○三木武夫君(続) 今日ほど
日本の官紀が紊乱しておる時代はか
つてないのであります。
政府の監督下にある官庁の秩序のごときすら今日は守られていないのであります。
また政治が進歩を目ざしておるかという点についてでありますが、団体等規正法の改正、あるいはまた労働三法の改正等に現われておる
吉田内閣の
考え方は、進歩に逆行した
方向にこの改正を考えておるのであります。(
拍手)たとえば労働三法についても、
吉田総理は、施政
方針の
演説に労働三法改正の意図をほのめかされましたけれども、部分的に
日本の実情に沿わない点を改正することはわれわれも
反対でない。けれども、労働三法の原則、労働三法の精神というものに改正を加えようとするがごときことがあ
つたならば、今後
日本は通商協定を結ぶこともできないであろうということは、
総理自身がサンブランシスコの
会議を通じて御
承知のはずであります。やはり
日本は、労働三法のごとき国際的労働條件のスタンダードは苦しくても守
つて行くということが、
世界に対する
日本の信頼を深める
ゆえんであります。(
拍手)
要するに、今日の
吉田内閣の政治の傾向として非常に強く現われて来ておることは、権力政治、金力政治の傾向であります。この内閣の性格を最も端的に
代表するものは池田蔵相であります。先般も、庶民の生活がわずかに支えられておる主食の配給を撤廃するというがごとき無謀な計画をこの内閣が発表されまして、池田蔵相の言として、米が高く
なつで、貧乏人が米を食うことができなければ、貧乏人は麦を食えということを、堂々と新聞に発表せられておるのであります。(
拍手)これは簡単な言葉ではありまするけれども、この言葉の中に、
国民はつぺこべ言うなという権力政治のにおいがある。またこの言葉の中に、「金持ちは何をしてもいいのだ」という金力政治のにおいがあるのであります。(
拍手)
吉田内閣の施政を通じて、私ども
国民は、高いヒューマニズムというものを少しも感ずることができないのであります。(
拍手)
吉田内閣の政治
経済を通ずる
政策の中には、一片のヒユーマニズAがないということであります。(
拍手)今日における政治が、各国とも社会
保障制度のごときをきわめて熱心に取上げて、
国民とともにわけ合
つて生きて行こう、
国民とともに乏しいながらもわけ合
つて生きて行こうということが
世界政治の傾向である。政治の中にこの
根底がなければ、
治安の維持すらも将来においては問題が起
つて来るのであります。
現に
日米安全保障條約の中には、
日本文では内乱、騒擾という大きな言葉が使われておりまするけれども、しかし條約の原文は、ライオツトとデイスターパンスという言葉を使
つてあるのであります。このライオツト、デイスターパソスという言葉は、
日本語に訳した内乱、騒擾ということよりかは、もつと小さい場合を規定する言葉であります。してみると、
日米安全保障條約によ
つて駐留する
米国軍隊が、極東の平和の維持に出動するばかりでなく、国内の
治安の維持にも出動できる。それが騒擾であるとか、あるいはまた、ちよつとした不穏な形勢にも出動できるようにな
つておるのであります。むしろ、この條約は、できる限り米軍が出動しやすいようにできておる條約であります。
国民からするならば、せめて国内の
治安の維持くらいは
政府によ
つてや
つてもらいたいことが率直な
気持であります。しかしながら、
政府が国内の
治安の維持に対しても自信を失
つて、米軍の出動をしてもらわなければならぬということならば、一体今日まで
治安の維持に対して
政府は何をや
つてお
つたのかと言いたいのであります。(
拍手)こういう條約を結ばなければならなくな
つたということだけでも、大橋
法務総裁は辞職をするくらいの責任を感じなければならない。(
拍手)
以上申しました官紀の紊乱、団体等規正法、労働三法の改正等に現われる
政府の非民主的傾向並びに
治安の維持等に対しての国内政治の安定に関する
吉田首相の
方針を承りたいと考えます。
次は
平和條約の
内容についてであります。われわれは
ポツダム宣言を受諾いたしたのでありますから、
領土に対しても、ある
程度の
領土を喪失することは当然に覚悟をいたしておりました。けれども、戰争によ
つて膨脹した以外の
領土は当然に
日本に返還されるであろうということが、
国民の期待であ
つたわけであります。こういう点で、千島とか、あるいは、南西
諸島が
日本の手から離れますことは、
国民の深く失望したところであります。ところが千島につきましては、これは
ソ連がこの
講和條約の調印に加わ
つておりませんから、千島の将来の帰属というものについては問題が残されて来るわけであります。私どもは、千島の
