、
吉田首相は、その
共産主義ぎらいからして、初めから
ソ連や
中共を敵のごとく考えて、てんで歯牙にもかけずして、
西欧一辺倒に終始したようだという印象を
国民は抱いておるのであります。これが誤
つておるならば、この際解明していただきたい。
イギリスが
中共を
講和会議に招請すべしと主張したことは、今や隠れもない事実でありますが、その当の
モリソソ外務大臣がわが党の二、三氏に
語つたところによれば、
イデオロギーと外交とは別ものである、自分も感情としては
共産主義はきらいである、しかし
イデオロギーのために
国交回復を怠
つてはならない、ということであ
つたそうであります。当然のことでありまするが、この点について
吉田総理にどういう御用意があるかを承りたいのであります。(
拍手)
政府の努力の足らなか
つたために、遂に
同時全面講和が実現しないで、多数
講和とな
つてしまつたのであります。今回の
平和條約の持つ一つの重要なる意義は、無
條件降伏に
伴つた連合国の
占領管理の終結と、これに伴う
日本の独立の一応の回復ということにあるわけであります。これ、この條約の形式や内容には幾多危惧すべきものがありますにもかかわらず、
独立獲得の第一歩として
国民の多数はこれを受入れようとする感情を持
つておるゆえんであります。私も、いろいろ異論もありまするけれども、これ以上占領の継続を希望しない、
民族独立回復の契機として忍ぶべきではないかと考えている一人であります。しかしながら、前述の
通り、この
講和はかたわの
講和である。変則の
講和である。今後これを完全に仕上げて行くには容易ならざる困難を予想されるのであります。
政府がこれに対していかなる決意と方略とを持
つておるかということは、
国民のひとしくあずかり聞かんと欲しておるところであります。
戰時中、中立を
守つたタイ、スイス、スエーデン、
アイルランド等、
戰時中の
日本から分離した
朝鮮、
戰時中日本と
同盟関係にあ
つたドイツ、
イタリア等との
国交回復は、おそらくは比較的容易でありましよう。最も困難な問題は、
会議に招待もされなか
つた中国、
中共、招待されたけれども参加しなか
つたインド及び
ビルマ、ユーゴ、
会議に参加しながら
調印を拒否した
ソ連、チエコ、
ポーランド等との
国交回復は、最も困難な問題を包蔵しておるわけであります。さらに
インドネシアは、
調印はしたが、批准は容易に逆賭しがたいといわれておるのであります。
第一に、
わが国として最も
関係の深い対
中国の
関係でありまするが、
アチソン長官や
ダレス氏並びに
イギリスの
ヤソガー代表等は、
中国を選ぶか
中共を選ぶかは、
日本に選択させるのであると申したのであります。
吉田首相は、従来、それは
連合国がきめてくれるのだと申してお
つたのであります。これは非常な食い違いであるが、今もなお
日本政府に選択の余地がないように考えておられるのでありまするか。私は
日本国に選択の自由あることが当然と思うのでありまするが、その場合
政府はいずれを選ぼうとするのであるか伺いたい。私は、
中国と
中共、この二つの団体と
講和以外において
国交回復の道もあると信ずるのでありまするが、あるいは、かの
イギリスが、
イデオロギーの立場を離れて、実勢力に着眼して
中共政府を承認して、これと取引をや
つておるように、思い切
つて中共を承認して、隣国との
国交、経済上唇歯輔車の
関係にある隣国と正常なる
貿易関係を樹立する勇気を持たれるかいなかを承りたいのであります。(
拍手)昨日、わが党の棚橋君の質問に対して、
共産主義を捨てない限りは
外交関係を樹立することはできないような御答弁であ
つたそうでありますが、それは、坊主憎けりやけさまでも、というたぐいでありまして、笑うべき單純
主義であります。現在の
イギリス労働党政府が、
中共、
ソ連と
外交関係を結んでおることはもちろんといたしまして、保守党のチャーチルすら、選挙に勝
つたならば、スターリンと会見して、ともに
世界の平和を語ろうと宣言しておるととは、外電の報ずるところであります。
日本の
