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羽仁五郎君 それではそれ以上
お答えないと思
つて次の問題に移ります。
さてこのすでに発表されております日本に対する平和
条約というものを仔細に検討して見ますと、その中に我々の国際的な常識から
考えて、これが
講和条約、純粋の
講和条約であるのか、それとも純粋の
講和条約以外のものを含むのではないかというように
考える点がありますので、その点について
政府のお
考えを伺いたいと思うのであります。
講和条約というものは、申すまでもなくその目的は、それ以前に行われた戦争の終結及びその戦争の引起した諸問題の解決ということにあるのであ
つて、決してそれらの問題の解決以前に次の問題を
講和条約で解決すべきものではないというふうに
考えられます。これはよく御
承知のように、この十九世紀初頭以来の国際
会議に対して、私がよく引用するのですが、ここでも許されたいと思いますが、カントが将来の戦争の予想の下に作られる
講和条約というものは、
講和条約という名を以て呼ばれてお
つても、実際は
講和条約とみなすことができないということを、その後の
各国の
政府に警告をしているのですが、事実これは昔の話ばかりじやなく、第一次欧洲大戦以後にも世界がにがい経験をなめ、又今日日本の場合においても若しそういうことがあると、前の問題が片付かないうちに次の問題が生じて来るというふうに憂うべきことがあると思うのであります。然るに今提出されております講和
条約草案、或いはすでに草案という字を最近削られたということもあるそうですが、いずれにせよ草案でしよう、それを拝見しますと、日本が最近の過去において行
なつた戦争の結果を完全に終結していないところがある。それは何であるかと言いますと、日本が降伏した降伏文書に署名したそれぞれの国との間に和解の
関係を生じておりません。これは和解的という言葉が使われますけれ
ども、日本としては当然最近において交戦状態にあつた国々のすべての国々と和解するということは、この
講和条約の目的でなければならない。ところがそれが少くとも事実上において解決されない間にその降伏文書に署名しておる国のいずれかの国を仮想的な相手とみなすところの新らしい或いは対立、或いは戦争、或いは防衛ということを予想した、そういう条項を、御
承知のようにこの第六条A項
但書に含んでおる。そうするとこれはこの
講和条約というものの中に
講和条約でない別個のものを含んでおるというように理解しなければならないと思いますが、この点については
政府はどういうふうにお
考えにな
つておいでになりますか。