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中川俊思君 はなはだ僭越でございますが、
ちようど私が議運に席を占めております
関係上、ほかの諸君は郷里に帰られたりなんかしておる方もありますので、私が代表して
ちよつとお礼を申し上げるとともに、いずれ詳細は報告書か何かで出したいと
思つておりますが、概略を申し上げてみたいと思うのであります。
このたびの私ども渡英
議員団につきましては非常な御心配をかけまして、特に旅費の追加まで議運で御配慮いただいたことについては、一同非常に感激いたしたのであります。ロンドンに着きまして、すぐ翌朝在外事務所に参りまして、在外事務所から飛行機会社の方へ連絡をいたしましたところが、十一月二十九日以外に
日本へ行く飛行機はない、こういうことでございましたので、私どもからそういう電報を打
つてお願いするということになると、うまいことをや
つておるのではないかというような疑いを持たれるのも困るからというので、ロンドンの在外事務所長の朝海君にわざわざお願いをしまして、実は朝海君から飛行機会社の方を確認してもら
つて、電報を打
つていただいたような次第であります。それについては議運でいろいろ御配慮をいただいて、さつそく追加の手続をお
とりくださ
つて、厚く御礼を申し上げます。
英国の選挙は、御
承知の
通りアトリーが選挙を突然決意いたしました
理由の第一番は、保守党との差が非常に僅少であるために、政局がきわめて不安定な
状況を続けてお
つたということであります。第二は、石炭、電力の不足対策や、外交問題の解決が非常に重大に
なつたこと、さらに左派の巨頭ベヴアンが、ゴーイング・アワ・ウエイ——わが道を行くという労働党の行き方を書いたというような問題がございまして、御存じの
通り、アトリーは選挙を断行して多数をと
つて、そうして政局を維持したい、こういうことから選挙を決意したのであります。
こまかいことは省きまして、選挙の
状況でございますが、英国の選挙を見てみますと、一体どこで選挙をや
つておるかという感じでございます。ポスター等は、ロンドン市内を歩いてみましても、ほとんど一日に一枚か二枚しか張
つてあるのを見かけません。またメガホンであるとか、拡声機などは全然使
つておりません。街頭演説なんかは、われわれ一行た
つた一回ロンドン郊外で見たくらいでございまして、ほとんどそういう
状況は見られない。しかしながら一たび夜の演説会に行
つてみますと、さすがに選挙風景と申しますか、選挙気分が横溢しておりまして、どこの演説会へ参りましても千人以上の聽衆であ
つて、大きなところは二万人ぐらいの聽衆が入
つておる。しかもその六割、七割は
婦人であ
つたということでございます。選挙の結果はすでに皆さん方新聞で御
承知の
通りでございます。選挙前、保守党が二百九十七おりましたのが三百二十一にふえ、労働党が三百十三おりましたのが二百九十四、自由党が九おりましたのが六に減
つたわけでございます。それまでの一般輿論は、ギヤラツプを初めといたしまして、五十の差がつくだろうというふうに
考えられてお
つたのが、わずか二十七の議席の差に終
つたわけであります。そこでチヤーチルは、これではどうしても政局安定を期する上においてあまりに差が少な過ぎるというので、選挙直後ただちに、来年六月にはまた選挙をやらなければならぬということを声明するとともに、わずか六名の自由党の抱込みにかか
つたのでありますが、御
承知の
通りこれも失敗をしたわけであります。
現在の選挙法は一九四九年に制定しましたので、一九四九年法と称しておりますが、もちろん御
承知のように一人一区制の小選挙区制でございます。有権者の数は、大体一区五万人を限度としておりまして、四万五千から六万ぐらいのところでございます。選挙費用は、制限費用として
規定しておりますのは、都市が四百五十ポンドでございます。すなわち一ポンド千八円でございますから、
日本金にいたしますと、都市は四十五万円、いなかは地域が広いというので、一人の有権者について一・三ペンスかがプラスされまして、結局七十三万円まで使えるということにな