自由党政府にこれを求めることは無理かもしれませんが、国家百年のために再考を希望するものであります。
また
インド、
ビルマは近く
單独講和を申し出るということでありますが、これに対してはどういう
方針で対されるつもりであるか、承
つておきたいのであります。
ソ連、
中共等の
共産主義国が今回の
平和條約に反対したことは御承知の
通りであります。
ソ連は、
サンフランシスコの
会議場において直接反対を明らかにし、
中共は、ラジオや新聞を通して明らかにしておるところであります。ともに
中共を加えない
講和は真の
東洋の平和でないと指摘しておることは肯繁にあた
つておると思うのでありますが、ただグロムイコ、
ソ連代表の
具体的提案を聞いてわれわれの意外とするところは、搾取を否定し、共存を
主義とする
共産国が、
西欧諸国よりも苛酷なる
條件を提起しておることであります。
アメリカに向
つて琉球、
小笠原を返せということはけつこうでありまするが、千島と樺太はもら
つておくというのである。
わが国が必ずしも希望しない
軍隊を十九万五千まで持つことを許すというのは、ありがた迷惑でありまするが、
日本海は
ソ連、
中共の軍艦だけが自由に航行することができるというのであります。そして、
賠償は相当厳格に取立てる気構えのようであります。こういう提案を聞いて、われわれは
共産国に対して一種の幻滅の悲哀を感ぜざるを得ないものでありまするが、
政府はどういう感想を持
つておられまするか伺いたい。これは将来
追加講和を結ぶ場合に重要な問題となると思うのであります。また
ソ連、
中共の、かく強硬な態度の結果、
国民は
ソ連、
中共との間に
戰争状態が継続するか、あるいは
交戦状態が再開されるか、そうでなくとも、
ポツダム宣言をたてにと
つて一方的に進駐して来るとか、あるいは公海においてわが漁船の
拿捕等の
復讐的手段に出て来るのではないか等、相当危惧の念を抱いておるのであります。これらに対して
政府はどう考え、またどういう
対抗手段を持
つておるかを明らかにしていただきたいのであります。
また
朝鮮動乱は、不幸にして、いまなお継続中であります。われわれは、この動乱が
全面戰争に発展したり、
日本に波及したりすることのないことを念願しまするとともに、侵略が中止され、平和が回復しまして、
朝鮮が
平和的手段で統一されることを心から希求するものでありまするが、万一この條約の
効力発生後も動乱が継続しているような場合に、いかにして
政府は動乱の
日本への波及を阻止するつもりでありまするか、その信念と
方針とを承りたいのであらます。
次に
政府は、今回の
平和條約は無
條件降伏の結果である、いわば、まないたの上のこいであるという態度をも
つて、
首相の言葉をかりれば、男らしくということで、その
予備的折衝過程において、毫も不合理の是正に特に努力した形跡のないのは、はなはだ遺憾であります。ことに
領土條項と
賠償條項には、われわれの納得しかねるものがあるのであります。
領土については、われわれは
ポツダム宣言の趣旨を無視せんとするものではないが、同時に
連合国が
日本の
領土をきめるにあた
つて、
連合国がみずからきめた
連合国共同宣言の原則を守ることを要求する権利はあ
つたと思うのであります。すなわち、
連合国共同宣言によれば、
領土の拡張は求めない、また
領土の変更は住民の
自由意思に従うということにな
つてお
つたのであります。しかるに、これが守られたとは思われないのである。條約第二條には、
南樺太及び千島の
領土権の放棄をうた
つております。なるほど、この
條項の不当なこと、ことに千島にも属さない歯舞、
色丹等の
ソ連による不法な占拠の不都合なことは、
吉田首相も
サンフランシスコ会議において指摘したところではあります。しかし、條約ができ上
つてしまつてから一方的に捨てせりふを残して去るだけでは、
政府の
責任は果てないと存ずるのでありまして、何らか
合理的方法によ
つて條約改訂に努力すべきものと思うのでありまするが、
政府の所信を承りたい。ことに歯舞、色丹については、
ダレス氏すらも、北海道の一部と見るべきであるかもしれない、そうであれば、これを決するのは
