○国務大臣(
大橋武夫君)
治安関係の問題につきまして大体の御説明申上げます。順序といたしまして先ず
法務府所管の部分から申上げたいと思います。
法務府の所管におきましては先ず
検務局の関係でございまするが、検察に関しましては、勿論検察の機能を整備充実し、且つその運用を機動的ならしめまして、いり如何なるときにおきましても、事件の発生に対処し得るようにいたしますることが肝要だと存ずるのであります。そのためには第一に
検察庁の職員の員数を充実いたすということ。第二には
検察庁の
物的施設を充実いたすということ。第三には
検察庁の全般的の予算を充実いたし、且つその運用をできるだけ機動的ならしむるというこの三つの事柄が必要だと存じたのであります。今回の
予算案におきましては、このような考えの下に立案いたしたのでありまするが、もとより財政今般の事情もありまして、結果は十分とは申しがたいのでありまするが、足らざるところは運用の工夫によりまして対処いたしたいと存ずるのであります。先ず人員の充実につきましては、
消極面の対策といたしましては直接予算と関係がないのでありまするが、戰後におきまする
検察庁の手不足ということは顯著な現象でございまして、この原因は、一つは犯罪の激増であり、他は
簡易裁判所に対応いたしまするところの
区検察庁というものが新たに設けられまして、検察の機能が
全国各地の辺鄙な地方にまで分散をいたしたいということであります。
簡易裁判所の新設は、以前の
警察官による
違警罪即決の弊害を除き、新憲法におきまして、身柄の拘束について
令状主義をとりましたことに即応いたして行われたのでございまするが、その結果は必ずしも
検察官一人前の仕事のない地域にも一人は
検察官を配置しておかなければならない。そのために検察の力が分散いたし、且つ或る意味で無駄を生じたのであります。これは誠に勿体ないことでありまして、前の
臨時国会におきまして御審議を
願つた裁判所法の一部改正は、
簡易裁判所、
従つて区検察庁の
管轄事件の範囲を拡張し、一面
事件処理の
簡易化を図りますと共に、他面このような無駄を省き、両者を以て今般的な審理の促進を図ることを目的といたしたものであります。即ち限られた人員を最も有効に使うということでございまして、これが先に申上げました
人員拡充の
消極面の対策であります。
次に、
人員充実の
積極面の対策といたしましては、増員でございまするが、本
予算案におきましては、副検事四十四名の増加をお願いいたしているのであります。ここで最近の
犯罪情勢について一言申上げますると、
終戰後毎年の
検察庁において受理いたしまする
被疑者の総人員は、昭和二十一年約七十万人でありましたのが、漸次増加して昭和二十五年には三倍の約二百十万人となつており、戰前の例えば
昭和元年から昭和十九年までの平均でありますが、約五十九万人に比較いたしますと、実に驚くべき増加であると存ずるのであります。尤も一般的の犯罪は昨年あたりから若干減少し、且つ強窃盗が減少し、その余分を以て
詐欺横領等の
知能犯の検挙が前より活溌に行われるという傾向を示しておるのであります。これは
終戰後の異常な状態から次第に平常時の犯罪の構成に返りつつある徴候と見られるのでありまして、やはり経済の安定に伴い人心も又幾分なりとも落着いて参つておると存ずるのであります。併しその半面御承知のように最近
共産党員及びこれと同調する一部の
朝鮮人等の策動が惡質化して参りまして、これらによる
暴力主義的犯罪が多数発生を見るに至りまして、且つこの状態は今後も或る期間続くものと予想いたしております。これは
国家治安の上から申しまして極めて重大なことでありまして、これらの事案に対しましては的確にこれを鎮圧処断することが最も大切でありますので、
警察力の充実もさることながら、
検察庁も又十分の体制を整えなければならないのであります。これが
検察庁の増員を不可欠とする理由であります。そしてこの際
検察官の中でも、検事の増員が望ましいのでありますが、給源の関係で
差当り不可能でありますので、次善の策といたまして副検事四十四名を増加いたしたのであります。
第二に、
検察庁の庁舎及び
物的施設の充実につきまして申上げます。
