○若林
委員 私は、海外同胞引揚に関する
特別委員会の
関係者といたしまして、その立場から第六條(b)項に関連いたしまして、二、三の
質問をいたしたいと考えるのであります。そもそも
平和條約は戦争の跡始末であり、総決算であるというその性質上、当然終戰以来いまだに解決を見ざる
日本人抑留者の問題、ソ連、中共等によ
つて不等に拉致抑留せられておりまするまま、未解決の三十数万同胞の運命に関する問題が條約中に明確にうたい込まれねばならないことはいうまでもないところでありますが、去る七月十三日発表の第一次條約草案には、本問題は一顧も与えられておらなか
つたのであります。もしそのまま條約が成立し、ポツダム宣言が失効したといたしますならば、いまだにあらゆる困苦と闘いつつ、切なる望郷の思いを数行のたよりに託して肉身相見るの日を一日千秋の思いで待ちこがれておる中共地区の同胞、一切の音信を絶たれて、六度厳寒の異境に身をもだえつつ、故国の妻子を夢見る在ソ同胞、これらの方々の救出は、ポ宣言にかわるべき根拠が喪失する限り、永遠にその手がかりを失うてしまうことになるのであります。かるがゆえに七月下旬、憂悶心痛その極に達しました全国百数十万の留守家族の代表は、
講和條約にこの問題の挿入を望んで東京に参集し、遂にわが身を削
つて天に祈らんと、千鳥ヶ淵において彼の悲壯なる無期限集団所願断食行に入
つたのであります。その間国会並びに
政府は、あげてこの留守家族の悲願を達成せしむべく、百方奔走
努力して参
つたのでありますが、この官民一体、
日本民族をあげての熱願は、遂に條約本文の
修正挿入とな
つて実現し、いわゆる和解と信頼の講和たることが立証されたことは、わが
国民のひとしく
喜びとするところであります。この第六條(b)項の挿入は、一、留守家族の悲願、一、
日本民族の
熱望が、正義を愛し、自由を守らんとする全人類の悲願
熱望であることを、天下に明らかに表明したことになるのであります。八千万
国民が條約
締結を機にいたしましてやや愁眉を開いておるとき、
引揚げ問題の挿入してない條約案文をながめたときの留守家族の心境は、あたかも死の宣告を与えられたごとく悲歎の淵に陷れられたのでございましたが、今日格別の少数の者を除いては、心を
一つにして八千万
国民が
講和條約を
喜び迎えることができるのであります。私はここに、本問題にかねがね深い関心と絶大なる盡力を寄せられて、今回の條約
修正に
努力せられました
米英両国政府を初めとする連合各国、とりわけダレス大使に対しまして、衷心感謝の念を禁じ得ないものでありますが、同時に桑港
会議の席上、本問題に関しきわめて好意ある発言をせられましたセイロンその他諸国に対し、あわせてここに深甚の謝意を表するものでございます。しかし本問題は條約を
締結せざるソ連、中共等に抑留せられております君
たちの
引揚げについてきわめてむずかしい問題となることを暗示するのではないかと思うのでありまして、それだけに留守家族を初め
関係者といたしましては、今回の第六條(b)項が、この問題解決について持つ
意味なり、またこれを調印して来られました
政府の
意向なりを伺い、その疑いを明らかにしていただかなければならないと考える次第でありまして、私はこういう立場から、重複を避
けつつ二、三輪伺いをいたしてみたいと考えるのであります。
平和條約
締結によりましてポツダム宣言が失効することは、
国際法上常識であると存ずるのでありますが、この
平和條約
締結に参加せざりしソ連は、なおポツダム宣言の拘束を受けるものと存ずるのでありますが、いずれ拘束を受けてお
つたところで、現在六年間、何の義務をも果さないところを見ますと、実に慨嘆にたえないのでございますけれ
ども、法律的の解釈といたしまして、ソ連はいまなおポツダム宣言の拘束を受ける立場にあるのであるかないのであるか、これをもう一度はつきり御説明を願いたいと存じます。