領土権に対しては将来にわた
つて日本が主張すべしという意見であります。
政府の
見解を承りたいのであります。
また
奄美大島、琉球、小笠原等の
諸島につきましては、われわれは、米英共同宣言にある、米英は新たなる
領土を欲せず、米英は住民の意思に反して
領土の変更を行わずという共同宣言を信じて、将来においてこういう地域が
日本に返還されるものと期待いたしております。少くともアメリカが管理されておる間における処置としては、住民の国籍を変更することをしないこと——国籍の無変更、あるいは通商交通の自由は認めてもらわなければならないと考えておりますが、との点、
政府はどういう意思を持
つておるのか承りたいのであります。
さらに
賠償については、
日本が戰争中実害を與えた
アジアの
諸国に対して、
日本が
誠意をも
つて賠償の
義務を履行すべきことは当然でありまするが、もし無理な
賠償を
日本に要求して、
日本の力が弱体化するならば、
アジアの
自由国家群全体の上についても、これは決して望ましいことではないのでありまするから、
賠償に対しては、現地の
経済開発、現地の農業技術の向上等に
日本の技術、労務を提供する形において
賠償の
義務を履行することが適当であると考えておりますが、
政府の
賠償に対する
見解はいかがでありますか、承りたいのであります。
さらに、いつも問題になりながら明らかにな
つていない点でありますが、
平和條約第五條に、
日本は
国際連合にあらゆる援助をしなければならぬ
義務規定があるのであります。「あらゆる」ということの限界は当然になければならぬと考えますが、この際明らかにしていただきたいのであります。さらに、これだけり
義務を
日本が
国際連合に対して持つ以上は、国連へり加入が、
安全保障理事会の拒否権等の都合もありましようが、急速に実現されなければならぬと考えますが、国連加入に対して
政府はどういう考えを持
つておるか承りたいのであります。
次は、
日米安全保障條約をこの内閣が締結された前提として、
吉田首相の
世界情勢に対する的確な判断を
国民の前に明らかにしてもらいたいと思うのであります。
吉田首相は、
サンフランシスコにおもむかれるまでは、外からの
侵略は
日本にはない、内の
治安も大丈夫であ
つて、時局を重大に言うことは、かえ
つて神経戰にかか
つておるのだとい
つて、
国民を警告したのであります。ところが、
サンフランシスコに
吉田総理が参られると、この
情勢判断は百八十度の転換をして、
日本は
北海道のごとき北からの
侵略の脅威にもさらされておれば、また国内の
治安も、
日米安全保障條約によ
つて米軍の出動を懇請しなければならぬ非常な不安定なものであるということにな
つて参
つたのであります。
総理が、かくのごとく
世界情勢に対する判断をときどきに変更されますことは、
国民としても非常に不安であります。(
拍手)
総理は
世界情勢に対してどういう判断をお持ちにな
つておるのか、この際明白に承
つておきたいのであります。(
拍手)
また
日米安全保障條約と再
軍備との関連性であります。
吉田総理が調印された
日米安全保障條約の前文には、
日本は自国
防衛のために漸増的にみずから責任を負うと書いてあります。漸増的にみずから責任を負うということは、端的にいえば再
軍備ということである。また
総理は、
サンフランシスコの
演説において、
日本は将来みずからの力によ
つて日本を守る覚悟であります、という
演説をされておるのであります。みずからの力によ
つて日本を守るというのは何であるか。それは結局再
軍備ということではないか。再
軍備ということ、
日本が
軍備を持つということは、八千万
国民がだれ一人として喜んでいるものはない。けれども、
日本が
軍備を持つということが必至の
情勢であるとするならば、
吉田首相のごとく再
軍備か否定して——事実は十分に
世界情勢を
承知されながら、
国民の前に再
軍備を否定して、
国民に対して
見通しを與えないという
態度は、
国民に対する忠実な
態度であるとはいえないのであります。(「ノーノー」)その時期は別といたしましても、
国民にその覚悟を促すことが
総理としての責任である。(
拍手)これに対して
総理の
見解を承りたいのであります。
次は、
日米安全保障條約の性格について、重要な数点を
お尋ねいたします。
第一点は、
わが国は非武装憲法を持
つておるのであります。この
日米安全保障條約と、非武装を規定する憲法九條との
関係を
政府はどういうふうに解釈しておるか、承りたいのであります。
第二点は、この
日米安全保障條約の性格は、対等
国家間のとりきめであります。また
