○
内山参考人 き
ようは
経済団体連合会としての
意見を申し上げられると、非常によか
つたのでありますけれども、それは
はつきり決議等の形できまつておりませんので、いろいろの
委員会、役員会等で出ております各
方面の
意見を、私
個人の
立場から見た観察として御
紹介を申し上げ、それに多少私自身の私見をつけ加えさしていただくということで、申し上げたいと思います。ただいまこの臨時
国会で問題に
なつております
法人税関係の問題は、
税率の
引上げの問題と
法人税の運用の
合理化に関する問題と、
二つにわかれて出ておると思うのであります。運用の
合理化としましては、退職金引当金の損金認容の問題、それから
合理化等の新
設備に対して
特別償却を
——これはすでに現在認めておるわけでありますが、それをさらに認める範囲を広げるということ、それから
法人税の納期を、金融操作の
関係から三箇月間猶予することができるという、大体三つの問題がある
ようでございます。こういうふうな
法人税の運用の
合理化に関する事柄と、それから
税率を
引上げるということの問題とは、少しく性質が違つておると思いますので、一応わけて
考えてみたいと思うのであります。もちろん
法人の租税
負担という一般論として
考えますと、非常に深く関連しておるのでありまして、運用の
合理化によつて一面
負担が軽減いたしますから、そうすれば
法人税の
税率を
引上げても、その
負担力は出て来るという問題はございますが、しかしその
負担関係は、たとえば退職金の引当金の損金認容にいたしましても、数年間ははつきりそれが
法人税の軽減になりますが、数年たちまして退職金引当金が大体その限度一ぱいまで積み立てられますと、
あとは現実に退職して行く人に対する支拂いと、年々の積立てとがほぼバランスを得て来る
ようになるはずであります。ただ特別に経済界の変動が非常に大きく、人員整理を行うといつた場合には、そこに違いが出て参りますけれども、限度まで積み立てますと、もはや減税的な効果はなくなる、こういうふうな性質のものでございます。すなわち実際に退職金を支拂つたときに、損金として
利益の中から
差引いてもらうか、積み立てたときに
差引いてもらうかという、いわばその間における金利の差だけ
負担が軽くなるというのが、正味のところでございます。そうい
ようないろいろな
関係がございます。それから運用の
合理化ということは、
税率を上げるか下げるかということとは別にしまして、いずれにしても、ある意味では今までの運用が非常に不
合理であ
つたのを、直す意味を持つておるわけでございますから、
税率の
引上げとは別個の問題として当然
考えるべき問題であつて、こういうふうな意味で、運用の
合理化に関する問題は、今度出ております
改正案のほかにも、なお若干要望せられておるところでございまして、これは今後も起つて来る問題で、
法人税率をどうするかということとは、別個に
考えなければならぬ問題であると思います。今度の案に対する見解としましては、運用の
合理化の方は、もちろん
合理化されるのでありますから、その限りにおいて全部
賛成でございますが、ただ
結論的に
賛成します中にも、二、三それに対する
考えをさらに申し上げてみますると、
法人税の徴收延期の問題でございます。これは今度の案によりますと、三箇月間延期を認めますけれども、その間四銭の日歩を徴收するということに
なつておりまして、この問題は、経団連として先般来各
方面から非常に強い要望がございまして、大体の見解をまとめて大蔵省に要望しておつた問題でございまするが、四銭の日歩を徴收されるということでは、せつかくの延納の措置が、非常に効果が少くなるであろうという意味において、日歩四銭というものは、少くももつと低くしていただきたいという気持を持つておるわけであります。でき得ればそれは日歩に触れないで納期をかえる、すなわち分納を認めるという
制度にしていただくことができれば、一番いいのでありますが、これにつきましては
個人所得税との権衡の問題も、若干ある
ようでございまするので、経団連としては、最後的な妥協案として、日歩四銭を二銭
程度に下げてもらいたいということを要望いたしましたが、今回のところでは、大蔵省との話合いでは、大蔵省もそこまではどうも認めがたいということでございまするので、これは将来の問題として、なお検討を続ける必要のある問題だと
考えております。しかしこれも日歩四銭の利子を徴收して納期を延ばすことが、そうしないよりも悪いということでは決してございませんから、決して原案に
反対するわけではないわけであります。それから次に退職引当金の損金認容の問題は、詳しいことは
あとの施行法の問題になると存じまするので、目下検討中でございますが、
一つの問題は、労働協約ではつきりきめたものに限つて認めるという
考え方に、大体現在
なつておる