国際司法裁判所であるということを
語つたと伝えられておるのでありまするから、この二島については、
国際司法裁判所に提訴してもわが
領土たる確認を求むべきものと思うのでありまするが、この点、
政府はいかなる見解を有せられるのでありまするか、いま一層これを明らかにしていただきたいのであります。
北緯二十九度以南の
小笠原、南西諸島については、
サンフランシスコ会議において、
米英両国が、
日本の
領土権が存続する旨の解釈を述べたようであります。しからば何ゆえに
信託統治に付する必要があるのであるか。
軍事基地保有のためというならば、
政府は
日米安全保障條約によ
つて、
日本領土内に
米国軍の駐留とその
軍事施設の維持とを許容した以上は、何ら異なるものあるを見ないわけであります。これら諸島に対して法律上本土と異な
つた取扱いをする必要と意義とについて、
政府はこれを明らかにする
責任があると信ずるのであります。(
拍手)また
信託統治の意義については学者間にも
種々議論があるようでありまするが、
総理が過日の
演説において説明されたような観な、一種の
潜在的主権というような観念が、
国際法上はたして可能でありましようか。完全に
日本の
行政権外に去るものでありましようか。こういう点を明らかにされたいのであります。
次には
賠償の問題でありまするが、これにも幾多の疑問があります。條約第十四
條前段によれば、
日本には現在
賠償能力がないということを認めておる。他方、旧
占領国の要請があれば、いわゆる
サービス賠償に応ずべき義務を負わせることが定めてありまするが、これは矛盾であります。
サービスも、
りつぱに金銭に見積らるべき
賠償であります。ことに、との義務には一定の
責任額がきめられていないのでありまするから、
賠償を要求する諸国と
日本との間の交渉にゆだねられており、紛争を生じ、累を
国交に及ぼすことなきかをおそれるものであります。またこの
賠償の点については、重要なわが
在外資産を
賠償として放棄し、さらに
領土権や
特殊権益を放棄して提供した
中国に対するのと、ほとんど荒廃したままに放置してありまする
東南アジア諸国との間に、
サービス賠償について何らの差異も設けておらないのは、不合理であり、不公平であると存ずるのであります。この点について、
政府は
賠償上差異をつけるつもりであるかいなかを承りたいのであります。さらに
政府は、この
賠償交渉についてどういろ腹案を持
つておるのであるか承りたい。
国民の負担を加重し、著しく
生活水準を切り下げることなく、どろして
東南アジア諸国との
国交並びに
通商関係を円滑に処理して行くお考えであるか、承りたいのであります。
池田蔵相は、参議院において、役務を提供するのであるから、財政を圧迫したり、
国民生活を圧迫したりすることはないと答えられたそうでありまするが、
サービスも
りつばに金額に換算せらるべきものでありまして、負担が重ければ、
国家財政と
国民生活とを圧迫することは明瞭なことであります。この
賠償の方法はきわめてデリケートのものと存ずるのであります。
なおまた
在外私有財産については、先例によれば、少くとも国内的に補償の
責任を條約に規定すべきであ
つたと思うのでありまするが、
政府はこの問題をどう処理する
方針であるか。
引揚同胞が一齊に刮目して凝視しておる問題について、この際
政府の
方針を伺いたいのであります。
次には
安全保障條約についてお伺いをいたします。一体、口を開けば安全安全と、敵が眼前に
迫つたように申すのでありまするが、それほど急迫した危険がどこにあるのでありましようか。
朝鮮や
ドイツは二つに分割され、一方に
りつばに
共産政権が樹立せられておるのでありまするから、その侵略か解放かは存じませんが、必ず他の半分が緊迫を感ずることは当然のことであります。
わが国は、これと事情を異にするのであります。国内の治安は、
一般警察と
警察予備隊とで一応十分である。いかに
共産主義国といえども、平和に暮しておる
日本に、よほどの口実がなければ
武力攻撃を加えるということは考えられないことであります。
