○議長(
林讓治君)
国務大臣の演説に対する質疑に入ります。
鈴木正文君。
〔
鈴木正文君登壇〕
鈴木正文君
自由党を代表いたしまして、
講和に関する諸問題、特に
平和條約と
日米安全保障條約並びにその結果として当然に来るべきことが予想されるところの幾つかの政策につきまして、
吉田総理大臣並びに
関係大臣に
質問をいたしたいと存じます。
講和国会のこの本
会議において、
国民が何をおいても聞きたいことは、條約の技術的、
法律的解釈よりも、より基本的な次の二つの問題に集約されると思うのであります。よ
つて冒頭において、次の二つの点について
吉田首相の
見解を
国民とともに承りたいのであります。その一つは、
平和会議後の
日本の国際的に進むべき
方向線は一体どこに置かれておるのであるかという、
外交の
基本線の問題であります。その第二は、この
方向線を進むことは、戦乱の危険から
日本を救う最良の道であるか、それとも
共産党その他少数の人々が言うがごとく、戦争へ一歩近接するものであるかというこの問題について、はたしてこの妄説がほんとうであるか、この問題について信念を明確にして、
国民の向うベき道をまず示していただきたいと思うのであります。
思うに、今日
日本国民最大の悲願は、憲法の規定を待つまでもなく、再び戦乱の中に、自分をも、他人をも、
世界各
国民をもさらしたくない、この一点にあるのであり、
国民はこの一点を
講和会議に関して最も重要なる将来の
方向として見詰めておるはずであります(
拍手)われわれは、
共産党及び一部の人々が説き立てる
戦争誘発論を反駁する前に、この
講和会議において現実に見た事実をも
つて、その
でたらめ性をまず指摘したいと思うのであります。
今回の
平和会議に臨むにあたり、多数
講和か
全面講和かという最も基本的な形態について一応の議論のあつたことは、御承知の
通りであります。しかして
吉田内閣並びに
自由党も、できるならば
全面講和こそ最も望ましいものであるとする意見においてかわりなかつたのでありまするが、相手にその意思のない限りは不可能であり、可能なる多数の
自由平和愛好の諸
国家群との間にまず
講和を完成せらるべきであると考え、多数の
国民諸君もまたこの
見解か支持したと思うのであります。(
拍手)
サンフランシスコの
会議において
ソ連代表が行つたあの
懲罰的修正案は、一体
平和会議をまとめ上げんとする
努力であつたでありましようか、それとも、これをぶちこわそうとするところの、かけひきであつたでありましようか、言わずして明らかであると思うのであります。われわれはこの現実を見るに及んで、
国民諸君とともに、
講和会議に臨む以前の
見通しにおいてわれわれの
見解の正しかつたことをあらためて確信するのであります。(
拍手)
全面講和論者がまだおるといたしましたならば、それら
全面講和論者は、
全面講和でさえあるならば、ソ連の持ち出した、あの代案による
平和條約でもけつこうであるというのでありましようか。(
拍手)
日本国民として、一体そんなことが言えると思うのでありましようか。
今回の
平和條約は、
わが国としては、かかる現実の
世界情勢に即し、自由にして平和を愛好する
諾国家群との団結の中に
日本の
世界における新にして明確なる立場を確立し、この線の上に祖国の安全と再建をはからんとするものであり、先般調印せられました
平和條約及び
日米安全保障條約は、
自由国家群との団結と
集団的安全保障機能を強化し、
赤色帝国主義の
世界侵略の中から祖国及び
世界の平和を守らんとするものであるという結論において間違いがないと思うのであります。(
拍手)われわれは、もとより、ソ連とも中央とも
講和を達成することを、いずれの国よりも熱願はしておるのでありまするが、現実的に不可能な夢の中に民族の運命をいつまでも放置するがごときことは、責任ある公党として、とうていでき得ないのであります。(
拍手)
しかるに、少数ではあるが、
共産党及びその周辺は、この條約を目して、自由、共産両陣営の間に
緊迫感を深めるとともに、一方
アジア諸国の不安を招来して
戦争誘発の危険を倍加せしめたるごとくに宣伝して、
国民を惑わさんとしておるのであります。(
拍手)もとより、
共産党の
常套手段のごときは、今日においては
一般国民もまた周知卒業しておるところでありまするけれども、それとは別に、前にも述べました