さて以上申上げましたように人員の面で窮屈でありますので、この限られた人員で多くの能率を挙げますためには、どうしても
物的施設の整備が必要と考えられるのであります。その主なものは四つありまして、第一が庁舎、第二が
通信施設、第三が
運輸施設、第四が簡易な
科学的捜査の施設であります。先ず
庁舎関係から申しますと、
検察庁は新
憲法施行と共に
裁判所から分離いたしましたが、従来の庁舎新営費が極めて少額でありましたので、未だ
裁判所より名実共に分離したとは言い得ない段階にあるのであります。
裁判所と同居の庁舎にありましては、お互いに執務上狭隘を告げ、中には
裁判所より立退きを迫られている所もあり、又
区検察庁に
至つては未だ開設を見ずに民衆に多大の不便をかけている所もあるような始末であります。庁舎が整備せぬために
検察活動にも支障を来たしている実情なので、取りあえず二十六年度におきましても若干の
庁舎整備を続行いたす考えであります。
次に
通信施設につきましては、幸いにも昭和二十二年以来毎年度各位の御賛成を頂きまして、継続して参りました
法務專用電信が昭和二十五年度中に各
地方検察庁本庁と若干の支部に開通するに至りましたので、昭和二十六年度におきましては、とれを更に約十カ所の支部にも延長すべく計画し、その予算を計上いたしてあります。
次に
運輸施設でありますが、これは主として
自動車の問題であります。
自動車は現在
全国地方検察庁の本庁に平均二、三台と、二、三の大きに支部に一台程度の
配置状況でありまして、検察の
機動力発揮の観点よりすれば、誠に心細いものを感じておるのであります。例えば、事件が発生した現場へ
検察官が出張いたしますのに、それが
新聞記者の
現場到着よりも本遥かに遅れるというような事例も従来稀ではないのであります。又、先般来ときどき
重大事犯の発生を見ております
地方検察庁の支部、例えば
福島検管内の平支部のごときも
自動車を全然持つておらないのであります。そこで、
検察庁にできる限り多くの
自動車を配置いたしますことは今日の最も重要な問題の一つと考えるのでありますが、物が物だけに多数を一気に入手しがたく、又相当に経費もかかりますので、重点的に逐次整備して行く方針をとりまして、
大蔵当局とも協議の上、昭和二十六年度予算中には
地方検察庁に対し三十一台の
購入経費を計上した次第であります。
次に、簡易な
科学的捜査施設の点であります。御承知のごとく最近の
犯罪者の中には、例えばいわゆる
黙秘権の行使によりましてその氏名さえも判明しない者の数がますます多きを加えて行くように思われるのでありまして、かかる者に対して犯罪を捜査し、公訴を執行いたしますためには、
検察庁におきましても写真撮影等簡易な
科学的捜査施設の必要を感じておるわけであります。のみならず、すでにこの
種施設を試験的に運営いたしました若干の
地方検察庁におきましては、予想以上の成績を收めているのであります。このような考慮から、一昨年度予算以来の継続とも申上げられるのでありますが、昭和二十六年度におきましても若干の
科学的捜査施設の経費を計上いたした次第であります。
第三に、
検察庁のその他の予算について申上げます。その他の予算中
検察庁の活動に極めて重要なものは
検察費でありまして、
捜査活動及び
公判立会に要する費用はこの項目に含まれておるのであります。本予算におきまして、これは約四億円計上されており、これは二十五年度とほぼ同額であります。従いまして大体本年度と同程度の活動が可能と思うのでありまするが、本来これはその性質上予め予測することの困難な経費でありまして、若し不測の事態に立至り、年度の中途において不足を告げまする場合におきましては、
大蔵省と協議の上
予備費の使用の承認を受けて対処する考えでございます。
次に、これは会計の
技術面に亘ることでございまするが、
検察費は二十六年度
予算案におきましては、部局を分けることなく、すべて
声最高検察庁の部局一本に統合いたし、経費の支出を機動的に運用し得るように配慮いたしたのであります。なお
検察関係の経費につきまして二、三つけ加えて御説明すべき点がございまするが、それは第一は
密出入国及び
密貿易関係の経費、第二はいわゆる
マツカーサーライン違反及び
