○前之園喜一郎君
昭和二十三年度決算検査
報告批難事項第三百九十七号、いわゆる二重煙突事件が、社会的、政治的関心の極めて大きいことに鑑み、その審査に関して去る三月二十六日の本議場において特に中間
報告をいたしましたが、本件に関し
愼重且つ詳細に
審議し、その審査を終了いたしましたので、審査の結果を御
報告いたします。本件の概要につきましては、前回の中間
報告におきまして詳細に御
報告いたしましたので、この点は省略いたしまして、本件に関する小
委員長の審査
報告を先ず御紹介申上げます。
一、調査結果の要約
(一) 二重煙突の受註及び納品の
経過
(1)
昭和二十一年九月二十日附LD三五に基き、戰災復興院は同年十二月九日、田中及び高橋の共同事業たる足利板金工業組合に対し、二重煙突二十五万フイートを発註した。併し受註者たる足利板金工業組合は、かかる大量の物件を短期間内に生産するには、その企業形態、資力等から見て適当でない。かかる業者に対し随意契約によ
つて発註しているが、同組合に対する資格調査が極めて不十分であつたと認められる。
(2) その後生産及び納入は遅延著しく、当初の最終納期たる
昭和二十二年三月から一年九カ月を
経過した
昭和二十三年十二月に至るも五分の四強を納入し得たにとどまる。而もその間、当初より現品を点検せず、数量不実の検收調書が作成されていたものと推定せられ、生産及び納入に関する特調側の監督は杜撰であつたとの批難を免れない。
(3)
昭和二十三年七月二十九日附LD八〇によ
つて本件二重煙突はキヤンセルせられたにかかわらず、当局は、足利工業側の生産進捗し、資材の入手も済んでいるからという
理由に基く
例外的生産継続を黙認している。併し事実は生産状況極めて不良であ
つて、当然業者に対しても、解約の上、生産中止の措置をとるべきであつた。その原因は特調側
関係官の調査と連絡の不十分にあるものと考える。殊に漫然再三に亘
つて納期延期を承認して、使用実績の少い本件煙突を生産させ、ために、その価格も当初の二倍半にまで増額承認したことは妥当でない。
(二) 過拂発生の原因及び
経過
(1) 足利工業は
昭和二十三年十二月十四日附で最終の五万フイート分の納入代金四千百七万余円の支拂請求をして、同月二十八日決裁となり、二十九日その支拂を受けた。
(2) ところが、この五万フイートの検收調書は不実で、現品を全く見ず、足利工業の社員の言葉だけで作つたもので、調書作成時までの出荷実数は七千フイート弱しかなかつた。そして当時としても年内に納入することは到底不可能な客観的事情にあり、高橋正吉はこのことを熟知していたはずである。田中も大体知
つていたものと考えられる。検收担当者藤原英三も、結局完全に納まるものと信じていたにしても、未だ納品完了していないことを大体感付いていたと考えられるし、特調側係官も、かかることもあり得ると感じていたものと推定できる。
(3) これより先、高橋正吉は、同年十月頃から本件代金の支拂を受けるため、相当盛んに運動していたものと認められる。みずから又大橋武夫を通じて、加藤経理局長、滝野庶務部長に依頼しており、その他にも依頼している形跡が見られるのである。
(4)
かくて本件では、(イ)経理局で事実上請求を受付けた十二月二十八日のすぐ翌日に支拂
つており、(ロ)価格の増額も十二月十六日に決裁を受けたにかかわらず、別に十二月五日附の増額承認書もあり、(ハ)更に前記のことく本件契約は形式上キヤンセルにな
つているので、別個にその支拂根拠をLD五七に求めて、十二月二十八日の午後追加注文の決裁を受け、その日附を十二月十六日附に遡らせている。尤も現実にこの発註書が回付されたのは翌年の一月にな
つてからである。(ニ)次いで支拂直前に検收調書の日附を納期たる九月三十日とし、LD五七による追加註文と訂正している。これらの不当な措置に関し、滝野、横田、佐野等が相当積極的に上司を説得して盡力しているのである。それにしても納期と増額承認と変更発註の日附が喰い違
つているまま支拂
つているのも甚だ不穏当である。
(5) 次に十二月六日附で加藤経理局長名義の新価格による支拂証明書が発行されているが、そのときには未だ検收調書も作成されておらず、増額承認も決裁せられていなかつた。それ故かかる支拂証明書の発行は如何なる意味でも不当であるが、同証明書を何人が発行したか明らかでない。
