○専門員(安樂城敏男君) 朗読いたします。
農林行政簡素化に関する申入(案)
行政を簡素化して、一は以て国費の支出を節約し、他は以て行政の能率を向上することの必要なことは論を俟たない。
然るに、今回
政府が企図している
行政機構の簡素化に関して、政令諮問
委員会、或は行政簡素化本部において考慮せられているものとして伝えられるところによれば、
農林行政の簡素化計画は甚だしく当を失し、これを強行するにおいては、
農林行政に重大な欠陥を来たすこととなり、農業生産の確保と農家経済の安定を期するため看過することが許されない。
よ
つて政府の善処を促すため、当農林
委員会の総意を以て別記の
通り申入れする。
昭和二十六年九月二十日
参議院農林
委員会
内閣総理
大臣 吉田 茂殿
行政管理庁
長官 橋本 龍伍殿
大蔵
大臣 池田 勇人殿
農林大臣 根本龍太郎殿
記
農林業の健全な発達を図ることは経済自立の基本要件である。然るに、わが国農林業の現況を見るに、内外諸般の
事情から、情勢甚だ非なるものがあ
つて、今や我が国の農業問題はひとり経済問題たるにとどまらず、社会問題としても重大な危局に直面し、今日においてその対策を確立しなければこれが将来は誠とに憂慮に堪えないものがある。
我が国の農業は極めて零細であ
つて、その性格は他の産業と異な
つて自主性を欠いているから、これが維持発展を図るためには国家行政による保護助長が絶対不可欠である。
従つて農業に関する中央
行政機構は、他のものに比べて規模において大きく、組織において複雑になることは止むを得ないことであり、又当然なことと言わなければならない。
かかる
実情と本質とを弁えることなく、単に行政簡素化というような理念にとらわれて、徒らに機構を変革し又職員の減員を行うことは妥当を欠くも甚だしいものと認められるから、
農林省機構の簡素化に関しては、農村
事情に精通する者の
意見をつぶさに聞き、いやしくも観念的に取扱われることのないよう、十分注意し、特に次の事項について遺憾なからしめること。
(1) 食糧管
理事務及び人員を大体現状とすること。
講和後における
日本経済自立のためには国民食糧の確保が最重要な要件であ
つて、これがためには食糧の国内生産の増強に最大の
努力が払われなければならないことは勿論であるが、更に一方外国食糧の輸入促進並びに国内における食糧の
需給調整及び
価格の適正安定に万善の
措置が講ぜられなければならない。
而して社会及び経済の現状において、今後における食糧の供給を従来の
経過になぞらえることにはそもそも問題があるところであ
つて、主食の
統制をこの際緩和或は廃止うることについては慎重な
検討が加えられなければならない。
(2) 主食の
統制問題こそ、我が国が当面する最重要な問題である。
かかる重要
政策を未解決のまますでに
統制が廃止せられるかのように機構を縮小し人員を削減するがごときは失当も甚だしいものと云わなければならない。
農林統計
調査事業はむしろこれを改善拡張し、これに必要な人員(作物報告農作物
調査を含む)はこれを確保すること。
あらゆる
政策は正確な統計及び
調査の
基礎の上に立てられ実施されねばならない。然るに我国においては従来統計及び
調査が軽視せられ、これが我国国政上の重大な欠陥であつた。
而も特に農業に関しては、その性格からしてこれに関する統計は国の事業として国みずから行うことによ
つて初めて達し得られるところであ
つて、終戦後この事業が漸く軌道に乗ることとなり、その成果が大いに期待せられている今日、これが事業及び機構を縮小又は改変せんとするかのごときは逆転も甚だしい。
今後我が国の農業は、国内農業生産の拡充、海外食糧の適正な輸入、農業経営の改善、農家所得の増進、或いは農産物
価格の支持等の重要
政策樹立のため、正確な農業統計を益々必要とするのであり、更に林業漁業についても全く同様である。
従つて農林漁業統計
調査機構はむしろ一層充実拡大すべきである。
なおこの種事業を地方公共団体に移管せんとする意図もあるようであるが、それは国の統計の正確さを失い而も地方
財政は到底これを受容れることが不可能であるから、これは結局廃止を
意味することになり、かような
措置は絶対に避くべきである。
更に附言を要することは、農林漁業統計
調査の中、農作物
調査は主食
供出の附帯事務のように
考えている向があるが、これは全く誤つた
考えであ
つて、
調査の結果は主食
供出の実施に利用はされているが、農作物
調査は
供出事務とは全く別個のものとして取扱われるべきものである。
(3) 農業改良普及事務及び人員を縮減しないこと。
農業の改良はかか
つて普及指導に待たなければならない。
従つて指導機関はむしろますます拡大すべく
努力を払うことが常道というべきであ
つて、これを縮減するがごときは思いもよらぬことである。
(4) 農産物検査事務及び人員は現状を維持すること。
現行農産物検査は第十回国会において衆議院議員の提案によ
つて成立した農産物検査法に基いて行われているものであ
つて、これが必要性はその際の提案の
理由及び
審議の
経過に尽きている。
而して、本法が本年四月施行せられてから僅かに半歳、これを廃止し或は機構の根本的改革を行わんとするがごときは現行
制度実施の経緯に鑑み妥当を欠くものというべきである。
(5) 肥料及び農薬等の取締事務及び人員は少くも現状を持続すること。肥料及び農薬等の生産及び流通の現状においては、一方においては農業及び農
業者の擁護のため、他方においては公正な
業者を保護するため、現行
制度は絶対に必要である。
(6) 農地の拡張改良に関する国の指導事務及び人員を確保すること。
農地に恵まれない我が国情においては農地の拡張及び改良こそ最喫緊の要務であ
つて、而してこれが効率的実行は全国的な企画
調整と最高水準の技術を以
つて初めて達成し得られるところであるから、これに関する中央
行政機構は確保せられなければならない。
(7) 林野庁は従来
通り農林省に所属せしめること。
現在の林野行政を
農林省から分離して国土省のごときものに併合せんとする計画があるようであるが、これは
農林行政の本質について本末を顛倒した考に基くものであ
つて、かような
措置は絶対に避くべきである。以上。