麻薬事件関係の経費、第三は
司法警察職員の指導に要する経費でございます。御承知のごとく近年
密出入国、
密貿易等外国人が関係する犯罪が多くなつておるわけであります。一方日本人により犯されまする犯罪の中にも或いは漁船の
マツカーサーライン侵犯といい、或いは
麻薬事犯といい、その影響するところが
国際的分野に亘る新たなる犯罪の発生がますます多きを加えつつあり、
講和会議を目前に控えましてこれらの事犯に対する取締の成否が極めて重要な意味を持つことは申上げるまでもございません。このような観点から、二十六年度
予算案中には
国際犯罪取締に必要な経費及び
麻薬事犯取締に必要な経費という名称の下にそれぞれ若干の予算を計上いたした次第であります。
次に、
司法警察職員指導訓練の経費でございまするが、
検察官といたしましては、全国の
司法警察職員に対しまして第一次的な
指導教養訓練の責任を負担いたしておるというわけではございませんが、併し
司法警察職員の捜査の巧拙並びに当否は、それが人権に影響いたしまするところ大であることは勿論、
検察官の
公訴維持に極めて重要な影響を持つものでありまするが故に、昨年度と同様一項目を設けてこの費用を計上いたしたのであります。
最後に、これは現在の
予算案に直接関係ある話ではございませんが、
目下准行中の
刑事関係法律の立案又は改正と、それに要する経費につきまして多少御説明を申上げます。
刑事訴訟法及び
少年法は過去二年間の運用に鑑み多少改正を要すべき点を認められるに至りまして、前者については目下着々改正を準備中であり、後者についてはこの国会において御審議を受けたいとかように存じておるわけであります。なお過去二年間の経験に徴しますると、
刑事被告人中には時に法廷において裁判長の
訴訟指揮権に服従せず、
裁判所を侮辱し、法廷の秩序を欄乱することを以て
得々たる者も見らるるに至りましたので、
目下法務府におきましては、
訴訟促進と
裁判所の
権威保持のために英米の
裁判所侮辱制度に類似する法制を
最高裁判所と協議の上立案中でございます。これらの
法律改正又は制定が行われました曉には、多少の
予質的措置を必要とするかと考えまするが、目下のところそれらの経費は必ずしも多額に上るとも考えられませんので、
差当りの
予算案中には計上いたしておりません。将来
補正予算、
予備費使用、その他の方法により対処いたしたいと考えておるわけであります。
次に
特別審査局関係の事項について申上げます。
我が国の自立を目前に控えまして、国民の
民主的覚醒は高揚されつあるのでありまするが、現下の
国際情勢の目まぐるしい変遷に伴いまして、直接間接その影響を受け、
極右極左分子の蠢動を見ますことは、ようやく建設の緒に付きました
我が国の
民主的再建を阻害するものでありまして、法務府におきましては、
団体等規正令及び
公職追放令により嚴にこれが動向を査察いたしまするは勿論のこと、各般の
情報資料を蒐集検討いたしまして、綿密な調査を遂げた上、迅速且つ適切な措置を講じなければならないのであります。これに関する来年度の
予算措置として次の諸点を申述べておきたいと存じます。
御承知のごとくこの両法令に関する事務は、その性質上政治、経済、
文化等社会各般に亘り極めて複雑広範囲でありまするばかりでなく、対象となる団体及び個人は
全国各地方に分布し、中には秘密潜行するものも少からぬ状況にありますので、職員を常時
全国各地に配置し、
随時随所に出張せしめることが必要であります。これがため昨年八月同局の職員を定員五百三十八名より千百四十五名に増加いたしたのでありまするが、来年度におきましても、この定員を承継いたし、機構を整備してその事務の遂行を期しておるのでありまするが、その後今日までの
国家内外情勢の激変によりまして、本事務の万全を期するためには、近き将来更に同局に所要の増員をしなければならないように存ずる次第であります。
又
特別審査局の発足は御承知のように昭和二十一年でありまして、日極めて浅く、且つ
終戰後の
国家財政逼迫の実情に鑑み、これまで
最低予算を以て処理し来
つたのでありまするから、調査の
機動的科学的設備や旅費が極めて
不備不足でありました。この点本予算におきましても十分計上することができなか