日本が外国の
軍隊を借りるということは、不必要に
東洋の緊張を誘発するのではないかということをおそれるものであります。
しかし、
世界における
西欧陣営と
共産陣営の対立、米ソの角逐というものを考えまするならば、
日本がどちらにと
つても最も重要なる
戦略基地であり、
軍事基地であることは、何人にも明らかなことであります。
アメリカの
軍事評論家も筆をそろえて、アラスカ、アリューシャン、
朝鮮、沖縄を連ねる
アメリカの
防衛線の一環として
日本を
軍事基地とすることは絶対不可欠であると主張しておるのであります。そのことは、われわれも認めるのであります。しかし
日本としては、
東洋緊張の原因になりたくない、侵略が疑うべからざる
正確度を持
つて迫
つて来ることを予見するまでは、
平和憲法の精神にのつと
つて、できるだけ中立の地位に置いてもらいたいというのが、
日本国民多数の念願であるのであります。(
拍手)
誤解を避けまするために一言いたしますが、私は、何らの意味においても
安全保障はいらない。
自衛も必要がないと申すのではないのであります。
客観情勢のいかんによ
つては大いに
自衛力も高めなければならない。新
憲法があまりにも理想に過ぎたということも、すでに
世界に定評の存するところでありまするから、万やむを得ない場合には、これを改正してでも
防衛力を充実しなければならないときが来るかもしれないとさえ考えておるのであります。
御承知の
通り、
社会主義は常に平和を愛し、
軍備と戰争には反対するものであります。しかし、だから
といつて、どんな犠牲においても無抵抗に征服を甘受するほど卑屈ではないのでありまして、われわれは物質的幸福以上に精神的自由を尊重するものでありまするから、いかに物質的幸福を約束されましても、武力をも
つてしてまでわれわれを
精神的奴隷の状態に置かんとする
政治形態の招来に対しましては、それが
資本主義から来るものであれ、あるいは
共産主義から来るものであれ、これを排除するために敢然闘うだけの勇気は持
つておるのであります。そのために必要ならば、
世界の志を同じゆうする人々とともに普遍的な
集団保障に参加し、分相応の
自衛力をも
つて自由を守るために闘う心の用意はあるつもりであります。しかし、今はまだそのときではないと信ずるのであります。
朝鮮事変の見通しは困難でありまするが、平和を回復する見込みはまだ絶無ではないようであります。
休戰会談が実を結んで平和が訪れるならば、ここに企図するような
安全保障は、しかく急ぐには及ばぬことであります。また、できるだけ
中立的立場を維持しようとして
サンフランシスコ会議にも出席しなか
つたインド政府が主張しましたように、
安全保障の
條項は本来
平和條約中から削除さるべきものであり、
安全保障條約は、
平和條約の
効力発生後、
独立国としての
日本が対等の立場において、そのときの事情に応じて自主的に締結すべきものであります。(
拍手)
平和條約発効後もなお九十日間は
連合国軍は駐屯しておるのであります。その間に締結しても決しておそくはないことであります。しかるに、その内容は、
調印の瞬間まで
国民に知らしめず、
平和條約
調印後半日を出ずして急遽
調印した。あまりにもあせり過ぎたという印象を拂拭することができないのであります。いわんや
アメリカ側は、
アチソン長官以下
ダレス大使、
ワイリー、ブリツジス両議員の四人が
調印しておるにもかかわらず、
日本側は、いかにワン・マン氏とはいいながら、
万事乃公の方寸にありといわんばかりに、
吉田首相一人でこれを応諾しておるのもふしぎであります。
ソ連と
中共とは、すでに明らかにこれをも
つて敵対行動の端緒と宣言しておるのであります。万一これが
わが国を戰乱の渦中に巻き込む原因となりましたような場合には、
首相はいかなる
責任を負わんとするものであるか。また
アメリカの側においても、
日本が
反対陣営に奪おれるのではないかという危惧の念からあせり過ぎておることを遺憾とするものであります。われわれは、
アメリカだけの保護を期待しなか
つた、