つております。これは最も嚴格に規制されておりまして、各候補者はこれを嚴重に守
つております。もしこの費用を越えたというような違反がありました場合には、
日本のように裁判に対して二年も三年もかかるというようなことでなくして、ただちに当選無効が宣告されることにな
つております。それは各選挙区にリターニング・オフイサーと申しまして簡單に申しますと
日本の選挙管理
委員長と申しますか、一旦
議会から出た者を再び
議会に帰す役目だというので、リターニング・オフイサーと訳しておりますが、このリターニング・オフイサーが当選無効を宣言するのであります。そうして選挙運動につきましては、この制限内におきましては戸別訪問をやろうと、名刺を配ろうと、リーフレツトを配ろうと、演説会をやろうと、ま
つたく自由でございまして、名候補者はこの限られた費用の中で自由な選挙運動をや
つております。投票日の様子を見ましても、投票に来ない者にはただちに自動車をも
つて迎えに行くというようなことも、費用のうちであるならばさしつかえないということにな
つておりまして、各候補者はこれをや
つておるようでございます。投票は一九一八年に記号式を採用して、今日までずつとこれに基いてや
つて来ておるのでありますが、ただ私どもが奇異に感じましたのは、郵便投票の制度が設けられておりまして、軍人であるとか、商船に乗
つておる者とか、在外官吏とか、つまり投票日にどうしてもそこで投票できない者のために、郵便による投票が採用されております。投票時間は午前七時から午後九時までで、なるべく投票を自由に多くさせなければならぬというので、晝間はそれぞれ仕事があるので、午後九時まで投票時間を設けておるようでございます。届出はすべて各選挙区におりますリターニング・オフイサーに届出をすることにな
つております。リターニング・オフイサーは、
法律に
従つて選挙が公正に行われておるかどうかということを、多くの手足を持
つておりまして十分監視をいたしております。供託金は百五十ポンドでございます。
日本金にいたしまして十五万円でございますが、これはどうしてそんなに多いのかと聞きますと、ふざけた候補者をなくすためだとい
つて笑
つておりましたが、とにかく比較的大きな供託金を納付させまして、投票総数の八分の一に達しない場合はこれを没收することにな
つております。同数の場合は、抽籖でリターニソグ・オフイサーがこれをきめる、こういうことにな
つております。有権者は、英国の人口一五千万のうち三千四百九十万でございますが、選挙のできない者は、受刑者、気違い、それから上院
議員は下院の選挙はできないことにな
つております。また英連邦人で、
一定期間居住している者は選挙権がございますが、
一定期間居住していない者は選挙権がないことにな
つております。被選挙権のない者は、牧師と破産者と役人でございますが、但し役人のうち現業者はこの限りでございません。かようにして選挙が行われておるのでございますが、選挙
関係者は必要な秘密を守ることを宣誓をさせられまして、これを犯した場合は百ポンドの罰金の体刑、こういうことにな
つておりまして、罰則はきわめて酷にな
つておりますが、しかし英国ではほとんど選挙違反というものはございません。一九五〇年度に施行せられた選挙でどのくらい違反があ
つたかと聞きますと、オンリー・ワンだとい
つております。それはどういう違反だ
つたかと聞きますと、郵便による投票の場合に、手続を誤
つたのがた
つた一つあ
つたきりだと
言つております。私どもが買收なんかないかと言うと、買收とは何かと言う。英国ではマグナカルタの憲章をつく
つて、国民は自由な権利をみずから宣言して、皇帝にまで誓わせたわけですが、その英国民が
自分の権利を金で売るとか買うとかいうことは、常識上
考えてあり得ない。事実またそういうことがあ
つたとするならば、一般社会から神士としての
待遇を受けられないことにな
つており、同時に政治的生命を失うことにな
つておるのであ
つて、絶対にそういうことはない、こう
言つておりますが、まことに私どもはうらやましく感じたのであります。
演説会の盛況ぶりにつきましては先ほど申し上げましたが、
婦人の政治熱の高いことにはま
