○黒田
委員 この点につきましては、きよう私はこれ以上
総理に御
質問いたしません。私は
総理とは見解が違いますけれ
ども、これはまた他の機会に條約
局長にでも少し詳しく聞いてみたいと思ひます。そこで私は今申しましたように、一種の軍事同盟でありながら本来的の安全保障條約でない。
わが国に権利がなく、相手ばかり権利を持
つておる、こう申したのでありますが、私はこの見解から議論を進めるのでありますから、そのようにお
考え願いたいと思う。
そこでこの安全保障條約の内容はこのようなものである、その本質はこうだというふうに
考えてまゐりますと、
一体その性格は何になるか、この疑問がなお私
どもの頭に残る。政治家の良心はこれを探求せしめねばやまないのである。そにで私はこれをや
つてみた。昨日
芦田氏は
総理に対する
質問の際に、日米安全保障條約のような内容を持つ條約の例を知らない、こう言われた。
芦田博士の博学をも
つてしてなおその例がないと言われた。それは安全保障條約という名前を持
つておる條約の中に先例を見出そうといたしますから、そういう條約の中には今回の日米安全保障條約のような屈従的内容を持
つたものはない、こう言われる
意味であろうと私は
考えるのであります。私
どもはこの点は
芦田氏と同意見である。そで方面をかえて先例を探してみなければならぬというとろに私は来た。どういう先例を探求すべきか、私は安全保障という名称にとらわれないで、その実質から見て、この條約が非常に従属的性格を持
つておるその面に目をつけて、こういう見地から私は過去の條約について先例を調べてみた。そうすると私は先例がないのじやなくてあると思う、確かにある。実にあるのであります。共産党の諸君は日満議定書の例をよく引用されます。私から見れば、なるほどそれもある
程度の類似性を持
つておりますが、もつと多くぴ
つたりした類似性をもつものが、私の目から見ると、あると思う。もつと適切な例を私は指摘することができると思う。私は過去の條約集を、根気を出して年代的にさかのぼ
つて、先にくとページを繰展げて調べて参りましたところ、実に今から約五十年前、明治三十七年の日韓保護條約の例に私は到達したのであります。私はこの條約に目を通したときに、実にこれだと思
つた。実によく似ておる。今ごろにな
つて保護国というと諸君はおかしいと思われるだろう。国際
関係におきましてそういうものは次第になくなりつつあります。今はもうほとんどないとい
つてもよろしいでしよう。ところがこの日韓保護條約の例に、この日米安全保障條約の例が実によく似ておる。この日韓保護條約は、名前のごとく、韓国が
日本の保護国と
なつたときの條約であります。それは実に約五十年近く前のことである。幾昔も前のことであります。そして、それがやがてその次には日韓保護協約となりまして、それからその次には明治四十三年にいよいよ韓国併合條約、こういうところに行き着いてしま
つた。もとより私は
日本がそういうところに落ちるとは思いません。けれ
ども韓国がこのようなところに落ちて行く、その過程に、
日本に保護を求めるという條約が、韓国と
日本との間にできましたその條約に今日の條約は実によく似ておると思う。そして朝鮮は、今私が申しましたような三つの條約の成立の過程を経て、結局
日本の
資本主義侵略の手中に落ち、遂に
日本の植民地とな
つてしま
つたのであります。そうしてあの長い苦難の経験を経て、太平洋戦争の後に今や独立に向
つて進んでいる、その途中でまた今回私
どもが見ておるごとき苦難の道をたどりつつあるのであります。しかしとにかく朝鮮の向う方向は、独立への方向であるということだけは私
ども大づかみに認めることができる。しかるに
わが国は、これからか
つての韓国のごとき
状態に陥れられるような條約がここでできるのではないか、何という情ないことであるかと私は思う。今私はここで両條約の内容を諸君の前で対比してみます。この條約はあまりにも古い昔の條約でありますから、最近の條約集を買
つてみてもの
つておりません。私も一生懸命古本屋を歩いて、本郷の古本屋でやつと古い條約集を見つけてそれを見たところが、この條約があ
つた。そこで私はいかに両條約の内容が、共々に、みじめなものであるかということを明らかにいたしまして、
吉田総理の御意見を承りたいと思うのです。日米安全保障條約というと、私
どもはむしろ
日本の利益になるような條約であると思
つております、けれ
ども、日韓保護條約のような保護條約と言われてみれば、これは
考えてみなければならぬということになるのではなかろうかと私は思う。そこで私は、日韓保護條約はごく簡単な條約でありますから、参考のために日韓保護條約と日米安全保障條約の内容を比較してみたいと思います。日韓保護條約はわずかに六箇條にすぎません。それから日米安全保障條約は前文のほかに五箇條であります。しかしこのような條索の数がよく似ておるというようなことは、これは本質的な問題ではありませんので、ただこれだけのことを申し上げて、さて内容上はどうかということを私は申し上げてみたい。
日韓保護條約の第三條に「大
日本帝国
政府ハ、大韓帝国ノ独立及領土保全ヲ確実二保護スル事。」こういうな
條文がありますが、日米安全保障條約にもやはり「
日本国は、その防衛のための暫定措置として、
日本国に対する武力攻撃を阻止するため
日本国内及びその附近にアメリカ合衆国がその軍隊を維持することを希望する。」アメリカは「この希望をかなえてやる、」こういうことにな
つておりまして、ちようどこの第三條のような