ようでございますが、その点は労働協約まで行つておらなくても、はつきりした
会社の規定がある場合には、認めてしかるべきものではなかろうか、その方が実際の運用上妥当ではないか、大体それでさしつかえないであろうと
考えておりますけれども、なお大蔵省側では、それにはちよつと疑問があると申しておられまするので、ただいま研究中でございます。そういつた点に多少問題が残されておるということだけを申し上げまして、
合理化関係のことはもちろん全部
賛成でございます。次に
税率の
引上げの問題でございますが、これにつきましては、実は経済界の中での
意見が必ずしも完全に一致しておるとは、申し上げかねるのであります。
所得税との振合いとか、あるいは講和後の財政の見通しという
ようなことから見まして
法人税を
引上げることにいろいろな根拠があると思いますが、それらの根拠を全面的に認めて、この案に全面的に
賛成するという態度を
とつておられる方は、経済界の中にはまつたくないか、あるいはあつてもごく少数であると思います。
従つて税率の
引上げに
賛成か
反対かという点だけで色わけをいたしますならば、ほんとうの
賛成論はごくわずかで、
反対論が大部分である、こういうことが申し上げられると思います。ただその
反対論の中に、また少し色合いの違うところがございまして、この際
考えられる限りでは、絶対に
反対だという態度を
とつておる向きが
相当数ございまするが、また中には、ある
程度まではやむを得ないであろう、
引上げる
程度を低くしてもらいたいという
程度に、
考えておるものもあると思うのであります。ところがその
引上げの
程度その他の問題を、だんだん
考えて参りますると、これは結局時期の問題として今年度の補正予算の問題として、この臨時
国会できめることは妥当でないというふうに
考えるのが、至当であろうと思われる
考え方が
相当多いと思います。全部がそこに統一されておるとまでは言えないかと思いまするけれども、そういう
考え方に根拠がある
ように思うのであります。私自身の気持といたしましては、やはり時期の問題として
考えたいのでありまして、絶対に困るという議論も
相当にございますけれども、しかし来年度の予算として
考えます場合には、特に財源の問題として、どうしてもこれだけの財源が必要であるということであれば、それは当然覚悟しなければならない。これは経済界の
考え方としても、当然そう
考えなければならないことでありまするので、その点がはつきりすれば、承認するというか、
賛成する人が非常に少くないと思うのでありますが、今年度の補正予算の問題としてこれを
考えます場合には、どの
程度引上げたら最も適当であるかという
程度も、非常に判断しにくうございますし、また財源の問題としても、今年度の補正予算におけるその要求はきわめてわずかでございまするので、今年度の補正予算としては、これをとりやめてもさしつかえないのではないかというふうに、
考えられるわけでございます。すなわちこれの
引上げが来年の一月から実施されたといたしましても、今年度の歳入に入つて来ますのは、一月中に決算をする
会社の
負担分だけになるわけでございまするので、大体大蔵省の見積りでも、
法人税の
引上げによる増収が三億円
程度、それから一方における運用の
合理化による軽減の方が一億可
程度を見込んで、二億円
程度の税収を期待しておるというふうに聞いておるのであります。すなわち一月から実施いたしましても、二月以後に決算期の来る
会社の税は明年度の収入になる、こういう
関係になるわけでありますから、財源の問題としては、ほとんど補正予算の上では問題にならないと思うのであります。そうしますとその
負担の問題としては、もつぱら明年度以後の財政の
状況によつて、
考えなければならぬことである。それから
税率を
引上げるもう
一つの大きな理由は、財源の問題はしばらくおいて、税のつり合いの上から見て、すなわち租税体系の問題として、
法人税の
引上げが妥当だという見解がありますことは、先ほど
井藤先生からもお話があつた
通りでございます。しかしこれにつきましては、経済界の方の側から見ますと、若干の異論があるわけでございまして、
法人の税
負担が現在以上に
相当大幅にふえるということは、生産活動に
相当悪い影響を與えるおそれがある。特に現在の
日本の各種事業
会社の経理の実情から見ますと、三五%の
法人税でも
相当重い
負担に
なつておつて、そこから税
負担が重いために起ると思われる弊害がいろいろ
考えられる。それをさらに重くするということになりますと、各種の弊害が生ずるということを、よく
考えていただく必要がある。従いまして
所得税の軽減はもちろん経済界としても非常に希望するところでございますが、
所得税の軽減をはかるために
法人税を
引上げて、その穴埋めをするというところまで行くことについては、これもやはり財源の問題とにらみ合せることになるわけで、
