○芦田
委員 ただいまの
総理大臣の御意見に対して、不幸にして私は同意を表することができないのであります。
安全保障條約の前文においても、
日本が直接及び間接の侵略に対する防衛のために実力を持つということが
はつきり書いてあるのです。
この場合における自衛力というのは警察予備隊ばかりじやありません。
独立国としてりつぱに他国の侵略に対しても防衛するだけの実力を持つ力だということは、この條文の文面から見て間違いありません。そういう條約を今
審議しておる最中に、外国の猜疑心を招くおそれがあるから
軍備はやらないと言われる。しかし
アメリカの輿論はあげて
日本の
軍備に
賛成です。そればかりではない、
ソ連でさえも
日本に
軍備をこれだけ持てとい
つて案を出しておるじやありませんか。
日本の自衛のためにある程度の武力を持つ必要は、どこの国もみんな認めておる。インドのネールもそう言
つています。濠州
政府だ
つてそう言
つておる。フイリピンだ
つてやはりある程度の自衛力は必要だと認めておる。
中共の話は聞きませんが、
ソ連は少くも
日本の
軍備を明らかに認めておる。そこで
日本は税金がこの上増せないから
軍備は困難だと言われる。なるほど今日の
日本の税は重い。しかしフイリピンだ
つて軍隊は持
つております。李承晩
政府も軍隊を持
つています。
日本の生活水準と
朝鮮の水準と比べてみて、
日本の方がはるかに生活水準が低いというりくつは立ちますまい。それだから先ほ
ども言
つたのです。どうすれば租税負担を加重することなしに、
日本はある程度の
軍備をすることができるか。
アメリカに軍事援助法というものがあ
つて、共産勢力に対抗して
アメリカと提携する国には、武器援助法の形でも
つて武器は貸しておる。世間周知のごとく、来年度の
アメリカの予箕には七十四億九千万ドルという対外援助費がと
つてあ
つて、その大部分は軍事捜助であります。いかに大蔵大臣が
アメリカに行
つて経済援助の金を出してくれ、外資導入をしたいと言
つても
アメリカはなかなか耳をふさいで聞かない。
アメリカ国内の風潮がかわ
つておるのです。経済援助から軍事援助の形に
アメリカは切りかえた。それだからマーシヤル・プランは一九五二年でやめるけれ
ども、そのかわりに軍事援助の予算はうんと出しておる。その傾向はだれにだ
つてわか
つておる。
政府は
アメリカに行
つてたたく戸口を間違えておるのです。軍事援助法の片口をたたけば響きがあ
つたものを、そろそろ戸を締めかかつおる経済援助の戸をたたくから明きし上ません。これはわかり切
つた話だ。ごらんなさい、
アメリカはイギリスにも、フランスにも、ギリシヤも、トルコにも、ベルギーにも、オランダにも、蒋介石
政府にも、みんな軍事援助をや
つておるでしよう。共産主義勢力に拮抗する盟邦として、
日本が蒋介石
政府やトルコより劣
つておるとは思えません。その立場をとる
日本国に対してのみ、どういうわけで
アメリカは軍事援助法による援助を與えないのであるか、そういうことを
吉田全権は
アメリカに行かれたときに、質問をされる
機会があ
つたかどうかわかりませんが、それは結局
自分で
軍備をしないからです。これは非常に遺憾なことだと思う。そうすれば
日本の負担を非常に軽くして
日本の軍を建設することができるのです。その点を一たびも
考えないで、税がこの上とれないから
軍備はできない、経済的実力がないから
軍備はできないという一本やりの
方針では、
国民が納得すまい、私はそう思う。
なおお尋ねしたいことがありますけれ
ども、時間の
関係もありますから、これ以上この席を占めることはいたしません。以上
平和條約並びに
日米安全保障條約に関する諸点について
政府の
所見をただしたのでありますが、不幸にして
政府の
答弁は私
どもを満足させるに至らなか
つた。この際最後に一言
政府に要望しておきたいことがあります。
現内閣は
世界情勢の見通しについていつも甘い観測を下しておる。
アメリカ、ヨーロツパの政治家とは根底から波長が合わないのです。去年の秋ごろ、
政府は
朝鮮の
戦争は三箇月で済むと言われたでしよう。
中共軍は絶対に
朝鮮事変には介入して来ないと
政府が言
つたそのあくる日に、
中共軍が出て来た。そういう見込み違いが次から次に出ておる。しかし今度
吉田総理は
アメリカに渡
つて親しく空気を見て来られたのでありますから、その感覚もよほど是正されたろうと思
つてお
つた。にもかかわらず、いろいろ翼の
論議を通じて意見を聞いてみると、今でもほんとうに
日本の周囲に押し寄せておる危険な状態が十分おなかの中に入
つていないのではないかと思われる。何とい
つたつて、今
日本の周囲はたいへんな暴風雨です。その中に立
つて政府は目先の
行政事務と選挙対策とに忙殺せられていて平和
世界の建設とか、祖国再建の基本的な施策についても、不幸にして理想の片鱗だも示されておりません。前途に対するヴイジヨンに
至つてはただの
一つもない。先のことを聞けば、いつも先のことはわからないと葬られてしまう。それだから口さがないともがらは、今の
日本には
行政があ
つて政治がないなどと言う。なるほど
平和條約案の説明のときにも、條約調印後の報告演説に際しても、
総理大臣の演説は事務的説明に終始してお
つて、この千載一遇の
機会において全
国民を感激させるような片言隻句も聞くことができなか
つた。歴史未曽有の條約
審議を前にして、
国民は
吉田総理大臣の衷心の叫びに耳を傾けようと待望しておるのである。それにもかかわらず、今日までの
政府の説明は、
国民大衆に多くの失望を與えたにすぎなか
つた。すでに
平和條約が調印された今日、
政府は自主独往の見地から、
日本将来のあり方について明確な繰締を内外にお示しになる必要があります。ところが現状はどうです。国内には思想的の分裂、経済の混乱、政治的な空白状態、どこを探しても興国の気魂を見出すことができないのが実情でしよう。この沈滞した空気を打破して民族の自信をとりもどす仕事、これが
吉田総理大臣に課せられた任務です。今回の條約
審議に際しての
政府の
態度を見てわれわれが遺憾に思うことは、確固たる信念の上に立
つて民族の
運命を切り開こうとする情熱に欠けておるということです。
吉田総理の—理想もしありとすれば、その理想を実現せんとする気魂、それを
国民は目撃することを待望しておる。ところが
政府は常に遅疑逡巡している、腰がすわらない。それがために、内は
国民をして適用するところに迷わしめ、外は諸外国の猜疑を拓くような納果となる。いやしくも八千万の民族をして、
独立民族たる自覚に奮い立たせようとするならば、政治指導者が毅然たる
態度を持
つて、
国民の先頭に旗を振る気魂をお示しになる必要があると思う。現在わが国が当面する難局を前にして、私は一層その感を深くする次第であります。(拍手)