通り、戦乱の回避こそ今日
日本国民最大の念願であるのでありまして、
平和條約を結ぶことがなぜ戦争に近寄つたというのでありましようか。現在の緊迫せる
国際情勢のもとで、できもしない
全面講和の夢を追いながら、無防備の裡のままで、
独立もせずに右往左往するという、それが平和を守る
ゆえんであるなどと一体どうして考えられるというのでありましようか。(
拍手)朝鮮における侵入は、韓国及び
国連軍が
自衛力を持つたということから始まつたのではないのでありまして、
北鮮及び共産諸国が、彼らの武力が韓国及び
国連軍の
朝鮮半島における
防衛力にはるかに立ちまさつたと判断した瞬間において行われたのであります。(
拍手)
以上の見地に立
つて、第一に
吉田総理に伺いたいことは、今後
日本のよ
つて進むべき国際的な進路を明確に示していただきたい一点であります。次いでこの
方向に進むことこそが戦争を避ける最も有効なる
方向であり、方法であるという明確な信念を吐露していただきたいのであります。この
方向と信念の上に立
つて戰争回避の
国民の念願を達成すべく、
総理みずから渾身の
努力を傾ける覚悟を披瀝していただきたいのであります。
さらに伺いたいのは、われわれの今後の
外交方針が
自由諸国家群との団結にある以上、インド、ビルマ、タイ、
韓国等の
アジア自由国家群との
国交回復は、今後に残された重大な問題であります。これらの
アジア自由国家群との
関係はどうな
つておるか、
政府はいかなる方法によ
つてこれを達成しようとして
努力しておられるか、この点をも明らかにしていただきたいのであります。
次に
政府に伺いたいのは、
平和條約と
安全保障條約との
関係であります。われわれの
見解は、
平和條約と
安全保障條約とは一体不可分だともちろん考えておるのであります。われわれが伺いたいのは、條約調印の技術的、時間
的関係において、形式的にそれがどうであつたかというような問題ではないのであります。いずれの国といえども、まずみずから守るのは当然であります。ただ今日においては、自国の守りはそれ一国をも
つてしてなし得ないこともまた周知の
通りであります。いわんや現在のごとく、
日本において
平和條約のみ締結せられても、武装を解除せられているのであ
つて、固有の
自衛権を行使すべき有効な手段はあり得ないのであり、しかも一方において、
赤色帝国主義の侵略がまだ
世界から駆逐されていないところが、
朝鮮半島の実情を見るとき、安全に対する何らの
保障も、将来の
方式の確立もなくして、
平和條約のみを結んで、一体どこに防衛と建設の
基本線を求めることができるというのでありましようか。(
拍手)
共産党のごとく一切反対であるというのはわか
つております。それは、それが
共産党だからわか
つておるのであります。(
拍手)しかし、少数ではあるが、
共産党とは一線を画すると
平素言つている人々が、
安全保障條約には反対であるというのは、一体いかなる確信と
具体的方式をも
つてこれにかえようとするのでありましようか。(
拍手)これらの人々は、
国民をして納得せしむるに足るところの具体的な
方法論をこの際掲げることができないのでありましたならば、この民族的な重大事の決定にあたり、彼らが平生唱えているところの、
共産党と一線を画しておるという言い分は根底からくずれ去
つてしまうに違いないということを指摘せざるを得ないりであります。(
拍手)この点について、反対ならば反対でよろしい、堂々と具体的な代案をこの
国会を通じて示していただきたいのであります。
われわれ
自由党は、先に述べた
通り、
平和條約と
日米安全保障條約は一体不可分のものであ
つて、この両條約を通じて初めて
世界の平和と
わが国の安全を期し得るものであると確信するものであり、さらに進んで将来において、
日米安全保障條約の第四條にいうがごとく、さらに多くの諸国との間における個別的もしくは
集団的安全保障にまで発展すべき
積極性をも持
つておるものと解釈するのでありまするが、この点について、
政府、特に
吉田総理大臣の
見解を表明していただきたいと思うのであります。(
拍手)
安全保障協定は、
暫定的措置ではありまするが、現在の段階においては、
わが国の
独立と安全を
保障するための最善の手段と確信するものであります。しかし、その
具体的内容は、條約第三條に示しておる
通り、
日米両国政府の間における