国家連合に入れてもらうことは困難であるといたしましても、せめて
日本のデリケートな立場を尊重して、
国連総会の決議のようなものによ
つて集団的に
日本の
安全保障を確保してほしか
つたのであります。それならば、
わが国が戰乱の渦中に入れられる
可能性ははるかに遠のいたはずだと思うのであります。
本来私は、
日本憲法第九條の精神からするならば、一艦一兵といえどもたくわえないことを
主義とするのでありますから、
外国軍隊にかわ
つてもらうこともこれに反するものと存ずるのであります。
総理の昨日の答弁によりますと、
憲法の禁じておるのは攻撃のための
軍備である、
自衛のために、防禦のために
軍備を持つことは
憲法の禁ずるところではないよらな趣でありますが、それは
総理が
憲法をつく
つたときの精神を忘れた御議論ではないかと思うのであります。私も当時立法に参加した一人といたしまして、
吉田首相が最も熱心に防禦のための
軍備ということを許さない趣旨を高調されたように記憶いたしまするので、念のために当時の
速記録を繰広げて見たのであります。
吉田総理は、昭和二十一年六月二十六日の本
会議において、
正当防衛のための
軍備をも認めないのかという質問に答えて、「近年ノ
戰争ハ多
ク自衛権ノ名二
於テ戰ハレタノデアリマス、満
洲事変然リ、大
東亜戰争亦然リデ
アリマス、今日我が国二対
スル疑惑ハ、
日本ハ好戰国デアル、何時再
軍備ヲナシテ復讐戰ヲシテ世界ノ平和ヲ
脅カサナイトモ分ラナイト云フコトが
日本二対スル大
ナル疑惑デアリ、又誤解デ
アリマス、」。同じく六月二十八日の
野坂參三君の質問に対して、「
戰争抛棄二関スル憲法草案ノ
條項二
於キマシテ、
国家正当防衛権二依
ル戰争ハ正当ナリトセラル・ヤウデアルガ、私ハ斯クノ
如キコトヲ認ムルコトが有害デ
アルト思フノデアリマス、近年ノ
戰争ハ多
クハ国家防衛権ノ名二於テ行
ハレタルコトハ顯著ナル事実デ
アリマス、故二
正当防衛権ヲ
認ムルコトガ偶々戰争ヲ
誘発スル所以デ
アルト思フノデアリマス、」こう答えておられるのであります。
憲法第九條の解釈としてはこれが正しいと信ずるのであります。
わが国自身が
防衛のために持つべきでない
軍隊は、外国から借りることもやはりいけないのだと解すべきではありますまいか。
客観的情勢の変化によ
つてその必要を認めるに
至つたというならば、まずこの
憲法を改正してかかるべき問題ではないかと存ずるのであります。(
拍手)この点に対する
総理の御所見を承りたいのであります。
次に本條約第三條によれば、すべての細目はいわゆる
行政協定に譲
つておるようであります。そこで、最も大切なる部分たるこの
行政協定の内容をある程度明示して国会の承認を求めるのが
政府当然の責務であると信ずるのであります。この
行政協定のやり方は、一九四七年に米国とフィリピンとの間にや
つた軍事基地協定のように、
軍事施設の種類、その性格、
軍隊と市民との
裁判関係、
駐屯軍の課税上の特権、
駐留地点、港湾の
使用権、
演習権、
駐屯軍費の
分担等、細目にわた
つてきめられるのでありますか、あるいは北大西同盟條約各国のように、一切をあげて共同
委員会に一任するのであるか、いずれの方式をとるのか伺いたいのであります。そうして、いずれにしても、その大綱についてはすでに了解があるはずと信じまするがゆえに、これを明らかにされたいのであります。
一体、この
行政協定なるものは、法律上どういう性格のものでありまするか。私は、この
行政協定は條約の内容の一部をなすものと思うのでありますが、しかるときは、
憲法第七十三條によ
つて国会の承認を得なければならないはずである。
政府が今これをわれわれに示されないのは、
政府限りの行政行為と解しておられるのであるか、承りたいのであります。
三木君も昨日指摘されましたように、
日本憲法第七十三條の規定はすこぶる明瞭でありまして、
アメリカにおける
憲法慣習はどうありましようとも、
わが国では、一切の国際條約は、事前に、時宜によ
つては事後に必ず国会の承認を得なければならないと思うのであります。(
拍手)
政府がこれを無視するようなことがありますならば、
