○堀木鎌三君 私はここに
吉田総理大臣に対しまして、
外交問題に関して
国民の知らんとするところを代表いたしまして、
質問をいたそうとするものでありまするが、大体本日ここに
質問いたします事項は、本来
総理大臣がみずからその責任上、進んでその誠意と熱情を傾けて経過を語り、
国民の共感と
納得を得らるべきものでありまして、その点に関しまして、先ほど
加藤シヅエ議員に対して、非常な御
努力があるということを言われるのでありますが、私どもはその点に
総理大臣が欠くるところがあるのでなかろうかということは、ひとり
加藤シヅエ議員のみでないと私は
考えるのであります。何となれば、今回の
講和に関しましても、私どもは既成の事実を
ダレス氏その他から知るほうが多いのであります。
総理大臣から伺いますほうがむしろ少い。そういう観点から見ましても、もう少し親切に、率直に
国民の
納得行かれるような
態度が是非欲しいものだと、こう
考えるのであります。昨日ここにおきまして、
総理大臣がみずから進んで御
説明に
なつた。これは非常に珍らしいことでありますので、我々はすでに
講和条約もこの夏あたりは締結されるかということが言われておりますときに、さぞかし従来の経過を率直に表明されるものと
考えておつたのであります。然るにただ
早期講和は
国民の希望するところであ
つて、今回の地方選挙の結果はそれを裏書きするものであるという
言葉で以てお結びにな
つておるのであります。そうして実質的な
講和の
内容は、
ダレス氏のサンフランシスコにおける
演説その他を通じて知
つてもらいたいということが
内容を成しておるかと思うのであります。
早期講和を
国民が欲しますことは、これは私は
社会党の
諸君といえども
早期講和は欲せられるであろうと
考えるのであります。
全面講和を欲せられることは、
総理大臣が(「早期
全面講和」と呼ぶ者あり)しぱしば欲せられておるところであります。それでは実際の問題に触れないのであ
つて、要するに如何なる
講和條約が締結できるのであろうか、その
内容如何が問題になると思うのであります。従いまして、私は二、三の重要な問題について御
答弁を願いたいと思うのでありますが、前二者に対しまして
答弁せられましたところは極く簡單に省いて参りたいと思います。
先ず第一に
領土問題でありますが、
領土問題については先ほど詳細なる御
答弁がありましたので、私としてはこの問題について更に御
答弁を求めませんが、併しながら率直に申しまして、
国民的感情から申しまして、千島列島、琉球列島、小笠原の諸島は決して我々の貧欲なる侵略主義によ
つて領有したものではないのであります。又ヤルタ協定によ
つて千島の所属問題が行われておるのでありますが、これもこの
秘密協定については我々としてあずかり知らないところでもあると思うのであります。更に進んで太平洋憲章によれば、今回の大戰参加国はいずれも
領土拡張の意思のないことを表明しているのであります。こういう点から
考えますると、私は
領土問題について、
総理大臣は表現の
方法、仕方について慎重を要することを切言されておりまするが、その点については私も御同感をいたしまするが、併しながらそれかとい
つて、この問題について我々が口を抑えているわけに参らないものがある、こう
考えるのであります。殊に先ほど挙げられました歯舞島が千島列島の一部でないとする観点からしまするならば、琉球列島の
奄美大島も又同様の見解に立
つてもらいたいと思うのであります。これらについては詳しく申上げませんが、
領土問題で触れられなかつた一つの問題について御
答弁を願いたいと思います。それは今回北緯一十九度線より以南の諸列島が、
国際連合憲章第七十五條以下によりまして信託統治制度の下に置かるることと
なつたのでありますが、その目的は同憲章第七十六條のいずれによるものでありましようか。現下の
国際情勢上、国際的平和及び安全を増進するために必要でそういう処置がとられたもりといたしまするならば、その必要性がなくなりましたとき、その帰属について改めて住民の意思に墓き決定せらるべきものと思われまするが、その点について
総理大臣は如何に御了解なす
つておられましようか。私が申したいことは、従来の住民の沿革と歴史とその意思が無視されて、人為の緯度によ
つて領土の変更が勝者の
考え方によ
つてきめられましたときに、決して
世界の平和の維持に貢献するゆえんでないということは歴史の証明するところであります。そういう点から、あの太平洋憲章の預出不拡大の
原則が打立てられたものと思うのでありますが、こういう観点から、
首相はこの
領土問題について如何にお
考えにな
つておりましようか。
第二は
安全保障の問題であります。これも前二者から御
質問がありましたので、私は主として
講和條約の
草案に言うところの問題の一、二について御
質問いたしたいのであります。今回の條約
草案によりますと、
国際連合憲章の第二條の
原則は、
連合国側と
日本との双務的
関係において規定せられております。
連合国は
日本が
主権国家として、国連憲章に言うところの個別的又は集団的固有の自衛権を持つことを認めております。と同時に、
日本が外国の武力
攻撃に対しまして、
安全保障としての諸国との取りきめに自発的に参加することを認めております。ここが問題だと思うのでありますが、その註釈のうちで、この自衛権が他国の武力
攻撃に対する自衛権であると規定せられておるのでありますが、他国の武力
攻撃に対する自衛権というのは何でありましようか。ここに言うところの自衛権は、
総理大臣の従来言
つておられますところと異なりまして、兵力そのものを指すと私は思うのであります。即ち現在