(6) 次に本件煙突代金中に物品税が五〇乃至六〇%含まれている。然るに足利税務署では、本件煙突は課税
対象にならずとして徴税していない。それ故、高橋及び田中は、この税金相当額を特調より騙取したものといわねばならないし、特調当局にも過失あるものと考える。
(7)
昭和二十四年一月中旬に至り、中村副総裁が本件二重煙突の生産継続の当否に関して疑いを抱いた。そして石井技官をして足利工業に赴かせ、生産状況を調査させたところ、たまたま前記未納入のため、当時としては約金二千数百万円の過拂とな
つていることが発見されたのである。
(三) 過拂金回收の
経過
(1) 過拂が発見されるや、直ちに特調側では、田中及び高橋を招致して、これが返納方を
協議し、両名も個人的に連帯責任を負うことにし、具体的な返納財源を明らかにさせた。そして当初は
昭和二十三年会計年度内に返納させる計画であつたが、両名の履行状況は遅々として、殆んど見るべきものがなかつた。そこで所管を苦情処理課に移し、法務府と
協議して訴訟的
解決によることとなり、その間数回に亘
つて返納計画を提出させ、結局
昭和二十五年十月二十日足利
簡易裁判所で半年々賦による三カ年間完済という即決和解調書を作成したものである。
(2) その間の現実の返済状況は、
昭和二十四年四月十六日から
昭和二十六年四月六日までの間十六回に約金七百余万円を回收し、現在残額は約金千五百万円ある。大体三分の一回收したわけで、このうちには有体動産に対する強制執行による配当金約三十万円が含まれている。而してこれら返納金の財源は、先に田中及び高橋両名が任意提出した返納計画書記載財産の一部であ
つて、それ以外の財産による回收は殆んど行われていない。
(3) かように現実の返済状況が当初の計画に反し不成績であつた
理由は四つある。第一に、返納計画中に事業收益によるものが相当大きい比率を占めているが、実際にはドツジ政策の強行によるデフレ傾向のため、事業自体が收益どころか欠損状態に陷つたことである。第二に、当然返納に充てられていたはずの高橋名義の東武鉄道株式三万五千株、及びモリス自動車売却代金の大部分が未だに物調に支拂われていないことである。第三に、その他の財産も時日の
経過によ
つて減損著しく、大幅な値下りを来たしたためである。機械
設備及びトラツク等において最も甚だしい。第四に、返納計画に計上された以外の会社及び個人財産による回收に関し、最近に至るまで何等の措置がとられていなかつたため、田中及び高橋がこれを他へ処分したり、消費減耗したり、著しい値下りを生じたことである。
(4) 本件過拂金回收方法は、結果的に見て、前項の四つの原因を事前に予見して、これを防がなかつたということにおいて妥当でなかつたと断ぜざるを得ない。従
つてこれを突き詰めていえば、第一に、会社及び個人の財産状態、並びに営業の実情に対する当初の調査が極めて不十分だつたことである。そのため返納の財源捕捉が十全でなく、回收時期及び方法の見通しを誤らせるに至つた。第二に、急速徹底的な回收方法を講ぜず、温情主義をとつたことである。若しそれ、当初から会社及び田中、高橋個人の財産状況を詳細に調査し、これに対して急速徹底的な回收方法を講じたならば、総額の三分の二以上、即ち現在の回收実績の二倍を下ることはなかつたと推測できる。
(四) 自動車の売却委託及び売却代金の処理について。当時、特調の三浦監事の依頼によ
つて、本件過拂金の回收方に関し協力していた大橋武夫は、
昭和二十四年六月一日足利工業株式会社
代表者田中平吉から、形式上高橋名義で実質上会社所有にかかる一九四〇年型モリス自動車一台の売却及びその売却代金を特調への過拂金返納に充てられたい旨の依頼を受けた。そして大橋はこれを同年六、七月頃、山下茂をして金百数十万円で売却させ、その代金を受領してから、高橋及び山下等と相談の上、高橋名義の預金として三和銀行日比谷支店に預入れ、山下をしてその運用の衝に当らせて来た。而して同人の運用よろしきを得ず、結局現在までの間に、そのうち
昭和二十四年八月四日金三十万円、
昭和二十五年十二月二十九日金三十万円を特調に対し過拂金返納として支拂つたのみで、残額七八十万円は未だに支拂