つたのは遺憾であります。早急にこれらの施設の
繁備及び旅費の増額を図り、能率の向上を期するととが必要と存ずるのであります。
次は、
都道府県知事に対しまして右法令に基き登録及び
調査事務の一部を委任いたしておるのでありますが、これらに要する費用といたしまして、国より交付する補助金につきましては、
国家財政緊縮の折柄止むを得ず大体前年度予算を踏襲いたしておるのでありますが、全国各
都道府県、
市町村側からは切実な増題の要求を寄せられており、更に
予算編成時以後におきまする
事務量の急激な増加に鑑みまして、
明年度はこの予算により果して賄い得るや否や疑いなきを得ない実情にありますので、事情によりましては、将来所要の
追加措置を講じなければならないのではないかと存ずる次第であります。
なおここに附加えて申上げなければなりません点は、
特別審査局におきましては、法務府
設置法所定の
所管事務のほか
連合国最高司令官の直接の命令にかかる
特殊事務、例えば
特定機関紙の
発行停止処分のごとき專務を担当いたしておるのでありますが、この事務については
予算編成当時全く予想し得ないものであります。而してこれらの費用は結局既定の経費で賄なわなければならない事情にありますので、この点に同局の
予算運用上特に御注意を煩わしたいと存ずる点であります。
第三に、
矯正保護局関係について申上げますと、本年一月末日における
刑務所收容者は九万五千五百十九名でございまして、本
年度工事完了のものを見込みましても、
收容定員はようやく七万二千六百二十五名に過ぎず、なお可なりの過剩拘禁の状態であります。
明年度刑務所関係の
官庁営繕費によりまして二千四百五十八名分の増設を見る予定でございますが、今後とも各位の御協力を得まして、この過剩状態の
改善緩和に努力いたしたいと存じておる次第であります。
昨年来目立つて参りました現象として、
集団示威、
炭鉱争議、
占領目的違反、
完全就労、
官庁占拠、
生活保護、レツド・パージ、平和の
声解散というような事件によりまして、全国的にこれらの
集団事犯の
関係者を收容いたしておることであります。これらの
收容者中には
行刑施設内部におきまする秩序の撹乱を図る者があり、又
同調者が外部から妨害するということもございまして、誠に容易ならざる時機に際会いたしておるのでありますが、各
刑務所におきましては
非番職員を動員いたし、又
関係官庁の協力を得てその鎭圧に努めつある次第でありまして、こうした事態の推移を考慮いたしまして、昭和二十六年度
予算案編成に当つてこれに対する要求をいたしましたところ、その一部といたしまして、重
警備刑務所設置のための
工事費四千万円、職員十八名及び
警備機具整備費八百三十七万円について一応
大蔵当局の予解を得た次第であります。なお法務府といたしましては、今後更に一層その
措置拡充の必要を痛感いたしておる次第であります。施設の充実は
刑務所治安の
重要條件ではありますが、予算の制約もございまするので、更にこれに従事する職員の数とその質の両面が相待つて初めてその完璧を期し得る次第であります。
明年度予算編成におきましては、
大蔵省と折衝の結果二百三十五名の増員の承認を得たのでありますが、現下の情勢から見て、これだけでは決して十分とは申し得ませんので、将来においても更にその増員を考慮いたさなければならんと考えております。これと同時にその
素質向上に努め、数の不足を補うという必要を感じますので、中央及び地方の
保護研修所におきまする
養成訓練を更に一層充実いたすことにいたしておる次第であります。
次に、
少年法の
対象少年は、その年齢を十八歳未満から二十歳未満に引上げることにつきましては、昨年来国会に対する固いお約束もありまして、いよいよ本年一月一日よりこれを断行いたした次第であります。その実施に当りましては、
大蔵当局の理解あるお取計らいによりまして、少年院の教官その他四百六十人名の増員が認められましたが、
受入態勢はなお決して十分とは申し得ないのであります。一面
少年犯罪の最近の惡質化の状況をも考慮いたしまして、
少年刑務所内に
特別少年院を併置し得る措置をなお二カ年間延長いたしますると共に、十八歳以上の少年に