憲法上の大原則が、独立後最初に締結される條約において破られるという悪先例をつくるものでありまして、その
責任軽からざるものと考えるのであります。(
拍手)われわれは、この際
政府に白紙委任状を渡すわけには参らぬのであります。
なお
駐屯軍費の分担が必ず問題になると存ずるのでありまするが、前述の
通り、この
安全保障は、実は
アメリカの駐兵條約とも申すべきものでありまして、
日本の
防衛にもいくらかなりまするけれども、それにも増して
アメリカの
防衛上必要な
軍事基地でありまするから、
日本財政の貧困にかんがみ、その全額をこの際
アメリカに御負担願うということは決して無理な要請とは思われないのでありまするが、
政府はいかがお考えでありましようか。(
拍手)
いま一つ、われわれの心配いたしますることは、これが
わが国の再
軍備につながりはせぬかということであります。
アメリカの方からは、しきりにそういうことが放送されて来るのであります。トルーマン大統領も、
サンフランシスコの
演説において、
日本が将来
防衛軍を持つことを予想して述べておりましたし、この條約の前文においても、
日本がみずから
防衛の
責任をとる日の来ることを期待しておるのであります。これはおそらくヴアンデンバーグ決議等と関連するところあるものと思うのでありまするが、再
軍備の問題は、
日本が完全に独立した後、
世界並びに
東洋の情勢を勘案いたしまして、広く国論にも問うて、ま
つたく自主的に考慮すべき問題であります。そうして、
憲法改正を前提とすることもちろんであります。ただ、この條約を受入れたことは当然再
軍備を約束したことになるという見解は、私どもの承認するととのできないものであります。
総理は、たびたびの答弁において、今は貧乏だからできないというように答えられた。これは裏を返せば、ゆたかにな
つたならばやるということに聞えるのでありまするが、はたしてさようでありまするか。この点、
政府の明確なる所見を承
つておきたいのであります。
以上の諸点について、
吉田首相の
責任ある答弁を求める次第であります。なお時間がありますれば、平和後の財政問題、行政機構改革の問題、主食統制撤廃の問題、電力危機の問題、治安立法の問題その他についてお尋ねをいたす予定であ
つたのでありまするが、すでに時間がありませんから、これらは緊急質問、
委員会の質問等に譲ることといたしまして、最後にいま一つお伺いいたしたいことがあります。
いわば今回変態的占領を続けるような平和と独立を獲得したわけでありまするが、この
平和條約によ
つて、ともかくも
わが国は独立することとなるのであります。しかし、
領土は戰前の半分に減り、この狭い
領土に八千万の同胞がひしめき合
つて暮すのである。しかも、物資はすべて欠乏である。しかるに自由党内閣は、すべて統制を撤廃し、手放しの自由経済でこの国を運営して行こうというのであります。これで万人が最低限度の
生活水準を保つことがはたして可能でありましようか。われわれは、そういうやり方ではこの国を持
つて行くことはとうていできないと確信するものであります。人口があり余
つて物資乏しき国に
資本主義的自由経済を強行すれば、弱肉強食、持てるものは與えられて余りあり、持たない者は持てるものまで奪われるという修羅場を現出することは、火を見るよりも明らかなことであります。(
拍手)これを阻止し、
国民の最低限度の
生活水準を維持する道は
社会主義的計画経済の達成のほかにないことは、
国民の多くのすでに認識するところであります。(
拍手)
平和條約の批准を終り、
わが国が
独立国として再出発するにあたりましては、
国民の多数がいずれの政策を希望するかを輿論に問うことは最も民主的の行き方であります。その際、衆議院を解散して総選挙を施行し、輿論の帰趨に従
つて新しい政権担当者を定めることこそ、まさに立憲政治家のとるべき態度と存ずるのであります。この意味において、
政府は適当の時期に解散を断行する意思はないかということをお尋ねいたすものであります。
以上をも
つて私の質問を終ります。(
拍手)
〔
国務大臣吉田茂君登壇〕