つていないのである。それ故、かかる行為は、明らかに委託者たる田中の委託の
趣旨に反して自動車売却代金を処分した疑いがある。然るに大橋は、
証人として当
委員会において、第一に、本件自動車の所有者が高橋正吉であること、第二に、売却の委託者も高橋であること、第三に、委託の
趣旨は、売却代金を直ちに特調へ納めるのではなく、高橋の利益のため有利に運用して、漸次その利益で特調への支拂に充ててゆくことであると
証言している。
(五) 東武鉄道株式の提供売却及び売却代金の処理について。
(1)
昭和二七四年三月八日、田中は特調の川田経理局次長に対し、東武鉄道株式高橋名義分三万五千株、田中名義分一万五子株を有利に換価の上、その換価代金を特調に対する過拂金の支携に当ててもらいたいという
趣旨で預けた。その後、同年五月六日、高橋が自己名義分三万五千株を有利に処分して特調に納めるというので、川田はこれを高橋に返却した。然るに高橋は、間もなく、これを金百六十二万円で売却したにかかわらず、その金を特調へ支拂わず、自己の用途に消費してしま
つて現在に至
つている。
(2) 田中は株式を川田に預ける際、自分以外の者には絶対渡してくれるなと念を押したと言
つているが、それはとも
かく、川田は、田中、高橋間の覚書によ
つて、本件株式が会社所有で、而も田中のみに処分権があることを知
つていたし、本件過拂の責任の大半が高橋にあるため、高橋を信用しがたいという空気が特調内部でも強かつたのである。従
つて、川田が漫然これを高橋に渡し、遂にその売却代金を回收できない状況に立至らせたことは、極めて軽卒で不当な措置であつたといわねばならない。
(3) 更に、この株式売却代金中、金五十万円を前記大橋の監督の下に山下が管理する高橋名義の預金に預け入れている。それ故、大橋は、この株式の売却やその売却代金の処理には全く関知せずと述べているが疑わしい。
(六) 大橋武夫と足利工業その他本件との
関係
(1)
昭和二十三年三月頃、大橋は復興院時代の部下である特調契約局石破次長や丸事務官の紹介で、足利工業株式会社の顧問弁護士と
なつたという。本件二重煙突の発註があつた
昭和二十一年十二月頃には、大橋はその
関係局たる復興院計画局長であつた。
(2) 大橋は足利工業の顧問に就任後、
昭和二十四年三月本件過拂問題発生によ
つて自然解任となるまで約一年間に、金三十三万円ほどを顧問料として会社から受取
つている。然るに会社側もこの顧問料に対し所得税の源泉徴收をせず、大橋も所得の申告をしていない。
(3) 高橋正吉は、大橋代議士の秘書であると称してその旨の名刺を使用しており、大橋もこれを黙認していたものと考えられる。そうして高橋は
昭和二十四年一月の総選挙に際し大橋に対し金二十万円を渡しているが、それは大橋の選挙
費用に当てたものと推認される。
(4) 大橋は、前述のごとく、高橋正吉の依頼で加藤経理局長や滝野庶務部長に対し、本件二重煙突代金の支拂方に関して口添えをなし、佐野課長に対しては強硬な申入れをしている。石破契約局次長、横田経理第二課長その他の者に対しても口添えをしたのではないかとの疑いもある。その口添えは抽象的なものであつたと想像されるが、大橋が曾
つて彼等の上司であり、何かと面倒を見た
関係もあるので、事実上相当強力な
影響を與えたであろうと想像される。(
拍手)
(5) 次いで、本件過拂問題が生ずるや、大橋は三浦監事の依頼によ
つてこれに協力することとなり、その間、回收に関する大橋の協力は、結果において温情主義に基く緩慢な回收とな
つて、回収成績を低下させることとな
つており、更に前記のごとく、自動車売却代金及び東武鉄道株式の売却代金処理に
関係している疑いもあ
つて、その責任たるや重大であると考える。
(七) 本件
関係者の
法律的、道義的、政治的責任及びこれに対し特調側のとつた措置の当否。
(1) 田中平吉及び高橋正吉に関しては、本件過拂金の支拂請求受領が詐欺罪を
構成する容疑が極めて濃厚である。すでにかかる容疑が濃厚である以上、事件の真相を徹底的に明らかにするためには、特調当局としては当時速かに刑事告訴をなすべきであつた。
(2) 嘱託検收員たる山口総男及びその
