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内田(常)
政府委員 この
連合国財産補償法をつくりますのは、実は技術的にはきわめて容易でありまして、お手本は、先ほ
ども申しましたように、
イタリアの
平和條約七十八條とか、あるいはブルガリア
平和條約の百七十九條、ルーマニアの
平和條約、さらにさかのぼ
つては第一次大戦の際のヴエルサイユ
平和條約、みな相当長い
規定がございます。従いまして、
日本との
平和條約をつくられます場合にも、大体それらを手本にしたと思われる條約の
付属議定書案のようなものを、外務省を通じて大蔵省に示されまして、
従つて初めは條約の
條文中、あるいは
付属議定書としてわれわれ及び
国会の手を要せずに、そのままサンフランシスコで調印されるようなかつこうに
なつたのかもしれませんが、先ほ
ども触れましたように、
日本との
平和條約の場合は相手国が非常にたくさんありますし、また時期を急ぐ
関係上、非常に複雑な
補償に関する
規定を、他の條約と同じように入れますと、必ずしも
連合国その他の足並が一致しないかもしれないというような点もあつたろうと推測されますので、
従つてこの
平和條約の中には、第十
五條でごく簡単に、二行か三行
補償するという
原則だけを設けて、あとの他の條約にあるような部分は、
連合国側と打合せて
日本の
国内法の形をとる。
国内法の形をとる際に、先ほど申し上げました通り、私
どもが一番苦心しました点は、お手本は幾らでもあるのでありますが、
日本の財政
状況並びに
日本が今日置かれております特殊な地位から、できるだけこれを制約して合理的な
補償範囲にとどめるように全体的に苦心したことでございます。そこで三條、四條等はあるいは本来いらないのかもしれませんが、同じ
連合国人だと申しても、サンフランシスコで判こを押した
連合国人が、
日本で
損害を受けた場合にはみな
補償するということはしないで、
連合国人てあ
つても、
日本の敵産
管理法という狭い
法律で
敵国として
告示されたもの、言いかえれば英、米、蘭の三国及びその領土であつた国だけに限定する。あるいはそうでないものであ
つても、敵産
管理法とかあるいは
工業所有権戰時法とか、あるいは憲兵の権力行使とかいうような特殊な、
日本人には適用せられない公権力の発動をして、それらに
身体上あるいは
財産上の迫害をしたものに限るということにしようじやないか。
日本人と同じような
状態のもとにあ
つてそれが
戦争の被害を受けても、これは
日本人並にしてもらいたいというような
趣旨から、この三條は向う側とずいぶん打合せまして、必ずしも所期の
目的を達したとは申せませんけれ
ども、
一般の他の條約に見られるよりも範囲を狭めてございます。第三條の第二項も先ほど触れましたが、
日本にいなかつたというようなもの、これは、たとえばフランス人なんかの場合を考えますと、フランス人は敵産
管理法上
敵国として
告示はいたしておりません。しかし今回の
平和條約では
一般の
連合国として入
つております。
従つて、そのフランス人の
財産を無條件で
補償するということは、考えなければならぬ点じやないかということでありまして、フランス人に
補償するかもしれないけれ
ども、その場合は、フランス人たる
連合国人が、
日本を離れて
日本にある彼の
財産についてまつたく処置のしようがなかつたというような
事項であるとか、あるいはフランス人の中でも、特にお前が横浜の山の上に家を持
つているのは防牒上よろしくないから、その家をとりこわせというような公権力を発動した場合に限るというように、わかりにくい第三條を設けたことが苦心したところであります。第四條も同じでありましてこれは
イタリアの
平和條約を見ましても、あるいはその他の
平和條約におきましても、
戦争の結果
損害を受けた、あるいは敵産
管理等によ
つて損害を受けたということが書いてあるだけでありまして具体的になかなかわかりにくい。
従つて今後の外交措置上どこまで押されて来るかわからないから、できるだけ範囲を限定的に狭めて特掲したいということで努力いたしまして、これも理想的とは申せませんでしたけれ
ども、できるだけわが国の貧弱な財政
状態その他にマツチいたしますように、こういうようなわかりにくい
規定を列記いたした次第でございます。なおまたしまいの方の一年間百億に限るというようなことも、もちろん條約の原案にはございません。これは
小山委員からお尋ねがありましたように、ほかの賠償上の負担その他も競合するであろうから、できるだけこの苦痛を延ばしたいという
趣旨から、百億円以内というような
規定が置かれたのであります。その他の
規定もたくさんあるようでありますけれ
ども、一体
損害とは何かということをきめてかかろうではないか。しかも
損害とは何かということをきめてかか
つて、その
損害の全部を
補償するのではないので、きめられた
損害のうちで
連合国人が利益を受けたものは差引く。差引いた
金額が——
損害額と利益というものは観念上わけるべきだということで、第
五條から十七條まではもつぱら物理的、経済的な
損害を算出するこまかい
規定を置きまして、そうして十四條以下におきましては
補償金額という見出しを特につけまして、
損害額のうちで、ある部分が
補償されるというように理詰めでわけて
補償して行きまして、
従つて外国の
講和條約は款とか項とかにわかれて非常に長いものでありますけれ
ども、とにかくそれより若干長めなこういう
法律案に
なつたわけであります。