○参考人(一萬田尚登君) 今日はここに出まして、アメリカの経済の
事情を話せというように承わ
つて参りました。最近あちらに参りましたので、若干アメリカの
経済事情のお話を申上げたい、かように存じております。
御
承知のように朝鮮事変以来アメリカの
予算は非常に膨脹いたしております。継続費も加えますると恐らく八百七十億ドル以上に
上つております。このうちで約六割くらい、六〇%は軍事費、約五百二十億くらい。そうしてアメリカの経済は、当時すでに殆んど完全に近い操業を示しております。従いましてこういうふうなものに対する需要が増加されて来るとこれは非常にインフレの懸念があるのであります。今日アメリカが当面いたしておりますことは、今日の国際
情勢に対応いたしましてその必要とする
物資を如何にタイムリーに各必要量を
確保するかということ、同時に他方インフレはこれは抑圧せねばならん、そして同時に
国民生活もできる限りにおいて下げたくない。言い換えれば民需を抑えることはできる限りにおいては避けたい、こういうふうな非常に或る意味においてむずかしい、が併し御
承知のように昨年末に国防
生産法というものが発令されておりまして、経済の動員態勢と統制の強化ということをよく進めており、そうして同時にインフレを抑制するという資金的見地からは税金によ
つております。先ほど申しました現金会計年度の
予算、当初
予算約五百億に近いのでありますが、そうしてこの会計年度に使われる金額も大体そういうふうな金額、あとは継続の繰越にな
つて来たものと思
つております。これは殆んど全部税金であります。言い換ればそういうふうな大きなことをやるのにかかわらず、
政府が国債
財源に依存せずして、税金というものを以てこれを賄う、こういうのであります。従いまして今日アメリカの税金というものは相当重くな
つております。私の推定では州の税、いわゆる
地方税、州の税もありまするが、これを加算いたしますと、恐らく
国民所得の三〇%くらいには
上つておるだろうという推定をいたしております。決して生やさしいものではないのであります。そうして統制の強化ということは非常に強いのであります。これは御
承知のようにデイフエンス・モヴイライゼーンヨン・ボードと言いますか、これは先般までゼネラル・エレクトリツクの社長であ
つたウィルソンがデイレクターで、同時に
生産割当のチエアマンをや
つておりまして、この人はトルーマンに直結しているのでありますが、非常に強い力を與えられておる。その下にいろいろなボードが又ある。各省もそのデイフエンスの中に入
つている。そうして特にそのうちで御
承知の
かたもあろうかと思いますが、エリツク・ジヨンストン長官の
物価賃金の安定、いわゆるスタビリゼーシヨン・ボードというものが
中心にな
つているのであります。そこで御
承知のように十二月十五日から一月二十五日でしたか、その間の
物価賃金の最高水準を取り、ストツプ令を出した。私がアメリカにおりましたのは極く短期間でありますが、その間でも
物価統制、いわゆる価格統制の対象となり、或いは使用禁止等の対象と
なつた商品は数百万種ありまして、非常に大きなものですが、こういうふうにして所要の
物資の調達と、同時に価格の安定策を図
つているのであります。併し根強いことは、こういう間にありましてアメリカはさすがに大きな資源を持
つております。思い切
つた生産増大
計画をや
つております。そうしてこの
生産増大の
計画において私が興味を引いたこと、そうして私自身のふだんからの見解からいたしまして愉快に感じたことは、アメリカは勿論大きな資源を持
つておる。が併しながらアメリカの資源だけではいかない。これは他の国々の資源で開発すべきものがあれば、これは開発をやはりしなくてはいけないという
考えのように、これは私が感じたのでありまして、私の主観であります。そう向うで言うておるのではありませんが、私の感じといたしましてはそういうことでした。そうして全体としてのプロダクシヨンをや
つて行く。これは私は結構な行き方である。これは
一つにはやはり余りアメリカの
生産力に偏重を加えるということは、やはり避けなければならない。同時に又その他の国の経済も、こういう
機会に徐々に回復を図らなければいかんということは、全体としてバランスのとれたいわゆる或る
程度の
生産力の均衡上がら極めて望ましいことであります。それは私がそういうふうに
考えるのでありまして、同時に又私の
考えでは、むしろ今日完全な形と言いますか、本当に完全な形の資本主義というものはないのであります。世界どこを見ても……。併しながらこの形態の経済の運営は、やはり私は国際的規模において運営できないとこれは行き詰るというような私はふだんから自分のこれは主観で、自分の