日本は軍備を持たざるが故に、差当りその責任の遂行は不可能でありまするが、自衛権を持つことは
国家の権利でありますと共に、他国の集団的
安全保障の取りきめに参加する場合は、これ又義務となり得ないのでありましようか。自国の安全を
保障する意思のないものが、他国と集団的
安全保障協定に参加できることは
考え得られないのであります。又
ダレス氏の
言葉を引用いたしますれば、
ダレス氏は、
アメリカの日米防衛協定に対する
態度は、ただ單に
相手国に防衛の恩恵を一方的に與えるものではなくて、ヴアンデンバーグ決議に基き、相互
援助と自衛を前提にして初めて
相手国と防衛協定を結ぶというのが
方針であると言
つているのであります。こういう観点から見ますと、この自衛権は確かに兵力の裏付けをした自衛権である、空な自衛権でないということを私は
考えざるを得ないのであります。そういたしますると、今回
講和條約を結びますると、将来に対しまして、差当りは法律上或いはその他によりまして、実質的に軍備を持
つておりませんが、将来そのときには
日本が自衛権を持つことを要請せられる、義務付けられるものであると
考えるのでありまして、この條約によ
つて、私は憲法に優先する、憲法上條約は憲法の條章に優先するという
考え方からしまするならば、いつの日にか、その必要の生じました際には憲法改正の手続を
国民に訴うるの
考え方がなければならんと思うのでありますが、その点について如何にお
考えになりましようか。更にこの條約の中に括弧いたしまして、「太平洋の
安全保障を維持し、
日本が今後
攻撃的脅威となることなく……
日本を自国の安全に寄與せしむるために現在行われつつある
意見交換の結果に照して補足せられる」ということが書いてあるのでありますが、これは何を指すのでありましようか、私は取りも直さず、いわゆる日米防衛協定を指すものだと思うのであります。日米防衛協定の性質については今御
答弁がありましたが、細目はともかくといたしまして、基本的なものについての
お話合いは私はあつたろうと思うのでありますが、この点について
ダレス氏みずからがその経過によ
つて考えると言
つている以上、
お話合いがあつたと思うのでありますが、
総理としてはどういうふうにお
考えにな
つておりましようか。ただ最も問題といたしたいことは、この日防衛協定と国連との繋がりであります。即ち日米防衛協定が
国際連合の第五十一條以下の国連の目的
原則に
従つて行われるものであるかどうか、單なる両国間の軍事協定ではあるはずがない。そういう意味におきまして、私は国連との繋がりにおきまして、この日米防衛協定は
世界平和への途を発見することができると思うのでありますが、この点について如何にお
考えになりましようか。
最後に申したいことは、憲法制定記念日に当りまして、リツジウエイ
最高司令官が、
講和に備えて
占領管理を
日本の自治能力、政治の能力に応じて大幅に委讓して参るという、漸進的に大幅に委讓して参るということを言
つておられるのですが、過去の
日本の政治のあり方を見まするときに、占領下、
日本人が
日本人の手でみずから治め得ることまで、占領軍の指示でありますとか、或いは書簡でありますとか、そういうふうな権威を頼
つて政治が行われがちであつたのであります。これにつきましては、私どもは
国民とひとしくその責任を痛感しなければならないと
考えるのでありますが、特に
内閣に列せられるところの諸公は、この点について十分意を用いられまして、本来の民主主義の
原則に立返
つて、みずから治めるの責任と義務を感ずべきであると
考えるのであります。然るに過去の政治はこの点について私は甚だ遺憾の点があつたと思うのであります。殊に終戦後六年たちました今日に至
つても
国民の
自立の気魄が乏しくして、最近におきましても、昨年電力問題に対しまして書簡を問題にし、又今
総理大臣がここで御
答弁になりました皇居前広場の問題にいたしましても、お互いの手で解決すべきものがかくのごとき形をとりましたことは、私は民主主義の
原則に反するものと思わざるを得ないのであります。(
拍手)
最後に、追放解除について一言申上げたいと思うのであります。すでに民主化の基礎ができ上りまして、
講和もでき上ろうというときにな
つて参りましたことに鑑みましても、今回の追放解除は従来と異なりまして、
ポツダム宣言受諾に基きますところの戰争犯罪人、極端なる
軍国主義者、極端なる
国家主義者を除いては全部解除せられるも何ら憂慮するところはないということが
考えられますが、この問題がとかく世上政治的な眼を以て見られるということは甚だ遺憾だと思うのでありますが、
総理大臣としては、特別の委員会を設けられるとか出ておるのでありますが、みずからの責任におきまして、速かにこの問題を御解決になる御決心はございませんでしようか。実際我々
講和は一日千秋の思いで待望して参りましたが、今後我々が我々の手で民主主義の
原則に
従つて政治をや
つて参りますのには、今更ながら一層従来よりその責任の加重を感ぜざるを得ないと思うのであります。
総理大臣といたしましても、私ども
総理大臣自身が日夜
国民に対して
努力しておられることは十分感謝しながらも、なお且つ
総理大臣が
国民と共に憂え、
国民と共に語るの姿はどうしても我々としては不足に感ぜざるを得ません。そういうふうな
状態におきまして、この大問題を解決して参りますことは、実に私は不可能なことでなかろうかと
考えるのであります。(
拍手)どうか
総理大臣としては一層御反省になりまして、そうして八千万の
国民のエネルギーを祖国愛と国際正義の確立に燃え上るように御
努力あらんことを切に希望いたします。
これを以て私の
質問を終ります。(
拍手)
〔
国務大臣吉田茂君
登壇、
拍手〕