限つていわゆる
検事先議の処置を講じまして、
施設人員の不備による不便を補ない、且つは治安の万全を期て参りたいと考えておる次第であります。
次に
国家地方警察に関する予算について
そり大要を申上げます。
要求予算の総額は百二十一億五千八百万円でありまして、前年度に比較いたしますと、十一億一千九百万円の増と相成つておるのであります。何分
警察予算はその約半分が
人件費でございますので、この増加額の大半は
政府職員の一
般給與改善に伴うものでありますが、これを別といたしまして、政府において特に重点を置きました点は次の諸点と相成つております。第一は新事態に応じます警察の能率を高めて参るために緊急の施設といたしまして、
通信施設並びに
機動力を強化いたしたいといろ点でございます。
警察通信は警察の
神経系統とも申すべきものでありまして、在来の
有線電話施設の外に一応本部と
管区本部、各
府県相互の間に
短波無線電信を設備した次第でありまするが、今後の
治安状況からみまして、各
県本部と各
地区警察署の間、及び各
地区警察署と
警邏自動車の間に超短波を装置することによりまして、常時本部と
通信連絡を保ちつつ警邏いたしまするほか、
犯罪現場に急行いたし直ちに本部との通信を確保すをことのできまするよう、又予想されるところの有線の故障とか妨害に備えることにいたしたいので、今年度実施いたしました四府県に引続き
明年度においては十県に超短波を設置いたすことといたしたのであります。
次に、通信と
並び警察活動に欠くことのできないところの
機動力につきましては、
明年度は
輸送車百三十七輌を中心といたしまして三百八十八輌を購入することとし、第一線の
老朽車を変えて車輌の整備をいたしたいと存じておるのであります。第二には
鑑識施設の強化であります。
犯罪捜査の
科学化と申しますか、人権を尊重しつつ犯罪を撲絶いたしますためには是非とも
犯罪鑑識施設を強化いたさなければならんと存じまして、指紋、手口、写真、法医、理化の方面に亘ります
施設器材の強化を図りたいと存じまして、これに三億五千万円の経費の計上をいたした次第であります。第三は捜査並びに
取締活動の
活撥化でございますが、旅費、
捜査費等を中心といたしまして、
警察官が取締及び捜査の実地の活動をいたしまするために九億八千三百万円を計上いたしました。第四は、
警察官教養の拡充でございますが、何と申しましても、権力を行使いたします
警察官が人格、技能にしつかりした教養を身に付けなければならんということは当然でございますが、
警察大学の
幹部教養と相並びまして、
管区警察学校及び
府県警察学校におきまする
新任巡査の教育並びに
現任警察官の教育には十分力を注ぎたいと存じまして、これに五億六千五百万円を計上いたしたのであります。以上のごとく重点的な予算を組んだのでありますが、
差迫つた事態につきまして考えますると、なお十分とは申し得ないのでありますが、併し一方におきまして財政上の制約を免れぬわけでございますから、この予算をお認め願いました上は、これが使用に当り一段と工夫を重ねまして、有効に活用いたしたい、かように存じておる次第であります。
最後に
警察予備隊の概況について申し上げたいと存じます。昨年八月中旬、隊員の募集の開始と同時に全国において異常な反響を呼び、選抜に関しまして
応募者総数約三十八万人を超えるに
至つたのであります。これらの
応募者に対しまして
選抜試験を実施いたし、その
合格者を昨年八月二十三日を第一回とし、
隊次国家地方警察の各
管区警察学校に入隊せしめ、十月十二日の第十一回の入隊を
以つて七万四千余名の入隊を
終つたのであります。その後病気その他の理由による
退職者が相当数に達しましたので 昨年十二月中旬、右の
補欠員の中から
補欠募集を行い、約五百名を追加いたしました。これらの
一般隊員は
警察学校より全国の
予備隊訓練キャンプに隊次移転いたし、仮編成を行いまして各種の訓練を実施中であります。
一般隊員の年齢といたしましては、十八才より三十五才までであり、このうち
中等学校以上の学歴を有しまする者が総員の約半数でありまする三万六千各、又従軍の経歴のありまするものも約半数の三万八千各ということに相成つておりますります。
