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山縣勝見君 只今上程されました
外航船腹緊急増強に関する
決議案に関しまして、発議者を代表いたしまして提案の趣旨説明をいたしたいと
考えるのであります。
本
決議案は本院各党の共同提案に相成るものでありまして、両院の海運
関係の議員を以て組織いたしております海運議員連盟の発意によ
つて同趣旨の
決議案が衆参両院に提出されておりまするのであります。本院におきましては各党の八十七名の発議者によりまして超党派的にここに提出されましたものであります。
今や
講和成立の日の近きを迎えんといたしておりまするのでありまするが、
日本の自立、
日本経済の自立の最も基本的な問題でありまするこの外航船腹の緊急増強に関しまして、この際、
国会においてこれに対する強い意思表示をいたしまして、なお又これに関して
政府に向
つて早急且つ適切な施策の要求をいたさんとするものであります。
先ず決議文案を朗読いたします。
外航船腹緊急増強に関する決議
最近における
世界情勢の緊迫と待望の
講和成立の日近きに対処して、
日本経済の自立を図り、
国民生活の安定を期するために現下最も緊要なるは、
食糧その他の生活必需物資並びに重要産業の原材料を速やかに確保するにある。
しかもわが国の地理的経済的事情ことに
朝鮮動乱を契機とする極東情勢の変化により、重要物資はすべて遠隔地よりの海上輸送による
輸入に求めなければならない
現状である。しかしてわが国の現在保有する劣弱なる外航船腹をも
つてしては到底所期の輸送を完遂し難い。
よ
つて政府は外航船腹増強に関し資金の確保等必要なる諸
方策の急速且つ円滑なる実施に遺憾なきを期すべきである。
なほ、
政府はその結果に関し速やかに本院にこれが報告をなすことを要求する。
右決議する。
というのであります。
国民待望の
講和はまさに近付きつつありまするが、米国大統領が本年の初頭において、自由国家社会の一員としての地位に
日本をして速かに復帰せしむべしと声明いたされているのであります。なお又只今来朝されておりまするダレス氏は、その来朝の第一声において、
日本が完全なる自主権の行使をなし得る新らしき時代を
日本のために見出すために来朝いたしたいと申しておられるのであります。
ただ、ここに我々といたしまして深く思いをいたさなくちやいかんと
考えますることは、
日本の独立、
日本民族の自立と申しましても、單に政治的に主権を回復いたしまするだけではその全きを期しがたいのであります。経済の自立を待
つて初めて真の
日本の完全主権の回復を期待し得るということであります。殊に現在の激動いたしまする
世界情勢の中にあ
つて、
日本の自立、
日本経済の自立を期しまするためには、おのずからこれに処しまする平時と異なりました緊急の施策が、
政府において当然にとらるべきものと
考えるのであります。
朝鮮の動乱を契機といたしまして
世界情勢は日にその緊迫の度を加えておりまするが、殊にこの
世界情勢の重大なる要素は、先に米国大統領が、十二月の十六日でございましたか、この事態に対処いたしまして非常時宣言を発布されましたが、昨年の九月公布せられました国防生産法によりまして、米国は現にその工業を全的に動員をいたして戰時体制を整えておるのでありまするが、かような米国の戰時体制は單に米国だけのことではありませんので、現に
世界は挙げて
軍備の
拡張に対しまして、その緊要でありまする、殊に
食糧の問題、或いは重要産業の
基礎材料でありまする原材料等の戰略物資の確保に、その全力を傾倒いたしておるのでございます。かくのごとき
世界情勢のこの変化は、当然に
日本従
つて日本経済にその影響を及ぼしたのでありまするが、あの資源の豊富な米国を以ていたしましても
世界経済よりの孤立は許されなかつたのでありまするが、殊に資源の貧困でありまする
日本といたしましては、この
世界経済の変化の影響は当然に受けざるを得なかつたのであります。由来