講和條約が効力を発生しても、九十日間という
占領軍の引揚げ猶予期間があるのであります。しかるに、
国民の中にも、あるいはまた
世界にも、この点については相当な誤解を與えておりますが、なせこの
日米安全保障條約を
日本が
独立後に締結して悪か
つたのでありますか、この点を承りたいのであります。
また第三点は、この
日米安全保障條約は、アイデアのみあ
つて、骨組みすらも條約の中に規定されていない、非常に異例な條約であります。アイデアのみでなく、なぜ骨組みの大綱ぐらいは條約の中にお入れにならなか
つたのか、承りたいのであります。(
拍手)
また第四点は、米軍は外部からの攻撃に対して
日本国の安全に寄與することができると、第一條に規定してあります。
日本の安全に寄與することができるということであ
つて、
日本防衛の積極的かつ決定的
義務はこの條約の中に欠けておるのであります。しかもこの條約には期限がついておりませんから、あるいは條約上は、永久駐兵もできれば、何時でも引揚げることが可能にな
つておるのであります。対等
国家間のとりきめとしては、これはきわめて不完全な條約といわなければなりませんが、
政府はこれについてどういう意見を持
つているか、承りたいのであります。(
拍手と
次は、二の條約は
行政協定に重要な諸点がゆだねられておりまするが、その
交渉は一体どうな
つておるのでありますか。対等
国家間のとりきめであれば、
交渉の途中であ
つても、
政府の
方針というものがなければならないのであります。従
つて以下申しまする諸点に対する、
交渉の経過ではなくして、
政府の
方針を承りたいのであります。
第一点は、米軍が極東の平和のために出動する場合のその判定は、米国が一国でやるのか、あるいは他の機関たとえば
国際連合等の機関に諮るのか、
日本の同意というものがその場合に必要なのか、承
つてきたいのであります。また国内の
治安に対する出動の判定は、これは
政府の要請にばるということでありますが「
政府が要請をする場合の判定の基準はどうな
つておるのか、承
つておきたいのであります。
第二点は、日米合同委員会の組織と権限は対等でなければならぬと考えますが、この組織と権限を、どう
政府はしようという
方針であるか、承りたいのであります。
第三点は、基地新設あるいは拡充、駐留兵力というものは無制限ではないはずと思いますが、これはどうなるのか、承りたいのであります。
第四点は、軍人の裁判権は別として、地域的な治外法権の設定は両国のためにならぬと私どもは考えておりますが、この法律
関係はどういうふうにな
つているか、承りたいのであります。
第五点は、費用の分担に対してはどういうとりきめになるのであるか、
政府の
方針を承りたいのであります。
最後に、もし
行政協定という名のもとに、いかなることもこの
行政協定によ
つて結べるということにな
つて来ますると、これは
戦争中における
国家総動員法以上のものであります。(「ノーノー」
拍手)こういう広汎な白紙委任状を
政府に渡すことは、
日本の憲法にも違反するところであります。(「ノーノー」
拍手)従
つて今後、
国民の権利
義務に関することは一切
国会における立法
措置を伴わなければならぬと考えますが、
政府の
見解はどうでありますか、承りたいのであります。(
拍手)
以上の諸点について、
国民の疑念に対し、余すところなく答えられなければならぬと考えます。
独立国の中に外国の軍隊が駐留するということは重大なことであります。しかも、その駐留する外国の軍隊が、国内の
治安に対しても出動するというのでありますから、これはきわめて重大なことであります。そこで、多数の
国民がその事実をよく納得して、米国の駐留軍と
日本人との間に善意と協力の
関係が成立しなければ、かえ
つてこの駐留軍隊は
日本の
防衛力にはならないのであります。(
拍手)
日本人も
米国軍隊をやつかいなものがおると考え、また米国の駐留軍も背後に冷たいものを感じたのでは、これは決して
日本の
防衛力にはならないのであります。従
つて、この
日米安全保障條約については十分に
審議を盡して、
国民の疑惑に対して、余すところなく答えるという
態度を
政府がとることを
国家のために要望するものであります。(
拍手)そうすることが
日本のためでもあり、米国のためでもあるのであります。われわれは、かかる厳粛な問題を政党のかけひきに利用しようというようなことは毛頭ないのであります。しかしながら、もし
政府並びに與党が、
審議を十分に盡さずして、多数の力によ
つてこの法案の通過をはからんとするならば、断固として闘うものであるということを表明するものであります。(
拍手)
〔
国務大臣吉田茂君
登壇〕