行政協定によることにな
つておるのであります。この点については、
国会の條約
審議権との間に深い注意を
拂つて、今後の推移に応じて、
国会を通じてその内容を
国民に十分伝えるべきであると思うのであります。特に所要の予算または法案の審議を求める機会において詳細な説明をすべきであると思うのであります。
政府は
行政協定と
国会の
審議権との
関係について確信ある
見解を有しているはずであり、この機会にこの
見解を表明しておいていただきたいと思うのであります。
さらに、
行政協定の内容をなすべき
わが国の負担、
米国軍隊の
特権等につきましては、
国民が深い関心を寄せているところであります。
政府はいかなる方針で
行政協定とりきめの交渉を進めて来たか、その今日までの推移を明らかにされるとともに、将来の
方向について、可能な限りそれらを明らかにせられたいのであります。さらに、世上一部に伝えられる妄説、いわゆる
秘密協定云々というふうなものに対しましては、ないこともちろんとわれわれ了承いたしまするが、この壇上より
国会を通じて明確に
吉田総理に鮮明せられんことを要求するものであります。
次に、いわゆる再
軍備の問題であります。
安全保障協定は
わが国の
軍備をただちに義務づけるものでないことはわれわれの信ずるところでありまするが、しかし
独立国である以上、みずから守り、みずから国土を防衛するために、
国力の充実に応じて逐次
自衛力を充実することは、
わが国の権利であり義務であると信ずるものであり、かつ防衛の
方式は
国連集団保障の中にあることも、すでに指摘した
通りであります。かつまた、こうした
自衛力の整備こそ
国民を戦乱の危険から守るに足る手段であることも、すでに申し上げた
通りであります。何らの
具体策も持たない
観念論的中立論のごときは、なすべきをなし得ない人々が最後に逃げ込む、たぬきのどろ舟にすぎないのであ
つて、(
拍手)このどろ舟に乗
つて、
国民とともに
狂瀾怒濤の
国際社会の中をさまよ
つていいなどとは、われわれには毛頭考えられないのであります。これらの点につきまして、再
軍備とはどういう意味であるか、再
軍備でないまでも、いわゆる
自衛力の強化を
国力の充実に応じて逐次進めて行く、その
考え方、
方式等について
吉田総理の
考え方を伺いたいのであります。
次は、領土問題について
総理の
見解を伺
つておきたいのであります。
奄美大島、
琉球諸島、小笠原諸島、その他二十九度以南の諸島の
領土権が
日本に残されているという
米国全権及び
英国全権の言明は、領土問題についてわれわれに一つの光明を感ぜしめたものであり、これが解決のための
基礎條件であるところの、
世界、特に
アジアと
平和関係を確立して、以上の諸島が
わが国の行政のもとにもどることを期待してやまないのでありますが、特に
奄美大島や
小笠原群島等、軍略上の必要の少い諸島につきましては、
現地住民の切実なる念願をも考慮に入れられまして、
連合国側の特別なる配慮を煩わすことに
政府の格段の
努力を期待いたしたいのであります。(
拍手)この点について、
政府はどういうふうに考え、またいかなる
努力を
拂つておられるかを明らかにせられたいと思います。
次に、
千島列島及び
南樺太が侵略によ
つて日本に奪取されたものであるとするところのソ連の主張は、われわれの絶対に承服し得ないところであります。
サンフランシスコ会議において、
吉田総理が断固この点について所信を明らかにされたことに対しましては、
日本国民がいかなる感激をも
つて問いたか、記憶に新たなるものがあるのであります。歴史的、民族的に当然
日本の領土であつたものに対しましては、すみやかに事情の許す限り返還されることを期待してやまない、これは
日本人の偽らざる念願であり、また国際的にも正当な要望であると信ずるのであります。さらにまた、色丹島、
歯舞諸島のごときは明らかに
北海道の一部であるのであります。たまたま終戦当時
日本兵営が存在していたためにソ連に占領されて、そのままにな
つておるのに間違いないのであります。これは明らかに不法の占領である。
政府はこの点についてどう考えておるか、どういうふうな措置をも
つてこれに対処しようとしておるのであるか、この点をも伺いたいのであります。
次に
賠償の問題でありまするが、