所得税の軽減が非常にやりにくいという場合には、そういうことも
考えなければならぬことになるわけでございまし
ようが、今度の原案
程度に
所得税の軽減が可能であるならば、そういう必要がないのではないかというのが、大体の
結論である
ようであります。それでは
法人税を
引上げることに対して、どういう理由で
反対をとなえておるかということでありますが、これにつきましてち
ようど昨日、
日本貿易会から
——これは貿易
関係の
会社の
立場から出した
結論でございますが、
法人税率の
引上げに対する
反対の要望書が出ておりますので、それをちよつと私御
紹介申し上げてみたいと思います。あまり長くございませんから、理由のところだけを朗読いたしますが、第一は、
企業收益が必ずしも安定しておらないということをあげております。
今回の
法人税引上問題が取沙汰され始めた動機としては、昨年の朝鮮動乱勃発以来、輸出の伸長及び特需の増大によつて、経済活動が活溌化し、
企業收益が全般的に好転したことが
考えられている。けれども、業種別相異は暫く措くとして、果して総体として、わが国の各
企業が実質的に高い收益をあげているか否かに就いては、多くの問題がある。
結論的に言つて、現在のわが国の
企業の收益や
配当は、実動総資本と比較すると、決して高收益でも高率
配当でもなく、むしろ正常化しつつあると断じてよいであろう。換言すれば、過少資本による名目上の高收益であり、償却を犠牲にした高收益である。
企業活動の積極化のためには、むしろこれ母上の収益を常に維持せしめることが必要である。
従つて、わが国の
企業収益の水準を実質的に高いものとみなして、これを増税の対象とすることは、決して適正な措置とは言い得ないであろう。勿論昨今の納税成績よりみて、
法人企業にかなりの担税力があることはわれわれも否定しない。けれども景気の偏在、稼動の破行性が是正されず、まだ資産の再評価どころか、資本の食潰しをしている
企業さえ皆無ではない現段階においては、
法人税の引上は時期尚早と言わなければならない。然しながら、われわれが
企業採算の最近における好転を増税源とする政府の見解に対して最も強く指摘したいことは、
企業収益の
現状維持が果していつまで可能であるかということである。換言すれば、経営の安定性の問題である。複雑な国際政情の起伏によつて、各国の経済が急変を余儀なくされることの多い最近の緊迫した世界
情勢を引合いに出すまでもなく、底が浅く芯の弱いわが国経済における
企業は、
基礎條件の変化による影響を直ちに収益の面に受けざるを得ないのである。このことは、現在の電力不足問題が各
企業の採算面に與えつつある深刻な波紋が、最もよく語つているであろう。
第二に、
企業の資本蓄積がこれによつて阻害されることの危険をあげております。
周知の
通り、
法人税はいわゆる
シヤウプ税制改革によつて、抜本的に
合理化と軽減がはかられ、比較的にすつきりした
税制と
なつたために、税務行政が円滑化され、かてて加えて、右の
ような
企業收益の増勢が伴つたために、自然増收が予想外に現われ、本年の八月には既に本年度予算に計上した
法人税徴収予定額(六百三十六億四千万円)を達成したのである。ここにおいて、政府は、
法人税の自然増收に満足しないで、更に
税率を
引上げて税收をはかろうとしている
ようである。けれども、この
ような
考え方は、税源を培養する素地たる資本蓄積を徒らに阻害する結果となり、講和後の経済復興のためにまことに遺憾なことであり、正しく時代に逆行する措置であると言つても過言ではあるまい。
そもそも、自然増収は税の軽減財源に充当すべきものであつて、これを見込んで
税率自体を
引上げることは一考を要することである。殊に今回の措置が
所得税の
負担軽減はよいとしても、
法人税を
引上げてまで
所得税を
引下げることが、果して妥当であるか否かについては、疑問なきを得ない。
国家財政の膨張をカバーするものは、実に国民経済の安定と進歩による国民
所得の増大であることは多言を要しない。かかる見地からも、
企業基盤の強化方策たる資本蓄積を阻害する
ような今回の措置は、愼重に再検討されなければならないと
考える。
資本蓄積は、今更言うまでもなく、わが国経済界における刻下の急務である。敗
戰後の
日本経済の諸々の病根は、実にすべて資本蓄積の貧困に帰せられるとみてよい。電源開発といい、輸送力の充実といい、或は産業施設の近代化といい、これを可能にするのは、けだし資本の蓄積以外にはないのである。それには先ず資本蓄積を促進し、且つ可能にする
ような環境が整序されなければならない。このことが業界全般に強く要請されているときに、
法人税の
引上げを敢えて行うことは、重税に対する反動としての、好ましくない浪費性向の彌漫をますます助長する結果を生ぜしめ、最近唱導されつつある新生活運動を画餅に帰せしめるおそれがあるばかりでなく、