つたく驚いたのであります。先ほども
ちよつと触れましたが、どこのミーテイングに行
つてみましても、
婦人の聽衆が六割から七割、しかも英国の演読会の
日本と
ちよつと異な
つておりますところは、候補者なり応援演説者はわずか二十分か三十分しかしやべりません。
あと二時間とか三時間というものは、徹底的に聽衆が質問をする。今お前はこういうことを言
つたけれども、これはこういうふうな違いがありはしないか、この問題は一体どういうふうに
考えておるのかということにつきまして、候補者のわずか二十分か三十分の演説に対して、聽衆の中からいろいろな質問が飛び出す。そうして徹底するまで、納得の行くまで聞いて、そうして
自分の投票をする人をきめる。こういうことをまのあたり見せられたのであります。しかもその間下劣なやじであるとか、あるいはなぐり合いであるとかいうことは、全然見られぬのであります。それから選挙運動中は、ただいまも触れましたように、ほとんどどこで選挙をや
つておるかわからぬような状態でございますが、夜の演説会の盛況ぶりと、開票のときの熱狂ぶりには驚きました。開票の速報はロンドン市内で三箇所や
つておりました。私どもトラフアルガー・スクエアーのデーリー・メール一社の速報台を見に行
つたのでありますが、あのビルデイングの中腹に幻燈で映し出すのであります。二人の旗手が馬に乗
つておりまして、片つ方はチヤーチルが乗
つておる、片つ方はアトリーが乗
つておりまして、労働党が勝ち出しますと、アトリーの乗
つておる馬が
ちよつと頭を出す。逆に保守党が勝ち出しますと、チヤーチルの乗
つておる馬がアトリーの馬を
ちよつと追い越す。こういうことを幻燈で映し出しまして、その都度二十万近く集まりました観衆の歓声が、その広場をゆるがすという
状況でございます。
英国は完全に小選挙区制が実施されておりまして、政党の統制力が強化されておりますから、一つの選挙区から同じ政党の候補者が二人立つということは絶対にございません。
従つて開票の結果も、人の名は一切出さないのであります。レーバーが何票、ユンサヴアテイヴが何票というだけでございまして、レーバーのだれが何票、あるいはユンサヴアテイヴのだけが何票ということは一切出しません。労働党が勝ちますと、アトリーの得意満面の笑い顔を幻燈で映して、その
あとチヤーチルの葉巻をくわえて苦虫をかみつぶしたような顔が出る。保守党が勝ちますと、チヤーチルの得意満面な顔が出て、その
あとアトリーの苦い顔が出る。そうして労働党が勝つと、労働党フアンは喝采で大騒ぎをする。
婦人なんかはダンスを始めるというありさまで、ま
つたくものすごい
状況でございます。しかしその間、私どもは夜の十一時から明け方の四時までこの
状況を見てお
つたのでありますが、ま
つたくなぐり合いという
状況は認められなか
つたのであります。
とにかくこういうような
状況でございまして、英国では小選挙区が非常に完全に実施されておる。そこで、これをすぐ
日本へ持
つて来たらどうかというような説もございますが、私けさも
ちよつと総務会で、総務会長や幹事長からの質問に答えたのでございますけれども、
日本でもし政党の統制力が強化されて、一つの選挙区で自由党なら自由党た
つた一人しか出ないという
状況になり、また費用の制限が完全に英国のように守られるというようなことになりますならば、もちろん小選挙区は理想だと
考えております。しかしながら、現在の
日本がはたしてこれを受入れられるかどうかということについては、多大な疑問なきを得ないことは皆さんと御同様に
考えておるのであります。とにかく完全に小選挙区制が実施をされておりまして、そうして国民は先ほど申しましたようなマグナカルタの憲章をつく
つて、キングにまでこれを誓わせたのであるから、その
自分らの権利を放擲するということは絶対にしない。こういうことが完全な遵法精神とな
つて、
法律が守られておるのでございます。これと比較して、
日本はまことに情ないことだと
考えたのでございます。
詳細はいずれまた文書によ
つてみんなで打合せて御報告申し上げたいと思いますが、概略御報告申し上げまして、お札の言葉にかえます。(拍手)