役務賠償の具体的とりきめは、今後に残された重大問題であります。われわれは誠意を盡してその履行に当らなければならないことはいうまでもないのでありまするが、領土の四五%をその資源とともに喪失して、莫大な
海外資産を接収され、しかも荒廃した国土に八千数百万の人口を擁しておる、困難きわまる現実にかんがみ、
役務賠償も、その程度と、その時間的速度を誤るような無理な方法をとるときは、
日本再建はおろか、
国民生活を破壊して、
平和條約及び
安全保障條約の線に
沿つて世界の平和に
貢献せんとする
日本の
努力自体も不可能になるおそれのある問題であります。
賠償は
日本経済を破壊せぬ範囲において行わるべきであるということは、すでに了解されております。この意味は、單に
日本国民が
最低生活を保持するに足りるというような消極的な意味ではないはずでありまして、少くとも
日本経済が新たな発展を遂げて、
自由諸国の強化の役割を果し得る限度と解すべきであり、
ダレス代表が、全
関係者を裨益する
経済的仕組みのうちに正義の理想に奉仕する
賠償方式という言葉をも
つて表現したところの意味もまた私どもはここにあると希望をつなぐのであります。
池田大蔵大臣にただしたいのでありまするが、この点について、従来
関係諸方面といかなる話合いを進め、その問題に対処する
見通しと準備を進めておられるか、でき得る限り詳細に、また総括的にこれらの点を明らかにしていただきたい。
国民をして大よそその
向う方向と、なすべき
努力の限度とを知らしめて、希望と勇気と誠意を持ち得るような総括的な
見通しを披瀝していただきたいのであります。
次に、
わが国の完全な
独立は、
安全保障條約とともに
経済自立の裏づけがあ
つてこそ初めて可能であることは、いうまでもないところであります。
平和條約の
効力発生とともに、この問題はいよいよ本格的にこれを推進する段階に入
つて来るはずであります。
政府は、これに対していかなる構想と具体的な対策を用意しておられるか。特に電力、石炭、食糧、
船舶等の開発並びに増産、物価の安定、資金の
確保等はその根幹的な課題であると思いまするが、石炭も電力も必ずしも楽観を許さぬ情勢のもとにあることは、すでに各方面から指摘されておる
通りであり、その他もまた思い切つた
重点的施策を断行するのでなければ、
講和後の諸問題の解決に対処する
日本経済の
根本態勢は
整つたと言いがたいのであります。
質問時間の
関係上、これらの問題の詳細をあげての
質問は省きまするけれどもどれ
ら議題のらくが
講和の
実質的完成に至大の
関係を持つものでありまするから、
自立経済の新たなる構想については
経済安定本部長官に、電力、石炭については
通商産業大臣に、それから船舶の問題については
運輸大臣に、米の
統制解除問題等をも含む
食糧政策については
農林大臣に、それぞれ
講和後の政策の中心問題としての角度から説明をしていただきたいと思うのであります。さらに
講和後の
財政整備の一環であるところの
行政整理は一体どこまで進んでおるか、
機構整備の問題はどうか、これらは
行政管理庁長官に、また遺家族に対する援護の限度と
熱意等を
厚生大臣に、それぞれお伺いしておきたいと思います。
最後に、治安の問題について
法務総裁に伺います。われわれは、
講和会議によ
つて治安が不安な情勢になるなどとは毛頭考えておらないのであります。しかしながら、
独立国家としてみずから
国家の治安を守るためには、現在の
国家警察並びに
警察予備隊、海上保安庁の制度が十分であるとは考えておらないのであり)同時にまた、治安に関する現在の
関係機関の機構も雑然として不備であると思うのであります。
警察国家の、ごときは、われわれの夢想もせぬところでありまするが、当面の問題として、これらの充実と整備が必要とな
つて来ることは当然と考えるのでありましてこの点について
政府はどう考えておられるかを伺うのであります。さらにまた不法な破壊的の分子の動きがあつた場合、
一般的治安を維持するだめの方策、これらの分子によ
つて主要な産業に対する
破壊的行動が
国民への損失によ
つて行われるようなおそれのある場合、それに対処して国内の治安と産業を守り、
日本独立の使命を果すために、
法務総裁はいかなる構想でこれらに対処すべき
方式を準備しておられるか。
以上の諸点につきまして、
総理大臣並びに
関係各大臣に
質問をいたします。(
拍手)
〔
国務大臣吉田茂君登壇〕