次に、
幹部隊員の充員につきましては、二等
警察士以上約五千人を予定いたし、そのうち
上級幹部約二百はその職責に鑑み、
特別選考により募集し、
中級幹部のうち約八百は
一般隊員と
同様一般募集を行い、
選抜試験による
合格者のうちより任用いたし、残余約四千の幹部はすでに
一般隊員として入隊いたしておりまする者の中から、資格のある者に対して
予備隊において
昇任試験を実施して任用する方針の下に手続を進め、現在各
階級別に見まするというと、これは一月十九日の現在でございまするが、二等
警察士以上が約三千五百名、こういう幹部の充員の状況でございます。現在なお
任用手続といたしましては続行中でありまして、三月末を目途として、
階級別の充員を一応完了いたす予定と相成つております。特に現在なお部隊外から募集をいたしております者は、先般特に
追放解除になりました若い
海軍兵学校及び
陸軍士官学校卒業者のうちで、
希望者は特に
ニカ月間の訓練をいたしました後に幹部に任用いたしたいと、これが募集を目下やつておるところでございます。
警察予備隊の編成の大綱を申上げますると、部隊の編成といたしましては、総隊、これは七万五千の部隊全体を一つの部隊と見まして、これを総隊と名付けています。そのうちには
管理補給隊があり、これは物資の
補給管理というような特別の任務を持つたところの特別の部隊でございます。それから
管区隊、連隊、大隊、中隊、小隊、分隊、こういうことに相成つております。全国に四管区が配置せられまして、その
管区総監部は札幌、東京、伊丹、福岡四ヶ所に置く予定でございます。各
管区隊は、
普通科連隊三連隊、
特科連隊一連隊、及び
特科大隊二大隊、これを以て編成いたし、部隊におきまする最高の
警察官でありまする総
隊総監は、
本部長官の統轄の下に全部隊を統率するという仕組に相成つておるのであります。なお各
総監部の機構は、
一般幕僚機関として人事、調査、訓練及び管理の四部と、
特別幕僚機関として十余りの科を設置いたし、おのおの職務を分担途行いたすことに相成つておるのであります。
編成機構の概要はこの通りでございますが、現在の
キャンプの配置は、一部を除いては
收容施設の不足いたしておりまする関係から、止むを得ず暫定的の配置と相成つておるのであります。即ち現在は
予備隊本部及び総嫁
総監部は深川越中島に設置され、第一
管区隊所属の
キャンプといたしまして七カ所、第二
管区隊所属の
キャンプ六カ所、第三
管区隊所属の
キャンプ十カ所、第四
管区隊所属の
キャンプ七カ所、合計三十カ所の
キャンプが置かれておるのでありまするが、なお警備防衞の観点から恒久配置がすべて決定されるに至りますまでは、若干の営舎の新築或いは修築を行いまして、漸次配置転換を行わなければならないという状況でございます。
次に訓練の現況について申上げますると、
予備隊はその設置の当初におきまして、正式
編成機構の決定及び幹部任用に先だちまして、
一般隊員を早急に募集採用いたしました関係上、従来各
キャンプにおきましては、米軍将校数名の指導によつて仮幹部が任命され、中隊長、小隊長が置かれ、中隊編成として訓練いたして参
つたのであります。昨年十二月初旬、各そのキヤンフの部隊長及び副部隊長が正式に任命され、ここに各部隊の責任者が確定し、この部隊長の指揮の下に、目下日本人の幹部の手によつて訓練その他各般の整備が推進されておる次第でございます。訓練の内容につきましては、
一般隊員に対しましては、各
キャンプにおいて十三週間の基礎訓練計画に基く各個教練及び密集教練、カービン銃の取扱及び射撃訓練、徒歩行進、暴動鎭圧、戰闘体形、体育、救急法等の訓練が行われたのであります。この訓練はできるだけ理論的なことを避け、実地訓練が主となつておるのでありまして、チーム・ワークと協力の重要なることが強調され、毎朝午前八時から午後五時までを原則として日課の訓練を実施したのでありますが、この訓練は大体昨年末を以て終了し、隊員個々の基本訓練は一応完成いたしましたので、第二期の訓練といたしまして、今年一月十五日より十八週間の訓練を実施中でございます。この訓練は大隊以下の小部隊の訓練を中心とし、これに医科及び工科の特科訓練を加えたものであります。以上のほか警察次長級の幹部級及び部隊の維持管理に必要な各種特科の訓練を並行して実施いたしております。なお訓練は実地訓練に重点を置いておるために、幹部に必要な部数のみ教材を配布いたしたのであります。訓練用教材につきましては、従来使用されておりまするものの中には適切を欠くものが多いのであります。従いまして二十六年度においては更に検討を加えて修正統一をいたしまして、各隊員に行き渡るようにいたしたい、かように存じておるのであります。