我が国といたしましては、その土地は極めて狹小、その資源は極めて貧困であります。これに対してその八口は極めて過多であります。従
つて我が国といたしましては、外国より
食糧等を
輸入し、殊に重要産業の
基礎原料を
輸入いたしまして、これによ
つて国民生活の安定を期し得たのであります。従
つて我が国といたしましては、
我が国の経済といたしましては、貿易に依存する度合が極めて
戰前におきましても高いのでありましたが、殊に例えば羊毛にいたしましても、綿花にいたしましても、殆んど一〇〇%外国に依存しておつたのであります。鉄鉱石といえ
ども戰前においてすでに九割、穀類におきましてもその半分は外国よりの
輸入に依存いたしておつたのでありまするが、いわんや敗
戰後の今日におきましては、ボーキサイトにいたしましても、ゴムにいたしましても、殊にこの製鉄の材料でありまする強粘結炭にいたしましても、殆んど一〇〇%外国よりの
輸入によ
つておるのであります。なお又重要でありまする石油類にいたしましても、現在すでにその八割は外国よりの
輸入に仰いでおるのであります。かような
我が国の地理的、経済的事情よりいたしまして、
国民生活の最低限を維持いたしまするためにも、殊に
我が国経済の自立のための再生産を確保いたしまするためにも、なお又現在問題に
なつておりまするインフーレーシヨンを回避いたしまするためにも、どういたしましても必要原料の職入を確保いたしまして、
我が国の経済の再建に誤まりなきを期せなければならないと
考えるのであります。
殊に最近におきましては、有効需要の増加にもかかわりませず、ややもすれば生産の彈圧性を失わんといたしておるのであります。これによ
つて生産率の低下の兆さえ窺われる次第でありまするが、これは全く
輸入の困難に原因をいたしておるのであります。八幡、広畑等におきます備蓄の鉄鉱石、強粘結炭の備蓄のあの状態のごときは楽観を許さない
現状であります。而もかかる
輸入の困難の原因は、もとより貿易
條件その他いろいろな困難の事情に原因がございましようが、主たる原因は現在の
日本におきまする船舶、殊に外航船舶の不足による輸送力の減少貧困によるものであるのであります。
戰前におきましては、御
承知の
通り我が国といたしましては六百三十万総トンの船舶を保有いたしまして、
世界第三位であります。而も当時におきましては年々七千万円或いは八千万円の
輸入超過を見まして、
国際收支の均衡に非常に頭を惱ましておりました際に、海運收入一億数千万円を以て当時の
国際收支の均衡を計り得た、あの
戰前におきまする海運の力というものは、第二次
世界大戰によりまして無慮八百八十方総トンの船舶を失つたのであります。終戰直後におきまして僅かに百三十万ドン、
世界第十三位の海運国に転落いたしたのでありますが、而もこの貧困な
日本の海運力を以て
戰後における
日本経済の再建に対する一番基本的な重大な使命を課せられて参つたのが
現状であります。
今や
朝鮮動乱の結果、殊にこの中共よりの
輸入が杜絶したのでありますが、
昭和二十六年一月から三月まで即ち
昭和二十五年の第四四半期は、中共よりの
輸入の計画は大体五十数万トンでありますが、鉄鉱石、塩、石炭、大豆等を合せまして約五十三万トンでありますが、これは殆んど中共よりの
輸入に仰ぐことができませんので、遠く北米等にこれを仰いでおるのであります。遠く地中海等に仰いでおるのであります。而も
昭和二十六年度におきまする中共よりの
輸入の計画は大体三百万トンと算定されておりまするが、これのごときは同様に遠く北米、地中海その他より鉄鉱石、塩、石炭、その他
日本の工業の原材料の多くを、殆んど全部を仰がなければいけん
現状であります。殊に
昭和二十六年度におきまする
我が国の経済の根幹をなしまする
輸入物資でありまするが、
昭和二十六年度におきましては、大体算定されておりまするのが、この羊毛とか或いは綿花とか、そういうふうな定期物資、定期船によ
つて運びまする物資、又はタンカーによ
つて運びます石油類を除きましても、鉄鉱石或いは塩、石炭、ボーキサイトその他の重要原材料だけでも千四百万トンを算するのであります。この千四百万トンの