日本経済の脆弱性をいよいよ慢性化せしめることとなるのである。
殊に貿易商社の場合は、全般的に自己資本と借入資本の
割合が、戰前と
戰後において大きく相異し、自己資本六割に対して借入資本四割という戰前の一般的状態が、現在においては種々の
事情があるから計数のみでは判断し得ないとはいえ、自己資本が五分ないし一割で、残余を借入資本でまかなうという不健全な様相が一般化しつつあるのである。
従つて、貿易商社自体のためのみでなく、対外信用保持の上からも、今日ほど貿易商社の資本蓄積がはげしく要請されることはあるまい。かかる意味で、われわれはこれに反する
ような
法人税引上には断乎として
反対せざるを得ないものである。
貿易会の
意見には、そのほか地方税による調整が困難であるということがあげられております。基本的な
考え方といたしまして、現在の事業
会社の収益というものが、三、三年前に比べて、傾向としては非常にふえておることは十分認めるけれども、それは二、三年前がめちやくちやに低か
つたのであり、そして現在の状態を
とつて見ても、決してそう高いとは言えないのである。そして現在の経済
情勢では、まだ必ずしも安定しておらない要素も多多ありまするので、
負担カのある
会社もおいおい出て来つつあるであろううけれども、そうでない、まだ非常に困窮している
会社も
相当あるのであるから、一律に
税率の
引上げということは妥当でないというのが、大体の
考え方であり、特に現在の
日本の
法人というものは、借入金に依存しておることが非常に多いために、これをもう少し是正して行くことがせひ必要であり、正そのために資産再評価による再評価積立金の資本繰入れということも、行われつつありまするけれども、それ自体はまだ借入金を返す力には全然ならないわけでございまするから、もうしばらくの間、少くも
相当資本の蓄積ができる
ような状態に置いていただいて、そうしてこの資本の構成を適当に直し、收益の
状況というものもはつきりする
ように
なつた上で、
法人税の
税率というものが軽ければ、それを
引上げるということは
考えていいでありまし
ようけれども、現在の状態では非常に無理ではないか。こういつた点に大体
反対論の根拠がある
ように思うのであります。そのほか一般的に税が重いために、浪費的な傾向が生ずるという
ような点も、よく言われておる点でございますが、
現状において時期尚早だという理由の根拠は、大体こういう点にある
ように思われるのであります。しかしこれも結局は相対的な問題になりまするから、
情勢のいかんによつては、ある
程度の税
負担ということは、覚悟しなければなるまいと
考えておる方も、今日としては
相当数あると思うのでありますが、しかしそういう
考え方からしましても、財源の問題としては、今年度の補正予算で
考えることは、おそらく必要のないことである。それから一方、来年度以後の問題となりますると、来年度の歳出予算がきまつた上でなければ、どの
程度引上げる必要があるかということはわからない。それからもう
一つは、租税体系としての
負担の問題でございますが、これについては地方税との
関係が非常に密接なものがございまして、先般来
法人税の
税率の
引上げに関連しまして、地方税の方は
相当軽減するらしいことが、内閣の税の懇談会の
結論としても出ておりまするし、またそれにはある
程度地方財政
委員会が参加して立てた
意見である
ようにも、私ども伺つておるのでありまするが、しかしどうもその後の成行きを見ておりますと、地方税の軽減ということは、今日の
情勢では必ずしも当てにならないことである。そういたしますと、
負担の
程度、どの
程度までは
負担さして適当かということも、また地方税の問題とにらみ合せまして、来年度の中央、地方を通ずる予算の全体の問題として
考えないと、十分の
結論が下しがたいのではないか。特に
法人税率を二割も
引上げるということになりますと、租税体系全般の問題として、もう少し愼重に検討した上で、あるいは二割の
引上げが適当になるかもしれないけれども、しかしもちろん税は、
井藤さんからお話がありました
ように、できるだけ低くしたいのであります。そうしますと、どの
程度にとどめるのが適当かということは、現在それを判断してきめるということは、時期にあらずと言うべきではなかろうか。つまり
結論といたしましては、
税率の
引上げは、本年度の補正予算の問題としては、一応とりやめていただいて、そうして来年度の予算の問題として、通常
国会においてあらためて
考えていただくということ一番適当ではないか、こういうのが大体私が経済界の方々の
意見を聞きながら、私の頭でまとめた
結論でございます。以上で私の公述を終りまして、
あと御質問等がございますれば、お答えいたしたいと思います。