考えでありますが、そういうふうに見ております。そうしてそういうような行き方は、やはりものの筋に幸
つて来ておるというふうに私は
考えるのであります。これは又非常にいいことだと思
つておるのであります。アメリカの
物価もさような状況でありますから相当
上つております。恐らく基礎的な
生産資材だけをとりますれば、六割近い、五〇数%の騰貴であります。卸売
物価は恐らく三割、三〇%くらいが
上つております。この
生計費と言いますか、こういうものの騰貴は、いわゆる小売
物価になりますが、これは二割までにまだ達せぬだろうと思
つておりますが、そういうふうな騰貴率を示しております。併しそうして今日の
情勢からしてまだどうしても
物価の騰貴は避けられないということであります。これは私もさように見て参
つたのであります。併し今後
生産力の増大ということが
期待ができるのでありますから、
物価統制或いは
賃金統制に当
つている
かたがたは、相当強い自信を持
つて、或る一定の
段階に来れば安定させ得るという自信を持
つてや
つておる。私がどうだと聞くと、今これは非常にむずかしい問題だが自信があるが、非常にむずかしいというふうな、併し相当今後の増産に
期待はかけられているということを
言つております。
物価等につきましてはそういうふうでありまするが、私が又大きな
一つの観点で感じましたことは、これも私の感じでありますから間違
つておるかも知れない。が、そういうふうな準備をいたして、準備といいますか、又何の準備かということになりますが、そういうふうな、今申しましたような態勢を見て取りつつありますが、何のためか、これはやはり戰争をしたくない、戰争を防衛するということにある、戰争をするためではないと私は感じておる。戰争を防衛する、戰争が起らないようにするのには、さような
措置が適当である、こういうふうに私は
考えたのであります。従いまして十分なことは、これがためには準備を必要といたすでありましようし、又するであろうと思
つておる。民主主義の国ではともすると後手をふむのであります。まあ私はここで後手、それは私は将棋をさしますが将棋で後手というのであります。先手というような方向で進むであろうかと私は思
つております。なお私はたくさんの援助を終戦以来受けました民間人として、誰かが向うに参りましてお礼に参上するのがよろしかろうという態度から私は参
つたのでありますが、この際私に対して
日本に援助を與えたが、今日君たちがや
つて来て、
日本の経済も自立し得る見通しに立
つたということは非常に結構だ、ほかの言葉で言えば、その援助を無駄にしなか
つた、それでいいのだ。多くのところに多くの援助を與えたが、なかなかそう成果が見られなか
つたと
言つてもいいかも知れない。特にまだ次々と援助々々と
言つて来るかと思
つたところが、なにそうなんだが……こう言われました。貸借もはつきりしないような事柄でもないし、貸借ははつきりしてお
つてもよい、返済
計画も立ててよい、金利も拂う、そういう援助があれば、そうしてその援助によ
つて日本の輸入というものが十分
確保されるならば、言い換えればビジネスの、或いはコンマーシャルのべーシスの余力があればまあ私の
考えでは
日本もや
つて行けるだろうというところにある。それを非常にそういうふうな
考え方であるべきだという、これは援助する人から見れば成るべく相手がそうなることが望ましいのでありますが、又無論異論のあるはずがありません。併しそういうふうな
段階にあるそういうような
関係からいたしまして、大体私はこの輸入の
確保と、今日資金的な面はそう
心配することは、私の見解ではないのであります。要は物にある。もはや物に移
つて来たわけで、
日本の所要する原料その他の輸入の
確保ということが最も焦眉の問題である。同時に
国民生活の水準をも上げ、
日本の経済が復興して行くとか、こういうふうな過程を通るのには、
日本には重油もない、石炭も乏しいが、唯一の持
つておる資源であります水力でさえも今日の電力
事情は甚だしく不足しておる、こういうことにな
つておる。先ず電源の今後の開発、物を運ぶのにも船が要る。
日本は当分の間世界のほかの国と競争をするといいますか、或いはほかの国の脅威になるような、そういうような商船像を持つという状況にはないのであります。今日恐らく
日本の貿易は二割くらいしか
日本の船は運んでおらないでしよう。ですからどうしてもこの所要するこの船の点も
一つ考えて見なければならないと思います。こういう点を大いに話して見ましたのであります。私といたしましては、よくそれがわか
つてくれたと、非常に好意的に
考えてくれたということを皆さんに報告してよろしかろうと思
つておるわけであります。
簡單でありますがこれでおいとましたいと思います。