○吉田(安)
委員 今回のこの平和
条約並びに安保條約が審議されるにあたりまして、私ははからずも六年前の
憲法改正の当時がまざまざと目に浮ぶのであります。当時あの旧
憲法を改正いたしますときに、特に天皇の地位に関する條章を論議されるときには、私はできるならばあの
憲法について行
つてしまいたいというほどの感じがいたしたのであります。しかるにその
憲法改正後六年間、苦難の道を歩き続けて参りますと、今度またこの
憲法に劣らない
国家百年の運命を決するほどの大きな二條約案が審議されるのでありまして、ただいま私かようなことを申し上げることは余談に失するかもわかりませんが、吉田総理が全権として
アメリカに出発される際に、見送りこそいたしませんでしたが、私は心から老総理の御健康を祈ると同時に、その活躍と御成功を祈
つてお
つた次第であります。おかしな話でありますが、たまたま東京で某映画館に行きまして、あのサンフランシスコの世紀的なる会場の一端を見ることができたのであります。米英
両国初め四十有余箇国の戦勝列国の中に、ひとり敗戦国たる
日本の全権の方々がその片すみに着席されまして、連日にわたる各国代表の
演説の後に初めて許されて吉田総理がその議席からやおら立ち上
つて、演壇に原稿を持
つて進まれたるときの光景、そして開口一番されましたときの私のせつなの感じであります。今まで六年の間、言いたいことも言うことを禁ぜられたようなかつこうで黙々として歩き続けた
日本が、今初めてあの会場で発言を許されたその瞬間の光景、私はそこに吉田総理を通して
日本の姿を感じたのであります。
日本のほんとうの縮図を見たような感じがまざまざとしまして、思わず目がしらの熱くなることを禁じ得なか
つたのであります。これはお笑いになるかもしれませんが、瞬間における私のほんとうの偽らざる事実であり、何らの誇張もないことを今申し上げておきます。しかるにその吉田総理の御
演説は、私はその後新聞で見まして、今また渡されたる書類でも見ますと、いま少しく積極的な御
意見の発表ができなか
つたか。なるほど総理といたしましては、
国際上いろいろの
関係がありますから、おつしやることに気がねもありましたでしようけれども、八千万国民は私と同様に、いま少し
日本の覚悟なり、あるいは理想なりを高揚することはできなか
つたかと存ずるのであります。しかしながらこれもいたし方ないのでありますが、そしてお帰りにな
つて召集に
なつたのがこの批准国会でありますから、この批准国会に対しまして、議員各位がこれに対してあらゆる方面から、いろいろ重複することがあ
つても、なおかつお尋ねいたしたいということは、これは当然のことであると私
考えます。しかしながらあまり重複したことをお尋ねいたしておりますと、先刻
西村局長からおこごとがあ
つたように、また御迷惑であろうとも思いますから、簡単率直に私は一、二点お尋ねいたしたいのであります。安保條約は、申すまでもなく、
日本の運命を気づかわれるほどの重大なる必要に迫られて、今回
締結されんとすることは当然であります。しかるにそれほどの大きな條約でありますにかかわりませず、その
内容を見ますと、渡されたる案文では、紙数にしてわずかに二枚半、これを記述する
條文わずかに五箇條、これだけの簡単なるもの、いわば法三章的なるものであ
つて、その大体のことは、第三條によ
つて行政協定にみなぶちまかしておるのであります。そこに私は尋ねる人の不安も生ずるし、また御答弁なさ
つても、割切れぬ点が数々出て来るのではないかと存じます。しかし前同僚が言われたように、
平和條約にしてもこの安保條約にをも、もともとこれは
国家相互間の
信頼に基いてできておる。
従つて信頼の基礎に立つ以上は、どこまでもこの問題をとらえて心配することはないではないか、こういう御
意見でありまするが、私も一面ま
つたく同感であります。およそ物事は
考えようによ
つては、どんなりつぱな問題でもそこに疑心暗鬼が生ずることはやむを得ません。この安保條約にしましてもこれだけのことでは将来
日本は
アメリカの属国になりはしないかというような心配も出て来るでしよう。あるいは国外にまた
兵力を出動するということは、大戦争に巻き込まれる危険がありはしないかというような、いろいろの心配が出て来るのは当然であります。しかしながらこれはほんとうに
信頼の基礎観念の上に立
つてできておるといたしますならば、私は疑心暗鬼を生ずることはやむを得ぬといたしましても、私絶対にこれを
信頼してもあえてさしつかえないと思うのであります。しかしながら何としても
日本がこの
真空状態を守るについては、
武力なき今の
日本としては、他国の力をまつよりほかに
方法がない。そのためにできたのがこの安保條約でありまして、本年の一、二月ごろから講和條約を折衝なさるかたわら、一方安保條約の必要を感ぜられまして、この條約にも相当御努力なさ
つて今日にな
つて来ましたことは、私
政府に対して感謝せざるを得ないのでありますが、やはり今申し上げましたように、あまりにも法三章的でありますから、そこにいろいろ
質問の点が出て来ると思います。しかし端的にこれを申し上げますならば、今
日本はエア・ポケツトに落ち込んでしま
つておるのだ。これから早く切り抜けるのにはどうすればよろしいかといえば、これは端的に、早く
日本は
軍備を完成すればいいじやないかということに結論はおちつくと思うのであります。
武力なき今日の
日本が、その間の
真空状態が憂慮にたえないから、今さしあたり暫定的に
米国の力にすが
つて日本を守ろうとするのである。この
真空状態を早く切り抜けるということが、
政府初め国民すべてのものの今日ただいまからの
考えでなくちやならないと思う。この出発を忘れてこの法案を幾ら審議いたしましたところで、私はこれは何らの価値はないと思うのであります。今日ただいまからこの暫定的
措置をと
つておるところの
真空状態をどうすれば切り抜け得るかということが、われわれに課せられたる最大の問題であると思うのであります。この点に対する御当局の御
意見を私は伺いたいのであります。