関係が示されておるのであります。
それから日韓保護條約の第四條に「第三国ノ侵害二依リ、若クハ内乱ノ為、大韓帝国ノ皇室ノ安寧或ハ領土ノ保全二危険アル場合ハ大
日本帝国
政府ハ速カニ臨機必要ノ措置ヲ取ルヘシ。而シテ大韓帝国
政府ハ右大
日本帝国
政府ノ行動ヲ容易ナラシムル為、軍略上必要ノ地点ヲ臨機収用スル事ヲ得ル事、」この点が日米安全保障條約に非常によく似ておるのであります。
わが国とアメリカとの場合もやはり内乱問題が取扱われている。「一又は二以上の外部の国による教唆又は干渉によ
つて引き起された
日本国における大
規模の内乱及び騒じようを鎮圧するため
日本国政府の明示の要請に応じて与えられる援助を含めて、」云々という言葉がありますが、ちようどこの日韓保護條約の第四條にこれと同じことが書いてあります。それから今も申しますように、
日本国政府が必要の場合臨機の措置をとるということと同様なことが、日米安全保障條約の中に現われておるのであります。
それからなおよく似ておるところがある。それは日韓保護條約には、「両国
政府ハ相互ノ
承認ヲ経スシテ後来」―今後のことでありましよう。「後来、本協約ノ趣意二違反スヘキ協約ヲ第三国トノ間二訂立スルコトヲ得サル事」こういうように書いてありますが、これも安全保障條約の第二條の「第一條に掲げる権利が行使される間は、
日本国は、アメリカ合衆国の事前の同意なくして、基地、基地における若しくは基地に関する権利、権力若しくは権能、駐兵若しくは演習の権利又は陸軍、空軍若しくは海軍の通過の権利を第三国に許与しない。」と書いてあります。これも非常によく似ておる。
それからもう一つよく似ておることがある。これで最後であります。ごく短かい。日韓保護條約の第六條にこう書いてある。
「本協約ニ関聯スル未悉ノ細條ハ大
日本帝国代表者ト大韓帝国外務
大臣トノ間二臨機協定スル事。」これは日米安全保障條約の第三條に「アメリカ合衆国の軍隊の
日本国内及びその附近における配備を規律する條件は、両
政府間の行政協定で決定する。」こう書いて以るのとよく似ておるのであります。ほとんど日韓保護條約の全部が、ちようどこの
條文も同じほどの数でありますが、ぴ
つたりと日米安全保障條約に当てはまる、生写しということがありますけれ
ども、私は写せると思う、合せてみれば同じだと言えると思う。私はこういう條約があるということを発翻したのであります。私はこの條約を見て非常に深い感慨に陥れられざるを得なか
つたのであります。年代があまりにかけ離れておりますから、人々は注意しないことでありましよう。けれ
どもその本質を調べてみると、このような類似点があるということは私
どもも無視することができません。このような日韓保護條約があ
つたということは、これは
政府もよく知
つておいでになると思ひますから、こんなことがあるとかないとかいうことを
質問する必要はないと思います。が、
一体講和とは何であるか、
講和とは
日本が独立することであります。その
日本が独立しようという
講和條約の中から日米安全保障條約というものが出て来た。その安全保障條約の内容が実にかくのごときものであるということを見たときに、私
どもが率直に
考えてみて、
国民の一人として、これが独立のための條約であるというように
一体考えられるでありましようか、私には
考えられない。おそらく
吉田総理は、そうお
考えに
なつたからあの
平和條約と安全保障條約に調印して帰られて、そして今、
国会にその
承認を求めておいでになるのであると
考えますが、私がどうしてもこれに賛成する気になれないのは、この條約のかくのごとき本質を知ることができるからであります。どうでありましよう、こういうように
考えて行くと、どうも私は
日本がアメリカの保護国的地位に落される條約になるのじやないか、そう思われるのであります。これは
政府に
質問いたしましても、まさか
政府はそうだとはおつしやらないでありましよう。だから私は
質問はしませんが、私の結論だけは申しておきます。
政府がどう
考えられましようとも、私はそう
考える。こういうように
考える
国民もおるということだけは、
吉田さんも、また自由党の諸君もよくお
考えください、それでよろしい。
質問は致しません。そうして、こういうところに落されて、それで独立だ独立だとい
つておることが、はたして
ほんとうに
日本の独立のためになるかどうかということを、私は心から御反省を願いたいと思う。元来私
ども国家の種類を――今私がここで講義する必要はありませんが、国家の種類を
考えますと、一方において主権国があり、その反面において非主権国あるいは半主権国、不独立国というものがあるのであります。私はこのような條約の、すなわち安全保障條約というけれ
ども、実際上の安全保障條約ではなくて保護條約である條約のもとに
日本人が生きてゆかなければならぬように
なつたときに、
一体日本は主権国であるか、それとも非主権国でないとしましても半主権国、少くともこういうところに落されてゆくのではなかろうかという心配を私は持つのです。この憂慮は私だけが持つのでありますならば幸いでありますけれ
ども、わからないからそう
考えていないだけで、わかれば私と同じような心配を持つ
国民がこれからどんどんとふえて来ると思う。私はそう
考えざるを得ないのです。そこでこのような條約は――これは
質問して答えは得られないと思いますけれ
ども、私から見れば半独立国くらいに
日本がなる條約にすぎないと思うのでありますが、念のために
総理の御見解を聞いておきたいと思う。