補助者藤原英三は、最後の五万フイート分について現品を現認せず、これを現認した旨の検収調書を作成し、更にその後この検收の日附を事実に反して納期たる
昭和二十三年九月三十日に行
なつたことく訂正しているのである。而も前後の事情から考えて、真実五万フイートの製品が完成していないことを感知しながら、近く完成するものと誤信して、かかる検收調書を作成したものとの容疑が強い。この検收調書が過拂の直接原因と
なつたものであるから、その
法律的責任を全く不問に付することは妥当でない。
(3) 最後に、本件過拂及び過拂金回收に関與した特調側職員に対する問責方法は、甚だ微温的に過ぎたと考える。殊に、虚僞公文書の作成に関し指示を與え若しくは重要な
影響を與えたものと推認せられる横田経理第二課長及びこれに
関係ありと推認せられる滝野庶務部長の責任は軽くない。当時両名に対し、刑事的手続はとも
かく、何らの行政的処分をもしなかつたことは妥当でない。更にその過拂金回收に当
つて、事実上返納金に代るべきもの又はその履行の担保の意味において預つた東武鉄道株式三万五千株を、返却すべき相手方でない高橋に対して軽率に返還し、遂に高橋の支拂分中約金百六十万円余の回收を今日に至るまで実現し得ざるに至らせた川田経理局次長の責任も不問に付せらるべきでない。
法律上正式に保管し得べき性質のものでなかつたということは、この責任を全く無にすることではない。これに対し、特調当局が当時何らの行政的処置を講じなかつたことも妥当ではない。
二、本件調査による
結論として次のごとく判断する。
(一) 特調当局においては、当時、本件二重煙突の生産状況を把握する方法及び検収の正否を監督する手段に関し著しく欠けるところがあつた。そして、内部的連絡不十分のため、キヤンセルと
なつた本件二重煙突の生産を継続させ、遂に過拂を生ぜしめるに至つたことは、特調の内部
組織と監督に関し根本的改革を要するものがある。
(二) 当時、特調においては、文書作成日附の遡及その他軽微な点に関する虚僞公文書の作成が半ば慣行的に行われていた。このことは、本件のごとき巨額の過拂を生ぜしめた一因をなしていると共に、特調内部の秩序紊乱と一部職員の腐敗を示すものである。よ
つて嚴重なる警告を発すべきである。(
拍手)
(三) 足利工業株式会社、社長田中平吉及び専務
取締役高橋正吉に対する詐欺罪容疑に関する刑事事件の告訴、並びに当時の横田経理第二課長、滝野庶務部長、川田経理局次長の行為に対する懲戒手続をそれぞれ特調当局において当時行わなかつたことは、その措置緩に失し、不当である。(
拍手)
(四) 大橋武夫は自動車売却等に関し、高橋正吉は上記事項のほか最終納入数量等に関し、田中平吉は財産隠匿等に関し、山下茂は東武株式代金の処理等に関し、横田廣吉は検收調書の訂正方指示等に関し、滝野好曉は変更発註依頼書の発行方の盡方等に関し、川田三郎は
昭和二十四年二月二十三日附覚書作成過程等に関し、それぞれ当小
委員会において宣誓の上
証言するに当
つて偽証をした疑いがある。(
拍手)
右審査
報告は、決算
委員会におきまして
全会一致を以てこれに
異議がないと議決いたした次第であります。(
拍手)申上げるまでもなく、
委員会は、捜査権、検察権がありませんので、最終的断定を下すに至らないことは誠に遺憾の次第でありますが、(
拍手)
委員会としては人的並びに物的証拠等により、でき得る限り慎重に且つ詳細に
審議いたしまして、事実の糺明に努力した次第でありまして、その結果、以上申述べましたような幾多の不当事実が存在するものと認められますることは慨嘆に堪えないところであります。特別調達庁としては、本件過拂金の回收については最善の措置を講ずると共に、本件
関係職員に対する行政処分、事務処理の改善等について特別の
考慮を拂うべきであります。又法務総裁の地位にある大橋武夫氏については、或いは偽証の点において、或いは自動車売却代金の処分等の点において、幾多疑惑の存することは、前回中間
報告の際、申述べて置きましたが、本件審査の結果、これらに対する疑惑が解消するに至らなかつたことに対しては、大橋氏は深く反省せらるべきものと認めます。(
拍手)
以上御
報告を申上げます。(「おかしいぞ少しと」呼ぶ者あり、
拍手)