日本の経済にどうしても欠くことのできない原材料を運びまするに必要な船舶が約三百三四十万トンと算定いたされます。と申しますのは従来におきましてはそれほどの船腹量は要らんのでありまするが、最近におきましては、中共よりの
輸入の杜絶によ
つて多くは遠距離輸送によ
つておりまするので、この千四百万トンの重要物資を運びますためにはどういたしましても三百三十四万トンの船腹を要するのであります。而も現在の
日本の船腹量の
現状を以
つていたしますならば、今後新造或いは改造等の施策を講じましても、なお且つ
昭和二十六年度におきまして平均百十万トンがやつとであります。
現状におきましては、外国船舶は、この
国際情勢の変化によりまして、多く東洋、極東の市場より廻船せんといたしておりまするが、仮に
日本船舶と東洋の百万トン乃至百十万トンの外国船舶が東洋市場に回航し得るといだしましても、なお且つ百万トン以上の不足を生ずるのであります。その際、
日本船舶を以て
日本の最も重要な原材料を運びます率は僅かに三割三分であります。而も最近におきまして
輸入のズレを考慮に入れまするときには、更にその船腹の不足量は増大いたすのであります。最近自立経済審議会から
政府に答申されました案によりますると、
昭和二十八年の
日本経済の自立達成の年度において、大体
人口八千八百万に対して十七億程度の規模において
国際收支の均衡を図る、それによ
つて戰前の生活水準の八割九分、九割程度の生活水準に回復せしめる、そのためには鉱工業生産の指数を百三十一にする、そのためには百九十三万総トンの外航船腹量が必要であるという答申をされておりまするが、仔細にこの答申の数字を
検討いたしますると、
昭和二十六年度において
日本の経済再建のために必要とする輸出入物資の数量が、約千八百万トン、
昭和二十七年度において二千万トン、目標達成の
昭和二十八年度におきまして二千二百万トンでありまするが、その際に、
日本の今後
政府の施策によ
つて、現在大体において想像策定されておりまする計画量によ
つて達成し得る、
日本の保有し得る外航船腹量を以ていたしますると、
昭和二十六年度において漸く
日本の全輸出入物資の三割、
昭和二十七年度におきまして三割四分、
日本経済の自立達成という目標を置いておりまする
昭和二十八年度において漸く全数量の三割八分しか
日本船舶を以て運び得ないのであります。いわんや現在におきまして、
世界における船腹の不足、御
承知でありましようが、あの強大な海運力を持
つております英国におきましても、米国炭を輸送いたしますためには現在百万トンの傭船をいたしておるのであります。あの
戰後におきまする非常な強力な輸出力を持
つております米国におきましても、殊にあの戰路用のリザーブ・フリートとして、予備船隊として、一般のコンマーシャルに使いません、あの千四百万トンのリザーブ・フリートのリバテイを、先般百数十隻を普通物資輸送のためにリリースいたしておるのであります。かような情勢において、殊にこの極東の情勢の変化、この險悪な情勢に対して、どうして外国船舶が
日本の物資を運ぶために恩恵的に回航し得ますかどうかということにつきましては、当然に結論が出るところであります。而も自立達成の
昭和二十八年度において、漸くあらゆる施策を講じて、
日本の必要とするあらゆる物資の三割八分しか
日本船舶を以て運び得ないというふうな自立経済の計画で他、誠に寒心に堪えないところでありまするが、これは達成しようと思いましても
日本の現実が許さぬのでありまするから、いたし方ありませんけれ
ども、少くとも
日本経済の達成を期しますためには、少くとも五割、或いはそれ以上の
日本船舶によ
つて運び得まするようにいたしませんことには、
昭和二十八年度における
経済自立とは申し得ないのであります。
殊にあらゆる
日本の生産計画の
基礎をなしまするのは、今詳細に申述べませんが、
現状におきましては結局船腹量の問題に相成ると思うのであります。通産省その他においていろいろな
輸入計画等を立てておられますけれ
