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永田証人 天狗橋が落下いたしましたのは、
昭和二十五年十一月十一日午前十時ごろであります。それがその翌日
石川県の
地方新聞である北国新聞などに掲載されまして、当時の
金沢地方検察庁検事正名越亮一がこれを見まして、これは一応
現地に
行つて実況検分の必要がある、こういうことで最初私に行けないかというようなお尋ねがあ
つたのでありますが、当時私は他の
事件で非常に忙しくて行けなか
つたのであります。そしてほかの検事も
事件の関係でさしつかえがあ
つたために、検事正みずから庶務課長を帯同して
現地に行き、実況を検分されたのであります。ところが橋が上流側が全
部下に落ちてぶら下
つておるのであります。そのぶら下
つておる橋の縦げた及び上流側の下弦材が一部のこぎりで切断されておる
箇所があ
つたのであります。それでどうもこれはおかしい、落下の
原因は、その前にその橋が大分腐
つておりまして、補修の必要があるというので、
石川県で百六十三万円かと思いましたが、
予算をもら
つて、そして株式会社宮竹組に百五十万円で
補修工事をやらせてお
つたのでありますが、その
補修工事中あやま
つて橋が落下したということであ
つたのであります。しかし検事正は、橋を補修するのに下弦材を切
つたり縦げたを切るというのはおかしい、これは捜査の必要が十分ある、こう見られたということであります。この橋は
石川県
石川郡鶴来町と
石川県能美郡山上村の間を流れている手取川に架設してある橋であります。それで地元の鶴来町警察署においては、この橋が落下したときから、業務上過失致死傷害の容疑をも
つて捜査をし、ちようど検事正が行かれたときも実況を検分してお
つたのであります。検事正はよくいろいろ実況検分のことなどを注意して帰られました。帰るとすぐ私をこの
事件の主任検事に指名されたのであります。一方国家
地方警察におきましても、やはりこの橋については管轄権がありました関係上、鶴来町警察署と一緒にな
つて捜査を続けてお
つた。そしてまず鶴来町警察署におきましては、同月十六日、その橋の
工事の現場主任でありまして、株式会社宮竹組の取締役であ
つた小村惇を業務上過失致死傷罪で逮捕しました。そうして翌十七日、
金沢地方検察庁に同じ罪名で送致して来たのであります。また国家
地方警察
石川県本部におきましては、同月の十七日に
石川県
金沢土木出張所の雇いだと思いますが、今西三郎を往来妨害致死傷の容疑のもとに逮捕いたしました。これは翌十八日検察庁に送致して来ました。一方私は同月十七日に、裁判官の令状をもらいまして
天狗橋の検証におもむいたのであります。
検証の概略を申し上げますと、大体橋はつり橋にな
つておりまして三径間にな
つております、その三径間が全部上流側が落ちておりました。つり線は橋のたもとの方が一部そのままにな
つておるのがありましたが、
あとはほとんど上流側が落ちております。下流側は異常がないのであります。そして先ほ
ども申し上げましたように、検事正が見られた橋の、鶴来町側からい
つて第一径間の四つ目の横げたのあたりの上流側の下絃材と、それから縦げたのうち三本ばかり切
つてありました。そういうところから、これはどうも故意にや
つたような疑いがあるというので捜査いたしました結果、十一月の十八日に検証して、その日に株式会社宮竹組の専務取締役金山岩松、それから
石川県
金沢土木出張所の雇い山森郁夫、宮川務、松野二朗、この四名を逮捕したのであります。罪名は往来妨害致死傷罪、そしてこれらの被疑者について捜査をした結果、さらにこれは上の方からの指示に基くものであるという容疑を認めましたので、翌十九日
金沢土木出張所長嶋倉武男、
石川県
土木部道路課長竹島清一、この両名を逮捕したのであります。そうして捜査をした結果、同年の十二月九日、竹島清一、嶋倉武男、今西三郎、山森郁夫、金山岩村、小村惇、向山初三郎、先ほど言い落しましたが、その後向山初三郎を十一月の二十六日逮捕して調べておりました。そしてただいま申し上げましたような竹島、嶋倉、今西、山森、金山、小村、向山、これだけを往来妨害致死傷罪で起訴したのであります。そして残りの宮川務、松野二朗、この両名は起訴猶予処分に付したのであります。そうしてさらにこの
事件については、
予算獲得の目的をも
つてなしたという疑いが多分にありました。さらにその点につきまして鋭意捜査を遂げました結果、
昭和二十六年二月の七日、竹島清一を詐欺未遂罪でも
つて起訴したのであります。そうしてその後公判を重ねておりまして、第一回から第九回まで全部併合して公判の審議をいたしました。これは最初から被告人側の要望であ
つたのでありますが、それぞれ
立場が違う、竹島被告については県庁側で一番上の地位にある。それから
出張所は業者との中間に立
つておる。それであるから
出張所の嶋倉武男、今西三郎、山森郁夫、この
一つの関係。それからいま
一つは、一番最後の
工事を請負
つてや
つてお
つたところの株式会社宮竹組の関係で、金山岩松、向山初三郎、小村惇、この三名の関係、これらはそれぞれの
立場が違うから公判は分離してや
つてほしいということで
——検事としては分離すると非常に公判が長びくし、同一
証人を何回も調べることになるので、訴訟経済の目的上困るとい
つて反対したのでありますが、裁判所はこれを分離いたしました。この三つの関係で
証人調べを行
つたのであります。そうして竹島関係では、第一回と第二回で終りました。それから
出張所の関係では五回まで行きました。それから業者の関係、宮竹組の方の関係ではこれも第五回まで
行つておるようであります。ところが最初予定しておりましたこの
事件の関係者は、全部警察の調書、検事の調書、こうしたものには同意しないような意向であ
つたのが、大部分同意されまして、今までの警察の調書、検事の調書を証拠として提出することになりました。そうなりますと、これを分離したままでありますとそれぞれ謄本をつくらなければならぬ。それが非常に大部になりますので、検事の方からこの点の併合審理を求めまして、第十回からずつと公判を開きまして、そうして現在十五回まで
行つております。それでほとんどこの警察並びに検事の調書は同意のあ
つた部分は全部提出したわけであります。それで現在は、検事の
申請した証拠のうちで、
石川県
土木部長田中精一の調書は、業者の方の関係と
出張所側の関係では同意せられたが、竹島被告がこれに同意しない。これは
証人申請をして来月の二日だと思いましたが、
証人として公判廷において尋問することにな
つております。それからその間に検事の方から
申請いたしまして、裁判所に
天狗橋の検証を依頼し、なおその検証現場において
工事に携わ
つてお
つた人たちの重要な者を
証人として、全部現場で種々説明を求めたのであります。検事の立証の段階が大体次回くらいで一応終
つて、それから
あとは被告人側、いわゆる
弁護人の方の
申請の
証人尋問の段階に入る、かような経過にな
つております。