○田中参考人 猪俣委員からの御
質問の大森署の半谷警部補の
事件につきまして、私からかいつまんで
事件の成行き及びその本庁といたしましてと
つた措置につきまして御報告を申し上げたいと思います。
半谷警部補は大森警察署の少年防犯主任を勤務いたしておりまして、勤務につきましてはきわめて熱心で、その勤務上の成績もきわめて優秀な警察官であ
つたのでありまするが、非常に事に熱中すると申しまするか、非常に熱心に物事をやるというような気質の男でございます。たまたま窃盗容疑現行犯として大竹
四郎こと横塚仙吉及び黒沢某という二人の容疑者を七月中旬に逮捕いたしまして、もつぱら半谷警部補が主任で取調べをいたしてお
つたのであります。ところがいわゆる共犯者でありまする黒沢某は、取締べに対しまして容易にその犯行の事実の一切を自供いたしたのであります。ところが主犯である大竹
四郎こと横塚仙吉は頑としてその犯行事実を否認いたしまして、いかに主任が取調べをいたしましても絶対にその事実を自供いたさないのであります。たまたま七月二十三日の午後二時ごろでありましたか、引続き半谷警部補が横塚仙吉を取調べをいたしてお
つたのでありますが、その際にたまたま半谷警部補がタバコをのんでおりまして、そのタバコを両腕につけたことは事実でございます。これもまあ軽い意味で、お前あまりがんこに否認せずにもう共犯が自供しているんだから、どうせ否認のまま送
つても証拠があが
つているんだからもういいかげんで自供したらどうかという意味で、軽い意味でタバコの火を軽く——別に悪意というほどでもないのでありまして、これは本人ももちろん拷問する
意思とかそういう
意思は毛頭なか
つたようでございます。軽くタバコを
ちよつとまあつけたのであります。ところが、つけたことは事実でありますので、これはまことに申訳ないことであります。で、帰りましてから同房の者に今主任からわしはタバコの火を手につけられて拷問されたというようなことを
言つてお
つたのであります。そこでその当時それを聞いておりました看守巡査もそれを聞いておりまして、いわゆる下の方では主任がこういうことをしたということは知
つてお
つたようでありますが、それが署長の耳まで入るのに相当期間がた
つたのであります。本人は検察庁の調べがいずれあるからして、その際に自分は検事にこのことを自供して、警察官がこういう拷問行為をや
つたということをひとつ報告したいということを同室の者に
言つてお
つたそうであります。早く署長がこういうことを知りましたならば何とか
措置もあ
つたと思うのでありますが、たまたま中間にいる者のきわめて怠慢のためにそれが署長の耳におそく達したのであります。その後検察庁において横塚仙吉が検事に対してそのことを申し立てましたので、検事からただちに署長の方に右の事実の報告があ
つたのであります。それに基きまして、署長も非常にびつくりいたしまして、本庁にもそれをただちに報告し、私の耳にも入
つたのであります。さらに半谷警部補並びに署の
関係者全部を第二方面本部長の手元において厳重に調査をいたしましたところ、半谷警部補が容疑者取調べ中にタバコの火を、別に拷問の
意思というのは毛頭ないのでありますが、軽くこれをつけたということが事実が判明いたしまして、かりに軽
くつけたにいたしましてもそういうことをやることは、司法警察吏員としてま
つたくあるまじき行為でありまして、警察の威信を失墜することもおびただしい、かような
関係から本庁といたしましては当人の半谷警部補以下
関係者全員を処分するということに方針を決定いたしたのであります。その後半谷警部補は八月の、日付は
ちよつと覚えておりませんが、六日と心得ておりますが、まことに本人には気の毒だと思いましたが、よく本人にその趣旨を理解させて、本人をただちに懲戒免職の処分に付したのであります。そのほか署長以下
関係警察官全員に対しまして、それぞれ譴責、訓告その他の処分を実施いたしたのであります。その後さらにこういう事実が発覚いたしたのであります。たまたまその日に、横塚仙吉の両腕のところに軽く蚊に食われたほどの赤くな
つた傷があ
つたわけですが、署の運動場における喫煙の際に、これは、一定の時間留置人に毎日運動をさせることに相な
つておりまして、その運動中に必ずタバコを一本ずつ与えて喫煙を許しておるのでありますが、その喫煙の際に、みずから喫煙したタバコを両手でかわるがわる傷
あとにこれをなすりつけて、そうしてこの傷痕を大きくいたしました。そうしないと、検事の取調べを受けるまでにこの傷が消えてしまうと何にもならぬ。証拠がなくな
つてしまうからというので、みずからタバコを腕につけてお
つた。そういう事実を目撃した他の容疑者がございました。いずれこの半谷警部補の件につきましては、検事局におきまして、本人について取調べをして、さらに起訴せられることにな
つたのであります。そうして近く公判においてこのことがいろいろ論議されるものと
考えておりまするが、この容疑者がまた非常に悪質の男でありまして、さような工作までや
つてお
つた事実が判明いたしました。これについては、半谷警部補側の弁護人から、半谷警部補に対する証人として召喚を申請いたしまして、法廷においてこの事実を十分に陳述させることにな
つております。しかしながら、いずれにいたしましても、司法警察吏員が容疑者の身体に対して、かりにいささかであろうとも外傷を与えるような行為をや
つたことは、まことに警察官として不適当な行為であり、また司法警察吏員として不適当な行為でございまするので、私といたしましては、
人権擁護の立場から、かかる
措置をとることが当然正しいと
考えまして、本人を一応懲戒免職にいたしまして、その他の
関係者もそれぞれ処分いたしたような次第でございます。こうしたことを惹起いたしましたことは、一般警察官の威信を失墜することであり、まことに遺憾にたえない次第でありまして、また私といたしましても、まことに申訳ない次第でございます。
以上簡単でございまするが、事実の概要だけについて一応御報告を申し上げた次第であります。