警察予備隊はその性格上部隊編成をとり、常時団体訓練を行い、その任務遂行に当つては統一ある団体行動をとらなければならないのであります。このような組織におきましては、規律、風紀の維持ということが何にも増して重要であることは言をまたないのでございまして、ただこの場合に注意しなければならん点は、旧軍隊におけるような、隊員各自の人間性を無視しがちな封建的な規律、專ら権威主義に基くところの支配隷属関係を再現することになつてはならない、かような点であると存ずるのであります。新らしい
警察予備隊におきまする規律は、
予備隊の性格と任務を理解いたし、団体組織と階級制による秩序を尊重し、自主的に職務を遂行し、責任を盡すというところの隊員各自の自覚を基盤とするものでなければならないと考えるのであります。
このような自覚ある隊員を育成し、それによつて規律を維持することは、制服を着てただ指示のみを待ついわゆる盲従的な兵隊を編成することに比べますというと、遥かに困難であると存ずるのでありまするが、この困難を克服して初めて民主主義のために、即ち正義と自由のための
警察予備隊ができ上がる、こういうふうに考えておる次第であります。
予備隊における具体的な規律、風紀の状況といたしましては、現在概して良好であると判断をいたしております。昨年九、十月頃の編成当初におきましては、給與の未拂による不満或いは不安を主との、階級の定つていないこと、幹部の手不足、絶えざる宿舎の移動というようなことのために、必ずしも満足すべき規律を維持していたとは言えないのでありまするが、その後このような問題が逐時解決をいたし、一応の編成を終り、新らしい幹部によりまして本格的の訓練を開始いたしておりまする現在におきましては、一部の偶発的な非行事件を除きましては、概して良好な風紀を保つように相成つて参
つたのであります。非行事件につきましては、その都度規定に照して処断をいたし、諸般の編成が漸次整備して参りまする今後におきましては、隊における規律、風紀は一層振粛されるものと確信をいたしておる次第であります。現在まで非行によつて懲戒処分を受けた者は約三十数件、五十名ばかりと相成つております。
予備隊の武器の現状といたしましては、カービン銃及び機銃若干が米軍側から貸與されておるのであります。通信装備の計画といたしましては、先ず通信幹線網の整備に重点を置いて、これらに要する機材の購入契約をできるだけ早く完了したい考えであります。なおこの幹線網と並行いたしまして、訓練用の機材、小型携帯無線電信機等の無線電信機等の整備を行いたいと考えておるのであります。そしてこれらの通信機材はできるだけ国産品で充当する予定でありまするが、性能その他の関係で国産品で賄えないときは輸入に待つ方針であります。車輌の整備状況でありますが、すでに購入契約済の数は乗用車十一輌、トラツク百輌でありまするが、なお今年度中三月までに更に約千五百輌の乗用車、四輪
自動車、トラツクを含めまして購入いたす予定に相成つております。特殊規格の車輌につきましては、目下種々施策を実施中であります。
最後に経理状況でありまするが、昭和二十五年度の経費は、一般会計における国債費の中から二百億を移用することに相成つており、二十五年度においては隊員の宿舎、被服装備等に多額の初度的経費を要し、なお今後三月まで要するものと思われるものでありますが、昭和二十六年度の予算は百六十億といたし、前年度に比して四十億減少いたしておるわけでありますが、この減少の理由は装備、機材、宿舎の設備というような初度的な経費を君しく減少するその結果であるわけでございます。以上簡單でございまするが、
治安関係の予算について一応御説明を申上げた次第でございます。