○受田新吉君 私は、ただいま上程いたされましたところの引揚
促進に関する
決議案の
提出者を代表いたしまして趣旨弁明をいたしたいと思います。
まず引揚
促進に関する
決議案の主文並びにその理由を申し上げます。
引揚
促進に関する
決議案
海外に残留する
同胞引揚のため、
講和を前にして、
政府は、特に万全の
措置を講ずべきである。
右決議する。
理由
終戰後六年も経て、いま
講和を目前にひかえ未だ海外に残留する
同胞引揚の熱望は切実なものがある。特に
講和後中・ソとの関係を考えた場合、條約草案に引揚事項を挿入するのみで満足することなく、更に
政府は全力を盡してこの引揚を完了する如く
努力すべきである。
私は、この主文並びに理由に若干の補説を試み、趣旨弁明を進めたいと思います。
終戰以来満六年たつた今日、祖国再建の前途には、ようやくほのぼのと光明が見出され、かつ
経済復旧も着々とその歩を進めつつありまするときにいまだなお海外から多数の
同胞が帰還していないという現実は、何たる人生の悲劇でございましようか。ポツダム宣言第九條には、武装を解除いたされましたるところの捕虜はすみやかに祖国に帰され、生産的かつ平和的
産業に従事せしめられると明記せられておるのであります。しかるに、このポ宣言第九條を実行していないところのソ連並びに中共の両国におきまする未帰還者は、先般の外務省の発表によりましても、七万七千という、確実なる情報に基いたところの数字があげられておるのであります。私たちはこの重大なる現実をよく直視いたしまして、(発言する者あり)平和運動が着々として推進されようとする今日、なおかつ異境にありて望郷の念やみがたき
同胞を持
つておるということに思いをいたさなければならないのであります。(
拍手)
皆さん、この
国民的
要望にこたえまして、去る七月十三日、
米国より関係諸国家に発表いたされましたるところの
日本国との平和條約草案を見まするときに、捕虜條項の
規定をどこにも見出すことのできなかつたことは、全国百万に余る留守家族たちをして極度に失望せしめ、輿論またこの問題について重大なる関心を持
つて参
つたのであります。留守家族代表たちは
東京に相寄り、大会を開き、かつ
国会、
政府並びに関係諸国家に訴えまして、ポ宣言が廃止された後、
講和條約が締結された場合において、捕虜條項なき條約によ
つて、われわれの帰らざる
同胞にいかなる
措置をしてくれるのであるかという
悲願に燃え、遂に千鳥ケ淵のあの断食
悲願となり、百五十時間の長きにわた
つて七十歳を越えましたる老人が、帰らざる子供のために、あるいは若き婦人が帰らざる夫を待
つて、切々、あの生命に影響する断食
悲願を続行したのでございました。
ここに
政府は、輿論のおもむくところ、未引揚者の家族の熱願にこたえて最後の
努力を集中してくださいまして、遂に去る八月十五日、平和條約の最終草案には、その第六條第二項において、「
日本国軍隊のその郷里への帰還を取り扱つた千九百四十五年七月二十六日のポツダム宣言第九條の
規定は、まだ完了されていない限り、実行されるものとする。」と明記せられたのであります。(
拍手)私たちは、ここに全国留守家族たちの
悲願にこたえ、輿論にこたえたこの條文が挿入されたことに対して、
米国を中心とする関係諸国家の絶大なる理解に感謝をいたしまするとともに忘れてならないことは、今後における引揚げ
促進は、この條文の挿入とともに一層意義が重加されたことであります。われわれは、この機会において、国連の引揚げに関する
特別委員会がすみやかにその活動を開始せられることを懇望いたし、かつ平和條約締結の後においては、われわれは国際連合の一個の人格として加入を許され、しかして国連によるところの引揚げ
促進が堂々と推進されることを期待し、かつ万国赤十字あるいは宗教的諸団体等を通じて、人道的に、正義の立場からこの重大なる問題の解決に堂々と邁進しなければならないのでご
ざいます。(「その
通り」)皆さん、われわれは、この機会に、
政府がこの問題について以上申し上げましたるごとき諸点に関し、堂々とその所信を断行し、関係諸国家に訴え、あらゆる
努力を傾倒すべきことを要求いたしますとともに、忘れてならないことは、この問題の解決は人道的であり、かつ正義の立場に立つものでありまして、現在のごとく、わが祖国が今後いばらの道を進もうとするときに、たんたんたる平野ではなくして、荒波もみ洗うところの大洋を進もうとするときに、温室に咲くヒヤシンスのごとくやさしい
生活でなく、海岸にそばだつ岩頭の松のごとく洗練されたる
生活をこの目前に控えて平和的、文化的国家を再建しようとするときに、一人として気の毒なる、不幸なる運命の人を祖国に残してはならないのであります。ここに帰らごる方々の引揚げ
促進に万全の策を講ずるとともに、祖国において不幸なる
生活に終始しておる留守家族たちの援護の道に万遺憾なきを期すべきでありまして、
政府は以上申し上げましたる諸点に対し、
国会の要求に応じて堂々と所信の断行に邁進されることを
要望してやまないのであります。
ここに簡單でご
ざいまするけれども、引揚げ
促進に関する
決議案の趣旨弁明をいたし、
諸君の御賛同を心より待望いたしまして、私の演説を終る次第であります。(
拍手)