ども、船腹量の問題を解決せずしてはあらゆる計画が立ちません。かような情勢でありまするが、
戰後におきましては、従来
日本の必要とする輸出入物資は大体二割乃至三割を
日本船舶を以て運んでおつたのであります。只今申上げましたように、自立経済審議会の答申案におきましては、(「簡單々々」と呼ぶ者あり)
最終年度において三八%を企図いたしておりますが、只今の
国際情勢を以ていたしますならば、今後
日本の船舶を以て一〇〇%運び得るようにいたして、初めて本当の
日本のこの経済的の自立、従
つて日本の完全なる自主権の
確立ができるのであります。現在
我が国の船腹量は御
承知の
通り百八十万総トンでありますが、そのうち外航に就航し得ます船舶は僅かに五十数万トン、本年の六月末におきまして八十数万トンが予定せられております。而も
昭和二十八年度の自立達成の年度において三八%の
日本船による積取り率を獲得して、なお且つそのときには百九十万総トンの船腹量を必要とするのでありまして、百九十万総トンの船腹量を得て初めてその年度において三割八分
日本の貨物が
日本船によ
つて運び得るのでありますから、今後少くとも両三年の間におきましては、毎年四十万トン乃至四十五万トンの船腹を拡充いたして、初めて先ほど申したように僅か三割八分の積取り率を確保し得るような
現状であります。先般
日本の賠償問題に関して来朝されましたストライクミツシヨンが米国
政府に報告されました中にも、
日本経済の自立のために、どうしても
日本に強力な商船縁を保有せしめる必要がある、そのためには少くとも三百四十万総トンの船舶を
日本に保有せしめて初めて
日本の経済の自立は可能であるということを報告いたしておるのであります。なお又先般
日本の対日援助に関して、グレー委員会が
政府に報告いたしております。その答申案の中にも、
日本の当面いたしている最も重大なる障害は
日本商船隊の規模の無用なる縮小にあるということを断言いたしておるのであります。かようなふうに、現在
日本経済の自立を達成いたしまするために最も基本でありますところの外航船腹の
拡張の必要に関しましては、一時、
日本商船隊の拡充に対して非常に批判的であり非常に危険視いたしておりました英国におきましても、その輿論は非常に好転をいたしております。
かようにいたしまして内外におきましては、
日本における外航船腹の拡充に関しましては殆んど異論なき状態に立ち至つたのでありまするが、さて、これに対する
日本における
政府の施策におきましては、まだ我々といたしましては遺憾なきを保しがたいのであります。(「簡單々々」と呼ぶ者あり)一月の五日における閣議におきましては、この問題に関して船舶増強のいろいろな閣議決定がされております。この詳細につきましては、ここに述べませんが、我々は
政府の
政策に対して信頼を置いて、
政府がこれに対して強力にして迅速なる施策を講ぜられんことを期待いたしておりまするが、ただこれに関しまして一言触れたいと
考えますることは、
現状におきましては、この
戰後におきまして、すべての船腹を失い、八百八十万総トンの船舶を失い、二十二億に達しまする戰時補償を失い、これによ
つて第一声よりその最も緊要なる
日本船縁の拡充に邁進せざるを得ない立場にありまするが故に、この国家的の見地を持
つておりまする船腹の拡充でありまするから、それに対する資金の問題につきましても、国家的見地から、特に海上
金融に関しましては、強力にして適切な施策を
政府において至急に講ぜられんことを
要望いたしたいのであります。その他の点につきましては、のちほど申上げまする
通り、この本
決議案に対しましては、
政府も迅速にして早急な適切な施策を講ぜられて、本院に対して報告されんことを要求いたして置きます。
ここにこの昭腹増強の緊要なるゆえんを申し、
政府に対して強力なる施策を迅速果敢に講ぜられんことを
要望いたしまして、この趣旨説明を終りたいのでありますが、なお、この点に関しましては、本件の重要性に鑑みまして、は各位の御賛成を得んことを切に希望いたしまする次第であります。(
拍手)