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佐竹(晴)
委員 ポツダム宣言が宣言であることについては、これは間違いありません。しかしこちらが受諾をしましたならば、相互の間にその受諾
関係において條約同様の効力を生ずることも、これは疑いありません。両者を拘束するものであるか拘束しないものであるかということについて、この席で論議を盡した。しかして
政府も両者を拘束すると言
つておる。向うさんも
義務がある、こちらも
義務がある、だから
総理大臣は忠実にその
義務を履行した。よ
つて向うさんも、
日本が民主化されたから
講和を結ばなければならぬとおつしやつた。問題の修損はこの「宣言の
二つです。一部か
つてにいいところのみをと
つて他を捨てるわけには参りません。不利益なところも受入れなければなりません。してみれば、ただいまのごとく力を加えて戰争の結果
とつたものは、たとい
講和條約の結果
とつたものでも、これを返せとおつしやる。それなのに今度向うさんがわれわれに力を加えてと
つて行こうとする。これが
国際正義の観念に照して許されるかというのであります。これに対し今度は條約できめるからかまわない、
日本が受諾したんじやないかというかもしれない。それならば前の台湾だ
つて、樺太だ
つて、ちやんと両者の間に対等の
関係において承諾の上にものをきめて取引をしたのである。われわれのやつたことはいけない、向うさんなら何をや
つてもいいという、そういつた理念は、この
委員会においては通りません。しかし私は論議を避けましてさらに進めて参ります。
総理大臣は本
会議の
演説において、
トルーマン大統領は歓迎の辞で、この
平和條約は過去を振り返るものではなく、将来を望むものであると述べたと言い、また
ダレス代表は復讐の平和ではなく、正義の平和であると述べた旨を明らかにされました。他面ダレス氏が、今回の
講和は和解と信頼の
講和であるとおつしやつたことは周知の事実であります。ところが、ここにまことに遺憾に
考えまもことは、ただいま申し上げました通り、今回の條約の基礎とな
つておりますポツダム宣言八項には、カイロ宣言が履行せらるべくとあります。カイロ宣言は、申すまでもなく戦争終末期における深刻なる敵対的うず巻の中に、
日本に
武力を示して無條件降伏を求めたそれであります。カイロ宣言は
日本に対する憎悪感を極度に現わしまして、
日本を仮借なく制圧出しなければならぬということを宣言したものでございます。この原則をも
つて講和の
内容とするということは、過去を振り返るものであり、また復讐の平和とも解せられるおそれがあります。和解と併願の
講和ということに曇りを覚えざるを得ないのであります。ことにカイロ宣言には、すでに述べた通り、台湾、澎湖島のごとき、
日本国が中国人より窃取したる一切の
地域を中華民国が回復するにありとい
つておる。また
日本国は、暴力及び強欲によ
つて日本国が略取いたしました
地域から駆逐せらるべしとああります。
日本を窃盗の強盗のとい
つておられますが、しかし台湾は一八九五年下関條約によ
つて、また樺太は一九〇四年ポーツマス條約で、しかもこのときは
米国の大統領のルーズベルトの仲裁で割譲を受けたのであ
つて、もし
独立国家間の任意の條約でとりきめたものまで、これを無視するということに
なつたならば、今日
国際法上尊重されているところの條約というものは、一片のほごとなりまして、
世界秩序は保たれません。のみならず、その條約によ
つて合法的に譲り受けたものまでも、強盗だの窃取だのということに
なつたならば、今日の
世界の大国で、強窃盗でない国がはたしていくらあるでありまし
ようか。ある大国のごときは、百年間に百回の戦争をや
つて、
領土が百倍に
なつたというておる。その国の人々が、この宣言を基調とする條約を結んで、和解と信頼の條約であるとい
つても、それは筋が通りません。私は当初、おそらくこういつた
ような宣言とか何とかいつた
ようなものは一切抜きにし、ほんとうに今度は一切の過去のそういつたものにこだわらず、新しい條約が結ばれたものと
考えておりました。それなら、自由に
総理がどうきめまし
ようとも、
世界の客観
情勢がこうだというならば、われわれも納得いたします。ところが本
会議においても、あるいは当席においても、ポツダム宣言八項によ
つてきめた、こうだと打出されておりますので、しからば八項に何と書いてあるか、カイロ宣言は履行せらるべくと書いてある。カイロ宣言には何と書いてあるか、
日本を強窃盗呼ばわりをしておるということにな
つてまいります。私は
国民感情を刺戦する
ような、こういつたことをそのままにしておいて、ほんとうに
日米立ち上
つて共同の
防衛をし
ようというのでは、遺憾な点が出て来るのではないかということを憂えます。こういう点については、少くとも誤解を解き、
日本国家及び
国民の面目を失墜しない
ような適当な
方法が講ぜらるべきものであると
考えます。
講和会議の途中において、
総理はいかなる態度に出られたでありまし
ようか。また将来において何かこれを適当に処理するお
考えがございまし
ようか。たとえば別途、あるいはこの
講和條約発効の日において、なるほどポツダム宣言八項に書いてあるところのカイロ宣言の中には、こういう文句をうた
つておるけれ
ども、今日においては決してそういつた
ようなことは
考えていない、あるいは條約は尊重すべきもので窃盗だの強盗だのということを引用する
意味ではないということをうた
つて、こういつた感情を刺激しない適当な
方法を講じて、
友好善隣の事実を示さぬ限り、ポツダム宣言八項だ、カイロ宣言だとい
つてわれわれに押しかぶせて来るのでは、
国民は承服することができないと思います。この点に対しまして、
総理大臣といたしましては適当な方策をお持ちでございまし
ようか、承りたいと存じます。